今宵、雷門カンパニー本社ビルではセレモニーが開かれる。大々的に里で告知されたこのイベントは里中から人を集めた。本来は木ノ葉—湯の国間開通セレモニーであったのだが、手伝いに来たアカデミー生の一部がどうせイベントを行うなら祭りみたいにしようと声を上げたことがきっかけで、本当にお祭りが開催されることになったのだ。
「うう、流石に夜になると寒いね」
雷門カンパニーの御曹司である、デンキが手に息を吹きかける。確かにそうかもしれない。僕も相槌代わりに返事をする。
「暦の上ではもう秋だからね」
「そんなことより、リオンのあの術難すぎだろう。あんなにチャクラを細く出来ねえよ」
寒さなんか気にならないボルトが、賑やかに立ち並ぶ出店を眺めながらぼやいた。それにつられてもう一人寒さが気にならない少年、イワベエもぼやいた。
「そんな事言ったら、腕を固くするやつだって難しいぞ。岩なら出せるんだがあんなに薄いのにあの固さってどうなってるんだ?」
「修行あるのみだね」
修行という言葉に、二人は対照的な反応をする。前者はうへーと、後者はメラメラ燃え上がっていた。両方気持ちが分かるだけに、あえて何も言うことはしなかった。チョウチョウがポテチ芋けんぴ味を食べながら、口を開いた。
「ねえねえ、リオン。あんたの里はみんなこんな事出来るわけ?」
どうなんだろう。多分、チョウチョウは岩隠れの下忍達のレベルについて聞いてるんだと思うけど、全く参考になることが言えない。岩の上忍達から逆算するか。
「どうかなあ。あんまり確証は無いけど、この年でこれくらい出来るボルトたちは凄いと思う」
「それを聞いて安心したよ。僕ちょっと自信なくしそうだったから」
いのじんがさらりと言う。
ボルトが今夜のみんなの予定を確認し始めた。
「なあ、今日のデンキんとこのセレモニー行くのか?」
「僕は母さんの許可をもらいに一回帰るよ」
「あたしはサラダ誘ってから行くわ」
「俺はメタル誘ってから行くぜ」
「僕もイワベエ君についていくよ」
「じゃあ、おれはヒマを誘ってくるってばさ」
あらかたみんなの方針が明らかになった所で、一旦お開きの流れとなった。
「じゃあ、ここでいったん別れるか」
「じゃあな。行こうぜリオン」
「うん」
*
日はすっかり沈み、商店や家々に明かりがともる。仕事終わりの人々が歓楽街に繰り出し、まだ外にいる子供は急いで家に帰る。ボルトと僕は家に向かって歩いていた。
「でさ、メタルの奴緊張して俺のゲーム機真っ二つにしちまったんだよ」
その光景を想像して思わず吹き出す。
「ほんとに?それはご愁傷様だね」
「笑うなってばさ」
「でも、木ノ葉は良い所だね。よそ者の僕にここまでしてくれるなんて」
ボルトが僕の顔を見る。さっきとは打って変わって真剣な表情の彼に、思わず僕も見つめ返す。
「お前はよそ者なんかじゃねえってばさ。俺たちの親友だってばさ」
一陣の風が吹く。木の葉が舞い散った。
「親友?」
「ああ」
「すごいね君は。親の記憶すらない僕には、親友どころか友達が何かも分かんないや」
ふとした瞬間によぎる虚ろな感情。人間は今までの生きざまで自らを形作る。それを亡くした僕は、いわばどこまで行っても偽りの存在でしかないのかもしれない。こんな自らの本心を吐露されても、ボルトも困るだけだろう。そんな僕の無意識の壁も彼は軽く飛び越えた。
「リオンは何でも難しく考えすぎなんだよ」
「・・・どういう事?」
本当に清々しく太陽の様に、ボルトは笑った。
「友達が何なのか、分かってるかどうかなんて関係ない。今日はみんないっぱい笑ってただろ。それが、友達だってばさ」
「・・・・・・」
「周りなんて関係ねえ。やりたいようにやればいいさ」
・・・全く羨ましい限りだ。僕だけではいくら考えても辿り着けない答えに、彼は一飛びで至ることが出来るんだから。
