雫は暗い空間で目を開けた。今、自分がどこにいるのか見当もつかない。敢えて、説明するとするならトンネル。入口も出口も見えない果てしなきトンネル。
彼女は何が起きたのか思い出そうとした。だが直前の記憶は、アジトからの逃走中に急に現れた僧侶によって瞬きをする間もなく連れ去れた所までだ。
「気づきましたか」
「あんた!」
不気味なまでに体の部分の全てが細長い僧侶ホウイチ。彼の右目には赤い写真眼が輝いている。当然、彼はうちは一族ではない。大量にシンゲンが培養した写輪眼の一つを分けてもらっただけだ。彼が時空間移動できているのも、この写輪眼のおかげである。
どうやら少女は彼に抱えられていたようだ。不快さから突き放そうともがいていると、ホウイチは諌める。
「やめたほうが良いですよ。ここは時空間の狭間。私から手を離せばどうなっても保証はできません」
「どこに連れていく気よ」
少女の当然の疑問に、僧侶はつかの間の沈黙。彼は何と答えるか思慮していたのだ。
単純に、この少女のお友達の少年のもとへと答えるか。それとも、土遁使いの男のもとへと答えるか。あるいは、土遁使いと答えずにあなたの父親である男のもとへと答えるか。
一つ目の答え方をする気は無かった。なぜなら、彼はダンゾウが土遁使いの男に施したマーキングを元に追っているのであり、少年を感知しているわけでは無いからだ。つまり、目的地に少年がいるかどうか分からないということだ。
二つ目の答え方をしても良いがそれはそれで問題がある。このまま、何も知らせずにいざ少女を人質として使うとなった段階で、あなたは私の父親だったのかなんて煩わしい悶着をされると面倒であった。
よって、彼は三つ目が良いと考えた。人質は、取られた側と人質本人の間柄が深ければ深いほど、より大きな効果を発揮する。この少女に真実を伝えれば、土遁使いへの思いが確実に深まり、利用しやすくなる。
だから、ホウイチはこう答えた。
「土の暗部である、土遁使いの男のもとです。あなたの父親でもありますが」
「・・・!!」
雫は口をパクパクさせ固まった。口を開こうとして、閉じる。何か言おうとして、何も言えない。頭と心の両方が停止しているのだ。でも、ようやく少女は言葉を発せた。
「そ、そんなわけないでしょう。私のお母様とお父様は林の国の忍で、勇敢に戦って、戦場で死んだって。第一、ドントとは何年も同じアジトで暮らしてきたのよ。私は、土の暗部の事だって、メンバーの事だって、もちろんドントの事だってみんな知っているのよ」
相手に返答する為というより、自分に言い聞かせるように喋る少女。ホウイチは腹の中で、面倒だと思いながらもゆっくりと、真実という名の猛毒を少女に流し込んでいく。
「あなたは彼の事を知っているようで、何も知らない。今、彼が何をしようとしてるかご存知ですか?」
開いているのか、開いていないのか分からない眼差しで、僧侶は少女に問いかける。だが、その瞼の奥に蠢く男の眼はにったりと歪んでいた。そして、少女はそれに気づけない。
「きっと、岩の暗部が襲撃されたと知ってリオンを助けに行ってるんだわ。きっとそうよ」
「違います。彼は木ノ葉の里で自爆する気ですよ。大勢の罪のない人々を巻き添えにしてね」
少女は息が出来なかった。何が起こっているのか分からず、どうしてこうなっているのか分からず、これからどうなるのかも分からず。
ドントは、あいつは、そんなことをする人じゃない。頑固で、融通がきかず、妥協ができない男だったが、人としての尊厳は持っていた。そんな男が、そんな惨いことをするはずがない。何故、どうして。
震える声が、口を突く。
「・・・何の、ために?」
「分からないのですか?あなたを・・・守るためですよ」
僧侶の口が歪んだ。自分で答えを探すことを諦めた人間ほど、操りやすい者はない。次第に自分が興奮してくるのが分かる。僧侶として、有るまじき悪徳。なんたる甘美。
