暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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芸術は

「そなたは、今この時よりリオンと名乗れ」

「・・・・・・リオン」

 

「忍びの世界は、先の戦争より一見明るいものになった。だが、光あるところに闇は必ずある。誰かの幸せは誰かの不幸なくしては存在しえぬ。」

 

 この人は何を言っているんだ?顔は黒いローブに隠れて見えないし、重苦しい雰囲気の人だな。

 

「今の忍び五大国は闇から目を背けておる。かつて、忍び五大国は互いに争い、それゆえ自国の内部、及び周辺の隠れ里を厳しく統制していた。そのおかげで、無数にある隠里には一定の秩序があった」

 

  そもそも僕は誰なんだ?何でここに居るんだろう。

 

「しかし、五大国が戦いをやめたことにより統制が緩み、隠里が独立し秩序が崩壊したのだ。戦時には宗主国へ向けられていた憎しみが行き場を失い、代わりに戦争中あるいは戦争前からある他隠里への憎しみが浮き彫りになったのだ」

 

  だめだ、何も思い出せない。

 

「結局は、力なのだ。思想、欲望、憎しみそれらを前にして武力以外の手段など何の価値もない。闇には闇でしか対処できない。それゆえわしは創り上げた新たなる闇を」

 

 いや、一般的な知識は知っているみたいだ。何故だか戦闘と芸術に関する知識に偏っているけども。

 

「聞いているのか」

「矛盾した世界に力をもって、秩序をもたらすってことですよね。それで、僕はどうすればいいのですか?」

「貴様には、闇となってもらう。そこの忍びとツーマンセルを組んでもらう。詳細はそいつから聞け」

 

 そこで、先ほどまで沈黙していた般若の面の忍びが口を開いた。

 

「リオンとか言ったか。ついてこい」

 

  *

 

 前を歩く般若の忍びの背中を見ながら思った。リオン・・・・・・僕の名前か。不思議な感じだ。名前も分からないし、生まれ故郷も親すらわからないのになぜか他のことは知っている。

忍び、暗部、憎しみ―僕は一体何者なんだろう。

 

「おい、聞いているのか?」

「す、すいません。聞いていませんでした」

「まったく、俺の名前はドントだ」

 

 改めてみると相手は般若の面を外していた。短く整えられた真っ黒な太い黒髪、上がり眉に、力強い眼光、ガタイの良さも加えて、怖そうな人だと思った。

 

「えっと、リオンです。よろしくお願いします」

「知っている」

 

 ・・・・・・気まずい。何を話せばいいんだ?なにか、会話のネタはないか?あ~なんで芸術論しか浮かんでこないんだ!

 

「今から、暗部を案内してやる。一度しかしないから頭に叩き込んでおけ」

「はい」

 

 ドントさんは沈黙が好きなのか会話という会話もなく、暗い廊下を進んでいく。まあ、僕自身もペラペラ喋るより、考え事しながら歩く方が好きだから良いんだけども。それにしても、いくら暗部でも暗すぎないか?監獄のほうがまだマシなんじゃないかと言うくらい質素で簡素な基地だった。何というか芸術性に欠けるというかなんというか。

 

「なんか面白みのない基地ですね、ここ」

「どういう意味だ」

「その、なんというか、ここ質素すぎるというか重苦しすぎません?芸術的な要素が何もなくてここにいるだけで気が滅入ってきません?」

「下らんな」

 

 にべもないドントさんの言葉に少しカチンときた。

 

「いや、大切な事ですよ。芸術はなにも高尚な事ではなく、日常の些細な部分でも生きてくるんですよ。もともとは芸術の意味は良い技術、美しい技術って意味なんですから」

「下らんと言っている」

「・・・」

 

 まあ、むきになっても仕方がないか。そんなことより、僕はなんで目覚める前の記憶がないんだろう?

 

「目覚める前、僕が何をしていたか知っていますか?」

「いや、俺は人形のお前を発見し再起動しただけだ」

 

 人形?僕が?頭が真っ白になる。

 

「僕は、人形なんですか!?僕は何者なんですか?」

 

 衝撃の事実を聞かされ焦る僕とは対照的に彼は落ち着いた声で説明した。

 

「かつて、サソリという忍びがいた。そいつは傀儡と呼ばれる兵器の天才で、人間すら傀儡にできたらしい。そいつは里を抜け、傀儡の研究をし、同時にいくつものアジトを持っていた。そのアジトの一つにお前は眠っていた」

 

 サソリ?なんだか懐かしい名前だ。その人が僕を生み出したのか?だから、体に違和感があったのか。じゃあ、僕はもともと人間だったんだろうか?

