暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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昨日は更新できず、すいませぬ。14日くらいまで更新が遅れるます。まことにすいませぬ。


猪鹿蝶vsジャシン教

「母ちゃん?そんな嘘だ」

 

 月夜に吠える黒紫の狼。その眼には白眼が輝いていた。

 

「私は先に行く。そこの六六六(ミロク)と共に二人を始末した後、例の場所で合流だ。娘は私が連れていく」

 ゲーテはそう言って、女からヒマワリを受け取り彼は本を開いた。

 

「六六六」

 道にある電信柱の一本が狼へと変わる。

 

「私を奈良の森へ連れていけ」

 

 狼は一言吠えると背にゲーテを伴い走り去った。ボルトは妹が攫われるのを防ぐため、飛び上がろうとしたが、ダメージが大きいのか倒れ伏してしまう。

 

「無様。あなたも獣に変えてもらえば直ぐに楽になれたものを。さあ、六六六よ。あなたの息子を殺してやりなさい」

 

 巨大な狼は地面を踏みしめながら一歩一歩近づいてくる。理性を失っているのか、命令に忠実な殺人兵器と化していた。

 

「母ちゃん。俺だよ」

 

 ボルトは必死に訴える。普段はアカデミーで最も勇敢である彼であったが、相手が母親かもしれない、また生まれて初めて感じる本当の殺気にあてられ完全に身が竦んでいた。

 

「ググググッ」

 

 凶悪な牙を持つ咢を震わせる。女にとって、戦意喪失している少年が肉塊にされる光景は興奮の対象であった。

 

「ははは愉快ね。さようなら坊や」

 

 黒狼は一瞬足を曲げたかと思うと、次の瞬間にはボルトの眼前で口を広げていた。思わず顔を庇う。ぐしゃりと血が舞った。

 

 だがそれは少年の血ではなく、獣のもの。ボルトがゆっくりと目を開けると、赤髪の少年が狼の口を両腕の黒杭で刺し封じていた。

 

 

「ケガはない?ビビリ君」

「リ、オン?」

 

 僕は敢えて挑発するような笑みを浮かべて言った。  

 

「今ボルトがやらなくて、誰がお母さんを守るんだ?」

 涙が一筋ボルトの頬をつたい落ちようとするが、少年は乱暴に顔をぬぐう。その顔は泣き顔ではなく忍の顔であった。

 

「今、そうしようと、思ってたんだってばさ」

 

 ボルトは印を結んだ。煙の中から現れるのは四人の分身。

 

「ガァァァァァ!」

 

 狼は強引に頭を振り上げ、遠心力で僕を吹き飛ばす。宙に舞う僕を呑みこまんと咢を広げた。忍足で飛んでもいいけど、このまま狼の気を引いた方が得策か。だって、

 

「ボルトストリーム!!」

 

 風遁で加速し、雷遁で貫徹力を上げた、日向直伝の掌拳が狼の鼻っ面に叩きこまれた。急所を打たれ、思わず悶え苦しむ狼。赤服の女は口を歪めた。

 

「くそっ、駄犬め。蟲玉!」

 

 大量の蚊がボルトを襲い、包み込もうとする。寸前の所でチャクラ糸が彼を吊り上げた。

 

「サンキュウ」

『ボルト、君にはヒナタさんを任せた。僕はあの女を殺る』

 

 もうボルトの顔に恐れはどこにも見えなかった。威勢よく返事をする。

 

「おう、任せとけって」

『それから、後三分だけ凌げば僕の麻痺毒がヒナタさんに回る。それまで頼んだよ』

「そっちこそ、しくじるんじゃないってばさ」

 

 ボルトは影分身を巧みに使って狼を誘導し場を移動した。きっと、彼ならやってくれる。なら、僕はすべきことをやるのみだ。

 

「いいの?あの子弱そうだし死んじゃうかもよ」

「ボルトは強いですよ。それと少しは、自分の身を心配したらどうです?」

 

 蟲を足場に上から見下ろしているはずなのに、女は自分が見下されている感覚を覚えた。苛立ち唇を噛む。

 

「言ってくれるじゃないの。秘術・吸血蚊弾」

 

 女の袖口から黒く蠢く球体が三つ射出される。初撃は宙に舞って躱し、左右から来る二球が迫る前に忍足が火を噴いた。急上昇し女との上下が入れ替わる。

 

「これで、名実ともにあなたを見下せる」

「・・・。でも、私の蟲はその上を行く」

 

 女から膨大な数の蚊が溢れる、耳障りな羽音が際限なく響いた。計五十以上もある蟲玉が、空にいる僕を追尾する。

 

