V's If-Story:ScalePowder of WhiteMoth 作:よしおか
ようやく更新できましたが今回短めです。うごご。
時間を少しばかり遡って、咲森学園の校長室。襲撃の日から部屋の主たる人物が姿を消したその場所は現在、人道支援の指揮を取る為ARUS月周回軌道軍に同伴してきた、ARUS上院議会の議員を迎えるための応接室として使われていた。
リオンに連れられて校長室を訪れたハルトは、入口に控えていた軍人によって室内へと通される。
応接用のソファにゆったりと腰かけていた若い男はハルトの姿を見ると腰を上げ、にこやかに微笑みながら声を掛けてきた。
「やあはじめまして、君が時縞ハルト君か!」
「は、はい。初めまして……フィガロ、えっと」
何と呼べばよいのか解らずに黙り込むハルトに、一拍置いてリオンが耳打ちする。
「……上院議員」
のっけからやらかした、とぎこちなく笑うハルトに、名を呼ばれた上院議員……フィガロ・エインズレイは穏やかな笑みを崩さぬまま握手の手を差し出した。
「政治家と話すのは初めてかな? 君が戦ったドルシアの兵士に比べれば、私なんてかわいい物だよ」
フィガロはあくまでジョークのつもりだったが、ハルトにとっては考えたくも無いことを的確に思い出させるキーワード。俯き、眉を八の字に曲げてしまったハルトをどう思ったのか、フィガロはテーブルに置いてあったパソコンを持ち上げてハルトとリオンに見せる。
「それに、注目度で言えば今の君の方が数倍は上だよ。これを見てくれ」
ノートパソコンに映し出されたのは、『WIRED』のトップページ。検索バーのトピックスに並ぶ「ジオール ロボット 時縞ハルト」の三つの単語が太字で強調されていた。
なぜ自分の名前が、とハルトが疑問を口にする前に、フィガロは画面上のハルトの名前をクリックし、動画検索を掛ける。
ARUS国内の会社が運営する大手動画サイトに、ヴァルヴレイヴ一号機の戦闘映像がアップロードされていたのだ。
「あ、これって」
「角度からして恐らく、監視カメラの映像だろう。アップロードしたユーザー……『RAINBOW』は、この学園の防犯システムに関わりのある人物のようだね」
思わず声を上げたリオンに応えるフィガロ。次に彼が指し示したのは、そのページの右側に位置するツィッターのコメント欄だ。
『そもそもなんでこんなロボットがジオールにあるんだ』
『ARUSもはやくこんなの作れよ
ジオールが落ちたら次はアラスカかニューヨークがヤバいんだぞ』
『簡単に言うなよ
こんなのほいほい作れれば今頃ARUSが世界統一してるわ』
『技術系の俺の見立てだと火力はともかく実は関節がヘボいと思う
こんな変態機動するロボットを簡単に作れる訳が無い』
『↑ヘボ技術者の僻み乙』
リアルタイムで更新されていくコメント欄では、この映像を見た世界中のユーザーが思ったことを各々好き勝手に書き連ねている。“呟き”の名が示す通り、深い考えも無く書き出されるそれは時に口論のもとになったりしながら、数秒と間を置かずに数を増やしていく。
『なぁやっぱりこれデマなんじゃね?』
『なんでだよ
現に映像が出てるだろ』
『だってそうだろ
こんなものがあるなら何でジオールは首都に配備してないんだよ』
『それにパイロットも結局音沙汰なしじゃないか』
『時縞ハルトだっけか?
