時空間忍術。文字通り時空間に干渉するその忍術は、その絶大な効力とは裏腹にどのような忍も少なからず行使できた。例えば、口寄せの術。これにより多くの忍達は手裏剣やクナイ、口寄せ動物を召喚してきた。一般的な忍が行使できる時空間忍術はここまでである。
しかし、中にはその先に到達した忍もいた。例えば、二代目火影や四代目火影の飛雷神の術。六代目火影の神威。うちはサスケの天手力。どれも、常識を超越した忍術だ。
実の一員であるホウイチもまた時空間忍術の使い手だ。時空の狭間を行き来して、時空間移動を移動できる。今は雫という少女を抱きかかえながら、熟考していた。
ダンゾウさんは何を恐れているのでしょうか。輪廻の力を手に入れた今、彼を倒すことが出来る忍はどこにもいない。歳端のいかない少年の一人くらい放っておいてもいいでしょうに。
しかし、命令は命令。部下を土の暗部に送り込んだものの失敗してしまったでは許されません。確実に成仏させるため倍の忍を追手に行かせました。今度は成功するといいのですが・・・いざとなればこの少女を人質にすればよいとダンゾウさんはおっしゃいましたが、いやはやどうなることやら。
*
リオンとドント。決着の時が近づこうとしていた。知る由もないが、ここは終末の谷。この大瀑布の地ではいつも避けられない別れが訪れる。
熱い。体なのか、頭なのか、目の前の光がなのか、分からないけれど熱かった。傀儡は今にも全壊しようとしている。限界は近い。薄い粒子の膜が凄まじい音を立てながら光を反らし、チャクラが散る。だが、目の前の血継淘汰の奔流が衰える気配はない。
僕と彼の距離はそんなに開いていないはず。なのに、距離は果てしなく遠く感じられて先が見えない。もう一歩一歩進んでいくことすら、叶わなくなっている。むしろ、後退しているのではと錯覚しそうだ。
なぜ進めないのかは分かっている。迷っているからだ。仮にここを切り抜けて、彼の前に立ったとして何が出来る?全身の呪印。三代目と会話している最中、彼を追いかける最中、戦いの最中、何度も何度も考えた。だが、どうやっても解除できる術が見つからない。
「どうして、どうしてなんだ!!」
「もういい。この呪印はシンゲンの輪廻写輪眼の固有瞳術だ。どうすることもできない」
先ほど、彼の拳を腹で受け止めた時に分かってしまったのだ。肌と肌が接したあの瞬間。僕はありとあらゆる封印術を試した。うずまき一族の祠で見つけた封印術の数々。そのどれかを以ってすれば、解除は出来なくとも封じることは出来ると思っていた。
でも、あの呪印は既存の封印術を遥かに上回る複雑さと強靭さがあった。もはや経絡系にすら癒着した呪印。解除も封印も全て無意味だと悟らざるを得ない。
苦悩に苦悩を重ねている間にも、血継淘汰の勢いはますます激しくなる。もう傀儡もそれにチャクラを供給する僕も死へと片足を踏み入れていた。
「迷いを断ち切れリオン。お前がやってくれなければ、戦争は泥沼になる。憎しみの連鎖が始まり、忍界は混迷の世に逆戻りする」
そんなの知ったことか。彼より重いものは僕の世界にはない。見知らぬ他人と一番大切な人。どちらを選ぶかなんてわかり切っている。そんなに長くはなかった。それでも、目覚めた僕に彼は大切な事をいくつも教えてくれたんだ。父親なんだ。
「リオン。俺は失敗ばかりしてきた。師の期待に応えれず、妻と娘を救えず、世界を変えることも出来ず・・・今も弟子を殺めようとしている。だが、お前は、お前は希望であってくれ」
様々な思い出が蘇る。厳しい修行。桔梗の花が飾られた部屋でした、たわいのない会話。初任務の帰り道でかけてくれた言葉。半分に分けてくれた兵糧丸。気持ちが流れてくる。チャクラの繋がりを通じて、彼の気持ちが感じられる。
本当に頑固な人だ。
「行きますよ」
「ああ」
自身の経絡系をイメージする。複雑に絡み合った三人分のそれ。全てを振り絞る。傀儡が虹色に煌いた。もう、頭も手も足も欠けていたが止まることは無い。
足下に爆遁チャクラを圧縮する。高熱と高密度のチャクラから足元の水は逃げるように弾けていく。
そして、爆発した。
宇宙まで連れて行ってしまうのではという激しい火炎放射が、僕に際限のない加速をもたらした。前進、前進、前進。傀儡が発する虹色の粒子は血継淘汰を悉く跳ね返す。永遠とも一瞬ともつかない間の後、ついに傀儡が木端微塵に弾け飛んだ。