 なるほど、追尾式の蟲玉か。

 

 急旋回、急上昇、急加速で蟲玉をすれすれの所で避けながら、クナイを投げつける。

 

「手裏剣分身の術!」

 

 一、二、四、八、十六、三十二、六十四、百二十八、倍々に増えていくクナイは驟雨の如し。

 

「甘いわ」

 

 女の衣服からどこから出てきたんだと思うほどの蚊が飛び散り、盾を形成した。蟲で出来ているくせに、意外にも堅牢なそれが次々とクナイを弾き元の白煙に帰していく。

 

 なるほど、攻撃だけではなく防御用にも虫を残しているのか。なら、

 

 指を軽く振った。

 

 分身クナイの元となった最初の一本がひとりでに動き、女の背後から襲い掛かる。

 

「なっ、この子油断も隙もないわね」

 

 遠隔操作したクナイは敵の後頭部ギリギリで、蟲に食止められていた。・・・どういうことだ。完全な死角からの一撃だったはず。なのに、防がれたということは、

 

「その虫は感知能力もあるみたいですね」

「よく分かったわねえ、私の自慢の子供たちよ」

 

 厄介だな。性質変化が使えない今、傀儡の術のみが頼りなのにチャクラ糸が感知されてしまっては打つ手が限られてくる。

 

「流石に、五十対一で追いかけ続けられると厳しいですね。だから、これでどうです?」

 

 僕の印の後に、煙から現れたのは百人もの傀儡分身。それらが、手から黒杭を出して女に特攻した。

 

「子供だましね。蟲使いの私にはチャクラの動きが見える。本体さえ潰してしまえば、あとはただの分身」

 

 女は一度防御用の蟲を最低限残して、他全ての蟲を蟲玉として射出した。蟲が飲み込むと同時に傀儡分身が瞬時に消えていく。

 

「捕まえた」

 

 分身の一番奥にいたリオンが蟲に飲み込まれる。

 

「ふふ、これは消えない。馬鹿ねぇ。これだけ沢山の傀儡を操るためには、沢山のチャクラ糸を伸ばさないといけない。蟲がそれに気づかない訳が無いでしょう」

 

 ポンっと音を立て本体のはずのリオンが掻き消えた。

 

「え?」

 

 グサ。

 

 女の背中に、赤髪の少年がクナイを突き刺していた。体が痺れ崩れ落ちる。

 

「ど、うして?」

 

 混乱する女から、クナイを引き抜きながら僕は言った。

 

「チャクラを感知するのはあなたではなく無数の虫達だ。でも、それを統括するのはあなた一人。だったら、僕は大量の虫全てじゃなくて、たった一人の人間をひっかければいい」 

 

 もう意識が消えかかっているのか、息も絶え絶えに彼女は反論した。

「そんな筈ない。確かに蟲は沢山の傀儡達を操っている本体を教えてくれた」

 

「簡単な話ですよ。本物の僕が一体の傀儡を操り、その傀儡を使って間接的に残り九十九体の傀儡を操っただけです」

 

 より慎重に複数の傀儡を経由して傀儡操作を行っても良かったけど、この女の人にはそんな必要も無かったみたいだ。

 

「・・・・・・」

 

 あれ、反応が無い。用心深く、敵に近づく。

 

「話している最中に毒で気絶してるし。まあ、いいや」

「お~い!!」

 

 ボルトの声がする。振り返るとピンク色がアクセントの服がびりびりに破け、所々血がにじんでいたが五体満足な少年が元気に手を振っていた。

 

「良かった、無事だったみたいだね」

「おう、結構やばかったんだけど、突然右目がバチッってなって何とかなっちまった。そっちもやっつけたみたいだな」

 

 右目がバチッてなんだ?ボルトは目から雷遁がだせるのだろうか・・・まあ、お互い無事でよかった。

 

「ヒナタさんは?」

「母ちゃんなら、狼の姿のままだけど麻痺が効いたのかぐっすり寝てるよ」

「こっちも、同じく気絶させといたよ」

「で、どうする?」

 

 ボルトが真剣な表情で尋ねた。

 

「とりあえず、ボルトは火影に連絡を。僕もこいつを警務部に連れてからそっちに行くよ。途中まで案内お願い」

「分かった。ついて来いってばさ」

 

   *

 

 シカダイといのじんはセレモニーに行く許可を貰うため二人で帰路についていた。

 

「いいよな、お前の家族はなんでも許してくれてよ」

「何でもじゃないよ。まあ母さんもお父さんも、取り敢えずやってみなってスタンスだから割と楽だけど」

 

