暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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 粘土で作られたフクロウに乗り、僕たち四人は帰路についている。ゲンナイさんは連日の徹夜で新型傀儡を仕上げてくれたからか、仮眠している。というか、何で雫まで寝てるんだ。ちゃっかり僕のクッションを占拠してるし。

 

 そういう訳で、今起きているのはドントさんと僕だけだった。相変わらず会話のない静かな時間が流れるが、それはかつての様な気まずさから来るものではなかった。ようやく帰ってきたんだと実感が湧いてくる。

 

「そういえば木ノ葉での任務は達成できましたか?」

「ああ」

 

 なら良かった。協力要請を断ってしまった手前、失敗していたら申し訳が立たない。

 

「援護できず、すいませんでした」

「気にするな。お前の判断は信頼している。実際、里の混乱のおかげで大した難易度じゃ無くなっていたしな」

 

 確かに彼ほどの忍なら大抵の任務は一切のそつなくこなせるだろう。しかし、あの状況下で僕の協力が必要な任務ってなんだ?

 

「ところで任務内容は何だったんですか?」

「・・・シンゲン様の特命だ。すまない」

 

 そう言う彼の様子は誠実さこそ感じられるものの、有無を言わさぬものであった。シンゲン様のとなれば仕方がないな。だが、何か引っかかる。何に僕は―

 

 体がふらついた。あわや落下するという所で、ドントさんに腕を掴まれる。

 

「大分消耗しているようだな。これでも食べて寝てろ」

 

 差し出されたのは、案の定ゲロまず兵糧丸であった。木ノ葉に居たころには懐かしく感じたこれも、いざそれを目にすると本能が忌避する。なんとかして回避せねば。

 

「遠慮しますよ。ドントさんこそお疲れなのでは?」

「いや、俺はそれほどなのだが・・・まあ、そういうのなら半分にするか」

 

 彼はその物体を二つに割いた。球状の兵糧丸は上手く半分に出来ないのか、不格好に分けられている。大きな方を僕に渡しながら、しっかりとした声音で僕の目を見た。

 

「頑張ったな」

 

 断面から覗く中身はもっさりとしながらも、ねちょりとした触感を容易に想像させる。でも、不思議と美味しそうに見えた。

 

「いただきます」

 

 半ば気絶するように眠りに落ちた。

 

 

   *

 

「くっそ~。マジでどこいっちまったんだ。まさか本当に土の国に帰っちまったのか?」

 

 ボルトは里中を探し回っていた。最後の最後、螺旋丸が炸裂する瞬間まで傍にいたはずのリオンが消えてしまったのだ。

 

「そうなんじゃねえの。なんか捉えどころのない奴だったからな」

「ボルト。あんた凄い頑張ったそうじゃない。今日、明日ぐらいゆっくり休みなさいよ」

 

 彼はサラダヤシカダイが止めるのも構わず走り回って、もう夕方になろうとしていった。

 

「まだまだ連れてきたいところも、やりたいこともあったのにな」

「まあ、最近は他里との交流も盛んになって来てるんだし、いつか会えるだろ」

「そうよ。案外またすぐ会えるんじゃない?」

 

 二人の言葉にようやく少年は歩みを止めた。振り返る彼の顔は清々しい笑みだ。

 

「それもそうだな・・・よし、明日修行に付き合ってくんね?」

「どうしたんだよ急に」

「そうよ。らしくないわね、あんたそういうの嫌いじゃん」

 

 シカダイは親友の不可解な発言の真意を問う。サラダに至っては固まっている。

 

「今回の事件なんだけどな。ぶっちゃけ、俺何も出来なかったんだ。俺って天才だから大抵の事は何とかなってきたんだけど、それじゃあ駄目なんだって気づいたんだよ」

「ふ~ん。まあいいんじゃない」

 

 サラダはいつも悪戯ばかりしている同期の意外な心変わりに少し感心していると、前からボルトのお母さんとヒマワリちゃんがやってきた。シカダイ共々、挨拶する。

 

「こんばんは」

「こんばんは。久しぶりだね、ヒマワリちゃん」

 

「こんばんは」

「こんばんはー」

 

 ヒマワリはいつになく真剣な表情でお兄ちゃんのもとに駆け寄った。

 

「お兄ちゃん。リオンくん見つかった?」

「ごめんな、ヒマ。多分岩の国に帰っちゃったみたいだ。でも、いつかまた会えるってばさ。それまでいい子で待ってような」

「そっかー」

 

 しゅんと落ち込む妹の頭を撫でていると、急にむくっと顔を上げた。

 

