暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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今回は少し長めです。


師との対決

 僕は土の暗部から脱出した。雫達は無事だろうか。いや、バオさんを信じるしかない。ドントさんは岩隠れに行くと言っていたのだ。なら、まずはそこに行こう。

 

 怪鳥を口寄せし、夜を徹してひたすら急いだ。流石、畜生道。本来なら輪廻眼を持つ者でしか呼び出せない口寄せ動物であるだけはあって、殺人的な速度で空を飛行する。

 

 初任務の時は二人だった。彼と僕。初任務で少し緊張していたが、それでも風光明媚な景色を堪能する余裕があった。でも、今はそれすら置き去りにしながら先を急いだ。

 

 岩隠れに着くころにはもう日が昇り始め、朝郎けになろうとしていた。前に岩隠れを見た時は夜だった。今は朝。それなのに、どこか里は暗く感じる。ピリついてもいた。

 

 人の気配を感じられない里の町を慎重に進んでいくと、嫌でも状況が飲み込めてしまう。戦争だ。大人も子供も男女も関係なく、忍は皆が出払ってしまったのだ。だから忍の隠れ里である岩隠れはこんなにも雰囲気が静かなんだろう。

 

 しかし、どうしたものか。彼は岩に行くとは言ったが、岩のどこに行くのかは言わなかった。当ても無く探すわけにもいかない。だが、手がかりも無い。

 

 途方に暮れていると、小さな女の子が暗い路地の入口からひょこっとこちらを覗いていた。

 

 目が合う。岩隠れでは一般的な黒髪をおさげにした少女がじーと見つめてくる。暫く見返していると、ひょいひょいと手招きをしてきた。

 

 ついて来いということか。

 

 意外にも身のこなしがすばしっこい少女を追いかけて、狭く曲がりくねった路地を駆け抜ける。朝と言っても明けたばかりであるため、本当に暗い。だが、それも急に途切れ光が戻った。

 

 そこは石造りの建物がひっそりと佇んでいた。円柱に三角錐が乗っかった様な形状の建物は、上から差し込んでくる光に照らされほのかに明るい。僕を案内した少女は扉の前でじっと僕を待っていた。

 

 これまた石造りの扉を開くと、中は意外にも普通の内装だ。ボルトの家よりは古臭く、独り身の人が老後をがひっそりと暮らすためのような侘び寂びのある空間が広がっていた。

 

 少女が襖を開けると、布団が敷いてあり誰か眠っていた。この人に合わせるために僕を呼んだのか?

 

 静かに寄ってみる。

 

「あなたは!」

「来てくれたようじゃのう。安心せい。ここはわしの隠居先、秘密基地の様なものじゃぜ」

 

 横になっていたのは、三代目土影その人であった。そんなはずは無い。彼はドントさんと戦い、命を落としたはずじゃ。

 

「お前の師匠は、手を抜いたんじゃろう。無意識にな」

「そんなこと彼がするわけが―」

「わしがまだ生きてるのがその証拠じゃぜ」

 

 強くて、頑固で、責任感が強く、自分の事だけじゃなく他人まで一人で抱え込んでしまう。それがドントさんだった。そんな彼でも、彼でさえも、

 

「そんなドントでも師を殺めるのはためらわれる事なんじゃろう」

「・・・それで、何故僕を呼んだんです」

 

 改めて見た三代目土影は枯れ木の様に痩せ衰えていた。もう自身で立つことも難しいのか、僅かに上体を上げることですら、少女に手伝ってもらっている。どこか痛むのか皺だらけの顔を僅かにゆがめていた。

 

「お前の師は、木ノ葉に向かっておる。そこで菌遁を発動し、里諸共消え去るつもりじゃ」

「な、なぜ彼がそんなことを!彼に限って絶対にあり得ない!!」

 

 彼は世界を未来をより良いものにする為に、変えるために、全てを懸けていた。そんな彼が居たからこそ、今の僕がいる。

 

「娘を人質に取られたんじゃ」

「娘?確か、雫とかいったな」

 

 !!

