暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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今話には、凄まじい独自解釈があります。詳しくは後書きで解説したいと思います。しかし、かなり長い上に、独自解釈が苦手な方もいらっしゃると思うので、後書きは読み飛ばしてくださって結構です!


痛み

 雷門カンパニー本社ビル。その門前でシカダイは愕然としていた。昨日まであんなに平和で穏やかだった木ノ葉の里が阿鼻叫喚の光景となっていたからだ。あちらこちらで人々が血を流し助け合っている。そんな、必死の里の人々を狼は容赦なく襲っていく。

 

「くそおおおおお‼影縛りの術」

 

 自身を中心に円形に影を伸ばし狼たちを間一髪のところで救う。そのまま、狼の首を絞め気絶させていく。しかし、殴りつけるような疲労の前にガクンと膝を突いた。

 

 獲物が弱るその瞬間を狼達は待ち望んでいた。一斉にシカダイの首を噛み切ろうと飛び上がる。

 

「鳥獣戯画!」

 

 本物の様に躍動感あふれる獅子たちが、水墨画から飛び出した。絵画の獣と本物の獣。どちらも一歩も引くことはせず、激しく組み合った。いや、狼達は鳥獣戯画が絵だと分かると直ぐに生身の人間を狙いだす。

 

「サイさん!」

「シカダイ君か。前に出すぎだ、上忍達の背後まで下がって」

 

 シカダイは逐次たる思いで、舌打ちをした。サイさんに対してではない、自身の不甲斐なさに対してだ。ただ、戦闘ではあまり役に立ててはいなかったが、父親譲りの頭脳はある一点を見抜いていた。

 

「サイさん。なんかおかしくないですか?」

「何がだい?」

 

 サイは元々、根の忍。効率主義の塊である。本来ならばアカデミー生の疑問などこの危機的状況で取り合うはずも無かったのだが、彼自身も今までの出会いを経て変わっていた。

 

「あの狼達、俺達を殺すのが第一目標ではないのかもしれません」

「・・・確かに。負傷している人はかなり見たけど、止めまで刺されている人はあまり見ていない。でも、それがどうしたんだい?」

 

 彼自身もこの事実には気づいていた。しかし、死傷に比べれば負傷の方が遥かに良いことのためさして重要視しなかったのだ。だが、あのシカマルの息子だ。自分の気づかないことに気づいているのかもしれない。

 

「それでは狼の本当の目的とは?」

「推測にすぎないんですが、もしかすると傷を負わせることが彼らの目的なのでは・・・何でそんなことをしてるのかは分かりませんが」

 

 彼は狼達の様子をじっと観察する。すると、ある共通点に気づいた。

 

「どうやら奴らの傍で蚊がうろついているね」

「蚊?」

「ああ、何が目的かは分からないけど狼達が里中の人々を襲っては、蚊がその血を吸っている。嫌な予感がするね」

 

 敵の行動に不穏なものを感じながらも、シカダイは彼に託すしかなかった。

 

「頼んだぜ、ボルト」

 

   *

 

「そこの小娘ちゃんは、今、呪われたあ」

 

 飛段が円に三角形を書き足した奇妙な陣を、自身の血で描いた。リオン達三人は妨害することが出来なかった、無限に湧き出る狼とかつてのチョウジといの、今は巨大な二匹の狼が立ちふさがっているからだ。

 

「ジャシン様の術はもう止められない!」

 

『どうすんだってばさ、何とかしないとヒマが死んじまうかもしれないんだぞ!どうにか、その儀式ってのを止めることは出来ねえのかよ!!』

『無理だ。あいつの術が一旦発動しちまえばもう止めるすべはねえ』

『そんな馬鹿な話があるかっ』

 

 二人の焦燥した声を聴きながら、僕は選択を迫られていた。C4と風遁を使えば、ナノサイズの爆弾を飛段とゲーテがいるほうだけに流せる。そうすれば、僕たちは死なず奴らを殺せる。奴らから木ノ葉の人々を守ることが出来るんだ。

 

 でも、そうなったら恐らくヒマワリちゃんは飛段に道連れにされる。よしんば飛段を呪術陣からチャクラ糸で引っ張り出し、その後C4を使ったとしても、かつては人間だった狼達は死んでしまう。

 

 それでも僕はやらなければならない。なのに、なぜ選べないんだ!

 

 かつての僕は見知らぬ岩隠れの人々とドントさんの命を選択できた。昔の自分に出来てどうして今の自分が出来ない!

