奈良の森の奥地。そこでヒマワリと五人の忍が向かい合っていた。木ノ葉からボルトとシカマルが、ジャシン教からは飛段とゲーテが、そして土の暗部からはリオンがいる。
果たしてこの状況をどう乗り切るか、僕は思考を巡らしていた。外見的には、四対二という圧倒的優位な状況。でも、シカマルさんはこの傷ではまともに動くことは出来ないだろうしヒマワリちゃんは戦力というより護衛対象だ。
むしろ相手には狼もいる分、実質的には二対百に近い。飛段もそうだが、あの黄色と赤茶の狼が恐いな。
こちらが下手に動けないのは敵も承知しているのか、ゲーテが飛段に耳打ちをした。
「御子よ。こんな死にぞこないは放って置きましょう」
「てめえ誰だよ。俺に指図すんのか」
いきり立つ飛段に男が跪く。そして、おもむろに奏上する。
「わたくしめは、ジャシン教プリーストのゲーテです。御喜び下さい、ジャシン様の再臨の儀が整いました」
「ウオオオオオオオオオオオオオ‼マジかよ、マジかよ、マジかよ」
もはや正気の沙汰とは思えないほど歓喜狂乱している飛段を見ながら、僕はシカマルさんに情報共有を求めた。
『飛段って、だれです?』
『暁の一員で、不死身だ。奴の術は相手の血を取ることで、相手と自身の体をリンクさせるものだ。自分は不死身だが相手は不死身じゃない。だから飛段が自傷すれば、相手だけを殺すことが出来る』
ということは血を取られてしまえば、こちらは一巻の終わりという訳か。中々厄介な能力だが種が割れていればどうということは無い。問題はゲーテの術の条件の方だが・・・
『みんな聞いて下さい。恐らくゲーテの術の条件は、あの本と彼自身の血。そして、』
『狼にする対象の名前だな」
シカマルさんが言葉を引き継いだ。ボルトは全く予想外のものが条件だったことに驚きを隠せていない。ヒマワリちゃんにいたってはポカーンとしていた。
『どういう事だってばさ⁉』
『奴は一度、条件が整ったと勘違いして僕に術を行使した。何故か。それはボルトが僕の名前を呼んだからだ。でも、リオンは僕の本名ではないから術が機能しなかったんだ』
術の条件が明かされたにもかかわらず、ボルトの気持ちは納得より驚きが勝っていた。
『リオンが本名じゃないって、どういう事だよ!』
『僕は生まれてからの記憶を無くしていてね、リオンは新しく付けてもらった名前なんだ。それより、これで合ってますか?』
シカマルも頷いて返した。彼も同意見の様だ。
『ああ。俺と狼になったいのとチョウジの違いは名前を聞かれたかどうかしか思いつかねえ。俺から流れる血には興味を示さないことから、俺達の血は条件じゃないんだろう』
『問題は僕の杭や毒針、果てには岩や木まで狼にされる点ですね。まさかそこら辺の木や岩の正式な名前を奴が知っているわけでもないでしょうし・・・シカマルさんは何か分かりますか?』
シカマルは少しの間考えた後、回答した。
『いや、分からねえ。それについてはこれから探っていくしかねえだろう』
『なら、ボルトと血だらけのシカマルさんはゲーテの方に対処しながらバックアップをお願いします』
シカマルとボルトは黙ってうなずいた。どんどん進んでいく状況にヒマワリはあわあわとしている。
『ヒマワリちゃんは、シカマルさんの傍で彼を守ってあげて」
『うん!』
さて、こちらは術で会話しているが、相手から見たらただじっと睨みつけているだけだ。そろそろ、あの短気そうな方がしびれを切らす頃か。そんな風に考えていると、案の定、飛段が目を剥いて怒鳴り散らした。
「おいおい、いつまで哀れな子羊ちゃんみたいに震えてるんだよお。そっちが来ねえなら、こっちから行くぞ?」
「ですから御子よ。今すぐに儀式場に向かいましょう」