 

 言葉も出なかった。あんまりな事実に眩暈がする。その事実を聞いたドントさんの胸中はいかほどであったっだろうか。一番大切な存在が、傍にいたのに。気づけず、守れず。

 

 僕が気付いているべきだった。気づけるチャンスは幾らでもあったはずだ。僕なら気づけるはずだった。彼と雫の過去を聞いていた僕ならっ。

 

「どうやらドントは、特殊な呪印が体中に施されたようじゃ。菌遁は非常に強力じゃぜ。きっと、ダンゾウは心臓に仕掛けるだけでは不安じゃったんだろう」

「ダンゾウ?」

「またの名をシンゲン。こう言ったら、お主も知っておろう」

 

 憎悪、嫌悪、憤怒、それらが心の奥でのたうち回る。拳が震え、歯が震え、どうしても頭が熱くなる。そんな僕を三代目土影は静かな瞳で見つめていた。

 

「止めてやってくれ」

「言われなくても。そうします」

 

 必ず彼を助ける。我を失わせようとする怒りを懸命に捻じ伏せて、救出の手段を考えた。彼がどこにいるかその手がかりが必要だ。一体どうやって。

 

「これを持っていけ」

 

 土影は懐から小さな青い石を取り出した。淡く光るそれを握ると、不思議に彼の居場所が感じられた。行ける。これでドントさんを助けに行ける!

 

 僕は大事に仕舞い、岩影を見た。なんで、目の前の老人は僕達の事を知っているんだろうか?助けてくれるんだろうか?

 

「わしは、岩隠れで起きた事はなんでも知ってるんじゃぜ・・・と、言いたいところじゃがドントがわしのもとに来て、治療を施したんじゃ。菌遁でな」

「ドントさんが来たんですか!?」

 

「正確には分裂体じゃがな。二代目の無様ですら二体までしか分裂出来ないのに、三体に分裂したとは、大したもんじゃぜ。その石もその時に託された。当の本人は直ぐに消え去ってしまったんじゃやがな」

 

 分裂し行動が自由になったとはいえ、それでは血継淘汰は使えない。だから、菌遁爆発の準備に入る前に別の分裂体と再び融合する必要があったんだろう。菌遁が使えないことがシンゲンにばれたら、雫が命を落とすことになるから。

 

 彼を止められるのは僕しかいない。家の外に怪鳥を口寄せする。白煙を突き破り、巨大な翼が羽ばたいた。

 

「色々、ありがとうございました。もう行きます」

「行ってこい」

 

 早々に、鳥に乗って立ち去っていく僕を見送りながら、オオノキは呟いた。

 

「ドントよ。お主の弟子は石の意思を、受け継いだようじゃぜ」

 

   *

 

 我愛羅は釈然としなかった。敵のアジトからは何も重要な手がかりを得られず、怪しげな忍達も軽い戦闘の後、こちらがさほど消耗していないのを悟ると消え失せてしまったからだ。

 

「やはり、罠だったか」

 

 部下を招集して撤退しよう。そう思った矢先。伝令の忍が血相を変えて駆け抜けてきた。

 

「どうした」

「岩隠れが、突如宣戦布告をしました。カンクロウ様が現地の治安維持のため、雨隠れに派遣した計五十名の忍が・・・」

「忍がどうしたのだ!」

 

 冷静沈着な彼でも、声を荒げざるを得なかった。まず、宣戦布告という事実も理解できない。情報が不足しすぎていている。部下の手前、必死に冷静さを装う。

 

「全滅しました」

「な、んだと」

 

 全滅とはどういうことだ。一体、雨隠れで何が起きているんだ。ぐるぐると様々な予測が頭をめぐるが一向に纏まらない。もう、表情を取り繕う余裕も無かった。

 

「今回の事態を受けて、火影様が緊急の五影、いや四影会談を招集しました。口寄せの術式で一気に移動します。ご準備下さい」

 

   *

 

 バオはゲンナイと雫を連れて、岩山を駆け抜けていた。岩山と言うより、岩柱が立ち並ぶ地帯と言った方が正しいだろう。雨風の浸食作用で奇妙に削られた岩柱はその頭に緑の苔が生えるばかりで、無骨な地形であった。

 

 坊主なら大丈夫だという気持ちはある。だが、普通ならまだ下忍でもおかしくない年齢の少年を置いていったことに後味の悪さは感じていた。それはこの博士様も同じだったらしい。

 

「リオン殿は無事でしょうか。あの風影が相手となると流石に分が悪いのでは」

「大丈夫に決まってるでしょう。信じなさいよ」

 

 意外にも嬢ちゃんはどっしり構えているなと、バオは思った。まあ、ドントの旦那の次にリオンと一緒だったからな。信じるものが多いんだろう。

 

