暁新伝《BORUTO編完結》   作:モリッチ

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少し長めです。一気にアニメ三話分進めました。分けようかと思ったのですが、5000文字程度では予想以上に話が進みませんでした。

よって、下手に分けるより話が動くとこまで一気に書き切ることにした次第です。


血霧という枷

 地元の忍に絡まれつつも自由時間は無事に終わった。一行は水影による直々の挨拶を受けた後、アカデミーの見学と相成る。

 

 プールの水深が数倍深くなったような訓練場。驚くべきことにほぼ全ての生徒達が水上で訓練していた。

 

 流石に忍刀を要する里だけはある。ちらほらとアカデミー生とは思えないほどに鋭い剣術を振るっている。

 

 ただ見物するだけかと思えば水影の提案によって木刀による模擬戦が始まった。組み合わせはボルトとかぐら。どちらの実力も気になる僕としては興味津々ではあったが、あくまで剣術の試合なのでボルトの方は本領が発揮できないだろう。

 

 あれから修行したのか危なげなく水に着地する彼に確かな成長を感じて口が緩む。自分の身体は時間が止まっているから、こうして世界が移ろっているのを見るのは面白くもあり嬉しくもある。

 

 そんな感慨に耽っていると、試合は膠着状態に入っていた。ボルトは相手との明確な刀の力量差を感じて動けないようだ。

 

 いい機会だと思って隣の水影に尋ねる。

 

「彼、強いですね」

「そうでしょう。なんせヒラメカレイの次期後継者ですからね」

 

 身内が褒められて鼻が高いのか誇らしげな水影。今のヒラメカレイの使い手であるこの人が言ったということを考えると、彼が忍刀を受け継ぐのはほぼ確定した事らしい。

 

「信頼しているのですね」

「ええ。彼は不幸な歴史を飛び越えて新しい未来を描く者として期待しています」

 

 不幸な歴史とは血霧の里のことを指しているのだろうか。その時代を懸命に生きた人からしてみれば、不幸の一言で片づけられてしまうとは文字通り不幸な事だ。それも、あろうことか水影本人に言われたとなればなおさら。

 

 ボルトが動いた。足払いで水飛沫を飛ばす。水を目くらましに一撃与えるつもりだろうが、上手くいかないな。試合ももうすぐ終了だ。水影も決闘の行く末が見えたのか、話を切り上げる雰囲気を出している。

 

「そういえば、彼は何か悩み事でもあるみたいですけど相談に乗ってあげてみては」

 

 一瞬、虚を突かれた顔をする長十郎。しかし直ぐに平常通りに戻った。

 

「彼の悩み事が何なのかは知っています。でもそれは自分で乗り越えるべきものです」

 

 なるほど。精神的なものか。そういう悩みに限って人は誰かに頼りたくなる。依存したくなるものだ。

 

 決着がついた。死角からのボルトの攻撃。それは完全に読まれ、一太刀で刀ごと弾かれる。だが、勝ったはずのかぐらは様子がおかしかった。

 

 心配げに声をかけるボルト。荒く息をつきながら木刀を握りしめている。こちらからは顔は伺い知れないが、動揺しているのは明らか。やがて一息ついて落ち着いたのか二人で談笑しながらこちらに帰って来る。

 

 シカダイやいのじんも思わず唸っていた。デンキに至っては目を見張って立ち尽くしている。

 

「さすが忍刀七人衆の候補だな」

「他に候補っていないんだよね」

「じゃあ、もしかしたら次の水影になるのもかぐら君なの?」

 

 男女ともに次期忍刀七人衆の剣技に感嘆しつつ、アカデミー生達はビーチに向かうこととなった。そこで暫しの小休憩した後、とある建物に着く。到着したころには空はもう夕焼け色で海や大地を照らしていた。

 

「これは昔霧隠れが血霧の里と呼ばれていた頃、卒業試験で殺し合いが行われていた場所なんだ」

 

 正面に聳え立つ建物は陽光を遮り、深い影を落としている。台形の闘技場の様な構造している煉瓦造りのそれは、どこか血の染み込んだ陵墓の様に感じた。

 

 自身の血筋もあるのか人並外れた思いを抱えているらしいかぐら。そんなかれが誰にともなく独白を始める。

 

「四代目水影の時代。里で血の流れなかった日は無かったと言われている。海風が張り付くような漁村ばかりで里全体が貧しかった」

 

 誰もが黙って彼の言葉を聞く。平和な木ノ葉で暮らしてきた人々には想像できない負の歴史。

 