 

「何も覚えていないのか?そんなんで、戦闘ができるのか?」

「はい、なぜか一般的?な知識はあるみたいで、なんだかどうすれば良いのかわかるみたいな」

 

 言いながら、僕自身腑に落ちず曖昧な返答になってしまった。

 

「そうか」

それきり、黙って先を歩くドントさんに早歩きでついて行く。

 

「さっきの男の人は、誰なんですか?」

「シンゲン様のことか。俺もよく知らない。何でも数年前突然現れて、瞬く間に大名に取り入り、岩隠れの暗部の実権を握ってしまわれたそうだ」

 

 あの老人、たった数年で、そこまでの事を成せる程の実力の持ち主だったのか。驚きの余り目が丸くなる。

 

「たった数年で?もともとの暗部はどうなったんですか」

「表向きは完全に解体され、土影のもと再編成されたことになっている」

「実際は?」

 

 何やら含んだ言い方をする彼に、暗いものを感じる。どうやら予想は当たっていたようだ。彼はゆっくりと口を開いた。

 

「本人も薄々気づいているかも知れないが、実質は土影の管轄外の組織となっている」

「土影は何を考えているんですか?管轄外の組織がどれほど危険か分からないはずがない」

 

 そこで、彼はいったん立ち止まり振り返った。

 

「手を出せないのだ。いまどの影たちも、戦後急速に変化する環境の処理に追われている。忍びとしての職の激減、他国との経済的発展の競争などだ。大名の保護を受け、貴重な他里の情報をもたらす暗部を本気で消すにはデメリットが大きすぎる」

 

 彼は突き放すように話した。それでも、要点はしっかり押さえていたが。

 

「それなら、自前で暗部を養成すればいいのではないですか?」

「ナンセンスだ。生半可な実力の暗部はむしろ害悪だ。戦後の忍びの実力の低さは、土影の最大の悩みだろう」

 

 確かに、忍びにとって任務の遂行は絶対の掟。ましてや、暗部の任務ともなればとてつもなく高度な能力が要されることは間違いない。

 

「なるほど」

「他人事ではない。ここが訓練場だ、今からお前の実力を見る」

「えっ!?」

「今言ったろう。生半可な実力は害悪だと」

 

 謎の圧迫感に渋々応じる。まるで物理的に引きずられるかのように僕は訓練場へ向かった。

 

    *

 

 

「訓練場は全部で三十八種類ある。森、砂漠、水中スタンダードな地形は当然として、火影室なんてものもある」

 

「へー」

 

 さすが暗部、訓練室も実践的なんだな。というか火影室に用がある任務ってなんだ?

 

「今日使うのは試合場と呼ばれる部屋だ。今日といってもお前に次があるとは限らんが」

 

 何もない部屋だ、土の床にコンクリートの壁と天井。

 

「どういう形式でやるんですか?」

「俺を相手に三分間、死なずにいられればそれでいい」

 

 そう言って、ドントさんは懐にストップウォッチをしまった。

 

 死なずにって、まさか本当に殺してくるなんてことないよな。ちらりと、彼の方を見ると先ほどとは明らかに様子が違っていた。

 

 重力すら持つのではないかと感じる殺気。隙などどこにもない構え。僕は確信せざるを得なかった。殺らなければ、殺られると。

 

 傀儡を使う術も爆遁の知識も何故か思い出せる。でも、今は傀儡は無いし起爆粘土もない。どうやって、殺す?僕が傀儡なのだとしたらきっと僕自身にも仕掛けがあるはず。いや、違う合格の条件は三分生き残ることだ。相手を殺す気で自分を守り切ればいい。問題なのは、相手の手札が分からないことだ、そして僕の仕掛けのことも警戒されているに違いない。

 

「このクナイが地面に落ちたら試合開始とする」

 

 ドントさんが軽く手首を振るとクナイが真っすぐ飛び、やがてとがった先を地面に向け落下を始めた。

 

 くそっ、このままだと瞬殺される!!一つ一つ仕掛けを試す暇はない。クナイが落ちた瞬間、まずは距離をとり体のどこかにある仕掛けを!

 

 カツン

 

 直後、地面を蹴った。

 

 

 

 

 標的は?

