ガクッと力が抜ける。死ぬかと思った。二度とこの人とは戦いたくない。ちらりと、ドントさんを見上げる。当の本人は何を考えているのか恐ろしいまでの沈黙であった。
が、とうとう彼がポツリと口を開いた。
「すまなかった」
「何がですか?」
「お前の力を見くびっていたようだ。後、暁とやらの力もな」
蚊が鳴いているのかと思うほど小さく、ぼそりとしたものだったが、この人は悪い人じゃないのかも。
「・・・いいですよ。別に」
自分でもあんなに腹が立ったのが不思議なくらいだ。ふと、彼の方を見ると、服は焼け焦げて原形を留めていなかった。その上、全身所々焼けただれていて、手が無くなっていた。
「大丈夫ですか!?今、治療を」
「うるさい。こんなの自分で治せる。菌遁・種々創生」
すると、なんということなのか、皮膚はもとの状態に戻り手が生えてきたのだ。
「え!?凄い!ドントさんって、血継限界の一族だったんですね」
「違う」
「でも、今」
「これは、自分で師に手ほどきを受けて、編み出した術だ」
血継限界って、一族代々に受け継がれる血にのみ許された秘術じゃなかったけ?それを、編み出すなんてできるのか?まるで周囲から塵芥が集まってきてスーッと手が生成されるさまは並の術など足元にも及ばない高度な物に見える。
「土と水そして火を混ぜたんだ。大したことじゃない。ところで、あの感知能力の種は何だ」
もっと、追及したいところだけどあまり触れてほしそうな空気じゃないから控えとくか。
「僕本体が傀儡へチャクラを送信することで、知覚の共有と傀儡の遠隔操作を可能としているんです。感知自体は光学センサーですね。他にも種類はあるようですが」
戦闘の知識はこうもはっきりしてるのに、なんでそれ以外が思い出せないんだろう。
「暁の技術か?」
「恐らくは」
「分からないのか」
「自分でも無我夢中で」
ドントは少し考え込んだ。
「そうか。・・・・・・立てるか」
そう言って、ドントは黒い物体を手渡す。
「これは?」
「暗部特製兵糧丸だ」
受け取るとネチャっという感触が食欲を削る。とゆうか、なんか臭くない?
「・・・・・・遠慮しときます」
「・・・・・・」
ドントは無言でリオンの口に叩きこんだ。
頭が真っ白になった。
*
四代目風影、我愛羅は報告を受けていた。
「砂隠れ北の国境で土遁使いの忍びと交戦、目的、所属は一切不明とのことじゃん」
顔に複雑な模様のペイントがあしらわれた忍び、カンクロウは言った。
「あそこには、シラとヨメがいるはずだ」
「ヨメは軽症、シラは指と手首の関節の骨折と重症だそうじゃん」
我愛羅は嫌な予感を感じつつ確認を取る。
「・・・北の国境には確か暁のアジトの存在が疑われていたな」
「ああ、どうする?」
「直ちに、北の国境の調査に忍びを派遣するんだ。それと、他里の影に連絡しろ」
「それだと、他里の介入を招くじゃん」
そんな兄であり、腹心でもある存在の声に反して、風影の声は断固としたものだった。
「今は戦時じゃない。災いの芽は早々に摘んどくべきだ。暁に関係することならなおのことな」
「調査の編成はどうするじゃん」
「編成は一任する。ただ、ヨメは入れておけ」
「了解じゃん」
カンクロウが部屋を出ていくのを確認してから、我愛羅はため息をついた。暁か。
窓から里を眺めながら、昔に思いを馳せた。
*
「もう、立てるか」
頭上から硬い声が降って来る。笑って力の入らない膝にむりやり喝を入れた。
「・・・・・・何とか」
「貧弱だな」
「ドントさんの兵糧丸のせいですよっ」
僕の恨めしい声にはお構いなしに彼は指示を出した。
「行くぞ」
「どこにですか?」
「寝ぼけているのか。案内の途中だっただろう」
そういえば、そうだった。
「でも出来れば戦う前に済ませてほしかったですが」
「これから死ぬ
思わず顔が引きつっった。多分この人は本気で言っている。何となくだけど分かる。
「うっ、これから大丈夫だろうか」
でも、同時にドントさんの発言に少し救われた気がした。僕は傀儡なのに人間扱いしてくれるんだ。
「次は、どこに行くんですか?」
「任務の受付所だ」
「受付があるんですか。てっきりシンゲン様に口頭で任命されるものと」
「それは、超極秘任務のみだ。基本的には暗部しか取り扱えないような任務を暗部が受注し、それを暗部の忍びの個々人の判断で受ける」
意外と普通に返事が返ってきた。内容も至極全うなのでより意外だ。