「でも、長十郎様の代になって変わった。豊かで平和な暮らしをみんなが送れるようになった」

「かぐらさんは今の里が好きなんですね」

 

 サラダが切なげに感じたことを述べる。悲し気な笑みで返した彼は決然とした表情で前を見た。

 

「だからこそもう二度と血霧の里と呼ばれていた時代に戻るわけにはいかないんだ」

「そんなにいうほど昔の話か?」

 

 皆が一斉にイワベエに振り返る。殆どがキョトンとしていたが彼は構わず続けた。

 

「俺の爺さんは四代目水影だった枸橘やぐらに殺されたって聞いている。忍の世界だ。そんなこともよくあったろうよ。でも親父はじいさんを殺した霧隠れを許さねえってよく言ってた」

 

 スミレやデンキは同級生の知られざる過去に驚くばかり。他の生徒も口の挟みようのない重い話に押し黙ってしまう。

 

「すまない・・・」

 

 後ろめたい過去から目を反らすように謝罪するかぐら。いよいよイワベエは我慢の限界に達し憤る。

 

「なんでてめえが謝るんだよ。そういうとこがむしろムカつくなお前」

「おい、イワベエ」

 

 ボルトは思わず級友の肩を掴む。収まりが付かないのかイワベエはその腕を振り払い、気まずい雰囲気のままアカデミー生達は旧卒業試験場を去った。

 

   *

 

 同じく陽光差し込む廃ビル。その一室で干柿屍澄真は手下を集めていた。彼らのほとんどは地元の不良だが、下忍でもある。本来は旧卒業試験場に来るアカデミー生にちょっかいを出すはずだったがリーダーである屍澄真本人に差し止められていた。

 

 手下の纏め役である蜂谷は委縮しながらも、リーダーの本心を伺うべく顔を上げた。

 

「なぜ俺らを向かわせなかったのですか?」

「ああ。お前らにちょっかいを出させてお良かったけどな・・・護衛が居る限り返り討ちになるだろ」

 

 蜂谷は手厳しい言葉に薄い黄色い髪の天然パーマの髪を掻く。彼は元々かぐらの同期であったのだが、血霧の里に憧れて屍澄真に取り入ったのだ。当初は他の平和ボケした奴らとは違うんだと自尊心を満たしていた。

 

 しかし、自分のリーダーが本当にヤバい奴なのだと気づき始めた時にはもうどうしようもなくなっていた。髪を掻きながら引きつった笑みを浮かべる。

 

「そ、それならしょうがないっすね・・・あ、あはは」

「それにちょっかいを出すのが目的だったんじゃない。かぐらの様子を確認させるためだ。俺が行った時には、別の護衛が居たせいで会えなかったからな」

 

 屍澄真は目を細めてギザついた口を歪める。とても人間には見えないリーダーの風貌にヒィッと声が漏れた。

 

「少しは使えるかと思ったんだが、そうでもなかったようだな」

 

 屍澄真が腰の太刀をスラっと抜く。静かに一歩一歩近づいてくるリーダーに蜂谷は腰を抜かしながら叫んだ。

 

「ま、まって下さ―」

 

 コンクリートの床に赤いシミが飛び散った。

 

   *

 

 夜も更け上弦の月が空に浮かぶ。霧隠れきっての高級ホテルの一室で僕達は忍バウトをしていた。こっそり買った最新式の忍バウトがどうしてもやりたかった僕。物は試しにとボルトを誘ったところ大興奮し、そのまま皆でやることとなった。

 

「忍バウト!」

「もう!?」

 

 バウトの声を上げたデンキ。誰もが驚嘆する中、舌打ちを我慢する。迂闊だった。まさかこんなに早くバウトになるとは。やはり前のバージョンよりゲームスピードが速くなってる。今まで通りにはいかないな。

 

 というか、序盤に三回連続休みは痛すぎる。どれだけついてないんだ僕は。カードを指さしながらミツキが背後からボルトに声をかけた。

 

「このカードは出せないの?」

「いやもう終わりだって」

 

 あちゃーとカードを投げ捨てるボルト。敗戦続きのかぐらも納得がいかないらしくデンキに指さして意気込みを宣言する。

 

「次こそ俺が勝つ!勝ち逃げは許さないよ!」

「君ってそんなキャラだっけ?」

「あっ」

 