あの写真晒されてた高校生』
『ロボットのパイロットやりながら高校通ってたとかアニメの主人公かよ』
『しかもこの咲森学園って新設校だけど、国立のエリート校だぞ
二年前から全国模試とスポーツ大会には必ず上位に名前が挙がってる』
『↑嘘つくな
二年前って一年生しかいないだろが』
『↑だからおかしいんだって
この高校、一年生に全国模試受けさせてる
そんで上位に名を連ねてる』
『ちょwwwFラン高校の俺涙目過ぎるwwwwww』
『そんなパーフェクトな人間が居て堪るか
やっぱり時縞ハルトは二次元の人物なんだ』
「……いや、そんなこと言われても」
「ネットって怖いねぇ」
しばしツィッターの画面を目で追っていたハルトは、突如として火が付いた“時縞ハルト=非実在青少年説”に軽い頭痛を覚え、こめかみを押さえる。隣でそれを見ていたリオンは呑気に呟くだけであったが。
「良かったら何か一言、書き込んでみるかい?」
フィガロの提案で、ハルトは自分のアカウントからツィートすることになった。といっても、普段からサイトを眺めることは有っても書き込みなど殆どした事の無いハルトは、どういうコメントをすれば良いのか悩んでしまう。
結局無難に、自分の名前と無事であること、ARUSの艦隊に助けられたことなどを簡潔に纏めて書き込む。
―――すると。
『生きてた?』
『マジ? 本物!?』
『心配したよー!』
『SAMURAI is Back!(サムライのご帰還だ!)』
『やるじゃん、うちの国も』
そこからはもう、所謂“祭り”状態である。通常の表示だけでは更新と表示が追い付かなくなったツィッターは
同時刻に放送していた臨時ニュースではハルトの生存が特報として大々的に伝えられ、ワイドショーの番組スタジオに居合わせたタレントが歓声を上げる。
遠く離れたARUS国内のサッカースタジアムではサポーターたちの熱狂の渦の中、著名な得点王がハルトの活躍に敬意を表し、是非とも自分たちの試合に招きたいと宣言した。
「わ、すっご……フレンド登録がこんなに」
画面に表示されたハルトのアカウントには、先日と同じくフレンド申請のメッセージが次々と寄せられる。特に設定を弄ってもおらず、フレンド申請は自動で受理するように設定していたハルトは、今や世界人口の約3分の2と“友達”になったことになる。
「そら見たまえ。メジャーリーグの得点王にベストセラー作家、果てはうちの大統領ですらも君のフレンドだ。世界中が君の戦いに注目していたんだ」
「……だから、これからも戦えって言うんですか」
人を殺して有名になるなんて、と自身の人気爆発を未だに喜ぶことの出来ないハルトは当て付けがましくフィガロに向かって問いかける。
どうせこの人も、ロボットに乗って戦える自分を戦わせようとするのだろう。そう思っていた―――それだけに、次にフィガロの口から飛び出した言葉は、ハルトにとってはとても意外なものであった。
『逃げる?』
時は戻って、再び医務室。元の身体に戻ったミツル、目を覚ましたキューマ、二人に睨まれても全く動じなかったサキの三人は、ハルトの言葉に声を揃えて問い返した。
「うん。フィガロさんが言うには、月の中立地帯まで逃げ込めばドルシアは手出しできないって」
「そっか、『静かの海条約』を盾にする訳だな」
合点がいった、とばかりにキューマが挙げたのは、現在ほぼ全ての国家で締結されている平和条約だ。
暦の名前が変わってから数十年。二度の宇宙戦争を経験した人類は本格的な宇宙開発を推し進める為、幾つかの約束事を取り決めた。
ダイソンスフィアの配置・運用の条約。
地球、スフィア間のスペースシップの行き来を管理する宙航法。
そして、月面付近を対象とした戦闘行為禁止法。
当時宇宙開発の最前線フロンティアであった月面都市で取り決められたこれらを総称して、『静かの海条約』と呼ぶ。
「中立国家にいきなり攻め込んでくる国が、そんなの律儀に守るかしら」
「考えすぎだろ。奴らだって世論は怖いんじゃねーの?」