 まだ夜明けには程遠いな。都合がいいぜ。ここまで来れば、後は闇夜に乗じるだけ。逃げ切れる。二人に停止の指示を出す。

 

「どうしたの?」

「ここまで大丈夫だ。ほとぼりが冷めるまで身を潜めてくれ」

「バオ殿はどうするのですか」

「俺は坊主の援護に行く」

 

 俺の提案に二人は頷いた。二人とも坊主を一人にしてしまうことが辛いのだろう。

 

「私も行きたいけど・・・足手纏いになるだけだもの。頼んだわよ」

「遠慮せずとも良いですよ。連れて行ってあげましょう」

 

 突如耳に入ってきた不気味な声に、一同は立ち止まる。つい数秒前には絶対に居なかったはずの僧侶が岩中の上に佇んでいた。

 

「なによあんた」

「これは、失礼。私はホウイチ。実という組織に所属する者です。以後、お見知り置きを」

 

   *

 

 僕は火の国上空を飛んでいた。眼下には深い森が広がり、大瀑布が音を立てて流れている。まだまだ木ノ葉には距離があるものの、いまだにドントさんに追いつけていないことに焦っていた。彼が木ノ葉に着く前に止めないとみんなが死ぬ。

 

 いくら一日の差があるとはいえ、ただ走って移動する彼に対してこちらは飛行している。予想なら火の国に入るまでに追いつけると思ったが、流石に早い。だが、そんなもどかしい時間は突然終わりを告げる。石が強く反応を示し始めたからだ。

 

 隈なく目を凝らし眼下を見渡していると、ついに彼の姿を発見した。怪鳥を急下降させて飛び降りる。そこは、大瀑布の滝壺であった。滝壺と言ってもかなりの大きさで、ここ一帯の大森林の水源を担っていることは確実である。

 

 大きさ意外に一点だけ特徴を上げるとすれば、巨大な石像が二体倒壊していることだ。余程、偉大な忍を扱っているのか、細部まで緻密に彫刻されていた。

 

 だが、今はどうでもいい。

 

 今、この瞬間。絶対に負けられない戦いを目の前の忍としなければならないのだから。

 

「やはり来たか」

「ええ」

 

 僕と彼は黙って見つめあう。響くのは滝の音。二人の間を妨げるのは水の流れしかない。

 

「殺せるな」

「助けます」

 

 少年がこう答えるのはドントも分かっていた。だが、彼は弟子の思いを否定するしかない。全身の呪印は非常に強力で行動すら強制される。解除するには己が死ぬ以外道はないのだ。

 

 そして、リオンも彼が何を考えているか分かっていた。だが、折れるつもりはない。いくら強力な呪印と言っても、所詮は忍術。必ず弱点がある。

 

「殺す気で来い」

「勿論」

 

 同時に動いた。ドントは神速で距離を詰める。引き絞った拳が黒く、鈍く光った。僕も蠍の尾を走らせる。リーチの差は尾にある。

 

 斬。

 

 電光を纏った鋼鉄の尾は横薙ぎに断ち切った。青い軌跡が弧を描く。しかし、当然切ったのは空。ドントは切られない。尾を掻い潜られた僕は、もう彼の間合いだ。

 

「フンッ!」

 

 最硬にして最速の拳。その威力は凄まじく、真空波が直線に発生。足元の水が削られる。かつての僕はこれで心を折られた。今は違う。真正面から腹で受け止める。土矛で硬化したとはいえ、衝撃までは消せない。吹き飛ぼうとする体。踏ん張る両足。杭を伸ばす両腕。

 

 黒杭を振るった。ドントの首を跳ね飛ばさんとクロスする杭。だが、飛び散ったのは火花。リオンに同じく、彼も首を硬化したのだ。しかし、僕の狙いはその上を行く。ガッチリと杭で首を固定する。動きは封じた。

 

 ドントを貫かんと、尾が波打つ。撒き散らすのは、空気を溶かすほどの電火。

 

「風遁・大突破」

 

 雷遁は風遁に弱い。電光の尾は容赦なく弾かれた。暴風は激しく、杭すら弾こうとする。チャクラで足を固定しなんとか耐え抜く。

 

 ドントさんは土矛を解いていない。にもかかわらず、風遁を使った。同時に二つのチャクラを操れることがここまで強力だとは。改めてその凄まじさを認識していると、彼の声が響いた。

 

「火遁」

 

 拙いッ!!大突破で風が強い今、火遁なんか使われたら!