ゲーテが飛段を諌めようとする。どうするか、このまま行かせても良いけど儀式とやらをされたらマズい気もする・・・挑発してみるか。沸点が低そうな方をひっかけられれば十分だ。
「その外套。とても懐かしい気がするんですけど何ですか?」
突然話しかけてきた僕に、肩眉を上げた飛段だったが普通に返答をした。
「ん?ああこれ?これ暁の服だよ、クソダセエよな」
「奇遇ですね。僕もあなた方の神様の名前クソダサいと思ってました」
飛段が青筋を浮かべて、顔を憤怒の色に染めた。ゲーテですら顔が歪んでしまっている。口角をびくびく震わせながら飛段が唸るように言った。
「殺されてえみたいだな?」
「あなたが殺されるんですよ」
ゲーテも黒い外套を脱ぎ捨て、神父服を露わにした。彼は拳を開いたり閉じたりして調子を確かめる。黒本に血を注ぎ、口を開く。
「致し方無い。ジャシン様を侮辱する者を啓蒙するのも神父の仕事か」
「お互い、やるきになったみてえだな」
飛段はブンッと鎌を振り下ろし、ゲーテは銀のナイフを逆手に構える。対するリオン達は勿論この術から始まった。
「影分身の術」
「傀儡分身の術」
撒き上がる白煙。突き破って現れたのは、三人のリオンと六人のボルト。分身達は真っ直ぐ飛段のもとに駆け抜ける。赤髪と金髪、それぞれの道を阻まんと襲い掛かる狼はシカマルの影に捕えられた。
「そう来なくっちゃなあっ」
狂気的な笑みで鎌を構える飛段の前に、リオンが風を切って急加速した。飛段は斜めに鎌を振り下ろす。少年は見もせずに、腰からサソリの尾を出し弾く。
が、鋼の尾はそれだけでは止まらない。弾いた勢いそのままに、飛段の背後に回り込む。
敵の退路を断ったリオンは手を軽く振る。手から飛び出すのは一本の杭。それが飛段の心臓を正確に穿たんとす。
杭が飛段を貫く寸前、男の目がニヤつく。その刹那、手ぶらだったはずの敵の左手に白煙が巻き起こる。リオンは白煙に気づいたが、もう止まれない。杭を飛段に突き刺した。
「もらったぁ!」
確実に心臓が射抜かれているはずの飛段が叫んだ。と同時に白煙を切り裂きながら凶鎌が現れる。リオンは避けることが出来ない。自身の伸ばした杭が敵に刺さったままだからだ。
体に一刃の鎌が突き刺さる。がっくりと崩れ落ちていくリオン。
「残念だなあ、死ぬのはお前だったみたいだなあ。何か言い残すことある?」
少年はにっこり呟いた。
「喝」
きらりと光るリオン。起爆粘土で出来た分身はどろりと鎌に絡みつき、持ち主ごと巻き込んで爆発。爆風が吹き荒れ、周囲の狼が吹き飛ぶ。
「やったってばさ?」
ボルトの分身が爆風を両手で庇いながら、リオンの分身に聞いた。
「いや、やってない」
ボルトの背後から聞こえたのはリオンの声ではなく、身も凍るゲーテの深い声。慌てて振り向くも、ボルトの首が跳ね飛ばされる方が速かった。
「我、隣人を殺戮せし」
手刀を振り払うゲーテの背後で、ボルトの生首が呟いた。
「喝」
「変化していたかっ」
黄色くオレンジに巻き上がる爆炎は森をなめ尽くした。ゲーテを除いて。彼は巨大な狼を召喚し盾代わりにしたのだ。狼は爆発の前に文字通り砕け散り、コンクリートの破片へと変わる。
空中で受け身を取りながらゲーテは黒煙を突っ切り、態勢を整えようとする。その時、闇夜の森に雷光が閃いた。
「ボルトストリーム‼」
ボルトが超高速で掌拳を叩きこむ。空中で受け身のとれないゲーテは本を開き唱えた。
「六六六」
中型の狼が三匹飛び出し応戦する。疾風迅雷となったボルトは三匹程度の狼では止められない。だが、ボルトの勢いを削るにはそれで十分で、ゲーテが姿勢を整えるのにも十分な時間稼ぎとなった。
時間稼ぎとなった。
「ハアッ」
先じたのはボルトの掌打。対して、ゲーテは少年の手首を掴みとる。そのままナイフで断ち切らん。須臾の間、ナイフを持った手が何かに引っ張られる。彼の視線に移るのは青いチャクラ糸。