でも、もう僕と彼を遮るものは何もない。
黒杭が深々と突き刺さった。ドントさんの心臓に。口から血が噴き出す。彼は笑って語り掛けた。
「託してもいいか。息子よ」
返事はしない。言葉にしなくとも、彼には伝わっているからだ。だから、僕が口にすべき言葉はこうだ。
「喝」
僕は今日、痛みを知った。
涙は流れない。僕は傀儡だから。世界が切り替わっていく。消えていた明かりが次々に灯っていくように、失っていた記憶が次々と思い出されていく。
そして、ついに全てを思い出した時に声が聞こえた。いつの間にか周りの景色は大瀑布ではなく。どこまでも続く星空の中であった。
「それが痛みだ」
目の前に男がいた。僕と同じで赤い髪を持ち、僕と違う色の瞳を持っていた。瞳の名は輪廻眼。そして、男の名は
「長門」
「どうやら、思い出したようだな」
長門がどこか悲し気に呟いた。黒地に赤雲。懐かしい外套に目を細めながら、僕は答えた。
「ええ」
「・・・出来れば、思い出してほしくはなかった」
こんなことなら僕も思い出したくはなかった。最も親しい人の死。それが、僕が記憶を思い出すための鍵だった。
男は申し訳なさそうに話し始めた。僕についての真実を。
「争いの無い世界のために俺は暁を創り上げた。尾獣兵器による抑止力と痛みを使ってな。だが、薄々気づいていた。マダラ、いやオビトが尾獣を使って何か別に企んでいると。いつか俺が用済みになったら裏切ると」
だから、スペアが欲しかったのか。いざとなった時に長門はオビトと戦わなければならない。しかし、彼は外道魔象を口寄せした代償に、一人では動くことさえままならないほど衰弱してしまった。代わりの肉体が必要だったんだ。
「方法はいくつかあった。かつて暁に所属していた大蛇丸のように、別の肉体に転生するとかな。だが、障害が一つだけあった」
“輪廻眼”
人知を超えた瞳術を移植するには激しい拒否反応をどうにかしなければならない。木遁ですら、熟練の忍が耐えられず拒否反応で死ぬ。その上をいく特殊な細胞となったらなおさらだ。
「だから、お前を見つけた時は何か運命めいたものを感じた。俺と同じうずまき一族で、俺と同じく故郷を失い、俺と同じく家族を失い路頭に迷っていたお前を見つけた時はな」
そう。僕は母親に言われたように木ノ葉に向かって逃げた。真っ直ぐに。でも、この赤髪はうずまき一族という血統の証明書。よからぬことを目論む人種からは格好の餌だった。そいつらに捕まった所を長門に助けられた。
「スペアの要件は二つ。一つは輪廻眼が移植できること。二つ目は永遠に滅びないことだ。俺は世界を監視し続けなければならない。肉体が滅びては駄目だった」
だから僕の身体は傀儡に作り替えられたのか。肉体が傀儡の身体なら衰えていくことは無い。
「それを可能にできる人物を探した結果、俺は二人の忍を暁に引き入れた。大蛇丸とサソリだ。しかし、大蛇丸は信用ならなかった。その点サソリは適任だった。経絡系の移植すら可能な技術力。永遠に拘る執着心」
そうしては作られた。長門にとって誤算だったことは予想以上にサソリが真剣になり、頼んでない機能まで僕に搭載したこと。風影やこっそり培養したデイダラの経絡系まで移植したことだろう。
「サソリは記憶を操作する術すら持っていたからな。俺のチャクラと記憶をお前に封じた後、休眠状態にして隠した。もし俺が死んだら自動的に輪廻眼が口寄せされ、移植される設定にしてな」
でも、結局輪廻眼が移植されることは無かった。彼の心を、信念を変える重大な出来事が起こったからだ。
「うずまきナルト。俺はあいつを信じることにした。火影になって、雨隠れを平和にして、世界を平和にすると言ったあいつを」
彼は言った。人は決して理解し合う事のできない生き物だと悟らざれるを得ない。この世界に本当の平和はない。世界は憎しみに支配されている。
お前はどうして自分が変わらないと言い切れる。これからどれだけの痛みがお前を襲うことになっても、変わらないと自分を信じたままでいられるのか。諦めろと。
「ナルトは言った。俺が諦めるのを諦めろと。自分を信じられなくなっちまったら、主人公が変わっちまったら、別の物語になっちまう。師匠の残したもんとは別の本になっちまう。それじゃあ、ナルトじゃねえと」
