一応、重要な情報も入れては有りますが・・・
それより先週のボルトでとうとうオオノキの孫が出てきて黒ツチが囚われの身になりました。モモシキ戦でもワンパンされてしまいましたし、ここまでくると彼女が不憫で仕方がない。
央海の上空を怪鳥に乗って飛ぶ。火の国を出たばかりの頃は快晴だった海上も、水の国に近づくにつれて濃霧に覆われていた。
「まだ着かないのカ」
僕の後ろでロウが横になりながら聞いてくる。砂漠出身の彼女にとって水の国の湿度はお気に召さないようだ。少し機嫌がよろしくない。
「どうやら着いたみたいですよ」
眼下では厚い霧を貫いて煌々と大都市の明かりが輝いていた。これがかつて、血霧の里と恐れられた霧隠れか。ロウに声をかける。
「流石にこの鳥では目立ちすぎるので、ここからは自由落下で行きましょう」
「分かっタ」
解。怪鳥が掻き消える。一瞬の浮遊感の後、僕ら二人は重力に引っ張られ霧の中に消えていった。
風を切る音が心地よい。水分の多い白靄の中を暫く落下していると突然視界が開けた。霧越しに見えていた明かりからある程度の予想はついていたが、青い海に白い建物。良く晴れた日中なら高級リゾートと言われても違和感ない町並みが僕を迎えていた。
発展の具合なら木ノ葉や岩を超えるな。どうやら六代目水影は中々のやり手らしい。そんなことを考えながら、ロウの手を取る。
軽重岩の術。
刹那、二人を捉えて離さなかった重力という呪縛から解放される。ふわふわと着地地点を想定しながら舞い降りていく。誤って霧隠れの結界を通り抜けたら目も当てられない。慎重に地上を目指す。
こうして僕は人生初の水の国に足を踏み入れた。人気のいない砂浜を歩いていくと、二人の人影が僕らを出迎えた。
「時間通りですね」
「ほんとはもう少し早めの到着のつもりだったんですが」
声をかけてきた人物は今回の依頼主にして六代目水影・長十郎。少し困惑した表情で彼の隣に経っている青年は誰だろうか。一般的な霧隠れの忍装束に緑の上着・・・側近にしては若い気もするが。
「彼は枸橘かぐらです」
紫色の瞳に灰色がかったベージュの髪。ギザギザと右に流れる髪型に左目の下の紫色の縦線が特徴の忍は紹介に応じて手を伸ばした。
「かぐらです。暫くの間よろしくお願いします」
「リオンです。こちらはロウ。よろしくお願いします」
「なぜ、子供がここに居ル」
握手に応じながらこちらの自己紹介も軽く済ませると、ロウがかぐらという青年の存在を疑問視した。いつのまに迷彩化したのか暁の外套の下は包帯の透明人間になっている。
確かに今回の任務の重要度を考えると一定の実力は重要なので、彼女の発言にも一理ある。でも、彼の身のこなしを見るに実力に関しては問題無いようにも見える。まあ、慎重すぎるロウの事だ。一応の確認はしておきたいといった所だろう。
「安心してください。彼は新忍刀七人衆の後継者にして四代目水影・橘かぐらの孫です。心配無用ですよ」
「そんな、俺にそんな器はありませんよ」
部下を褒める水影に対し、謙虚な返答をするかぐら。だだ、どうにもそれ以外の感情が僕には感じ取れた。もうロウも喋る気は無いらしい。長十郎さんが丁度いい間で口を開く。
「では、こちらが霧隠れの通行所です。里へ入る前にはこの写真の人物に変化して下さい」
渡された二枚の通行証にはどこにでもいる平凡な男女の顔写真が張られていた。男と言っても一応は目の前のかぐらと同年齢くらいの青年だ。僕としても自分の体格から離れすぎた男に変化し続けるのはチャクラが厳しいので好都合だ。