 

 瞬間背中に尋常じゃない衝撃が走る。そして、吹っ飛ぶ。頭が真っ白になった。何が起こったのか確認する前にさらなる衝撃。そのまま壁に激突し、コンクリートの壁は音を立てて崩れる。

 

 痛みで意識が覚醒した。何が起きたんだ?

 

「生きていたか。さすがサソリの作品だ。頑丈だな」

 

 ドントさんの手が黒い。あれにやられたのか、あの感触からして硬化の術の一種だろう。おそらく土遁。でも土遁使いは機動力に欠けるのが常のはず、いや今はスピードのからくりじゃなく、対応を―

 

 直観的に跳んだ。次いで背後に轟音。

 

 先ほどまで自分がいた所をみると、地面に手をめり込ませたドントを中心にクレーターが広がっていた。思わず背筋が凍る。

 

 あれを喰らったのか、我ながらよく無事だったな僕。だけど、あれをあと二発喰らったら確実に死ぬ!!

 

「よく躱したな。次は逃がさない」

 

 だめだ、僕の動体視力の限界を超えている。なにか、なにかないか?

 

 直後、またしても直観的に左にずれた。そのままジャンプして足払いを躱すが、空中で身動きがとれない僕に、豪速のボディーブロ。やむを得ず、両腕でガードする。

 

「ぐはァッ」

 

 なんて馬鹿力だ。でも、なんでガードが出来たんだ?見えないのに?いや頭の中に直接座標がおくられる感覚。光か!光学センサーか何かが、僕に敵の位置を教えてくれるのか。そんな僕の思考速度をあざ笑うかのように敵は背後に回り込む。

 

 ッツ後をとられた!!―体を無理やり捩じりながら、回し蹴りをする。

 

「土遁・散弾岩」

「しまっ―」

 

 こぶし大の、石つぶてが点ではなく面となって、足を振り切った僕を襲う。僕に血が流れていたら、きっと全て吐き出していただろう。それ程の連撃がリオンの闘志を完全に折る。

 

「攻撃の位置察知能力はまあまあ、あるようだが、攻撃の種類までは分からないようだな」

 

 全身に走る鈍痛とともに、地面に倒れ伏す。

 

 立ち上がれない、僕はいきなり目が覚めて、よく分からない所で、良く分からないまま死ぬのか。

 

 倒れ伏す僕に向かってドントさんが手をかざす。

 

「一分か。暁の遺物といっても所詮この程度か」

 

 傀儡の自分にはあるはずの無い心臓がドクンと波打った気がした。“暁”。その言葉の響きは、激しい痛みと悲しみに満ちていた。そして、何故だか絶対に立ち上がらなければいけないと、譲ってはいけないと感じた。

 

 ゆらりと、軋む体を無視して体を持ち上げる。

 

「立ち上がった所で、死ぬ時間が少し伸びただけだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「お前の実力は見切った。暗部には、ふさわしくはない」

「高々、暗部風情が暁を侮辱すんじゃない」

 

 印を結ぶ。知らない筈の印が何故か組める。でも、そんなことはどうだっていい。

 

「傀儡分身の術‼」

 

 煙とともに四体の傀儡が現れる。リオンの左右十本の指から青く細い光が迸り、四体の傀儡が訓練場の四隅に飛びのく。

 

「なるほど、手裏剣分身と同じくチャクラ体としてではなく、無機物として分身しチャクラを節約したか。だが、それがどうした。チャクラの無い傀儡などただのガラクタ」

 

 ドントは迅速でリオンの背後に回り込む。土遁・拳岩の術!!硬化した拳を岩で巨大化し、殴りつけた。それは、まさに巨人の一撃。確実に僕の息の根を叩き潰すはずだった。

 

 重々しいけれども、甲高い金属音が響く。

 

「馬鹿などうやって、見切った!?」

 

 驚愕のあまり、目を見開く彼の目に映るのは蠍の如き鋼鉄の尾。それがリオンの白いローブを突き破り、完全にドントの拳を受け止めていたのだ。尾がそのまま彼を地面に叩きつけ、砂塵が巻き起こる。

 

 ドントは地面に万力で叩きつけられる、しかしこれまでの戦闘経験が彼をすぐさま砂塵から飛びださせた。状況把握の為に砂塵の方を見ると視界に移るのは針の雨。クナイでの迎撃を考えるが、針に紫の液体が付着しているのを見て、即座に判断を変える。全身を土矛で硬化。