 いのじんのつっこみにかぐらは頬を染めている。確かにらしくない反応に見えたが、本当はこらが彼の素なのかもしれない。それほど彼の過去は枷となっているのだろう。手札は・・・悪くない。

 

「だろ?さっきまでの思い詰めた顔とは全然違うってばさ」

「キミたち…。ありがとう」

 

 礼を述べる彼の纏う雰囲気は初対面の時の刀の様なそれではなかった。しんみりとした空気になった所で、ボルトが明るく質問する。次に青が来る確率は二分の一。勝ったな。

 

「かぐらってなんで忍者になったんだ?」

「生きるためさ。貧しい暮らしから逃げるにはそれしかなかったんだ。でも俺にはやぐらの血が流れている。ずっとそのことで腫れ物扱いさ」

 

 カードを引いたり出したりしながら、みんなが静かに彼の過去を聞く。さっきは出なかったが今回は出るだろう。場に出たカードから逆算しても、確率的には四分の三。来る。

 

「ただ、そのなかでも俺のことを1人の人間として見てくれる人にも出会うことができた。でも初めての実戦訓練のとき・・・俺にやぐらの血が流れている・・・それは変わらないし変えられない」

 

 具体的な所を濁したが、おおよその事は推測できる。きっと彼は初めての実戦で相手の生徒を傷つけてしまったのだろう。彼は自分に流れるやぐらの血を忌々しい呪いとして見ている。三枚出しが理想だったが、青はもう諦めよう。

 

「以来俺は自分の心の声とずっと戦っている。二度と同じことを繰り返さないため」

「かつてのやぐらのようにかい」

 

 相槌を打つミツキ。どうやら彼もかぐらがやぐらと同等の所業を過去に犯したと考えているみたいだ。休の札か・・・まあ、しょうがない。

 

「血霧の里の記憶は罪は消えない。この俺のなかに流れる血のようにね。やぐらの罪は俺の罪だ」

 

「そんなの関係ねえだろ、俺は俺お前はお前。親父やじいちゃんなんて関係ねえ、決めるのは自分だ」

 

 まったく・・・ボルトらしい。彼の太陽みたいな笑顔は容易く人を救ってしまう。それはかぐらも例外ではなく、憑き物が落ちたような顔をしていた。山札からカードを引く。幻術か青が来れば勝つ。確率的にもここは引けるはず。

 

「ボルトはそればっかだけど、キミはキミで真面目で面白みないし自分を追い込んでただけでしょ」

「結論の出てることをいつまでも考えててめんどくさくねえのかよ」

「一生懸命案内してくれたかぐら君に、僕は感謝の言葉しかないけどね」

「まぁお前も色々考えていたんだな。その、さっきは悪かった」

 

 いのじん、シカダイ、デンキも笑顔になって声をかける。唯一、謝罪したイワベエはムスッとした表情をしていたが、毒気の抜かれた顔だ。中々、素直に誤れない奴なんだろう。二連続で休。確率的には二十五分の一。

 

「キミたちはなんで・・・」

「ダチだからに決まってるだろ」

 

 人は過去とはそうそう簡単に決着は着けられない。今回の護衛任務において彼の心の闇が顔を出すのではと思ったが、この分だと杞憂になりそうだ。

 

 ・・・遂に来た。幻術だ。これで二枚目。

 

「かぐらはやぐらの孫って言われるのを振り切って結果を出した。だから水影の兄ちゃんは忍刀七人衆に選んだだったら素直に受けりゃいいだろ」

「どんなゲームもやってみなきゃおもしろいかどうかなんてわかんねえってばさ!」

 

 手札に目を落とす。幻術が二枚に青が二枚。いける。この周が僕に回って来れば・・・この勝負、僕の勝ちだ。

 

「そうか・・・シノビバウト!」

「ちょ…ここで!?」

「いきなり!?」

「何がどうなってるの?」

「3枚出しは珍しいんだよ、チクショウ!」

 

 驚くボルト達以上に僕は驚愕していた。そんな馬鹿な。かぐらは初心者のはず・・・この三枚出しは意図的な物じゃない。なんて豪運だ。バサリと札が手から零れ落ちる。

 

 悔しがるボルトが吠えたその時、部屋のドアが音を立てて開く。サラダか、何をそんなに怒っているんだ?

