詐欺をする気は無いんです。プロット上、どうしても外せないんです。直に、詐欺じゃなくなるので後数話お待ちいただけると誠に幸いです。
今回はプロローグみたいなものなんで、短めです。
むせるような血の匂い。鉄の味がする赤霧の中で暁の外套が揺れ動く。
霧隠れの慰霊碑への道のり。無数の忍に阻まれたその道を、一人の赤髪の少年が駆け抜けていた。
忍らは波の模様が刻まれた面を被り、背負った太刀の握りに手をかける。ギラリと煌く刃。少年は剣の森へ躊躇いなく突っ込んだ。
白刃が鈍く光れば無数の剣閃が霧を断つ。されど、少年に届く刃は皆無。硬化した彼の身体は一切の刀を許さず、激しく散る火花を残して襲い掛かる刀の悉くを折り去った。
止まるどころか加速し続ける少年を前に、忍の頭領格が自らの剣を撫でた。ブンッという音と共に青く輝く刀身。チャクラで延長、鋭化した忍刀は全てを断つ。
必殺の構えを取る頭領に少年が手を振るった。
一度彼の指が躍れば敵対する忍は一切の身動きは許されない。それ程までに少年のチャクラ糸は強靭なものであった。苦悶の表情を浮かべる頭領格。
「おのれ、到達点めッ。だが、我ら―」
赤雲の外套から白い腕が伸びる。顔面を掴まれた忍はその細い腕からは想像もつかない万力の前にもがき苦しむことしかできない。
指から伸びるチャクラ糸が頭領格の耳から脳へ侵入し、一瞬にして記憶を読まれる。必要な情報を入手したのか忍は地に投げ捨てられた。気絶し痙攣する彼に目もくれずに、少年は道を走り抜けた。
そして遂に上り詰めた。暁の少年の瞳に蒼髪の少女が映りこむ。だが、少女に以前の面影は無く。触れたもの全てを切り裂きそうな冷たい空気を纏っていた。
彼女が今まさに振るっているのは伝説の忍刀の一本・大刀鮫肌。そしてそれを振るわれていたのは金髪の少年。うずまきボルト。
赤髪の少年は神速の速さで二人の間に割り込んだ。ぶつかり合う鮫肌と黒杭。
「雫、なぜ」
「リオン、リオン!!」
鮫肌が自身を覆う包帯を食い破った。少年が杭に付与した土矛は刹那の間に喰いつくされ、彼自身も鮫肌に飲み込まれそうになる。
ボルトを抱え一足飛びに退避。リオンと呼ばれた赤髪の少年は火影の息子を背に庇い少女の前に立ち塞がった。
真っ赤な血霧の中。計四人の男女が向かい合う。リオンとボルト。雫と僧侶。
暁の少年が口を開く。
「殺したはずだ」
「いえいえ、あなたとこの世界のわたしは初対面ですよ。七草の時はすれ違ってしまいましたしね」
紫色の袈裟にひょろりと細長い胴体。そしてこれまた縦に長い額を撫でながら、実の僧侶・ホウイチは不気味に嗤った。
「雫。帰ろう」
優しく微笑み手を伸ばす少年。対して少女はこちらに歩み寄るも、前髪に隠れた顔は見えない。
確かなことは、彼女の手が未だに鮫肌を離していないことだ。緊迫した空気が肌を刺す。
二人の距離は狭まっていきお互いの息が届きそうになった。ゆっくりと上がる少女の顔。瞳が合った。
「その瞳!」
彼女の片目はもう少年が知っている水晶の様なそれではなかった。代わりに輝くのは波紋模様に重なる勾玉の瞳。
“輪廻写輪眼”
「もう遅いのよ、リオン。私はこの醜い世界に風穴を開ける」
「どう意味だ」
雫からチャクラが吹き荒れる。大地を砕き、空間を砕きながら、虚無としか言い表しようのない真っ黒な穴が少女の背後に現出する。
圧倒的なチャクラの暴力。何人も立つことは許されず地を這いずる。それでも、少年だけはリオンだけは微動だにしなかった。風に煽られ暁の服が暴れる。
「集めるのよ。そう、集めるの」
雫が鮫肌にチャクラを送る。無限に回復し続ける彼女のチャクラは、暴食の鮫肌ですら食べきれない。これ以上は要らないと苦しむ刀が極限まで肥大化した時、一気に彼女は振り下ろした。
打ち砕かれる森羅万象。鼓膜を吹き飛ばすほどの轟音が世界を震わせる。
「十尾を十体!!!」
*
ある晴れた昼下がり少年リオンはぼうっと空を眺めていた。若木なのかまだそれほど背丈の無い木の幹に腰を掛け小鳥と戯れている。
三六五日間一日の休み無く、追い忍やビンゴブックに載る犯罪者達との闘い漬けの日々を送っている彼は任務終わりに適当な木を見つけて腰かけるのが日課になっていた。
ちゅんちゅんと囀る小鳥に餌をせがまれながら少年はロウを待つ。