「分かりました」
白煙が立つ。煙が晴れると暁の外套を纏った二人組はもういなかった。いるのは凡庸な霧隠れの忍。満足げに笑みを浮かべて水影は言った。
「ここではなんです。場所を移しましょう」
*
白いブロック状の壁。青い天井に青い柱の廊下を抜けると小広間に辿り着いた。
「ここが水影室ですか」
火影室しか見たことなかった僕にとって、あれくらいのこじんまりした部屋のサイズ感が影の部屋のスタンダードであったので少々その広さに面食らう。
「あんまり見ないでください。何もないでしょう」
黄色に縁どられた鮮やかな水色の絨毯。影と刻まれた執務机に、額縁に収められた達筆な契の一文字。インテリアの一つ一つが洗練されている。どこぞの某影の書類まみれの一室とは大違いだ。
「あらてっきり赤い髪の男の子が来ると思っていたのだけれども。ちょっとがっかりね」
遅れて部屋に入ってきた大人の女性は五代目水影・照美メイ。言わずと知れた革命と改革に生きた女傑だ。恐怖政治を敷いたとされる四代目水影・やぐら時代の風習を改め今の発展の礎を築いた人物だ。
「本人ですよ。今は変化してますけど」
「あらそうなの。あなたとは一度あったことがあるのだけれど・・・おぼえてるかしら?」
目を色っぽく潤ませて聞いてくる彼女には悪いがあまり記憶が無い。確か第五次忍界大戦時に影達が開いた会談に居たような気がする。
あの時はダンゾウの事で頭がいっぱいでそれどころじゃなかったというのもあるが、正直に言うと火影とサスケさん・・・特に猛然と襲い掛かってきた雷影の印象が強すぎた。というか、それしか残ってない。
あの時は余裕ぶっていたけれども、実は今でもバチバチ放電しながら迫りくる筋肉隆々のオールバックが夢に出てくる。
「はあ。その様子だとそうでもないみたいね・・・私はこんなにも思っているのに」
「気にしないでください。この人はいつもこうなので」
現水影が疲れた顔で頭を押さえている。これだけで彼の苦労性が見て取れる。こっそりと彼に親近感を覚える。
「うるさいはね長十郎。あなた顎鬚なんか生やして、生意気になったんじゃない。おっさんくさい。それに誰にでもって訳じゃないわ。可愛らしい子か良い男限定よ。もう少し私が若かったら・・・大体ねえ―」
もの凄い言われようだ。完全にへこんでいる現水影を哀れに思いながら、本題を切り出す。
「それで、クーデターの首謀者の暗殺とその背後の存在を突き止める事でしたっけ」
一瞬にして二人が影の顔になる。先ほどの軽い雰囲気は微塵も無く、水影の名に相応しい冷徹かつ厳粛な空気に部屋が圧迫された。
「ええ。出来れば、拘束してください。我々としても、事を荒立てたくはない。今回の件はあくまで身内同士のいざこざですからね」
「生け捕りにしてくれれば、じっくりことこと料理できるもの」
事を荒立てたくないなら、裏で処理すればいい。自力で。でも、わざわざ暁に依頼したということはそれなりの理由があるんだろう。
「近々締結されることになっている、火・水・海・波の平和条約と何か関係が?」
水影の顔が険しいものになる。光る眼鏡を押さえながら返答する。
「流石に、把握しているようですね。和平条約に反対する有力者達が次々と殺されています」
「和平派ではなく、反和平派がですか」
「ええ。そしてその犯人は我々だと見せかけている人物がいます」
なるほど。つまり、水影たちは改革にのめり込む粛清者としての汚名と疑念の目が向けられている。だから、表立って動けないと。本来クーデターの首謀者は処刑が当然のはずなのに、拘束を優先するのはこれが理由か。