「彼は・・・あなたの父親は犠牲になったのだ。忍界に古くから続く因縁、平和への願い・・・その犠牲にね」
「・・・犠牲・・・?」
少女は懸命に理解しようとした。因縁とはどういうことか。平和への願いとは何のことを言っているのか。何故、そんなものの為にドントが犠牲にならなければならないのか。
でも、岩の暗部の中だけで過ごしてきた彼女には経験も足らず、思いも足らず、自らを導いてくれる者も足らなかった。
いや、ドントだけは土の暗部の中で唯一彼女を導けた存在だったかもしれない。だが、気付くのが遅すぎた。
人質として少女を利用するだけなら、ここまでで十分だった。これ以上は、触れてはいけない領域であった。だが、この僧侶は止まらない。酷く湾曲した彼の性根がもっと多くの蜜を求めさせたのだ。
「あなたの主人であるシンゲンさんはね・・・平和が大好きなんですよ。彼の平和にとって、木ノ葉は邪魔らしくてね・・・あなたの父親は木ノ葉の抹殺を言い渡された」
雫は嘔吐しそうになる。今まできつく当たってきた男が実の父親で、今まで実の祖父のように思ってきた男が父親に自害を命じたという事実に。シンゲンは慈愛と博愛で自分を拾ってくれたのではなく、打算と利己心で拾ったという事実に。
「彼は任務と己の信念の為には、同胞であろうが、師であろうが殺めてきた。それでも、いかに心を閉ざし修羅と化した彼でさえも、ただ一人・・・たった一人・・・」
聞きたくない。聞きたくない。耳を塞ぐ少女の手を鋭利な言葉が貫いた。
「娘だけは見捨てられなかった」
限界だった。彼女の理性、知性、感性、悟性。全てが拒絶する。
「・・・そだ」
「うそだ・・・そんなの・・・。そんなわけ・・・あるわけないじゃない・・・」
もう、僧侶としての顔は崩壊していた。そこにあるのは、醜悪な魑魅魍魎の顔。
「事実です」
「嘘よ!嘘よ!!嘘よ!!!そんなことがあってたまるか!!」
「嘘ではありません。この意味があなたに分かりますか」
ホウイチは最後の仕上げにかかる。唾液の糸を引きながら、口を開ける。
「彼にとって・・・あなたの命は―」
「世界の平和より重かったのだ」
少女は決壊した。後は、存分に人質として利用させてもらおう。込み上げてくる愉悦のままにそろそろ到着することを予感した。ここまで来れば外の様子が感知できるようになる。
どうやら、娘の父親はちゃんといるようですね。・・・おや?赤髪の少年もいるようだ。素晴らしい。素晴らしすぎる。どうやらもうすぐ勝負は付く様子。この分だと土遁の男が勝ちそうだ。
まあ、どちらが生き残っても瀕死は間違いない。後は、この少女を使って贅沢な甘味を味わいましょう。
ホウイチは時空のトンネルの狭間を少し開き、戦闘の様子を垣間見る。
「お嬢さん。今、あなたの父親がお友達と死闘を繰り広げていますよ」
雫は虚ろな瞳でそれを見る。最高のシチュエーションに大満足のホウイチは身を乗り出さんばかりで、二人の戦いを観戦する。
このまま、土遁使いが少年を殺してくれれば最高ですねえ。血継淘汰の奔流が今にも少年を掻き消さんと、荒れ狂う。
どんどん口角の上がっていく、僧侶であったがピタリと止まった。
血継淘汰が押し返されている?そんな馬鹿な。たかが傀儡ごときでそんなこと出来るはずがない。
しかし、現実は彼の予想に反した。迸るチャクラと共に赤髪の少年が競り勝ったのだ。それだけじゃない、少年がなんの躊躇いも無く土遁使いの男の心の臓を貫き、爆破したのだ。
「ッチ」
ホウイチはボロボロと涙を流し始めた少女を見ながら、自分の思い描いた演出が崩れたことに煮えくり返る。
血継淘汰も大したことが無いようですねえ。この人質は父親の方に使ってこそ、面白みが出るというのに。まあ、いいでしょう。あの赤髪の少年も限界の様ですし、さっさと人質を使って・・・