 

「俺は何回も人が死ぬときの痛みを、直にぃいい、感じてきた。あれは最高だあ。お嬢ちゃん、俺に感謝してくれよお、今から最高の痛みをぉ、最高の快楽を味わえるんだからなあ!」

 

 飛段が長い針を懐から取り出す。シカマルは絶望した表情で思い出していた。大切な恩師を、アスマ先生を喪った瞬間を。

 

 だが、無情にも飛段は針を突き刺した。自身の心臓に向けて。シカマルはあの時と同じように膝を突き、ヒマワリは目をつむり、ボルトは叫んだ。

 

「死ねええぇぇえええぇえぇえええ!!!」

 

 血が吹きだした。

 

 飛段の心臓から血が噴き出した。

 

 にやりと嗤う飛段。

 

 皆の表情が固まった。

 

 僕を除いて。

 

「お前は三つ勘違いをしている。一つは僕が受け継いだのはサソリとデイダラの術だけじゃない。ペインからも受け継いだものがある」

 

 赤髪の少年が印を組んだ。ただ口寄せの印を組んでいるだけ、そのはずなのに感じるこの神々しいまでの威圧感は何だ。飛段は似ても似つかない少年の姿とペインの姿が重なって見えていた。

 

「口寄せの術」

 

 特大の白煙が巻き起こった。もはや爆風と遜色ないそれを突き破られる。地響きを鳴らして堂々と現れたのは三匹の獣。その圧倒的な風格にゲーテの狼達は後ずさるのみ。本能で悟っているのだ相手との力の差を。

 

 一匹は巨大なカメレオン。二匹目は黄色いくちばしに緑の怪鳥。三匹目は頭が何個もある茶色い戌であった。三匹に唯一共通している点を挙げるとするなら、それは波紋の浮かぶ薄紫の瞳。

 

「二つ目は、暁最弱はデイダラでもサソリでもない。お前だよ」

 

 飛段はもはや何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。混乱のあまりどうにかなりそうになる。これらの口寄せ動物はクソリーダーの紫の瞳が無ければ呼べない筈。事実、赤髪の小僧の瞳は憎らしいくらいに蒼く輝いている。紫色ではない。

 

 だが、最も彼を混乱させたのは確実に殺したはずの少女が死んでいないことだ。彼の困惑など一顧だにせず、少年は続ける。

 

「最後に、お前は本当の痛みについて何も分かっていない。たかが物理的な傷の痛みを感じたくらいで、痛みを語るな。そして、人が真に痛みを感じるのは、大切なつながりを亡くした時だけだ」

 

 飛段にとってジャシン様は全知全能そのものであった。彼が不死身なのもジャシン様のおかげ。彼の術が問答無用で敵を殺すのもジャシン様のおかげ。それが今、崩されたのだ。

 

「な、んで、俺の術が・・・」

「ああこれですか。なんかあなたの体からヒマワリちゃんに向かっていく、不気味な腕が見えるもんでね。掴んじゃいました」

 

 飛段は発狂した。鎌を振り回し、地団駄を踏んで叫んだ。

 

「掴んだ!?嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だああああああ。ジャシン様の腕が見えるはずがないんだ!」

「ジャシンの腕?そんなの俺には見えないぞ」

 

 事態の展開から完全に置いていかれている、シカマルは疑念の声を上げた。意外にもそれに答えたのはボルトである。

 

「シカマルのおっさんには見えないのかよ。これ。赤い数珠を着けた紫色の腕をリオンが掴んでいるじゃねえか」

「シカマルさんには見えないと思いますよ。今、ボルトと視界を共有しますね」

 

 リオンの伸ばしたチャクラ糸が彼に到達した瞬間、シカマルの目にも紫と黒の斑模様がおぞましい腕が見えた。思わず声を上げる。

 

「一体どういうことなんだ?」

 

「どういう理屈かは分かりませんが、本来不可視のはずの飛段の術の正体をボルトは見ることが出来るんだと思います。正確に言えば、ボルトの右目に見えているようですね。だから、彼と視界を共有している僕は飛段の術を阻止できたんです」

 

 飛段も焦っていたが、この奈良の森で一番に困惑し動揺しているのはゲーテであった。彼は神父として、あくまでただの実験体である飛段よりは正確にジャシンについて知っていた。

 

 彼の理解によれば、ジャシンとは文字通り、本当の意味で文字通り次元が違う存在。本来は感知する事すら出来ない存在なのだ。それがあろうことか掴み取られてしまったという事実は彼が彼である所以を根底から消し去ることを意味した。

 

「馬鹿な!そんなことあるはずがない、ジャシン様が阻まれるなど有り得ない!!!私はお前たちを異端を決して許すことは無い!!!!」

 

 ゲーテが銀ナイフで自身を切り裂いた。溢れる血が黒本を真っ赤に染め尽くす。そして、この血はただの血ではない。彼のほぼ全てのチャクラを注いだものである。

 

 そして、教典の中から数多の狼が召喚された。その数は森を埋め尽くし、遠吠えが隣国まで響くほど。口から血を吐きながら男は言った。

 

「これで終わりだ」

 

 無限にいるのではと錯覚しそうなほどの狼に囲まれながら、シカマルはリオンに尋ねた。

 

