時のターコイズ   作:遠藤さん

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やっと葵ちゃんの身に起こる不自然を、ちょっとずつ追及していきます。
描きたいところいくまでにどんだけかかるんだ…


パパ友談義②

「敬語、お得意じゃないんでしょう。いりませんよ」

 

「……助かる」

 

なぜこんな昼下がりに、小さな公園の自販機にこの男がいるのか。いやそれよりも、愛する娘との愛すべき昼下がりにこの男と出会ってしまったことが一番問題だった。

前述のとおり、コウはこの空条承太郎が好きではない。いっそ嫌いの部類に入る。正面切って「嫌い」と思わない…思わないようにしているのは、コウの性格に由来するのだが、この話はまた別の話である。

コウから見た承太郎の印象は、”自分の力と外見を過信するふがいない男”に尽きる。実際はそんなことは断じてないだろう。コウは承太郎をよく知らないからこのような印象に固まるのだ。承太郎も、申し開き様はいくらでもあろうにそれを口に出さないし、そんな言い訳まがいの行動をする性格でもない故の、相互の行き違いなのだ。

ともかく、コウは承太郎になるべく会いたくない。コウの中では、娘を守れなかった男というレッテルをベッタリと貼られているのだから当たり前だ。普段は嫌味なんて滅多に言わない彼が毒を吐くほどには、承太郎に会いたくなかったのだ。

ましてや、当の娘と甘い時間を過ごしている最中なのだから。

 

「あなたに少々聞きたいことがある」

 

「いったいどうして承太郎さんがここにいるのかは気にしませんが、その意見は聞き入れられませんよ。あなたが僕をどのようなものと思っているのか、知ろうとも思いませんんが、自分の娘を危険にさらした成人男性に答えることは一つもないと思うのですが…それでもよろしければどうぞ」

 

コウは職業上人に強く当たることはない。おそらく年下であろうこの男にも、職場や仕事中に会うことがあれば、厚い面の皮を被っただろう。

だが、一対一で対面している今、私はあなたが嫌いですよというオーラを隠す必要は一切ない。聞きたいこととやらを聞かれても一切答えるつもりはないし、音を立てて落ちてきた冷たい麦茶を早く葵のところへ持っていきたかった。

 

「彼女の出生について…てめーの養子になる前のことについてだ」

 

ゴングが鳴る幻聴がした。

 

この男…引き下がらないのか。ましてや娘について土足で踏み込んでくるなど、デリカシーがないどころの話ではない。うら若き16の乙女の生まれを、成人した巨躯の男が知りたいというだけで犯罪集がムンムン湧いてくるものだが、それを威ともしないその姿勢。そして、多少礼儀をわきまえていた口調を完全に崩してくるとは。なるほど。

少々意地になっても仕方がないな?

 

「まだ5月だってのにこんなに暑くて…空条さんそのコートよく着ていられますね」

 

「おれが個人的に調べた結果、彼女の出生した場所は東京だ。そしてトラブルが起こっててめーの養子になった。それは確実だろう」

 

「ああ、よかったら水でも飲みますか?ちょうど自販機が目の前にあることですし、貸しってことでおごりますよ」

 

「だが彼女とおめーに親戚関係はねー。もう一人の家族の男もだ。その男については一切の情報も出てこなかった。どういうことか話してもらうぜ」

 

「夏じゃなくても熱中症にはなるんだからちゃんと水分とらないといけませんよ?あ~、スポーツ飲料のほうがいいですか?水よりちょっと値が張りますけど。でも塩分過多で糖尿にでもなったらアレですよね…」

 

お互いの瞳から閃光の光るエフェクトが見えるようだった。絶対にコウは答えることはない。だが、承太郎にも並々ならぬ理由がある。物腰柔らかに接しているように見える言動にはイバラがそこかしこに敷き詰められていて、こちらの意見を受け入れる様子が全くない。だが、すべての進言を無視され逆方向への返答が返ってくるのは、神経を逆なでされるようで気持ちのいいものではない。

 

やれやれ、この手はなるべく使いたくなかったんだがな…と、内心苦言すると、承太郎はハッキリと発した。

 

「あんたが答えないのなら彼女自身に聞こう」

「それだけは絶対に許さない!!!!!」

 

しん、と場が静まった。

 

承太郎はなんとなく、これを言えば両成敗になるだろうと察していた。腹を痛めたわけでも、血が遠いところでつながっているわけでもないのに、この男は異様に彼女に愛情を注ぐ。そしてその理由は絶対に語らない。いままで出会ってきたスタンド使いたちのようだったなら、容赦せずに聞き出せていたことだろう。だが、コウは承太郎が苦手とするタイプの性格だった。下種でもなく、悪に染まってもいない上に、金でどうこうなるものでもない。どうにかして聞き出そうとは思っていたものの、ほとんど脅しになるようなこの一言は、なるべく使いたくなかった。

その理由というのが、無償の愛に限りなく近いものであると、なんとなくわかっていたから。

 

コウの叩きつけた拳によって、缶コーヒーが取り出し口に現れた。

 

 

「一つ聞きましょう。それを知り君はどうするんだ」

 

「無論口外はしない。仗助のことは最近になって分かったばかりなんでな…それに、この杜王町へおれが来たのは仗助だけじゃない。もう一つ探し物をしててな。その探し物に、あんたの娘が関係あるんじゃねーかと…経験上勘が働いたからだ」

 

「ほーお、ずいぶんといいセンスをしてる勘だな。その探し物とやら、僕はあいにくだが知らないよ」

 

コウの顔は、先の一言からずっと険しいままだった。軽蔑するように細められた目線、シワのより固まった眉間、曲がった口。隠そうとしない明らかな敵意を承太郎はバシバシと感じている。やはり先ほどの言葉は得策ではなかったな…と冷や汗をかいた。この男からは今後信頼も言葉も勝ち取ることはできないだろう。早急に謝罪し踵を返すか、と思った時のことだった。

 

「いいだろう。語ろう。嘘偽りなく、君の知りたいことを話そうじゃないか」

 

「何?」

 

「君の知りたいことを語ると言っているんだ。聞くがいいさ。だが忘れるなよ空条承太郎。僕のなかで君の順位は今最低ラインにほど近い場所にいるし、そこから上昇するには大きな障害が芽生えることを。それと、僕は教え子によく言って聞かせるんだが…」

 

 

「『人は声から忘れていく』。」

 

 

語ろう。

 




ねむい

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