そこまで、僧侶が思った段階でふと少年以外に無数の気配があることを感知した。なんですか。私の部下共はもう着いていましたか。なら、やることは特に有りませんね。
一気に興が覚めたホウイチは時空間移動で帰ろうとする。自分自身が手を下そうなどとは露ほども考えてはいない。
そもそも、そこまで自信があるのなら人質は用意しないし、部下達を先に派遣しておくことなどしない。
「この人質、どうしましょうか・・・」
僧侶が少女の処分方法を考えていると、突如稲妻が直撃したかのような痛みが全身に走った。否。痛みなんて生易しいものではない。全身が木端微塵になったと錯覚するほどの破壊だ。
―死―
明確にそれを感じた。だが、やがて自分がまだ生きていると気づけるようになり、恐る恐る外の様子を覗く。
「か、変わった?」
赤髪の少年の纏うチャクラが一変していた。感知タイプの忍は多かれ少なかれ、忍の纏うチャクラの性質を感じ取れる。ホウイチもそうだ。
ついほんの一秒前まではどこか迷いのある・・・よく言えば温かく、悪く言えばぬるい感覚のあった少年のチャクラの感じが消えていた。
「もはや人じゃない、神だ」
いつの間に着替えたのだろうか。純白だった外套は黒と赤雲のそれにかわり、ゆらゆらとはためいていた。
まさか、さっきの衝撃はチャクラを感知しただけ?感知しただけで、死を覚えたのか。私が?
無謀にも自分の部下達が挑みかかった。火を噴き、水を撒き、風を切り、地を割り、雷を落とす。
少年が何かを呟く。
その後は蹂躙だった。何か光ったと思ったときには、火遁も水遁も跡形も無く。忍達は塵より小さく掻き消え。かつての大瀑布は一瞬で蒸発し、大地も天も焦げた所でようやく全貌が把握できた。
虹色の光線が何処までも高く、高く伸びている。下へ下へと視線をずらしていくと、ついに光線の発生源が発見できた。
少年の手のひらで、虹色のチャクラが円盤状に渦を巻いている。その形状は渦巻というより、銀河に近い。どうやらその中心部から極光は宙へと伸びているようであった。
「これは、人質がいて何とかなる次元じゃありませんね」
僧侶は即時撤退を選んだ。今、この時空の狭間から出たら間違いなく殺される。確信ではない信仰だ。根拠などない。必要ない。
脱兎のごとく逃げようと、外界へ繋がる穴を閉じながら振り返る。
「はい?」
ホウイチは喉に違和感を覚えた。喉に手を当てる。何かが流れ出している。何だ?血?何故?
べっとりと血が付いた指から目を外すと、人質だった少女がにっこり笑みを浮かべていた。誰もが美と恐怖を体感するだろう。海の様に深い髪に新雪より白い肌。しかし、その最高のキャンパスが化粧に用いたのはバラ色の血。
壮絶な美。だが、それを鑑賞するには代償がいる。
少女がクナイを突き刺す。それは僧侶の喉を貫通し、うなじを突き破った。
「アガアガアガ」
クナイを引き抜こうと、ホウイチは手を伸ばす。されど、それより早く少女の手が伸びた。彼女が掴んだのは、眼。僧侶の右目に輝く写輪眼だ。
ブチュ。
絶叫したくとも、喉が潰されてできないホウイチ。必死に抵抗しようと手を伸ばす。
「さようなら」
少女は突き刺さったクナイを蹴り飛ばした。つられて、時空の穴から飛び出すホウイチの体。蹴りのおかげでクナイは抜けたが、時空の狭間からは出てしまった。もう、穴は閉じてしまい戻れそうにない。
彼は安堵した。悪魔の様な少女から逃げれたことに、死から逃げられたことに。
ホウイチは地を這う。草木に血という名の水を注ぎながら進む。激痛の中で頭を上げると、少し向こうに少年が立っていた。
目が合う。
「あ」
虹色の光が煌いた。
*
終末の谷。その周辺の大地は深く切り刻まれた。それらは後々、新たな川の道となり大瀑布の支流となる。そして、その大瀑布も含めて水が流れる前は灼熱のマグマが流れていた。