「状況は把握しました。この依頼お受けします」
「それが、少し状況が変わりましてね」
長十郎さんが申し訳なさそうな顔をする。状況が変わった?どういう意味だ。
「明日より数日の間火の国からアカデミー生が修学旅行に来ます」
「まさか」
「ええ。その中には火影のご子息、並びに有力一族の子供がいます。ここにいるかぐらと一緒に彼らの護衛も頼みたい」
ボルト。彼はいつも笑顔で太陽の様に明るく、負けず嫌いで仲間思い。周囲の皆を惹きつける忍。瞳を瞑ると木ノ葉での日々が思い返される。みんなで囲んだ鍋に忍バウト、ヒマワリちゃんとの人形遊び。どれも置いてきたつもりだった。
瞳を開き正視する。
「いいでしょう。その代わり、追加の報酬は弾んでもらいますよ」
*
水影室を辞しロウと手配された宿に向かう。宿へはかぐらが案内してくれるらしい。彼と年の近い僕は気楽に話しながら物珍しく道を歩く。ロウは黙って後ろをついてきている。
やはり木ノ葉より発展の具合が著しいようで目抜き通りの左右には先進的な建物が立ち並び、土産屋はもちろん洋服屋からレストランまで何でもある。中央に設置された噴水がライトアップされて美しい。
「それにしても、忍刀に後継者がいたなんて驚きだよ」
「そんな、俺には恐れ多いよ」
恥ずかしそうに頬を掻くかぐらを見ながら、謙虚な子だなとこっそり感心する。少し気にかかるのは、それが本心で言っている様にも聞こえることだ。身のこなしや手に出来た剣ダコは、如実に彼の努力と腕前を表している。
本気を出したらかなりの剣技を振るうだろう。
「他に同期以下で、もっと強い人でもいるの?」
「どうかな・・・そんなことより君だって若いのに水影様から直々に依頼を受けるなんて凄いよ。相当強いんだね」
この様子だと居ないな。ということは強さ以外の何かが彼の心でわだかまっているのかもしれない。
「運が良かっただけさ」
本当に運が良かっただけだ。ストップウォッチが後数秒鳴るのが遅かったら、初戦でドントさんに殺されていたし、スケアさんが居なかったら触手男に殺られてた。ダンゾウとの戦いでも兵糧丸が無かったら死んでいた。
過去に耽るリオンの様子に、触れてほしくない話だったかと勘違いしたかぐらは話を変えた。
「そういえばお腹がすいてない?俺、おいしい店知ってるんだ」
「何屋さん?フィッシュアンドチップスとか?」
「もしかして、馬鹿にしてる?」
「そんなまさか!」
そこの出店で見かけたから言っただけで他意は無かったんだけど、気に障ってしまったらしい。もしかしてフィッシュアンドチップス嫌いなのか?ごめんごめんと誤って許してもらう。
「ふふっ、別にそんなに気にしてないよ。それでどうする?」
確かに若干、お腹は減っているがもう少し散策したいと申し出てみる。彼最近は依頼や追い忍の相手ばかりしてたからな。たまにはゆっくり商店を物色して罰は当たらないだろう。
「おい、そんな呑気にしてていいのカ」
「木ノ葉のアカデミー生が来るのは明日です。せっかくの霧隠れですし観光でもしまようよ」
呆れて物も言えないロウも諦めたのか周囲に視線をやり始めた。せっかくだからゲンナイさん達に何かお土産でも買おうかと思案し始めるが、彼の喜びそうな物などここには売ってないだろう。バオさんはそこらへんのお酒でいい。
何と無しに並べてある品物に目を向けると忍バウトが置いてあった。懐かしさが込み上げてくる中手に取ってみたが、以前見たのと少し違うようだ。最新版か?