 

「土遁・岩石砲!!」

 

 リオンの背後から突如鋭い岩石が突貫する。しかし僕は振り返ることもなく尾で叩き切った。

 

「馬鹿な。今の術は俺の術で最も早い術だ!!それを、見もせずに!!」

 

 ゆらゆら波打つ尾が、直線状になり、彼を襲う。

 

「ぐッ。だがこの土矛の防御を突破することは―」

 

 僕が片手で印を組んだ次の瞬間、尾が放電し、ドントの胸を切り裂いた。しかし、これでやられたわけでは無かった。彼はポンと音を響かせ掻き消えたかと思うと、リオンの足元の地面から、腕が飛び出し引きずり込む。

 

「土遁・加重岩の術」

「土遁・黄泉沼!!」

 

 リオンは自身の重さをものともせず、尾を天井に突き刺し脱出する。だが、天井への着地を見逃すドントではない。絶妙なタイミングで岩石砲を飛ばす。

 

 軽く右手を振った。それに一瞬の遅れもなく、傀儡が岩を叩き切る。

 

「今のも見切るか。ならば、土遁・土槍‼」

 

 四方八方から土の槍がせり上がり、四機全ての傀儡を貫き壊した。

 

「お前は、明らかに死角からの一撃を二度も防いで見せた。普通は有り得ないが傀儡とチャクラ糸で繋がっているなら話は別だ。傀儡と自身の視界をリンクしているんだろう。なら、全ての傀儡の死角から破壊してやればいい」

 

 彼は傀儡を破壊したことでリオンの視界を潰したことを確信した。

 

「これで終わりだ。多重岩石砲‼」

 

 リオンの死角から、無数の岩石が襲う。轟音と共に辺りの視界は土煙に埋もれた。

 

「わざわざ砂隠れまで行ったというのに無駄足だったか」

 

 ドントは煙の中出口に向かって歩き出す。煙をかき分けながら、何故か違和感を覚える。背後を振り向くと死んだはずのリオンが立っていた。

 

「そんな、まさか」 

「ドントさんは、三つ勘違いしている。一つ目、あなたの土矛は絶対防御じゃない。雷遁にも弱いし、硬化した部分は動かせなくなるんでしょう?二つ目は―」

 

 ドントは話を最後まで聞かず足裏だけを硬化しリオンを蹴り壊す。

 

「人の話は最後まで聞いてくださいよ」

 

 聞こえるはずの無い声が後ろの方から聞こえる。そして、彼は気づいてしまった。リオンの気配が一つだけではないことに。砂塵が晴れてゆく。

 

「これは!?」

「二つ目は僕の傀儡は四機で全部じゃないという事です。その二十五倍はある」

 

 彼を囲んでいたのは百機の傀儡。それら全てが毒針の豪雨を降らす。

 

「土矛‼」

 

 ドントは全身を硬化させ死の雨から身を守る。

 

「三つ目、芸術は下らないものじゃない。芸術とは永遠の美であり、」

 

 百機の人傀儡が青いチャクラ糸を伸ばし、ドントはぐるぐる巻きにされる。傀儡達が次々に印を組んでいく。青いチャクラ糸がリオンの指先から一斉にオレンジ色へと煌く。

 

「爆発だ‼」

 

 チャクラ糸が大爆発した。火炎が訓練室の全てを舐めとり、辺りを溶かす。凄まじい轟音はそれだけで大気も地面も全て揺らし、衝撃波は壁を粉砕した。次いで出た黒煙は先ほどの砂塵を遥かに凌ぎ、薄れる気配はまるでない。聞こえるのは爆炎がただ揺らめく音のみ。

 

「なんとか殺ったか・・・」

 

 僕は疲労の余り倒れそうになるのを気合で堪え、出口を探す。

 

 ピピピピピピッ、ピピピピピピッ、ピピピピピピッ

 

 背後からストップウォッチの音がした。まさかの気配に振り向くと、やはりドントさんが立っていた。これでも生きているのか‼絶望しそうになる心をねじ伏せ、印を組もうとするが、それより彼の一言が先に出た。

 

「・・・・・・合格だ」

 




完結までに暁のメンバーの術はそれぞれ何かしら、出すことを目標にしています。小南、オビト、イタチ等の血継限界らへんが厳しいかもしれませんが。
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