「ともかく、その為にこれから全校放送で呼びかけて、避難の段取りを伝えようって話だったんです。ミツルには僕と一緒に、皆の避難指示をして欲しいって」
言い合うサキとミツルに向かってハルトが言ったのは、先程フィガロから頼まれたことだ。
現在、学園の生徒達から熱狂的な支持を集め、またいざという時に先頭に立って戦える二人が呼びかければ、避難に消極的な生徒達も納得するだろう、というわけである。
「避難は今から五時間後。今学園に残ってる生徒全員を、順番にARUSの戦艦に乗せるんだそうです。僕とミツルが戦艦の護衛をするってことで」
「俺とハル先輩で、ですか?」
「うん。他にもARUSの戦闘機部隊が支援してくれるって」
「それなら心強い。流石に二人だけじゃキツイですもんね」
また二人だけであの大軍を相手にするのは御免だ、とミツルは胸を撫で下ろす。話がまとまったところで、声を上げたのはキューマだ。
「なら、それまでに寮の私物なんかは纏めておいた方が良いな。小さい物とかなら持ち込めるだろ?」
「……犬塚先輩、何持ち込む気ッスか」
「そりゃお前、通帳とか印鑑は大事だろうよ。俺のバイト代ようやく20万円溜まったところなんだぞ」
「……ジオールの通貨って、まだ使えるんですか?」
「あっ」
ハルトからの鋭い指摘に、びしっと身体を強張らせるキューマ。
高校生の身に20万円の損失はあまりにも大きい。膝から崩れ落ちたキューマに何と言って良いのか解らず、ミツルとハルトはひとまず解散することにした。
保健室から廊下に出て、心なしか背中を煤けさせたキューマと、次いでハルトと別れ、ミツルは教室に戻ろうと踵を返し―――
「あれ、流木野?」
隣に立っていたサキが、去っていくハルトの背をじっと見つめていたことに気付いた。
「ハル先輩がどうかしたか?」
「……ねえ、本当にドルシアから逃げるの? モジュール77を捨てて?」
そう言いながらサキは、ミツルの顔を覗き込むようにして詰め寄る。
つい先程言い負かされたとはいえ、容姿の整った女生徒にいきなり接近されたミツルは胸をどきりと高鳴らせるが、一歩後ろに下がって呼吸を落ち着かせると言い聞かせるように口を開いた。
「捨てるも何も、ここに居てもどうしようも無いだろ。さっきハル先輩も言ってたじゃねえか、ARUSが同盟国として助けてくれるんだったら、乗っかった方が確実にみんなが助かるんだ。そもそもここに残って何しようってんだよ」
「ARUSのスフィアに着いたら、保護だの研究だの言ってあのロボットも取り上げられちゃうかもしれないのよ? 成り行きとはいえあんたの機体じゃない。悔しくないの?」
「同盟国なんだからおかしくはないだろ。それに、元々俺のじゃなくて国の物だし、あんなのに乗ってたら命が幾つあっても足りないよ……お前さ、なんでそんなにヴァルヴレイヴにこだわるんだよ」
サキの質問の意図が見えず、苛立ちを露わにしながら問い返すミツル。命が幾つあっても、というのは実際のところ今の彼には適用されない言い回しなのだが、それを考えないようにしていたミツルは自分の発言がおかしなものである事には気付かなかった。
「……なんだって良いじゃない」
「いや良くねーよ」
「もう良いわよ、私の見込み違いだった」
「はぁ?」
素っ頓狂な声を上げるミツルに構わず、サキは髪を掻き上げるとその隣をすり抜ける。
足早に去っていくその背から真意を読み取ることは、ミツルには出来なかった。
「ったく、意味わかんねー」
サキに置いて行かれる形になったミツルは暫し廊下に佇んでいたが、ややあってぶらぶらとそこらを歩くことにした。好奇の視線にもいい加減飽き飽きしてきたところだったし、教室に集められて聞かされる話を、たった今ハルトから聞いたばかりである。わざわざ教室に戻る気にもならなかったのだ。
窓から見える校庭には工事車両が何台も入っており、窪んだ地面や崩れた校舎を直すために作業を進めている―――と、そこで疑問が生じた。
(……あれ? モジュール77は捨てて逃げるんだよな。なんで校庭の工事なんてしてるんだ?)