高熱によって発生した雨が三日三晩降り注いだ後に、再び生まれたのだ。その滝はかつての面影を全く感じさせないほど巨大なものであったとされる。
後々は、緑豊かな自然の楽園となるこの地も今はまだ地獄の様な光景。その中心に立ち尽くすリオンはこの地獄の様な忍界を必ず変えると決意していた。
父親を目の前で殺された少女が時空の向こうから覗いているとも知らずに。
「ドントさん。あなたに託された忍界も、あなたの信念も、あなたの娘もきっと守ります」
少年は怪鳥を口寄せし、木ノ葉へと向かった。
*
木ノ葉隠れ、火影邸。そこには四人の影達が集っていた。此度の岩隠れの暴走に対処するために。この場に同席を許された忍は先代の影達と、火影側近であるシカマル。そして最後に、もう一人の忍界最強・うちはサスケ。
忍のトップが集まっている会議であったが、遅々として進まない。皆、混乱と動揺のあまり思考が纏まらないのだ。
そんな中、風影が口火を切った。彼は岩隠れからもっとも近い五大国だ。危機感が違う。
「既に宣戦布告はなされ、岩の進軍も始まっている。和平交渉の準備と同時進行して、今すぐ、各隠れ里の援軍を要請したい」
「そうは言うがな・・・俺の雲隠れからでは遠すぎるし、緊急招集は掛けてはいるが上忍は任務でそこら中に散らばっているんだ。何とか暫くの間もたせてくれねえか」
現雷影が申し訳なさそうに言う。彼自身、それでは駄目だと自覚していた。敵軍の数は五千。一切の防衛戦力を里に残さずやっと集められるかどうかの数だ。とても、砂だけで耐え忍べる規模じゃない。
「だが、このままいけば雨隠れは落ちる。そうなれば砂隠れは、岩と雨。二方向から挟撃されることになってしまう」
ここで先代の雷影であるエーが口を開いた。第四次忍界大戦から数年たってもなお、その体躯は健全である。
「分かった。俺を含めた精鋭部隊が雨隠れ防衛に向かおう。軍として動かすのでは間に合わんが、俺と俺が率いる精鋭部隊なら間に合う。雷・雨・砂・火でぶつかれば勝てる」
「戦争なんかぜってえさせねえ!」
七代目火影・ナルトが頑として言い放つ。もし、五大国どうしでぶつかり合うようなことがあれば、巨大な憎しみの連鎖が始まる。時代が逆戻りすることになるのだ。
現水影の長十郎はどうすれば良いのか決めかねていた。まず、戦闘には間違いなく出遅れる。戦地は真反対だからだ。だが、そんなことは問題じゃない。問題なのは、霧隠れが元、血霧の里ということ。
先代メイ様の懸命な努力のおかげで、里の内情は大分安定した。自分の使命はそれをしかと受け継ぎ、血霧の里から希望と発展の里に生まれ変わらせることだ。その為に、好戦的な忍の勢力を何とか抑え込んできた。
戦争の為に忍を派遣することになったら、もう戦争をすることは無いと言って軍縮をしてきた自分の権威は失墜し、主戦派の勢いが里を包む。権威はいらない。でも、平和を失うことは認められない。
ちらりと先代水影・メイを見るも、彼女も沈痛な顔で葛藤しているようであった。そこでに新しい提案が飛んだ。サスケからだ。
「暗殺する。俺が単身で潜入し、頭を潰す」
「駄目だ、サスケ!」
ナルトが彼を止める。いくら、敵国とは言え影を暗殺するというのは重罪だ。サスケは今まで数々の罪を犯している。今度はもう庇うことは出来ない。ましてや、彼には家族がいるのだ。
「俺が直接行って、話し合ってくる」
「危険すぎる!」
ナルトの主張をシカマルが押しとどめる。彼には敵が和平に応じるとは思えなかったのだ。仮に、和平に応じるのならそもそも四大国に戦争など吹っ掛けてこない。それに、雨隠れでの戦闘で死んだはずの敵が蘇ったという報告も気になっていた。
交渉が決裂して、ナルトが戦闘することになったら終わりだ。火影が敵陣で戦う。本当に全面戦争しか道が無くなってしまう。
「僕が暗殺を請け負います」