 シカダイはそういう部分に関してはいのじんの家庭が羨ましくて仕方が無かった。

 

「うちは親父が家にあんまいねえから、許可貰うには母ちゃんからになるんだが・・・はあ、めんどくせー」

 

 いのじんは眼を細めて笑う。

 

「確かに、シカダイのお母さん怖そうだし」

「あんたたち!!」

 

 二人の背後からシカダイの母テマリの声が響く。少年たちは最悪のタイミングに決して口にしてはいけない事を口走ってしまったことに絶望を禁じえなかった。

 

「ごめん。母ちゃん。そんなつもりじゃ」

 シカダイは振り返る前から全力で謝りだす。

 

「なに言ってるんだい?それより、無事でよかった。二人とも一般人をシェルターに誘導しながら避難するんだ。避難終了時には下忍以下にも全員避難命令が出ている」

 背に大きな扇子を背負ったテマリはどこかほっとした様子ながらも真剣な表情を浮かべていた。いのじんはシェルターと言われてピンとこなかったのか、彼女に質問する。

 

「どこにですか?」

「火影岩の所にある、木の葉のシェルターだよ」

 

 シカダイが普段見られない母親の緊迫した様子に、何事か問い質す。

 

「なんでそんな所に。何があったんだよ」

 テマリは一瞬迷うそぶりを見せた後おもむろに言った。

 

「今、木ノ葉が何者かに襲撃されている。雷門カンパニーの方は大惨事だ。それと、ここだけの話なんだが、奈良の森に侵入者が入った」

 

 シカダイには雷門カンパニーの襲撃より、家の森の方を深刻に話す母が理解できなかった。

 

「たかが森ごときで、なんでそんな大ごとになるんだよ」

「いいかい。これは極秘なんだけどね、あの森には飛段って忍が半ば封印のように監視されてるんだ。父さん達が向かってるから大丈夫だとは思うんだが、母さんも援護に行くつもりだ」

 

 聞いたことも無い忍の名前にシカダイが首を傾げる。

 

「誰なんですか?飛段って」

「暁って組織を知っているかい」

 

 二人は怪訝そうな顔をする。アカデミーの授業で聞いたことがあるかもしれないが、忍界史にはあまり興味のない二人には馴染みない物であったからだ。

 

「・・・暁はS級の犯罪者が集まったテロ集団だ。そのメンバーの一人が飛段という訳だ」

 

 いのじんが呆れたように両腕を頭に回す。大人たちの慌てっぷりが理解できないのだ。

 

「S級って言ったって、たかが犯罪者一人に一般人ならまだしも、忍の僕たちが避難するなんて馬鹿げてませんか?」

「あんたたちがそう思うのも無理はない。でもね、暁だけは別格だ。彼らは一人一人が影たちに匹敵するほどの力を持つんだ」

 

 今度はシカダイが呆れた様子で母を見る。

 

「ちょっとそれは言いすぎなんじゃないか?母ちゃん。影ってのは、その里で一番の最強の忍が就くもんだろ」

 

 テマリは息子の危機感の無さに頭痛を感じながらも、正しい状況の理解を求めた。

 

「あんたのその影に対する認識については後できっちり叩き直してやるが今はいい。いいかい、シカダイ。なんでこの里はすり鉢状になってるか知ってるかい?」

 

 突然の脈絡のない質問に子供二人は怪訝な表情になる。

 

「いや」

「その暁の一人がかつての木の葉を押しつぶしてこうなったんだよ。文字通りね。そしてあんたの父さんの先生を殺したのも飛段だよ」

 

 尋常じゃない衝撃に二人とも言葉を失う。特にシカダイは自分の父親が紅おばさんに会いに行ってる分、その夫であり父の死を殺った存在が迫ってきていることに肌寒い以上の何かを感じた。

 

「シカダイ。いのじん。今すぐ逃げなさい。後のことは母さんたちに任せな」

 

 俯くシカダイ。

 

「行くのかよ。母ちゃん」

「当たり前だ。母ちゃんたち上忍が行かなくて誰が行くってんだい」

 

 シカダイは忍の息子としてあるまじき発言だとは思っても呟かざるを得なかった。

 

「やめとけよ。そんなの他の忍に任せときゃいい」

「何言ってんだっ‼シカダイ」

 

 テマリは声を荒げる。だが、彼女の息子も声を荒げた。

 

「だってよ、親父の先生を殺したってことはその飛段は親父より強いって事だろ。そんな奴の所なんか行ったら母ちゃん死んじまうかも知んねえんだぞ」

 

「・・・・・・ぷっ」

 