つい今しがたサキに詰め寄られた際の問答の通り、自分たちヴァルヴレイヴのパイロットはこれから、生徒たちを逃がすため、ARUSの宇宙船に彼らを誘導しなければならない筈だ。
ARUSとて、今はその準備に追われているだろう。では何故、校庭に“クレーン車がアームを伸ばし、トレーラーが並んでいる”のだ?
『あんたが思ってるより汚いモノよ、大人って』
脳裏を過るのは、つい先ほど言葉を交わした女生徒の、吐き捨てるような声。
「……まさか、な」
なんとなく見過ごすことが出来なかったミツルは、一階の廊下から中庭に出ると、作業に当たっていた軍人たちに近付いた。
すると、クレーンの先端からワイヤーが伸びたその先に、大きな穴が空いているのが見える。ミツルはその穴が、自分のヴァルヴレイヴが収まっていた地下施設の一部だと見て取ることが出来た。
「あの」
なるべく普段通りの喋り方を心掛けながら、クレーン車に指示を飛ばしていた女性軍人に話しかける。
「ん? ああ君、ここは危ないからあんまり近付かないでね」
「これ、何してんですか。もうすぐモジュール77を離れるのに、工事なんかしても意味ないんじゃ……」
「ああこれ? 脱出の時に使うあのロボットの武器を探せっていう上からのオーダーよ」
「……ヴァルヴレイヴの、武器を?」
初めて聞くその言葉に、ミツルは目を瞬かせる。
ハルトが自分に伝え損ねたのだろうか? いや、その可能性は低い。ハルトと上院議員の会談は十分程度のもので、その内容も脱出作戦の際のハルトとミツルのやるべきことに終始していたという。そんな短い間に聞いた話を忘れるほど、ハルトは間が抜けた男ではない。
―――では、自分にもハルトにも知らされていない?
(流木野の話じゃないけど、何か引っかかるな)
一方、“ロボット”と聞いただけでヴァルヴレイヴの名前を言い当てて見せたミツルに、作業の指示を出していた女性軍人は興味深げな視線を向ける。
「……そういえば、時縞ハルトくんと一緒に
「あ、ああ。一応俺が、あの白いヴァルヴレイヴのパイロットですけど……」
「へえ、君が!」
言うや否や、女性軍人はミツルの小柄な体をしげしげと見回す。好奇の視線ともまた違う、品定めされるようなそれがむず痒く、ミツルは思わず数歩後ずさった。
「うーん、見た感じふっつーの男の子だけどねえ。ジオール政府の考えてることってのは解らないなぁ」
「政府の考えてること?」
「うん。だって君、まだ高校生でしょ? なんだってジオールはわざわざ、一般の学生から機動兵器のパイロットなんて選んだんだか」
まともじゃないよねーなどと言いながら、女性軍人は手にしたクリップボードへと視線を移し、何事かをボールペンで書き込んでいく。
ミツルはと言えば、政府から正式に選ばれたわけじゃないんだけどな、と胸中で呟きながら、目の前で行われる工事を何とはなしに眺める。やがて大穴から、クレーンのワイヤーで固定された大きな物体が姿を現した。
「なんですか、コレ」
「んー……デカくて解り難いけど、長物かね」
「長物?」
「銃だよ、長距離銃。ゲームとかやる子にはロングレンジ・キャノンって言った方が解りやすいかな」
「や、俺あんまりテレビゲームはやらないから……」
全長十数メートルの細長い物体は、四角い機関部から丸い柱状の銃身が飛び出した長大な銃だった。先端である銃口の下には透き通るような刀身を持つ鋭利な刃が付いており、それが一号機の刀と同じく、ヴァルヴレイヴが持つ為に作られた刃物なのだと見て取ることが出来る。
「形からして、相当初期に作られたみたいだね。さっき見つかったのに比べて随分と形状が野暮ったい」