「じゃあ、ヒマからあいにいく!」

「え!?」

 

 突然の妹の大胆な発言にテンパるボルトであったが、親友二人の反応は面白がっているような反応であった。

 

「いいんじゃねえか」

「ずいぶん、大胆ね」

「お前ら人の家のことだからって、テキトーなこと言うなってばさ!」

 

 そんな風に子供たちが騒いでいる頃、火影室は重い空気に包まれていた。先の事件に匹敵、いやそれ以上の大問題が発生したからだ。事態の深刻さを重んじて、五代目・六代目火影並びに相談役のホムラとコハルも来ていた。

 

 火影も側近のシカマルもその他上忍みな疲労を押し殺して、会議していた。息の詰まるような沈黙をナルトが破る。

 

「それは本当なのか?」

「ああ。ジャシン教の襲来の隙を突かれた。申し訳ない」

 

 深々と頭を下げるシカマル。彼をしてここまでの態度を取らせることに一同いよいよ現実を受け止めざるを得なかった。

 

「いや、シカマルのせいじゃねえ。今回の件は誰にも予想できなかった」

 

 それきり、再び音が消える。ここで五代目火影・綱手が壁を叩いた。余程腹に据えかねているのか、拳が壁を貫通していた。

 

「何を黙っているんだ、マダラの瞳が盗まれたんだぞ!!!」

「綱手姫の言う通りじゃ。なぜ処分しておかなかったのじゃ」

「マダラの輪廻眼が奪われたということは、いつ十尾が復活してもおかしくないということじゃ」

 

 なかなか進まない会議を進めようとする五代目に同調し、ご意見番の二名も責任を追及する。集中砲火を受けるナルトを同期の面々も避難こそしないが、衝撃から立ち直れず庇うことも出来なかった。

 

「綱手様。この件は私に責任が有ります。第四次忍界大戦後の収拾を図ったのは私です。その過程でマダラの瞳の処分でなく保管を決断しました」

「カカシ先生のせいじゃないってばよ。俺が先生に言ったんだ」

 

 ここでサクラが口を開いた。同期の面々ですらマダラの瞳が秘匿されていたことを知らなかった。ようやく事態を呑みこんだのだ。

 

「先生、ナルト。なんでそんな大切な事を相談せずに決めてしまったのよ」

「カグヤは無限月読を使って世界中の人々を白ゼツに変えて、軍隊を作ろうとしていた。サスケと相談した結果、あのカグヤですら恐れる脅威が存在するんじゃねえかって結論に至ったんだ」

 

 ここまで聞いてようやく綱手はナルトの真意を悟った。拳の震えは消え、瞳にはいくらか冷静さが戻っている。

 

「それで、マダラの輪廻眼をいざという時の切り札にしようとしたわけか」

「じゃが、それが敵の手に落ちてしまえば元も子もなかろうに」

 

 コハルが老体に似合わず騒ぎ立てた。彼女は三代目の時代から生きる、生き字引。マダラの恐ろしさは身をもって知っていた。

 

 そんな彼女の言葉を遮ってサイが疑念を述べた。暗部の統括をしているサイだけは、瞳の警護を任されていた為、この件を把握していたのだ。

 

「そんなことはナルトも分かっていました。何重もの結界に、暗部の厳戒態勢。どれか一つでも問題が発生すれば七代目本人が強制口寄せされて、対処に当たるはずだった」

 

 サクラが思わず声を漏らした。

 

「そんなに厳重だったのに、何で」

「敵は何故か全て知っていたんだ。結界の解除方法もナルトの口寄せ術式も」

 

 シカマルの返答に、綱手が噛みついた。

 

「それじゃあ、甘い。情報が漏れるのを織り込んで、もう一手用意しておくべきだった」

「俺の分身も常駐していた。俺自身だっていつも保管場所には感知を飛ばしていた」

 

 綱手もそう言われると警備体制に関しては何も言えなくなった。ナルトは誇張抜きに忍界にて最強。彼の防衛網を突破されるのなら、もうどうしようもない。

 

「起きてしまったことはどうしようもない。それでどうするつもりだ?」

「綱手。まだ七代目の責任追及がまだじゃ」

「そんなこと今やっている場合じゃない!」

 

 綱手の一喝で場が引き締まった。ナルトがおもむろに口を開く。

 

「サスケを呼ぶ」

 

   *

 

 土の暗部の奥地。憤怒の形相の阿吽像が立ち並ぶ、古びた寺院の中でシンゲンは報告を聞いていた。

 