 母親の噴き出す声にシカマルは思わず顔を上げた。

 

「あはははっ。何言ってんだいシカダイ。その飛段を倒したのはお前の父さんだよ。それに、」

 

 テマリはシカダイの頭をごしごしなでる。

 

「あたしはあんたの父さんより強い。夕飯の準備がまだできてないから直ぐに終わらせて帰ってくるよ」

 

 それきりテマリはシュンと音を立てて消えた。腕を頭で組みながら、イノジンが言った。

 

「なんか大変な事になっちゃたみたいだね」

「行くぞ」

 

 親友のいつもなら絶対に聞かない確固たる声に、いのじんは目を丸くする。

 

「どこに?」

「雷門カンパニーだ。今日あそこには大勢の人々が集まる。チョウチョウ達もいるだろうから状況を説明して協力してもらおう」

 

「そうだね」

 

   *

 

 人一人いない、野生動物しかいない暗い夜の森を赤ローブの集団が駆け抜けていた。

 

「そろそろか」

 一人の教徒がポツリともらす。

 

「ああ、ゲーテ様の情報によると間もなくのはずだが」

 

 先頭集団が足を止めた。それまでは平たんだった地面と打って変わり、ぽっかりと空洞が空いていた。いや、正しくは瓦礫に蓋をされた大穴であったが。

 

「この下に御子が眠っておられる」

「遂に悲願の時がやってきた」

 

 赤ローブの男が地面に手をつく。静寂が訪れた。いつまで経っても地に手を突いたままの男の様子に仲間の一人がしびれを切らす。

 

「おい、いつまでそうしている気だ」

「心転身の術成功」

 

 男がそう言ったかと思うと、急に仲間を切りつけた。

 

「おい、いったい何をっ」

「肉弾戦車‼」

 

 巨大な豪速回転する球体が地面を削りながら、教徒達を跳ね飛ばしていく。前方から聞こえてくる断末魔に顔を引きつらせ回避しようとするも、何故か体が動かない。

 

「グワーッ」

 

 煙を立てながら、教徒は地面を転がった。朦朧とする意識であたりを見回すと、倒れ伏した教徒達と三人の忍が目に入った。

 

「まさか、もう一回ジャシン教の名前を聞くとはね」

 

 赤茶の髪に巨体の忍、チョウジが言った。

 

「何故、ここが・・・」

「ここは奈良家の森だ。鹿が教えてくれる。こちらからも一つ質問しようか」

 

 シカマルは教徒を影で縛りつける。絶妙な力加減で教徒の首を絞めながら、彼は尋問した。

 

「どこでこの場所の情報を知った?」

「それについては答えかねる」

 

 闇夜を裂き、突然現れた狼がいのを襲う。

 

「いの‼」

 

 チョウジが倍加した腕で狼を殴り飛ばす。

 

「キャウンッ」

 

 骨を砕かれバラバラになったと思われた狼は、次の瞬間バラバラの電信柱に変わった。新たな敵の増援に警戒する猪鹿蝶。

 

「お前は誰だ?」

「私の名はダンテ。しがない、プリーストだよ」

 

 いのは軽口を叩きながらも、冷静に相手の出方を伺う。

 

「ジャシン教ってのにも位階があるとは驚きね、飛段はどこら辺に位置しているのよ?」

「御子の名を異教徒如きが、口にするのは不敬だぞ。今に天罰が下るだろう」

 

 底が見えない不気味な男を前に、シカマルは軽めの挑発をした。

 

「どちらにせよ、あんたはここで終わりだ。お仲間もこの通りだしな」

 

 シカマルは倒れ伏した教徒達と影で縛った教徒を背に、不敵な笑みを浮かべる。が、ゲーテにとって、教徒達の事などどうでもいいのか一瞥もくれず、抱えていた少女を投げ捨てた。

 

「この娘が目に入らないのか」

 

 ゲーテは気絶しているヒマワリの髪をひっぱり、顔を見せる。思わず、顔に出してしまうチョウジといの。

 

「あんたねえっ!」

 

 彼女が怒りのあまり叫ぶ。しかしシカマルはあくまで冷静沈着だった。

 

「いいのか?」

「何がだね?」

 

 シカマルは分かりやすく言い直した。

 

「俺達の為に切り札を切って良いのかって聞いてんだ」

「それは、どういう意味かね」

 

 彼はたっぷりと間を取ってから、ゆっくりと話し始める。

 

「言っとくが、俺達は忍だ。犠牲が出ることには慣れている。そいつは俺の娘ってわけでもないしな。赤の他人一人と里の人々全員だったら、俺は迷わず後者を選ぶってことだ。可哀そうだがその女の子の命は俺の判断に影響しない」