「ねえこれ買ってみんなでやりません?」
『水影は何を考えているんダ?』
『どういう意味ですか』
彼女の要請に応じチャクラ糸で意思疎通を図る。情報漏れを防ぐために、依頼に関する話はこれで話すのが決まりになっているのだ。
・・・さては良く分からない遊びに誘われたから話を逸らしたな。保守的な彼女は最近の遊びには全く食いつかないのだ。
僕は遠い目をしながら虚空を見る。
この前もゲンナイさんが開発してくれた連絡用の装置も直ぐに捨ててしまうし。砂フクロウに巻物を括り付けてよこしてきたし・・・敵の変化等による偽装対策に合言葉を決めようと言って、山・川なんて言った時の彼女の真剣な表情は一生忘れないだろう。
『この時期に問題が起きるのは拙いはずだ。火影の息子を受け入れるなど何かあったら戦争ダゾ。その上、よそ者にその護衛まで依頼してくるとハ』
『こちらとしては好都合じゃないですか』
僕の返答に訝し気な顔になるロウ。きっとはたから見れば無言で歩いていた男女の片方が突如不機嫌になったように見えるだろう。
『武闘派にとって今度の和平条約は何としてでも阻止したいはず。なら、その前に事を起こすしかない。時間の無い彼らにとって、火影のご子息の件は千載一遇のチャンスだ』
そう。ボルトは必ず狙われる。そこを抑えれば僕の勝ちだ。
*
空区。どこの国や里にも属していない廃墟群。誰もから忘れられたさみしい高層ビル群。住人は精々人外の猫や薄暗い事しかできない闇商人が少しばかりいるだけ。後は行く当てのない抜け忍だけだ。そんな彼らには暗黙の了解がある。
決して奈落に近寄るな。
空区のどこかにはあるらしい。ビルを押しのけるようにして口を開ける真っ暗な大穴が。もしそれを見つけたら今すぐ帰れ。人は言う。決して振り向いてはいけない。決して覗いてはいけない。もし捕まれば永遠にこの世から消えることになるだろう。
半ば都市伝説の様な扱いを受ける空区の大穴は実際に存在する。崩壊した無数のビルに囲まれて、一切の光を逃がさない深淵の奥。ゆっくりと底に潜っていく。果てしなく続くかと思われたその時、突如として巨大な赤い数字が暗黒の中で輝いた。
十六
奈落を塞ぐ様に、地獄の竈に蓋をするように、奇妙な金属の壁が穴を遮る。壁から奥には進めない。そしてその蓋には十六と赤い文字が浮かんでいた。
「未だに空間曲率が二十にすら達していないとは・・・如何なるつもりだホウイチ」
古の時代の公家が身に纏うような衣を召し、宝玉や糸を紡ぎ合わせた装飾があしらわれた冠を被った端正な顔をした男が僧侶を詰る。玉座に座し扇子で口元を隠す様は正に高貴そのもの。
だが、その鮮やかな色彩は見て取れない。闇の中に居るからではない。赤く光る男の身体が透けてぶれているからだ。虚像。男はこの場におらず、本当に存在するのは僧侶のみ。男と彼の周囲に並ぶ数名の人影は皆虚像だ。
ホウイチは男の前に跪き顔を上げない。そんなことをすれば貴重な命を失うことになる。
「申し訳ありません。この世界ならあるいはと思いましたが・・・恐れながら、贄を集めるのはもはや困難かと」
「その言葉は聞き飽きた」
スッと男の目が細まる。寸刻の間を置かずしてホウイチは苦しみだした。もがき喘ぐ彼がこと切れた後、深淵の影から新たなホウイチが現れた。
「ご安心くださいませ。帝よ。水の国での一件。上手く事が運びそうでございます。そして、仮にそれが潰えたとしても・・・この世界ではございませんが、手は打って有ります」
「良きに計らえ」
恭しく膝を折るホウイチであったが、彼の胸中には一人の少年に対する憂惧が確かにあった。帝と呼ばれた男が最期に言い放つ。
「空間曲率が百に達した時、世界は輪廻の輪から解き放たれるのだ」
*
「田舎だって聞いてたのに」
「木ノ葉より近代化が進んでるなんて」