 杭を切り離し、忍足を噴かせた。一瞬にして十メートル以上の距離を取る。が、それでも足りなかった。

 

「大炎弾!」

「喝!」

 

 ヒュワンと大火柱が巻き起こる。その高さは裕に瀑布のそれを圧倒し、滝壺の水は悲鳴を上げながら蒸発した。切り離した杭を爆破し、火炎の矛先を反らさなければ死んでいた。

 

 傀儡の身で冷汗が流れたと錯覚するほどの緊張。水蒸気の中に男の影が滲む。

 

 土遁で防御し、風遁で躱し、火遁で滅す。当たり前。忍術のセオリーだ。しかし、これを同時に行える忍がどれだけいるだろうか。本気で行く。巻物を広げた。

 

「修羅の操演」

 

 裙付き、二個付き、足付き、袖付き。全ての傀儡を全開放。全て修羅道の技術だ。四機の傀儡が一斉に起動する。

 

「傀儡を使えるのはお前だけじゃない。もっとも、お前のとは違って醜いがな」

 

 霧の中からドントさんの声がする。本来は声の下方向を注意すべきだったが、僕には出来なかった。霧のもっと奥の方で巨大な影が蠢いていたからだ。

 

「菌遁・生災」

 

 来る。霧を突き破って何かが出てきた。何かだ。それはとても名状できるようなモノではなかった。無理やり言葉にするなら、頭だけ魚で体は触手。ただし大きさは地獄道の戌ですら及ばず、魚の目玉ははち切れんばかりに肥大化し充血している。ゲル状の身体がブヨブヨ、ドロドロと跳ねる。

 

「な、んだこれは・・・」

「気を付けろ。もとはここに住むただの川魚だが、菌遁で突然変異している。無限に変異を繰り返し、いつか手が付けられなくなるぞ。だから禁術にしていたのだが」

 

 しかし、呪印に体の自由を奪われた今は使い放題・・・無茶苦茶だ。手が付けられなくなる前に、始末しないと。

 

 生災の触手が伸びた。吐き気を催すような臭気と粘液が飛び散る。嫌な予感がして躱すが、白い外套の端に付着する。ジューと音を立てて溶けていく様子を見て思わず、顔が引きつった。

 

 触手がブルブル震える。予想以上に速いそれを、全て回避するのは不可能に近かった。チャクラ糸を走らせる。

 

 指の動きに連動し、足付きが稼働。計十六門の方針から起爆クナイが前段射出。爆、爆、爆。弾幕が触手を潰していく。押し切れるかと思ったのも束の間。生災の身体を突き破って、小さな触手魚がわらわらとあふれ出てきた。

 

「生災は本体が際限なく分裂して固体を増やす。分裂体は増殖しないが、噛まれれば菌が体内に入り込みいずれ死亡する」

 

 馬鹿でかい本体から無数に飛び出してくる触手魚の前に、次第に足付きの弾幕が追い付かなくなっていく。このままでは埒が明かない。Ⅽ4で一気に方を付ける

 

 高速で印を組む。僕を型どった起爆粘土がどんどん膨らみ、その中でナノサイズの超小型爆弾が生成されていく。

 

 しかし、彼の身体は容赦なくそれに反応する。阻止する気か。

 

「菌遁・限界融―」

「裙付きの操演」

 

 紫色の鋼鉄の傀儡がドントに突貫。彼は手のひらの立方体を掻き消し、構えた。まず、裙付きが火遁で熱された忍刀を上段から振り下ろす。男は余裕で躱し、すれ違いざまに一撃・・・はしなかった。傀儡が三体に分身していることに気づいたからだ。

 

 超高速で空へ飛び回避。ドントは同時に三つまで性質変化を操れる。つまり、軽重岩の術で宙へ浮かび、風遁で加速し、火遁で方向を操作できるということ。

 

 やはり、飛行能力を持つ忍は強い。だが、こっちの傀儡も宙を飛ぶ。しかも、三体。数ではこちらが有利。これでっ!