ナルトはペインに答えたのだ。どんなに痛いことがあっても歩いていく、それがナルトだ。大切なのは、方法じゃねえ。信じることだと。
「一部作の主人公、自来也。本当の意味で理解しあえる時代を信じる。二部作、俺。世界に痛みを齎す。三部作、ナルト。信じて歩き続ける。リオン。お前はどうこたえる」
長門の輪廻眼が僕を見つめる。
「大切なのは、信じる事じゃない。方法だ」
「・・・その方法とは」
忍の世界は憎しみに支配されている。本当の痛みを知らない限り、人々は上辺だけでしか平和を求めない。そして、人は他人の痛みには無関心だ。
「全ての人々を繋げる。手始めに肉体だ。殴れば、殴られ。傷つけられれば、傷つけられる世界を創る」
飛段の術の仕組みを解明すればきっとできる。加害者の悪意をトリガーとし、被害者と加害者の体をリンクさせ、傷つけられれば、傷つけられる状況を創り出す。
「それが叶った暁には、精神世界を繋げる。今、あなたと僕が繋がっている様に」
出来るさ。きっと。精神世界の接続にはチャクラ的接続が重要だ。僕がチャクラ糸でみんなと接続するように、世界中の人々を結び合わせればいい。
「全人類が他者への肉体的な体感に加えて、精神的な共感を持つようになった時・・・誰しもが本当の意味で理解しあえる世界が訪れる」
争いの無い世界が来る。
僕は答えを出した。長門は黙って、息を吐いた。この世界では言葉にせずとも、二人はお互いの考えていることが分かるのだ。だが、彼は敢えて口に出した。
「それほど大規模な術を世界に掛けようとするなら、十尾を利用するしかない。九尾を狩る必要があるんだぞ」
「十尾を使わずにチャクラを集める方法を考えます」
「だが、どうしてもそれしか道が無くなったら・・・お前はどうする」
僕は託された。ドントさんに。そして、この思いはもう僕自身のものでもある。
「それでも僕は世界を変えます。たとえ
覚悟は決まった。あとはやるだけ。心の繋がりを通じて、長門は様々に語り掛けてくる。それでも、僕が折れるつもりがないのを感じたのか。彼はゆっくりため息を吐いた。
「まったく、その頑固さは父親譲りだな。なら、俺が言うことは何もない。俺のあの世にいる半身はナルトに託した。お前に託さないのは不公平だからな。餞別だ」
長門は自身の外套を脱いで、僕に渡した。黒地に赤雲。冷たくずっしりと重いそれにどこか不思議な温かさも感じた。
「これは陽のチャクラと陰のチャクラだ。輪廻眼は実物が無いからな。これで、我慢してくれ」
「いえ、とても嬉しいです」
僕は純白の外套を脱ぎ捨てた。そして、暁の外套を羽織る。
「歩き続けろ。どんなに痛くとも」
星空の世界は薄れ、一気に世界がもとに戻っていく。先ほどまで感じた長門のチャクラはもう感じられず。夢だったのかと錯覚しそうになる。それでも自分を包みこむ、この外套が僕の背を押した。
さらさらと流れていく水の上に立ち。僕は大瀑布を見上げた。今は一人になりたい気分だったが、どうやらそうもいかないようだ。
「いるのは分かっていますよ」
滝壺を囲む森林から、水中から怪しげな忍が何人も湧いてくる。五大国の忍じゃないな。
「そこの爆死体と一緒にくたばればよかったものの」
実の忍達は油断なく、リオンを取り囲む。彼ら全員、五大国の暗部など足元にも及ばない実力だ。確実に命を狩るため同時に術を放った。
風遁・火遁・水遁・雷遁・土遁。ありとあらゆる性質の忍術が終末の谷を照らす。獲物がどの忍術を選択しても、絶対に有利がとれる。
なぜなら、全チャクラ性質で総攻撃しているからだ。絶対に躱せない規模の暴力がリオンを襲う。
「血継網羅・渦遁・
森羅万象を貫く煌きの一筋。虹色の光線が忍達を谷ごと、山ごと粉砕した。
リオンの答えは一言で要約すると、「全人類ニュータイプ計画」って感じです。
突然の血継網羅に疑問をお持ちの方もいると思います。
これは全ての火・水・風・雷・土・陰・陽を組み合わせた術ですが、デイダラ(火・土)と風影(風・雷)、リオン(水)、長門(陰・陽)を持ち、それらを組み居合わせる方法をリオンがドントから学んだと解釈していただけると幸いです。
ナルト界で随一の名スポット終末の谷さんを破壊するのに、少し気が咎めましたが、柱間・マダラ、ナルト・サスケと壊されるのが仕事かなとも思ったのでこうしました。