ポケットに手を突っ込みながらあくまで冷静に呟く奈良シカダイに対して、雷門カンパニーの御曹司デンキは上ずった声で驚きの声を上げていた。
たらたら歩いたり、背伸びをしたり、キョロキョロと忙しなく首を動かす男子に比べ、直ぐに真面目に整列をする女子達。それでも高まるテンションを抑えきれないのか、隣の子とキャッキャとお喋りをするのは止めない。
菫色のおさげの少女、筧スミレがクラス委員長として皆を落ち着かせようとアワアワするしかなく、見かねた副修学旅行委員のうちはサラダがボルトの背をひっぱたく。
「いってぇなー。何すんだってばさ」
「あんた修学旅行委員でしょう。さっさと馬鹿男子どもを並ばせて」
背中をさすっている彼もまたクラスの満場一致という名の押し付けによって修学旅行委員になっていたのだ。しょうがねーな~とぶつくさ愚痴りながら渋々の仕事をする。
「これから霧隠れ側の案内人が来るからくれぐれも失礼のないように」
やる気のない委員と落ち着きのない生徒達の様子に頭痛を覚える油目シノ。そこに爽やかな好青年の声が響く。
「ようこそ霧隠れの里へ。今日から皆さんを案内する枸橘かぐらです。こっちは、才蔵」
「才蔵です。僕も皆さんを「きゃ~~!!」って、あはは」
霧の忍・才蔵ことリオンはアカデミー生の眼中に一切入っていないことに気づき、苦笑する。アカデミー生のとりわけ女子達の熱い視線はかぐらに集中していた。どの子も頬をおさえたり、手のひらを合わせたりしながら叫んでいる。
「あんこ先生~あの子だれですかぁ」
口元を両方の握りこぶしで隠しながら女の子が引率の先生らしき人に尋ねていた。紫色の髪を後ろでまとめており、鎖帷子の上に忍装束を着たふくよかな女性だ。
「水影の側近かぐら。あの子あんたたちとあまり歳変わらないのよ」
「うちの男子と全然違う~」
思わず口が緩む。前に木ノ葉に行ったときには見なかった顔も多々居るが、ボルトを始め懐かしい面々を見ると何か込み上げてくるものがあった。それは、自分がやったことに意味があったのだということを再確認できるからというのもある。だが、一番は自分が彼らの一員としてひと時の間ではあったけれども、友として過ごせた感覚を思い出すからかもしれない。
隣のかぐらが霧を代表して一歩前に出た。そして、見事な一礼。
「七代目火影、あの伝説のうずまきナルト様のご子息とそのご学友を迎え入れられることを嬉しく思います」
「や、やめてくれよ!!」
ボルトが恐縮して両手を上に伸ばしている。まあ、年上のしかも影の側近に頭まで下げられたら誰でも恐縮するか。しかし、彼はお辞儀し返すのではなく代わりに手を差し出した。
「親父のことなんか関係ねえってばさ。俺はうずまきボルト。ボルトって呼び捨てにしてくれよな」
「では、自分のこともかぐらと」
「よろしくな、かぐら」
がっちりと握手を結ぶ彼を見て流石だなと思う。僕も彼の家に訪問することになった時は随分その積極性に助けられたものだ。見習うべきなんだろうけど、なかなかできる事じゃないな。彼の爪の垢をどんとさんとロウに煎じて飲ませたい。
そこからは暫くの自由時間として里の観光をすることになった。各々グループを組んで散り散りに行動していく。勿論、かぐらと僕は案内役だ。そんな彼にこっそり話しかけられる。
「リオ、いや才蔵」
「どうしたの?」
かぐらの心配げな様子に何かあるのかと首をかしげる。
「霧隠れの案内なんだけど厳しかったら護衛だけしてもらって、後は後ろからついて来てもらっていいよ。ほら昨日ここに来たばかりだろう?」
「ああ。大丈夫だよ昨日のうちにあらかた頭に入れておいたから」
「え!?」
空いた一日で傀儡分身と視界共有して探索したので大体どこに何があるのかは把握しているつもりだ。影分身と以外経験が共有されないのが痛いところだけども。
「まあ、そんなわけだから適当にやっておくよ。こっちは任せといて」