 

 裙付きは三位一体の攻撃を仕掛けた。一体が盾役。二体目が攪乱。三体目が攻撃。入れ替わり、立ち替わりの猛攻に僕が手ごたえを感じ始めたその時。

 

 巨大な立方体が急に現出した。違う、目立たないように仕込んだ立方体を一気に巨大化したんだ。三体の裙付きは完全に範囲内。

 

「菌遁・限界融合の術!」

 

 刹那の閃光が目を焼く。目を開けると衝撃の光景が目に映った。三体いた傀儡が見るも無残な姿で、でたらめにくっ付いていたのだ。傀儡だったからよかったものの、人間がこれを喰らっていたら・・・想像するだけで嘔吐しそうになる。完全に使い物にならなくなった傀儡だが、役目は果たしてくれた。

 

 ちらりと、足付きを見ると触手に絡まれぐちょぐちょに溶け始めている。ありとあらゆる爆薬を使用したが、その度に回復・適応してくる触手魚には分が悪かったか。でも、これで終わりだ。

 

「Ⅽ4!」

 

 ナノサイズの爆弾が散布された。確実に吸引させるために風遁で方角まで操作する。生災と触手魚は圏内だ。

 

「喝!」

 

 風下に居た順に次から次へと、塵と化していく触手魚。本体も悶えながら触手の先端から消滅し出す。取り敢えず、始末できた・・・何!?

 

 生災はブクブクと膨れ上がる。Ⅽ4の爆発の勢いを再生力が上回っているのか。そいつはどんどん変形していき手足が生え始めた。

 

「まるで七草の時のイカみたいだ」

「あいつよりは弱い。何しろ、背中に核があるからな」

 

 言われて、注目してみると確かに他と若干色の違う突起が浮かんでいた。いやあんなの気づかないだろう。しかし、気付けたところであの触手と何本も伸びてきた手足を抜いて攻撃できるのか。

 

 考えている場合じゃない。やるしかない。

 

「袖付きの操―」

 

 激しい光線が僕に照射される。菌遁か。二個付きを前に出した。黄色い角を持った青き傀儡から粒子状のチャクラがドーム状に迸る。光線と粒子状チャクラが激しく拮抗した。

 

 今のうちに、決める!

 

 袖付きを動かした。残像を引きながら、彗星は駆ける。僕と思考レベルでリンクした傀儡は、自分の体の様に動いてくれる。視界も共有している今では、もはや第二の自分と言ってもいい。しかし、それでも触手を突破して核を撃つのは物理的に不可能に思えた。

 

 狙撃する。

 

 僕がそう思ったときには傀儡は宙へ舞い上がっていた。幸い上空に雲は少ない。雲よりも高く狙撃位置を取れた。チャクラを充填していく。その間にも、生災は無数の触手を伸ばし僕を襲う。

 

 二個付きのチャクラドームのおかげで未だ呑み込まれてはいない。だが、触手は球状に広がる粒子を覆うようにへばりつきビクビクと脈動している。さらにその上からドントさんの限界融合の光が直撃しているとなれば、限りなく絶望的だ。事実、粒子は弱弱しくなり今にも破られそうになっている。

 

 絶対に負けられない。

 

「最大出力・・・解放!」

 

 二個付きが赤く輝いた。極限まで圧縮されたチャクラはその力を爆発させる。触手も光線も全てを弾いていく。ゆっくりでも着実に彼に向かって前進していく。それでも、このままでは辿り着けない。このままでは。

 

 充填完了。三百六十度触手の僕の視界とは違い、袖付きの視界は見渡すほどの青空に眼下の森と瀑布。そして、生災。対象めがけて視野を拡大していく。とうとう核を捉える。

 

「狙い撃つ」

 

 袖付きが引き金を引いた。重力加速度により加速していくチャクラ砲。一ミリの誤差も無く光は貫く。ほぼ同時に怪物も弾けた。触手が消え僕の視界も一気にクリアになる。残るのは限界融合の輝き。

 

 初任務の時はただ見ているだけだった。この光に何もすることが出来なかった。ドントさんと土影。菌遁と塵遁。理不尽なくらい超越的だったあの光に今は手が届く。

 

 二個付きはとうに限界を超えていた。所詮、ただの傀儡が血継淘汰に競り合おうとする方がおこがましい。それでも、粒子の盾は主を守護し、主の道を切り開いていた。

 

 いつ大破してもおかしくない。まともな神経の持ち主であれば傀儡を捨て、血継淘汰の射線上から逃げ出すだろう。だが、リオンは傀儡師として自分の傀儡を信じていたし、ここで逃げたら永遠に彼には届かないことも確信していた。

 

 この輝きを突破し、彼の前に立った後のことは考えないようにしながら。

 

 

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