 

 いのは同僚の妄言に声を張り上げた。

 

「シカマル⁉何言ってんのよっ」

「そうか。所詮は異教徒。では、遠慮なくこの子を殺そう」

 

 ゲーテは何の躊躇もなく銀ナイフをヒマワリに振り下ろす。

 

「だが―」

 

 ピタリとナイフが止まった。シカマルはにやりと笑った。

 

「俺にとっては赤の他人でも、火影にとっては愛娘だ。俺は止められなくてもあいつは止められるかもしれないな」

「ふっ。なるほど。要するに、お前たちは直々に私が手を下せばよいということだな」

 

 ゲーテはおもむろに黒い教典を開き、銀ナイフを自身の手に突き刺そうとする。しかし、ナイフの切っ先が男の肌を突き破ることは無かった。

 

「むっ」

「影縛りの術、成功」

 

「油断しすぎたね。夜にシカマルを相手するのは捕まりに行くようなもんだよ」

「チョウジこそ油断すんな。敵はジャシン教だ」

 

 言いながら、シカマルは手を振るそぶりをする。連動してゲーテの手も動き、銀ナイフが飛んでいく。

 

「飛段の術は自身と相手の体をリンクさせ、自傷により相手を殺害する。術のトリガーは対象の血で、術の弱点は術の発動の難易度だ。そして、ジャシン教のあんたの術にも発動に制限があるんだろう?」

 

 ゲーテは動かない体にもかかわらず、平然と返答した。

 

「だから、その条件と思わしき行動を封じたことにより勝ったと言いたいのかね。異教徒よ?」

「何か違うか?」

 

 シカマルは印を組み、油断なくゲーテを縛り付ける。クククと笑い出す男。

 

「ハハハ、実に滑稽だ。何たる有様、何たる惨状よ」

「何がおかしい?」

 

 猪鹿蝶は圧倒的に不利な状況にいるはずの敵が一向に焦る様子が無いのを見て、警戒心を強めた。

 

「何もかもだよ。やはり、異教は人を腐らす。今からでも改宗しないか?」

「俺はあいにく宗教みたいなもんはそこまで熱心じゃねえんだ、むしろお前の方がよっぽど腐って見えるよ」

 

 ゲーテは暫し黙した後、まるで愚かな民衆を問い伏せるかのように語り始めた。

 

「いや、お前は異教徒だ。確かに我々も宗教を欲するが、それはユートピアの為だ。しかしながら、お前たちの宗教は神に縋り付き、人間の為に作られた宗教だ。ゆえに醜い。さらに正視に耐えがたいのはお前たちが神と人間に仕えたがっているところだ」

 

 まったく意味不明の発言に、シカマル達は眉を顰めることしかできない。

「何を言ってるんだ?」

 

 ここまで言っても、まだ理解できない愚民達に怒りでも覚えたのか、ゲーテが目を見開いて怒鳴り始めた。

 

「要するに、忍宗は人間存在の弁神論でしかなく、火の意思は木の葉の里の弁神論でしかないということだ。畜生でも分かるように言ってやろう。お前らが信じてるものは人間や里そのもので、その為の犠牲となることを正当化するものでしかない!!!」

 

 ゲーテの全身からチャクラが吹き荒れる。あまりの力の前でシカマルは動きを抑えきれなくなりよろめいた。男が自身の唇を噛み切り、黒本に血を吐き捨てる。

 

「賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六六六‼」

 

 シカマルが押さえつけていた教徒、倒れ伏していた教徒達、その全てが白煙と共に狼となる。

 

「なっ、何⁉」

 

 イノが慌てふためく。チョウジも額から汗を流した。三人は完全に獣たちに囲まれていたのだ。冷静に彼我の差を分析し、シカマルが言った。

 

「落ち着け、たかだか動物に囲まれたぐらいどうってことはねえ。さっきは少し動きを抑えきれなかったが、まだ術が解除されたわけじゃ無い。まだ、詰んじゃいねえよ」

「いや、お前はもう詰んでいる」

 

 シカマルの左右から白煙が昇る。傍らにいたのは、相棒のいのとチョウジではなく黄色い狼と赤茶の狼であった。

 




猪鹿蝶ファンの方々にはこのような展開にしてしまい、誠に申し訳ありません。

飛段vsシカマルの時の様に、初見では無かったら猪鹿蝶が遅れを取ることは無かったと思います。

ちなみに、ゲーテの術は自身の血と何かがトリガーです。ヒントはシカマルとリオンが六六六にされていないことです。
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