「そんな事まで解るもんなんスか……っていうか、さっき見つかったの、って?」
「君が来る前にも別の銃が見つかったんだよ。あっちはもう、正しくトンデモ兵器だったね。拳銃を中心に、武器がいくつも合体するバカみたいな仕様の。作ったやつは絶対に、今でも休日のヒーロー番組を欠かさず見てるようなガキっぽい奴だよ」
「なんだそりゃ……」
その言葉にミツルは、小さい頃母にいくらせがんでも結局買ってもらえなかったヒーローの合体武器の玩具を思い出した。先程の話題に出て来た武器を頭の中で勝手に五色に塗装しながら、うちの国の国防軍って随分カラフルなものを作るんだなぁ、と胸中でごちていると、ワイヤーを外された長距離銃が丁度、地面に下ろされたところだった。
「これ、俺か先輩が使うことになるんですよね」
「恐らくは君の方だと思うよ。さっきの合体銃は赤い方とカラーリングが統一されてたから、そっちに使わせるんじゃないかな」
「マジか……うっへぇ、狙撃銃なんて触るどころか見たこともねーよ」
上手く扱えればいいのだが、とその巨大な塊を見つめるミツル。
結局その直後、次の作業を始めるということでミツルはその場を追い出されてしまうのであった。
同時刻、咲森学園の地下。モジュール77の宙港区画から、一人の少年が姿を現す。
少年は学園の制服に身を包んでいたが、彼が決して一般人などで無いということは、袖口の返り血と、手にした拳銃が如実に物語っていた。
頬に数滴着いていた血飛沫を拭った少年は、無重力エリアの床を蹴って目的地を目指す。
(接触すべきは赤いヴァルヴレイヴのパイロット、時縞ハルト)
ARUSの拘束を脱した銀髪の少年―――エルエルフは、自身の現状について可能な限り情報を集めた後、新たな目標を定めた。
その為にまず彼が優先したのは、二人のパイロット、即ちミツルとハルトのどちらかとの接触。
戻れないから仲間にしてくれなどと請う心算はない。新たな目標を叶える為、あくまでエルエルフが彼らを利用するのだ。
脅迫の手段はいくらでもあるが、最善なのは彼らがエルエルフに利用されるのを受け入れること。交渉を経ての契約が理想形だ。
そして、その成功率が高いのは―――戦う理由や為人、そして胸の裡の葛藤をエルエルフに見せてしまった、時縞ハルト。
(あの男はごく個人的な理由で戦いに身を投じた。ならばその理由を、譲れぬものを守る手伝いをして見せれば、賢い選択をする)
ショーコ、と名を呼んだ誰か―――恐らくは、異性として慕っている人間だろう―――を守るプランを幾つか示せば良い。
エルエルフにとって、大義の為に戦う人間なんかよりも個人的な理由で戦う人間の方が遥かに判りやすく、御しやすい。
何よりそういった手合の思考をコントロールしてやるには、“エルエルフが自分を律する方法”がそっくりそのまま適用できるのだから―――
(……今、俺は何を考えた)
ふと脳裏を過った自嘲的な言葉を、苦み走った顔で噛み潰す。
冗談ではない。平和を守るという曖昧な綺麗事を実践するため、戦うことを放棄した国の民が、自分と同じである筈がない。
エルエルフ=カルルスタインという少年を構成するのは、幼き日の二つの誓い。自らに課した二つの戒め。
生きる為に殺せ。そして必ず、“彼女”の許へ辿り着け。
それがある限り、エルエルフは戦い続けることが出来る。
ドルシアを追われたエルエルフにとって、ジオール人は未だ『仲間』でも、『敵の敵』でもない。“彼女”に捧げると誓った自分の命と同様に、目的を果たすための『駒』に過ぎないのだ。
(忘れるな、“ミハエル”。お前には仲間や友達なんて作る資格は無い。そんなものはあの時、俺達五人で捨てた筈だ)