「ボルトのやりたい事って何?」
「母ちゃんとヒマがニコニコしてて、ダチと遊ぶことだってばさ。もちろんリオンともな」
「ふっ。お父さんは?」
「くそ親父のことなんか知らないってばさ」
「あはは、そうか。そうだね。僕も自分のやりたいようにすることにするよ」
心が晴れやかになる。繋がり、己の成したいこと。それが、心の芯の所でかすかに見えた。そんな気がした。ボルトが駆け足になる。
「ほら、早く行こうぜ。ヒマたちを祭りに誘わないと」
「祭りじゃなくて、セレモニーだよ」
「そんなのどっちだって良いってばさ」
ボルトが笑いながら駆けてゆく。僕の先をぐんぐんと。そろそろ、僕も駆け出すか。そう思ったとき、
異変を感じた。
おかしい、いくら何でも人の気配が無さすぎる。
「でさ―」
振り返り何か言いかけるボルトを手で制す。
「ん、急に何だってばさ?」
「後ろ見て」
後方に黒髪の神父の様な服装の男が立っていた。陰鬱な雰囲気を漂わせるその男は、パタンと墨色の書を閉じる。
「汝、ジャシン教を信ずるか?」
深いテノールの響きを持つ独特な声が静寂に響く。秋なのに冬の山風より寒く、夏の海風よりなまぬるかった。
この男、ただものじゃないな。今の僕じゃボルトを守り切れない。だが、ここは忍の里。応援が来るまで凌げば勝機は見える。
「ジャシン教って何だってばさ」
「ふっ、そなたもジャシン教を知らぬとは。木ノ葉は余程俗物が多いとみる」
首に垂れる、五芒星のネックレスに口付けをしながらゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「てめえ、誰だってばさ」
「私の名はゲーテ。しがない、プリーストだよ」
これ以上こいつにボルトとの間合いを詰められるのは得策ではないな。ここで仕掛けるか。さり気なく、呼吸、足遣い、体内の傀儡仕掛け、それらをそろえていく。
「それで、ジャシン教が何の用ですか?」
「常世全ての罪を贖いに」
「何言ってんだこいつ」
空気が張り詰める。もう切っ掛けさえあれば、いつ戦闘が始まってもおかしくない。
『ボルト』
「うわ、何だってばさ」
びっくりするボルトを落ち着かせるために、直ぐに本題に入る。
『これは僕の術だよ。今、君に直接話しかけてる。それより、ボルトは何の術が得意なの?』
『影分身と風遁、後は雷遁だってばさ』
丁度いい。風遁や雷遁は遠距離攻撃がしやすい。影分身なら、ボルトの身を案じずに連携攻撃が出来る。
『じゃあ、影分身をお願い。僕がそれを使ってあいつを仕留める。ボルトはサポートを』
『おう。じゃあ行くぜ!』
ボルトが印を組む。だが、ゲーテは自然体のまま一切の迎撃態勢を取ろうとしない。
「影分身の術!」
「操演・人身冴功」
リオンは四体の影分身すべてにチャクラ糸を通す。僕の視界をボルトとボルトの分身達と共有させた。迅速に処理する。忍足が爆ぜた。
『ボルト‼』
「おう、風遁・烈風掌」
ボルトの手のひらから旋風が巻き起こり、リオンは風に乗る。爆発に風。相乗効果で一気に神父へ肉薄した。黒杭を伸ばして貫かんとす。
「コオッ!」
ダンテは眼を見開き左半身を反らす。だけじゃない、回避と攻撃を同時に彼は行った。回避行動が攻撃の予備動作であったのだ。蹴り上げられるゲーテの足。
風に身を任せる。枯れ葉の様に舞い躱しながら、地に着地。そのまま右足を旋回させ敵の片足を払う。
だがこれは本命ではない。僕は五本の指を、獲物を掴む鷹の如く曲げた。連動し青糸が躍る。ゲーテは体の四肢があらぬ方向に引っ張られた。
「むっ」
宙に浮くゲーテは身動きがとれない。そこに飛びいるのは、地上から二体、上空から二体の影分身。ボルトの分身達はクナイや手に雷を纏わせ襲い掛かる。クナイの切っ先がゲーテの首筋に吸い込まれる。だが、