「どうするこの状況」

「確かに、少し不利かもしれませんね」

 

 そう、後ろにいる三匹の口寄せ動物は強力。これは間違いない。正直爆遁だけで余裕で倒せる。ただ、如何せん狼の数が多すぎる上に不殺という条件がつくと途端に厳しい。

 

 シカマルさんはもう動けない。ボルトだってチャクラ切れで右目が見えなくなったらこちらの勝ち筋は潰える。僕、一人でやるしかない。

 

 確かに一人で闘っても勝てる保証はない。でも、今、僕が闘っているのはドントさんの為でも僕の為でもない。誰かの繋がりの為に闘っているんだ。命を懸ける意味がある。

 

 僕が覚悟を決めたその時、懐かしい綺麗な声が聞こえた。

 

「リオーン‼」

「なっ⁉二人とも何で⁉」

 

 目の前にいたのは雫とゲンナイさんだった。片方は鋭い、鋭すぎるジト目で。もう片方は素直に再会を喜んでいる目であった。

 

「何って助けに来たに決まってるでしょう。早く帰るわよ」

「こいつら、誰だってばさ?」

 

 突然登場した、少女と白衣の男にボルトは眉を顰める。

 

『後で紹介するよ。ごめん雫、悪いんだけどまだやることがあって帰れないんだ』

 

 雫は不機嫌そうな表情ではあったが、どこか仕方が無さそうな目で言った。腰に手を当てながら言う。

 

『まあ、あんたならそう言うんじゃないかって思ってた。でも、良いの?ドントが木ノ葉での任務があるみたいで、あんたを呼んでたわよ』

 

 こんなに木ノ葉がゴタゴタしている状況なら、どんな任務でもこなせそうだけど・・・そんなに難しい任務なのだろうか?でも、今の僕にはやるべきことがある。

 

『悪いけど、行けないって伝えといてもらえるかな』

 

 そう僕が言った瞬間、雫は愕然とした表情になった。彼女が僕の額に手を当てて確認する。

 

『リ、リオン。もしかして洗脳でもされたの?ドントよりも別のことを優先するなんて』

『・・・そういう訳じゃないよ。ただ、少し物事が広く見えるようになっただけで、僕の中の一番はドントさんだよ』

 

 急に雫がとても不機嫌そうな顔になった。本当に表情がころころ変わる子だな。一体何が気に入らないんだ。

 

『お話の所失礼ですが、リオン殿そろそろ狼が飛び掛かってきそうなんですが』

『みたいですね。ゲンナイさんは何でここに?』

『勿論、例の試作品を届けるためにですよ。まだテストはしていないですが』

 

 そう言って、ゲンナイはリオンに巻物を渡した。巨大な巻物で腰に一個付けられるかどうかという大きさだ。

 

『上等ですよ。ここは危険だから二人とも離れて下さい』

『言われなくてもそうするわよ。まあ、精々頑張る事ね』

 

 二人がシカマル達のもとに飛びのいた途端、獣が駆け出した。先頭を走るのは赤い凶鎌を持った飛段。

 

「いい加減に、死にやがれえええ!」

 

 飛段が鎌を大上段に振り上げ飛び掛る。それに対して、カメレオン、怪鳥、戌、三匹の獣を背に僕は巻物を広げた。

 

「あなた達との戦闘も飽きました。そろそろ終劇にするとしましょう」

 

 巻物に描いてあるのは四つの菱形。その中央にはこう記されていた。

 

「裙付き」、「二個付き」、「足付き」、「袖付き」と。

 




今回はボルトの右目で飛段の死司憑血つまり、ジャシン様を感知できた理由を書きたいと思います。

さて、作中ではいくつか見切れない、あるいは目視・感知すらできない術が幾つか存在します。

たとえば、マダラの輪墓・辺獄、輪廻眼人間道の閻魔様っぽい奴(これは術をかけられている人には見える。こいつと交戦した木の葉丸は見えなかった)があります。

この例から分かる通り、感知できない系で高度な術の大体は輪廻眼絡みです。

さて、飛段の術と輪廻眼どう関係してくるのかというと、二点あります。一つ目はどちらも目視・感知が出来ない点。二つ目は術のランクの高さの点です。

二つ目の根拠としては、イタチ本人が万華鏡写輪眼でも飛段の術を見切れないと言っているからです。

万華鏡写輪眼を超えるものは、輪廻眼・輪廻写輪眼・転生眼・淨眼かと思います。

よって、ジャシン様は輪廻眼同様に次元が違う存在だと推測できます。そして、異次元を見通せる淨眼を持つボルトなら感知できることにしました。事実、ボルト本編でナルトですら感知すらできない謎時空で会話するモモシキをサスケとボルトだけは感知していました。


何にせよ私は飛段の術を出せて、次話で角都の術もガンダムという形で回収できそうで満足です!

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