「なるほど」
*
相変わらず特に会話もなく僕とドントさんは不気味に重苦しい廊下を歩く。そんな暗部の無骨な鉄の扉を開けるとこれまた質素な部屋があった。
「ここですか」
「ああ。そこの受付嬢に聞けば大抵のことは分かる」
きょろきょろと室内を見回していると、軽薄な声が割り込んできた。
「なんでガキがここにいるんだ?」
背後から聞こえるキンキン声に思わず振り替えると、オレンジ色のアフロがあった。なんだろう、自己主張が激しくて全然忍べてない。いや、逆に暗部のお面が割れてもアフロで素顔が割れないようにする為かもしれない。アフロを除けばずる賢そうな顔をした、平均的な体つきの男だった。まあ、服は頭同様に忍ぶ気が欠片も無いものだったが。何を思って岩隠れの忍装束をオレンジと赤にアレンジしたのだろうか。
「初めまして、リオンです」
「新入りか!!おいおい、坊やはいくつなんだよ」
「覚えてないです。記憶が無いもので」
予想してなかった返答が意外だったのか、男は少し戸惑った様子だったが直ぐに会話を切り返してくる。
「悪いことは言わねえ、やめときな。暗部ってのはな、敵に拘束されたら、即刻切り捨てられた上に拷問され、んでもって無事死体にされた後、研究されつくされるもんだ」
ひらひらと手を振る男に対しドントさんが強い口調で言った。
「リオンの実力は俺が保証する」
一瞬男はきょとんとした後、直ぐにコロッと表情を変えケラケラと返事した。
「珍しいな。頑固者のドントが他人を認めるなんざ」
しばらく男の笑い声が響いたが、風鈴のような人声がそれを遮った。
「あなたたち、いい加減にして。ここは談話室じゃないのよ。依頼を受けるの受けないの」
眼鏡をかけ、目つきは鋭いが顔立ちは整った少女だった、深い海のような青い髪と相まって、冷たい印象を受ける。なにより、髪型が特徴的だった。喩えるなら左右にクロワッサン。服装は黒を基調として、足や腕が網状になっている和風の服の上から、灰色の浴衣を着ていて忍にしてはなかなかお洒落なものだった。
「すまない。今日はリオンに施設の案内の為に来ただけだ。まだ、この前受けた任務が未遂行だしな」
「じゃあ、出てって」
ドントさんをにべもなく切り捨てるとはこの女の子、出来るな。
「あ、待ってくれよーお嬢。俺は受けに来たんだ、依頼」
「では、失礼する。いくぞリオン」
「おい、リオンだっけか俺はバオってんだ。今度任務にでもいこうぜ」
この女の子と言いシンゲン様やドントさんといい、やばいのしか居ないところかと思ったら、気さくな人もいるのか。
「ええと、はい‼」
*
いくつか扉のある廊下を歩いていると、まだまだこのアジトには未知のフロアが多くある気がして尋ねた。
「次はどうするんですか?」
「次は―」
突如、今通り過ぎたばかりの扉が爆発した。しかし、ドントさんは一度も振り返らずに言葉を続けた。
「いや、もうわざわざ案内するようなところはないな。後は、自分で覚えろ」
「え?でも今」
爆発した部屋が気になり詳細を聞こうとする。
「ぬあ~!また吾輩は失敗を~‼」
黒煙の向こうから雄たけびが聞こえた。
「分かりました」
僕は知らないふりをすることを選んだ。
「それと、地下三階より下には近づくな」
「何でですか?」
「あそこは、シンゲン様が立ち入りを禁じているからだ」
「どうしてですか?」
ドントさんは立ち止まり振り返った。
「長生きのコツはな、諦めて長いものに巻かれて、余計なことは知ろうとしないことだ」
「・・・そんなものですか」
リオンはドントの雰囲気に暗い違和感を感じ、結局深くは追及しなかった。
またしても、無骨で監獄なような扉を開けると、二段ベッドのある整理整頓された部屋があった。壁には忍びの国の地図が張り付けられており、本棚には古びたものから新しいものまであり、部屋主の性格がうかがい知れた。そのなかでも、机の上の紫色の桔梗が一際目立っていた。
「ここが、俺たちの部屋だ」
「なかなか、趣味のいい部屋ですね」
「・・・・・・ベッドは上を使え」
「はい」
なおも、物珍しそうに部屋の物色を開始した僕にドントさんはぴしゃりと言った。
「今日はもう寝ろ。明日任務に出る」
「分かりました」
ドントは部屋の電気を消し布団に入った。
「・・・・・・ドントさん」
ふと、ドントを見るとすでに寝ていた。はや⁉と思ったが、考えてみれば僕を連れてきてから一度も寝てなかったのか。
「おやすみなさい」