ゲーテは右手を手刀の形にし、一閃。クナイを真正面から一刀両断。それはボルトごと切り裂き、彼に勢いをもたらす。腕の勢いを利用して体を回転。チャクラ糸が引きちぎれていく。
一回転。これがゲーテの取った行動であったが、これが残り三体全ての分身を消し去ることになった。
まず、最初の九十度。彼の左足がボルトを真っ二つに折る。次の九十度。左手で雷遁を纏った分身の手首をつかみ360度、骨ごと捻じ曲げる。最後の百八十度。アッパーがボルトの股下から全身を貫いた。
回転を終えゆっくりと地に舞い降りようとするゲーテ。だが、僕が狙っていたのはこの瞬間だった。着地による一瞬の硬直。そこを狙い撃つ!
ゲーテの左右からチャクラ糸で操られた毒針が飛ぶ。刺されば致死。掠っても致死。それが彼の身体に辿り着く直前、彼が囁いた。
「
毒針が煙に包まれ小さな狼へと姿を変える。
「「えっ!?」」
獣が僕に襲い掛かった。即座に黒杭を振りぬき突き切る。あっけなく白煙と共に毒針に帰した狼であったが、その光景は衝撃以外の何物でもなかった。しかし、今は考えている暇は無い。
位置的に、僕はゲーテの足を払ってから動いていない。つまり、奴はチャクラ糸と分身達を突破してしまえば、敵は頭上から僕を殺せるのだ。
やはり来たか。ボルト本体の視界が、手刀を振り下ろすゲーテを捉えていた。まあ、こうなることまで読んでたけど。
リオンの白衣を何かが突き破る。破ったのは電光を纏った蠍の尾。稲妻のように突き上がるそれが、ゲーテを貫く。彼は体を九の字に曲げて空へ吹き飛んだ。
その様子を見てボルトが叫ぶ。
「あいつ俺の分身が消える前に、分身の雷遁チャクラを尾に回したのか‼」
感触が無い。防がれたか。ゲーテが空中ですっと立った。何か黒いものを足場にして立っているのか。一体何を?
『おい、リオン。どういう事だってばさ』
『分からない。とにかくこいつはヤバい。慎重に行こう』
そう。全く敵のカラクリが分からない。僕の毒針が狼に変わった。いや、変えられたのか。変化の術・・・いや、彼は印など組んでいなかったし、なにより変化したのは彼じゃなくて杭だ。
突然、地面が盛り上がった。直観的にボルトのもとへ跳ね飛ぶ。コンマの差で、先ほどまでリオンがいた地面から虫が噴き出した。
「今度は何だってばさリオンッ」
「どうも、敵に増援が来たようだ。あれは蚊?」
宙にいるゲーテの傍で、黒い蚊が集まり蠢く。それはしばらくして女性へと姿を変えた。
「遅くなり申し訳ありません」
蚊の竜巻の中から、赤い三角帽とローブを被った声からして女が現れる。
「いや、丁度良いタイミングだ。助かった」
「御冗談を。私が助けなくても事足りるでしょう」
上空に佇む敵を警戒しながら、この状況を考察する。
味方の本拠地にも関わらず、敵に増援が来てこちらには増援が来ないこの状況。可能性としては二つ。
一つは、そもそも味方が事態を把握していない可能性。いや、あの木ノ葉に限ってそれはない。おそらく、敵は多数で木ノ葉に侵攻してきており、他の忍はその対処に向かっているという所か。
僕は状況分析に必要な時間稼ぎの為に、会話を振る。
「先ほどの話ですけど、罪を贖うとはどういう意味です?」
なら、敵は木ノ葉でも対処しきれないほどの集団。ここは増援を待っての戦闘より、こちらが撤退し味方に合流すべき。しかし敵のあの能力、カラクリが分からない。前回の敵もだが種が分からない敵は所見殺しの事が多い。
「そのままの意味だ。今の人類にとっては、生きていることが罪なのだ」
「今のとは―」
「おい」
ボルトが僕の言葉を遮る。その声には信じられないほどの怒りの感情が籠っていた。びっくりして、彼を見る。
「どうしたの、ボル―」
「お前が今手に抱えてるもんは、何だって聞いてるんだよ!!!」
赤服の女を再度確認すると、確かに手に少女を抱えていた。まさか、彼女は!
