時のターコイズ   作:遠藤さん

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勃発。


人は声から忘れていく①

 

 

コウが葵と別れたときまで遡る。

 

大いに笑って大いに汗を流した葵は、ほどよい疲れが体にあふれるのを感じていた。青々とした木々が日陰を作るベンチは非常に心地よく、目を閉じればすぐにでも昼寝に入れそうだった。ああ、今寝たら確実に気持ちいいだろうな、という感覚である。

春風がほてった肢体をやさしく冷やす。

桜の花はとうに枯れてしまったが、太陽がさんさんと輝くようになってゆくのだから、木々にとってのうれしい季節はこれからだろう。

と、自身の悩みを一時忘れ、のんきなことを考えていた。

 

ふと、木漏れ日の隙間から空を見上げていた葵に影が差した。

 

 

「貴様…やはり生きていたか。億泰のヤツが言ってたことは本当らしいな」

 

葵の前に立ちはだかったのは、金髪にギロリととがった瞳、派手な改造制服と、一般の男子高校生とは一線を画す背丈と気迫。昼下がりの心地よい空気とは裏腹に、氷山のような冷たい視線。

葵はスッカリ覚えていない、いや既に知らない人と化してしまったが、虹村億泰の兄・虹村形兆だった。

 

「弓と矢を奪っておきながら、敵に一撃を食らってあっけなく死んだものだと思っていたが…億泰が『あいつは学校に来ている』なんて言うからな…

他人の空似とも考えたが、アイツはそこまでバカじゃあない。ただ、この目で見るまでは信じがたかっただけだ」

 

「え、えっと」

 

「貴様のおかげで弓と矢はあの電気野郎に持っていかれたままだ。礼を言うぞ」

 

表情に太陽の影を落としながら、形兆は皮肉を言った。ニヒルに歪んだ冷徹な笑みを添えて。

 

一方の葵は、突然現れた強面の不良におののき、知らないところで自分がやらかしたという事象を右から左へと聞き流していた。この怖いヤンキーさんの話によれば、自分は弓と矢?をこの人から奪った?らしい。そのまま別の敵?に攻撃されて昏倒でもしたらしい。今の葵にはそんな危険な場所に身を置いていた記憶も自覚もない。そんな、ただただ混乱する葵を見て、形兆はもともと深かった眉間のシワをさらに深める。形兆の目には、自分から目的を達成するための手段をかっさらっていった女がしらばっくれているようにしか見えないのだ。しかも、あの屋敷で相まみえた時の気丈さと強かさの影がどこにもない。

忌々しい、という一言が頭の中をでとぐろをまいて居座った。

 

「あ、の…あなたは、虹村くんのお兄さん なんですか?」

 

「…………ああ、そうさ。」

 

葵の問いに形兆はみじかく答えた。

 

「その…私は、あ、あなたの言っていることが…えっと、身に覚えがなくて。

その、弓と矢とか…虹村く…億泰くんだって、最近知り合ったばかりなんです。風邪でしばらく寝込んでて、1週間くらい…そのときに初めてで、」

 

「風邪!風邪だと!?」

 

形兆が張り上げた声に思わず葵は肩を揺らす。葵には、「一週間ほど風邪をこじらせて家で寝込んでいた」という記憶しかないのだから、形兆が何に憤っているのか全く分からないのだ。自分の記憶とすれ違い続ける目の前のすっトボけた女に形兆は激高した。怒りのままに、ポケットにつっこんでいた手で葵の胸倉をつかみ上げる。引っ張られるままに立ち上げさせられ、慄いた葵がちいさく悲鳴を漏らした。

 

「あんな風穴をこの腸に空けておきながら!まるでピアスの穴がいつのまにか塞がったように!何を困惑していやがるんだ、貴様は!

わからないという顔をしやがって……貴様は一度死んでいるんだ!!」

 

腸を分からせるように、形兆のもう左手の拳が葵の腹部に押し当てられる。

 

「俺はお前が床に作った血だまりを見て思ったさ!弓と矢がお前に奪われていなかったら、死んでいたのは俺だったろうとな!!億泰に何を吹き込んだか知らんが、俺…達の家の問題を、何の関係もない名前も知らない貴様がひっかきまわしやがった!そして呆気なく死んだんだよ!

なぜ生きている!死んだ人間がなぜ生きている!あの男は貴様になにを――――」

 

瞬間、形兆の眉間を掌底が襲った。

 

 

 

*

 

 

 

 

「…………本当に答えて、くれるのか」

 

「なんだよ、僕だって男だ。二言はないね。サッサとしろよ、葵が喉乾かして待ってるんだ」

 

非常にイヤそうに、ダルそうに、コウが自動販売機にもたれかかって腕を組んだ。承太郎はには目の前の男の心情が全く分からなくなったが、話を聞けるのなら……情報を出すというのなら、ためらうこともない。

まず前提として、と承太郎は語り始めた。

 

「…俺の一族…ジョースター家は、代々世界を脅かす巨悪と戦ってきた。ファンタジーやメルヘンな思考と思われても構わないが、事実だという前提で話を進めさせてもらう。

その巨悪と戦うとき、ジョースター家やその戦友のそばには一人の女がいた。調べによれば、名前は変わるものの容姿はほぼ同じ。髪型やちょっとした性格の違いくらいの差異しかない。主な特徴は、「通常はありえないトルコ石色の長い頭髪」「ガーネットに近い色素の瞳」の2つだ。

一族への関わり方にはさまざまなバリエーションがあるらしいが…ほとんど記録残っていない」

 

「フゥン。で、その女の人とウチの葵がどう関係あると思ってるんだ」

 

「まず、仗助の周りの女を調べるに当たり、「幼少期から一緒にいる」 「仗助から過度の感情がある」「身体的特徴が一致する」をとりあえずの捜索目標として絞った。どの目標も一応例があるものだ。…葵に当てはまったのは前者の二つ」

 

承太郎は説明を続ける。

一つ、葵と仗助は幼少期…代替4、5歳のころから交流が家族ぐるみで続いている。

ふたつ、前者の幼少期からの交流も含め、仗助と葵はかなり親密な関係にある。友愛にせよべつのものにせよ、一般の友人というカテゴリには収まらないだろうという。

 

「おれが思うには…まあ、片思いというところか」

 

どちらとは言えないが。と、少し呆れるように承太郎が帽子のつばを下げた。

コウもうまく表せないような、むず痒いような苦笑いをこぼした。

 

「まあね、見てればなんとな~くわかるような…友達以上恋人未満のラインをず~っとユラユラしてる。高校生になれば周りの空気に感化されて、進展するか後退するかと思ったけど、まあ、今は難しいか…」

 

承太郎を睨んでいた目線を、慈しむようなやさしさをまとわせた目線に変えて、コウはベンチに座る遠くの葵を眺めた。

そして、何か言うのか口を開こうとしたところで、血相を変えてその場から駆け出した。跳ねられるようにして承太郎が目線を移せば、形兆…実は、矢を射った場所を聞き出すために同行していた虹村形兆が、葵の胸倉をつかみ上げているところだった。

 




週一投稿なら…できないかな…

再来週、アニメで自分の推しがこう…アレするのでもう気が気じゃないです。
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