全員が一斉に振り向く。そこにいたのは赤髪の少年。リオンだ。全員が固まる。気配に気づかなくて、驚いた者も居た。だが、皆が最も度肝を抜いたのは少年の服装。暁の服装が目に入ったからだ。
刀を構えたり、印を組みだしたりする者など、各々反応はバラバラであったが、一人だけ特に過激な反応があった。
エーが雷の鎧を纏って、殴りかかる。雷遁は使い手の身体能力を向上できる。その中でも、雷影のは別格。電光石火、瞬間移動。速度はそのまま、威力に結び付く。
出来事は0.5秒。
この場にいるほとんどの忍は目で追えなかった。しかし、サスケの瞳は捉えた。少年の手のひらに虹の渦が発生し、雷影の雷の鎧が吸収されていく過程を。
パシンと情けない音を立てて、雷影の拳は少年に掴まれた。自身の雷遁が消えたのに動揺しつつも、力任せに振りほどこうとする。しかし、生身の人間と傀儡。構造が違う。むしろ、雷影の拳の方がギシギシと握りつぶされそうになった。
「何の用だ」
サスケが問う。
「言ったでしょう。岩隠れの頭は僕が潰す」
衝撃が会議室に走る。誰も目の前の少年の目的が分からない。なにより、信用が置けないのは少年が纏っている外套だ。
「その服、暁だな。滅んだ組織が今更、何をしに来た」
「敵の頭はダンゾウです」
サスケの瞳が見開かれる。彼にとってダンゾウが生きているという話は、幽霊が存在しているという話より現実性が無かった。
「その男は過去に殺した。ありえない」
「岩影や大名は奴に操られている。別天神によって」
先代の火影達は動揺を隠せない。彼らはみな第四次忍界大戦のおりにその絶大な効力を目の当たりにしている。ナルトに至ってはもっとそうだ。穢土転生の強制力をうちはイタチが、書き換える現場にいたからだ。
「彼はどうやら別天神の連続使用ができます。もし幻術に掛けられたら、自力での解除は困難。味方のチャクラで解除してもらう必要がある。だからあなた一人では奴は倒せない」
「それは、お前も同じだろう」
当然予想できたサスケの反論に僕は答える。
「僕は複数人の経絡系を持っているので、単独でも幻術を解除することが出来ます」
「・・・」
サスケは何かを考え込むように押し黙った。会話の切れ目に長十郎が口をはさむ。
「相手は大群の中に囲まれているんです。そこに辿り着くには何人もの人を殺めなくてはいけない。たとえ忍界が救われても、あなたは恨みを買って一生命を狙われることになります。その覚悟があるんですか?」
似たような、質問を前にされた事があったな。あの時はドントさんに背負ってもらった。でも、今は―
「もちろん」
「駄目だ!」
ナルトには、誰か一人に全てを押し付けるような真似など認められなかった。
「五大国は戦争を回避するために戦力を出せない。でも、戦闘は避けられない。暁は傭兵団でもあるんですから、僕以上の適任者はいないでしょう」
止めても無駄ということが分かるのか悔し気な表情の火影。本気で僕を思いやってくれていることが分かる。
「たとえ命懸けで暗殺しても、与えられるのは岩影殺しの汚名。死ぬまで大量虐殺者としてビンゴブックに乗って、命を狙われる。五大国はお前とは無関係を貫き通し、憎しみを一心に浴びることになる」
サスケが独り言のように言う。彼は里の犠牲になって、汚名を被るとはどういうことなのかを一番よく分かっていた。この先、少年に向かうであろう憎しみや軽蔑を誰よりも深く知っていた。
彼の言葉には応えず、僕は火影を見た。
「暗殺が無事成功しても、真実はボルトやヒマワリちゃんには伝えないでください。知れば、きっと心配して僕を追おうとする」
ドアを開き、会議室を出ていこうとする。もう誰も止めようとするものはいない。何も言わない。うちはサスケ。ただ一人を除いて。
「おい」
僕が振り返ると彼が巻物を投げてきた。他の人とは違い、不敵な笑みを浮かべていた。
「そこから、先は地獄だぞ」