無重力エリアの壁を蹴り、天井近くのゲートへと向かうエルエルフ。一際強く壁を蹴ったのは、己の弱音を蹴り殺したかったからだろうか。それを知る者は、彼以外には居なかった。
「なんだアリヒト、おめぇも来てたのか」
聞き慣れた声を背後から掛けられて、茶髪に金のメッシュを入れた少年……ミツルと同じ一年三組の男子生徒、護堂アリヒトは左胸に当てていた手を降ろした。
「ちっす、サンダーさん」
振り返ったアリヒトが軽く一礼したのは、一学年上の先輩でアリヒト達のようなヤンキーを束ねる咲森学園の番格、山田ライゾウだった。
つい先日ドルシアの歩兵たちによって散々に痛めつけられたライゾウだが、持ち前の体力故か既に体調は回復し、舎弟達を率いて犠牲者の埋葬に食料品集めなど、無計画ながらも彼なりに動いていた。
アリヒトの隣に立ったライゾウは、その場に並ぶ石塔に向かって合掌し、静かに祈る。簡素ながらも彼らが心を込めて積み上げた石塔の下には、襲撃の際にライゾウを庇って命を落とした、二人の共通の友人が埋葬されていた。
「……やっぱ、納得いかねえッスよ」
黙祷を終え、伏せていた視線の高さを戻したライゾウに、アリヒトは不機嫌そうな声で話しかけた。
「あのロボットがあればノブさんの仇だって取れるのに、時縞ハルトもミツルも、ARUSの連中と一緒に逃げようだなんてさ」
ARUSの決定に、アリヒトを始めとした“サンダー組”の面々は納得などしていなかった。
親しい友人を、同じ学校に通う仲間たちを何人も殺し、自分たちの学校に土足で踏み入ってきたドルシア軍。その仕打ちを忘れることなど出来ない。
なのに彼らはドルシア軍に報復をする事すら許されず、難民としてARUSに保護されることになったのだ。
冗談じゃない、ここにはまだあのロボットがある。ARUSに任せたくなどない、俺達が戦う。
息巻く彼らであったが、それ以外の生徒達は戦地となったモジュール77から脱出できると知って大喜び。これで助かるんだと涙を流す生徒達を前にして、とてもではないが他の生徒達を巻き込もうという気にはなれなかったのだ。
かといって、少々オツムの密度が残念なサンダー組は、自分たちだけで戦う為に何をすればよいのか皆目見当がつかず。結局アリヒトを始めサンダー組のヤンキー達は現状への文句を、こうして仲間内で話す事しか出来ないのだった。
「ああ、そーだな」
憤懣を隠すつもりも無いアリヒトの言葉に適当な相槌を打つライゾウは、持参していた缶ビールの栓を開けて友人の墓に供える。学校の寮で教師たちに隠れて共に飲んだ、お気に入りの安酒だった。
「……サンダーさん、俺、やっぱりミツルのところに行って、話してみますよ。やられっぱなしで黙ってるなんて性に合わねえ、せめて一発ぶちかましてやらなきゃ―――」
「アリヒト」
供え物を並べて腰を上げたライゾウは、子分の言葉を遮って口を開いた。
「その話、俺が行くわ。おめぇはあのロボットのパイロット二人に、渡り付けて来い」
常以上に鋭く細められたその視線には、轟々と燃え盛る炎を宿し。血管が浮くほどに握り締めた拳からはギリギリと音を立てながら。
山田ライゾウは静かに怒り狂っていた。
エルエルフ「アイルビーバック!(デデンデンデデン)」
文中に出て来た狙撃銃はオリジナルの物ですが、実際にヴァルヴレイヴのプラモに持たせられるようにジャンクパーツから適当に組み上げて、どんなポーズ取らせるかとかモデル人形宜しく動かしながら書いております。本体の方も完成したらどこかで公開したいですね。
これまた文中に書いておりますが、見た目と運用方法がどことなくSVDドラグノフに近い物になりました。多分私の趣味です(待て)。