 

「ボルト!夜の点呼の時間!」

 

 チラリと時計を見る。本当だ。時間を忘れるのは僕の悪い癖だな。

 

「いいじゃねえか点呼くらい。さぁもうひと勝負だ!」

「あんた立場わかってんの?」

 

 内心必死の抵抗を見せるボルトを応援していたが、彼と彼女の間には明確な力関係があるらしく今日のところはお開きとなった。

 

   *

 

 早朝。空高い青空に白い雲。素晴らしい天気だが、ここ霧隠れでは大抵これに薄もやが加わる。木々に囲まれた井戸の前で二人の男が話していた。

 

「久しぶりですね。キミにこうして水を汲んでもらうのも。で、どうですか?木ノ葉隠れの里の皆さんとはうまくやれてるかな? 」

 

 白いタオルで顔を吹きながら長十郎は親し気に声をかける。しかし、相手の表所はいつになく真剣だ。

 

「俺は思い出したんです。かつての自分の思いを。長十郎様。ヒラメカレイの候補者の試しですが、お受けしたいと思います」

 

 かぐらの言葉に水影も顔を変える。どこか遠くを眺めながらおもむろに過去を話し出す。

 

「キミが生まれる前第四次忍界大戦と呼ばれる戦いがありました。その戦いにおいて忍連合軍は総数の1/5以上を失いました」

「それを終わらせた先代と長十郎様を俺は心から尊敬しています」

 

 賛辞の声を長十郎はピシャリと否定する。彼にとって若い世代に戦争が個人の力でどうこう出来るものとは思ってほしくなかったからだ。ましてや、自分がやったなど認められない。

 

「亡くなった多くの忍によって成し遂げられたことです。そして彼らは皆未来を信じてました。すべての里が手を取り合える未来を」

 

 ヒラメカレイを受け継ぐ忍には、犠牲になった人々の遺志も受け継いでほしい。そんな思いと共に彼をこの言葉をかぐらに送った。

 

「だから僕はヒラメカレイを未来を担う若者に預けたいと思っています。散っていった人たちと共に」

 

 そう言って水影は託した。忍刀の鍵を。

 

   *

 

 水の訓練場。そこでかぐらは忍刀を振るっていた。ただの忍刀ではない。

 

 ヒラメカレイ。

 

 かつて各国を震え上がらせた忍刀七人衆が一振り。大双刀とも呼ばれるヒラメカレイは、チャクラによって切れ味・形状、果てには分裂まで可能な業物だ。

 

 熱心に修行する彼のもとにボルトが現れた。早朝だからかまだ眠そうに眼を擦っている。

 

「なんだよ。こんな時間に呼び出して」

「すまない。真っ先にこれをキミに見せたかったんだこの刀を継承するということは里の未来を担うということなんだ。ボルト、キミのおかげで決心がついたよ」

 

 爽やかで晴れ晴れとした声。そんな素直な感謝の言葉に思わず照れたのか、ボルトは頭の後ろで腕を組む。

 

「俺は何もしてねえってばさ。ま、かぐらがリーダーになるんだったらいい里になるだろ。俺が保証してやるってばさ。にしてもすげえ刀だな」

 

 ニカッと笑うボルトにつられてかぐらも笑い出す。だが、そんな明るい時間は唐突に終焉を迎える。

 

 訓練場に張られた水。その表面を水飛沫を上げながらチャクラが走る。異変に気づいた時にはもう遅い。チャクラが二人を円状に囲む。次の瞬間、水牢は完成した。

 

 水遁・水牢の術。対象を水球に捉えることで一切の身動きを封じる。彼らを覆うすそれは、有無を言わさず訓練場の二階まで連れていく。

 

 そして遂に、二人は二階の見物席に立つ男を目の当たりにした。予想だにしなかった顔にかぐらは息を呑んだ。

 

「屍澄真さん!?」

「あんた港で会った・・・」

 

 ボルトには見覚えがあった。路地裏での一件が彼の脳裏にフラッシュバックする。あの時は、相手の速さについて行けなかった。幸い攻撃こそされなかったが、今回は果たしてどうなのか。警戒の面もちで様子を伺う。

 

「干柿屍澄真ってんだ。昨日はうちの使いっ走りが迷惑をかけたようだ。すまない」

 

 謝罪の言葉と同時に水牢が掻き消える。当然二人は二階から落下することになるが、その程度の高さで着地に失敗することは無い。

 

「で、何の用だ?今の歓迎笑えねえけど」

「屍澄真さん!あなたは任務中の問題行動でまだ謹慎処分の身のはず。それを・・・」

 

 鮫の様な肌。鮫の様な瞳。水色の霧隠れの忍装束を真っ赤に染めた屍澄真の服は、明確に男の立場を表していた。霧隠れか血霧かを。

 