「して、ドントよ。マダラの万華鏡写輪眼は、手に入ったのか?」

「はい。ここに」

 

 ドントは懐から液体の入った小さなケースを取り出す。中に浮かぶのは怪しく光る、赤い瞳。シンゲンはそれを受け取り胸にしまった。

 

「ついに、ここまで来たか。わしがこの瞳に適応したその時、世界は変革される」

「これで、安寧と秩序ある世界が本当に訪れるのですね」

 

 ローブから覗く口元が歪む。

 

「もちろんだとも。ところで木ノ葉はどうなった。火影は死んだか?」

「いえ。リオンが里への被害は食い止めてくれました。写輪眼奪取の囮とは言え、ジャシン教は凶悪な集団です。あの程度の被害で任務が達成できたのはあいつのおかげでしょう」

 

 暫しの沈黙の後、彼は囁くように言った。

 

「今回の任務、火影を倒さずして実現は不可能かと思っておったが・・・まあ、死ななかったのなら、僥倖だ。もう下がれ」

「はっ」

 

 ドントが部屋から去っていき、シンゲンは一人となった。

 

「忌々しい火影め。相も変わらずしぶとい。だが、あの赤髪の傀儡・・・もう少し使えるかと思ったが、闇が浅かったか」

 

 老人は杖を突きながら暗闇に消えていった。

 

   *

 

 僕はドントさんが任務報告に行くということで、部屋で待機していた。桔梗の花を眺めながらベッドに横になる。

 

 やはり先の木ノ葉での任務、何かある。

 

 そもそも例の任務はどこかきな臭い。そう都合よく、ジャシン襲来と任務が重なるのもそうだが、なにより怪しいのは情報のリークだ。

 

 まず、あの木ノ葉があそこまで後手に回ったのは里の結界が素通りされたからだ。それだけじゃない。飛段の封印場所という、秘匿事項もジャシン教は知っていた。

 

 誰かが木ノ葉の極秘情報を漏らしたんだ。そして、そいつはシンゲン様と関係がある若しくは本人と考えれば、辻褄が合う。

 

 恐らく、今回の任務達成の為だけに彼はジャシン教を利用した。一般人が襲われるのも承知で。シンゲン様は、シンゲンは何か裏がある。

 

 そこへドントさんが帰ってきた。ベッドから降りる。

 

「どうでした?」

「つつがなく終わった」

 

 彼も疲れているのか冷蔵庫から飲料水を取り出し、椅子に座る。僕も一本貰いながら、ベッドに腰を下ろした。

 

 落ち着いた雰囲気を壊す覚悟で僕は口を開く。

 

「・・・この前、シンゲン様は岩隠れで台頭することが目的だといってましたよね」

「ああ」

 

 口が渇く。僕は渡されたジュースを開き、喉を潤した。

 

「その後、彼はどうするつもりなのですか?」

「俺たちはただ言われたことをこなすだけでいい。余計な詮索は無駄だ」

 

 そう彼はあしらおうとしたが、僕が折れるつもりがないのを感じたのかため息をつく。

 

「頑固な奴だ。誰に似たんだか」

「ドントさん」

 

「・・・シンゲン様は安寧と秩序ある世界を創ろうとなされている」

「僕が彼を疑っているとしたら、ドントさんならどうしますか」

 

 言ってしまった。もし、もしドントさんがあちら側なら僕の命は無い。でも、僕は確かめなければならない。僕が関わってきた任務では毎回誰かが死んだ。これからもそうだろう。だから僕はその意味を確かめる責任がある。

 

 いつかのように、ドントさんが重圧的な空気になるのを覚悟したが、意外にもあまり普段と変わりは無かった。

 

「そうか、お前は己を持った忍になったか。だが、俺は己を求めていない。この世界に意味を感じていないからだ。だから、世界が変わること。変革。これこそが俺にとっての意味だ。シンゲン様の言う世界がどのようなものかは、俺は知らない」

 

 僕は信じている。ドントさんを。その彼が信じているのが世界を変えることそれ自体なら、僕も世界が変わることを信じる。でも、その先を彼が知らないのであれば、僕もシンゲンが描く世界を信じられない。

 

 そして、その世界が間違っているのなら僕は止める。

 

「近々、それも明らかになるだろう。その時はきっと今までで最も過酷な戦いが起きるかもしれない。それまでに、俺の最後の術をリオンに伝授したい」

「それって」

 

 ドントは一気に水を飲みほした。力強い眼差しが僕を射抜く。

 

「血継淘汰だ」

 

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