「ヒマワリちゃんっ」
ボルトが鬼の形相でゲーテ達に襲い掛かった。拙い、完全に我を忘れている。
「駄目だっ」
「ヒマワリを返せ‼」
ゲーテが飛び掛かってきたボルトの腹を蹴り飛ばす。
「ごふぅっ」
口から血を吹き出しはじけ飛ぶボルトをリオンがキャッチし、足で地面を削って勢いを消す。
「ソノ。あの赤毛の少年の血は取れたか」
「いえ、あの少年どうやら血が体には通ってないようで。チャクラを練っているので、どこかには生身の部分はあるのでしょうが。あの金髪の方は血をまき散らしましたけど」
欲しいのは僕の血の方なのか、敵はボルトの血の方には大して興味を示さなかった。
「あれは、六六六でなくても始末できる。まあ、良い。血が手に入らなくとも、条件は満たせる」
そう言って、ゲーテは書を開き自身の血を一滴垂らした。
「賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は」
何か来る!
「六六六」
静寂があたりを包む。・・・どうしたんだ、何も起こっていないぞ。これは赤服の女にとっても予想外の事だったのか、目に見えてうろたえていた。
「馬鹿な。神父の六六六が通じないなんて」
「それは有り得ない。バイブルの権能は絶対だ。彼を六六六にするには条件を満たさなかったのだろう」
なるほど。恐らく、六六六が対象を獣に変える術であり、それには条件がいるのか。口ぶりから推察して、その一つは対象の血を手に入れること。でも、僕の毒針はそもそも血などないのに、狼に変えられた。他の条件が鍵となるな。
「どうします?」
「私は飛段様の方に行く。お前があの二人を捧げておけ。ジャシン様の為に」
「ジャシン様の為に」
ゲーテが女からヒマワリちゃんを受け取った。飛段とは誰の事だ。どちらにせよ、ここでヒマワリちゃんを連れていかれると厄介なことになる。
「おい、なに勝手にどっか行こうとしてるんだってばさ」
よろよろと、ボルトが立ち上がった。
リオンが慌ててボルトを止める。しかし、彼は僕の手を振り払い立ち上がった。
「無茶だ、もう立たない方がいい」
「母ちゃんはどうしたんだ」
ゲーテはしばし沈黙する。
「もしかして、お前この娘の兄か?なら、母親とはあいつの事か」
「だから、どうしたって聞いてるんだってばさ」
嫌な予感がした。これ以上、ボルトを奴と話させたら悪いことが起きる。引き離させないと。だが、それをするにはもう遅すぎた。
「安心しろ。ちゃんと、合わせてやろう。さあ喜べ、感動の再開だ」
「ギャオオオオオオオォォオ‼」
突如、一軒の家を突き破って六六六と刻まれた狼が現れる。馬鹿みたいに巨大なその獣は、白い瞳を持っていた。
「汝、隣人を殺戮せよ」
返信が遅くなってごめんなさい。明日も遅いかもです。
リオンが爆遁を使えないのは、カカシ逃亡防止のため
性質変化を封印しているからです。
因みに、忍足だけは科学忍具なので普通に使えます。