「謹慎ってのは自分から破るもんなんだぜ。それに・・・もう今の水影の命令に従う義理もなくなるからな」

「どういうことですか?」

 

 自分の上司である忍の言葉。しかし、かぐらには彼が言わんとしていることが露ほども分からなかった。いや、分かろうとしなかった。理解から逃げる彼に屍澄真は決定的な言葉を放つ。

 

「決まってるだろ?尊厳を取り戻す戦いの時が来たんだよかぐら」

 

 忍は二階から飛び降りた。仕掛けてくるのかと反射的に退避する二人。が、予想を裏切り彼はゆっくりとその顔を上げるにとどまった。鋸の如き歯がカチカチと開閉す。そして、時は来た。

 

「お前が忍刀を手にした今その時が来たのさ。火影の息子を斬って宣戦布告だ」

 

 呆然と打ち砕かれるかぐら。しかし、ボルトの方は真っ先に反論した。友情と正義感が彼を突き動かす。

 

「なに言ってんだてめえ!誰が戦争なんか」

「そうです屍澄真さん!せっかく世界は平和への道を歩み始めたんだ。俺はこの忍刀をそのために使います」

 

 ボルトの言葉に正気を取り戻したかぐら。彼は屍澄真に迫り寄って自分の意思を述べる。だが、男はさらなる毒を盛った。

 

「平和だと?照美メイや長十郎にそう吹き込まれているだけなんだよ。お前は」

 

 信頼し尊敬する人を陥れ。

 

「全部方便なんだよ!長十郎は今のやり方にあてはまらない人間は全員排除するつもりだ」

 

 霧隠れの影を浮き彫りにし。

 

「戦争の傷が癒えずに苦しんでいる連中はごまんといるんだ」

 

 過去の苦しみを知らしめ。

 

「知らねえとは言わせねえぞ。俺は知ってる。かぐら…お前こそが誰よりも苦しんだからな」

 

 かぐらは引きずり込まれていく。過去へと。思い出させられる。アカデミー生だった頃だ。初めての真剣を用いた訓練の最中。相手は降参したにも拘らず、同じ同期を切りつけたことを。そして、刀は血を流させた。稽古相手を自分から庇った屍澄真の血を・・・流させたのだ。

 

 混乱、動揺、狼狽。無残に喰いあさられた心を何とか抑え込み、かぐらは後退り叫ぶ。

 

「ずっと俺をかばってくれたことは感謝します。でも今のあなたに従うことはできません!これ以上問題行動を続けるようなら俺はあなたを罰しなければならなくなる」

 

 男は嗤った。手を広げ歩み寄る。蛇に睨まれた蛙の如くかぐらの身体は硬直して動けない。

 

「罰を受けなければならないのは長十郎のほうだ。長十郎は刺客を使って反対派を斬っている」

 

 そっと近寄った彼はかぐらの耳元で囁く。囁き続ける。

 

「血霧の里の変革が穏便に進むわけなんかないだろう。涼しい顔してな裏ではちゃんと強行してんだよ」

 

「なによりも証拠に霧隠れ慰霊碑に俺の一族の名前はねぇ。現体制は都合の悪いものはなかったことにしようとしてんだよ」

 

「お前の家族もだろ。俺たちはそんな連中の無念を晴らすために革命を起こすんだよ」

 

 崩れ落ちるかぐらに屍澄真は最後の一押しをせんとす。忍装束をガバッと広げた。

 

「さあこいかぐら!」

 

 露出したのは痛々しい傷跡。上から下に斜めの一閃。それはかつてかぐらが切りつけた際に出来た忌まわしき過去の象徴。血霧のやぐらの血を受け継ぐ証。

 

「お前がつけた傷だ。どんなに体よく取り繕ってもお前はこっちの側なんだよ。さあ、火影の息子を殺せ!」

 

「茶番はここまでだ」

 

 暁の外套が空を舞い、赤髪がふわりと揺れ動く。夢を見ているのかと錯覚しそうになるほど希薄な気配。なのに、膝を屈したくなるような圧が三人の中心に顕現する。

 

「誰だ?」

 

 屍澄真は怪訝な顔で少年を見た。おおよそ人にしては、血が通っているようには見えない。むしろ人を超える神秘性を持った人形でも目の当たりにしている気分。そんな気持ちに男は囚われた。

 

「あなた達は三つ勘違いをしている」

 




次回、雫と坊さんを出せるかも。
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