「分かった。何かあったら連絡してくれ」
かぐらと別れた僕はひたすら生徒の記念撮影を取らされ続けている哀れな引率の先生の元に向かう。
「写真。僕が取りますので先生もいかがです?」
「すまない」
シノ先生と呼ばれている忍が一言礼を言って生徒の方へと向かう。僕が写真を構えると噴水の前で可愛らしくポーズを決めている女子達に囲まれながら若干居心地悪そうに直立した。滲み出る苦労と疲労のオーラに内心で合掌。
五人の内、直に会ったことがあるのはチョウチョウしかいないな。確かあの猪鹿蝶で有名な秋道チョウジの一人娘だったか。後は全く分からない。取り敢えず取り終えると、女の子の一人がお礼した。紫のおさげに紫色にリボンのついた忍装束と黒いストッキングをはいた少女だ。
「ありがとうございます!」
リオンは水影から事前に渡された資料から彼女の名前と顔だけは把握していた。後の四人はワサビ・ナミダ・うちはサラダ・先ほど礼を述べたのが筧スミレの四人である。
しかし長十郎さんも、もうちょっと充実した資料をくれても良かったんじゃないか?そんなこんな思っていると、一人の少女が声を上げた。
茶髪にツインテール。手のひらまで隠すほど袖の長い可愛らしい服を着ていた。もはや忍装束すら着ていない。右目の下の泣きぼくろがチャームポイントといった所か。
「あ~!!男子がかぐら君を独占してるんだけど!」
「あいつらの馬鹿がうつんなきゃいいけどな」
ナミダがほっぺを膨らませてプンプン怒れば、ワサビが相槌を打つ。二人は親友なのだが、相方のあまりのご執心ぶりにワサビは一見中立的なコメントを返した。だが、彼女の獣っぽい瞳はやれやれという本音を如実に物語っている。
親友から満足のいく返事がもらえなかったナミダ。結果として彼女の嫉妬の矛先は不幸なことにシノに向かった。木ノ葉屈指の蟲使いであっても、怒れる女の子の前では無力。
「先生、男子ばっかり案内されてずるいです。何かいってくださいよ」
「私からは何も言えない。なぜなら―」
「何かいってくださいよ!!」
「いや、だがな・・・ほらここにも案内の人はいるぞ」
自然とナミダの視線はスライドされる。僕を見ていることは明白。後ろを振り返るまでも無い。悲しいことだが、熱探知が厳しい現実を突きつけていた。
馬鹿な。初対面な上に他里の忍を売るだと!?
サッと視線をやる僕。スッと視線を逸らすシノさん。木ノ葉の突然の裏切りに呆然とするしかない。目まぐるしく回転する頭で現状把握に努める。
彼は僕と同じで色々ついていない側のはず・・・こっちが一方的にシンパシーを抱いていただけだったのか。いや、違う。向こうも抱いていたんだ。だから付け入れられた。こいつならいけるぞと。
「えっとぉ」
ナミダが僕に何か言おうとしている。一瞬どうしたのかと思ったが、直ぐに察した。
「才蔵です」
「あっ、才蔵さん。かぐら君って何か好きなものってありますか?」
アバウトな質問だな。そしていつの間にか消えているシノさんにいつか報いを受けてもらおうと決心する。
「好きな食べ物とか、趣味とかぁ、タイプとか!」
「趣味とかは多分剣の修行とかだと思うよ。タイプは分からないかな」
我ながら適当な返答だ。案の定彼女は不満らしくもっと問い詰めてくる。
「じゃあ、食べ物は?」
知るわけがないだろう。だが、知らないでは通させないという無言の圧力が覇気が彼女から解き放たれていた。
「フィ、フィッシュアンドチップスとかかな」
かくして新生暁のリーダー・うずまきリオンはアカデミー生を美味しいフィッシュアンドチップス店に案内する為、奔走することとなった。
空間曲率の話は捏造じゃなくて実際にナルト(ボルト)に存在する設定です。詳細は判明していないのですが、ウラシキ曰く「空間曲率が10を突破すれば、直ちに報告する義務があるらしいです」
カグヤはそれを無視したんだとか。