本来なら第五次忍界大戦から一年経った今、少年は青年へと片足を踏み込んでもおかしくはない。だが、体が傀儡の彼は老いない代わりに肉体の成長も無かった。
「何を見ているんダ」
片言ながらも妖艶な声がする。視界の端に見えるのはしなやかで健康的な褐色の肌。彼女も幹に座り込むつもりらしいが、この若木の幹では持たないんじゃないんだろうか?当然そんなことを言ったら殺されると分かっているので口には出さない。
軽重岩の術。
こっそり自重を軽くして幹への負担を下げる。地面に降りる気は無い。
「それでいくらになりました?」
「五十両ダ」
たった五十両か。直ぐに無くなるな。僕の計画には莫大なチャクラと術の構成式が必要だった。一つは精神世界を繋げる術。もう一つは肉体を繋げる術。だが、どちらも難航していた。
忍術にはまだまだ未知の領域が数多くある。例えば、時空間忍術や写輪眼を始めとする瞳術。僕が探している術は魂と精神の分野に入り、これもまた謎が数多ある。
よって、研究し開発するには最新の設備や機材、そして魂を持った生身の肉体が必要であり、それを手に入れるには多大な資金と時間が必要であった。勿論、人体実験など出来るわけも無く、研究は厳しい状況下に置かれていた。
「ゲンナイさんの研究費は削りたくないですし、いやはやままならないものですね」
「到達点なんて大層な二つ名で呼ばれているだけあるナ。言い方が、じじ臭イ」
隣でクスクスと笑う女性は見る人が見れば妖艶だのなんだの言うのかもしれないが、生憎僕には意地の悪い笑みにしか見えなかった。
思わず口を尖らせながら振り向く。少年と女性。当たり前の座高差から、形の良い豊満な双球が目に飛び込む。さっと目を反らしながら反論した。最近はどうもこういったものが目に入ることが多い。
「バオさんが賞金稼ぎは知名度が命だぜ、インパクトのあるブランド名を・・・とか何とか言って勝手に広めたんですよ。僕は不本意です」
自分達もビンゴブックに載っているのを忘れているのか、彼のおかげで賞金稼ぎから連日連夜付け狙われる日々を送る羽目になった。まあ、実際役に立つ瞬間も有るのは事実だし、彼にも何度も助けてもらっている。かけがえのない仲間だ。
そんな僕の苦悩を見透かしたのかロウは目を細めて囁いた。
「そんなに悩むなら草隠れと雨隠れへの資金援助を止めればイイ」
彼女の提案に即答する。
「その気はありません。僕の計画では痛みや憎しみは共有することしかできない。知ろうとしない者達にその存在を知らしめることしかできないんです。ならそれを少しでも癒し、減らしていく努力は怠るべきではない」
彼女は慎重で現実主義であるが、どこか人の善意や親切といった類の物を綺麗事と切り捨てる傾向があった。そのくせ、僕に賭けるのだと何だかんだ協力してくれている。
世界平和なんて綺麗事の極致を目指している僕と一緒に居てくれているのが不思議でならない。
やっぱり呆れた眼差しで見返してくるロウに、こちらは真剣に目を合わせる。草と雨隠れに資金援助をなんていうと大袈裟に聞こえるが、本音のところは忘れられないだけだ。
初任務でドントさんと見た真っ暗な闇を。満天の星空でも照らせない草の集落を。そして、降りしきる雨の中、折り重なって山となった人々の死体を。
「なら、例の任務を受けることダ。千両もの大金、早々手に入らナイ」
半ば決定事項の様に話す彼女の言葉に言葉を詰まらせる。第五次忍界大戦を端緒として、雨隠れでは武闘派の忍が台頭してきている。
彼らの主張は一つ。火の国と水の国の間に位置する大海原、通称央海の制海権を握ること。曰く、波の国と海の国は拡大の一途にあり、いずれ水の国は飲み込まれる。だから何としてでも海という交易の主導権を得る必要があるらしい。
さらに、水の大名も自国の勢力拡大に熱を上げていることが、一層この流れを強めてる。
今回、我ら暁に依頼された任務はこれらの状況下で霧隠れの転覆を計ろうとしている者達の拘束、もしくは暗殺。並びに彼らの背後に居る存在を突き止めることだ。
依頼主は六代目水影・長十郎。
正直、気乗りのする任務じゃない。頭を潰すだけでは根本は解決しないからだ。岩隠れでの一件がそれを証明している。
僕は幹から飛び降りた。いつの間にか日は陰っている。僅かな風が暁の外套を揺らすだけだ。
「受けましょう。この任務」
それでも、僕に出来るのはこれしかない。本当に・・・世界はどうしようもない。今は、まだ。