「小癪な」
チャクラ糸へ視線を逸らした隙に飛び出したのは、ボルトの回し蹴り。片手はチャクラ糸にもう一方はボルトの手首を掴んでいたため、もろに入る。
「グッ」
思わずよろめくゲーテ。それを見逃すリオンではなかった。瞬速で印を組む。
「爆龍の術‼」
青いチャクラ糸が眩しく連続的に爆発し、龍を象る。ゲーテは素早くナイフを持ち替え、糸を切ろうとする。が、体が動かなかった。
「影縛りの術、成功」
暗く蠢く影が男の身体を完璧に封じている。シカマルの術は闇夜において最強であった。
「しまっ―」
ゲーテの瞳には、金色の爆龍が広げる咢がまざまざと映っていた。まさに詰み。誰かが自身の命を捨てて身代わりにでもならなければ、どうしようもない状況。
「俺も混ぜてくれよ」
飛段が爆龍に呑み込まれるのも構わずに糸を叩き切る。夜の森を龍が照らした。轟音と爆煙が晴れるとそこにあったのは荒れ果てた森と無傷のゲーテだった。飛段は木々の下敷きになっていたが、至って平気の様子。
それに反してボルト、シカマル、リオンは息を切らしていた。彼ら全員とも連戦の為、体力が無限にある飛段と基本的に狼任せのゲーテ相手では分が悪かったのだ。
ボルトが焦燥のあまり呟く。
「くそっ、あいつあんな爆発でも死なないなんて、正真正銘の不死身だったのかよ」
飛段が狼に木をどかしてもらいながら、立ち上がった。
「おいおい、てめえの爆遁は随分と効いたぜぇ。さっきから、どっかで見た事ある術を使う野郎だなと思っていたら、デイダラちゃんと根暗野郎のお人形の術じゃねえか」
「僕の経絡系の本来の持ち主について、何か知ってるみたいですね」
「知ってるも何も、てめえにも見覚えがあるぜ。いけすかねえリーダーの傍でいっつもウロチョロしてたよなあ。今、思いだしたよ」
僕に見覚えがある?記憶を無くす前に僕は彼と会ったことがあるのか?そんな馬鹿な、暁が滅んだのは資料によると十年以上前の事だ・・・まさか僕は傀儡人形になる前から、暁と接触していたのか!?
「僕が付いて回ってたというリーダーって、誰の事ですか」
「ああ?覚えてないのか?ペインだよ、ペイン」
ズンッツッツッツッツッツッツ!突然、頭が疼いた。
頭が痛いっ。頭蓋骨が収縮して脳を押しつぶすような痛みだ。突如として、頭を押さえて蹲りだした僕に、ボルトが慌てだした。
「おい、リオンッ。どうしたんだってばさ、大丈夫か⁉」
心配するボルトをよそに飛段は軽口を叩き続ける。
「嬉しいなぁ、一度ずたずたに引きちぎってやりてぇと思ってたんだよ。ガキのくせにいつも俺を見下した目をしてたからなぁぁあ。しかし、その分だとあんだけ金魚の糞みたいにくっ付いてたペインの能力じゃなくて、暁最弱コンビの術を受け継いだようだなア」
頭が痛い。だが、こんなことを気にしている場合じゃない。僕の後ろにはヒマワリちゃんだって、ボルトだって、シカマルさんだって、狼にされた人々の命が掛かってんだから。
その時、後方でヒマワリちゃんの悲鳴が聞こえた。バッと振り向くと彼女の腕からは血が滴り落ちていたのだ。少女に血を流させた張本人は小さな狼だ。
しまった!頭の痛みに気を取られて、後方への配慮が疎かになったか。
失策したのはリオンだけではなかった、ボルトも後方から迫る超小型の狼に気づかなかったし、シカマルですらペインという名に気を取られて反応できなかったのだ。
狼の牙から滴る血を飛段が舐めた。黒と白の骸骨模様が浮かび上がる。
「じゃあ、今度はこっちの番でいいよな?」
飛段が舌なめずりをした。
本当は昨日から投稿開始したかったのですが、右肩を骨折してしまいキーボードが打てず、詰んでました。いっそ、傀儡に作り替えたい。