V's If-Story:ScalePowder of WhiteMoth 作:よしおか
その生物の存在を思い出したのは、一学年上の先輩が先ほど自分たちの前で狂態を見せた次の瞬間だった。
流木野サキは自身が文学少女であると自負している。
幼少の頃、アイドルとして大成する前。家庭にも学校にも自身の居場所を見出せず、落書きをされた教科書を手に泣きながら小学校の校舎を彷徨っていたサキは、偶然施錠されていなかった図書室へと逃げ込んだ。
ゴミと空の酒瓶ばかりが転がる家で両親から隠れるように育ったサキにとって、本―――とりわけ童話や小説というものは未知の物体だった。
ヒステリーを起こした母が自分に投げてきた古い電話帳などとは全く違う、高級感あふれる装丁。日本語の教科書以外ではあまり使われなくなった縦書きの文字の中には、ここではない遠い場所の景色が克明に描かれ、過去、現代、未来の違いはあれど語り手たる主人公が見る世界は、夢と希望と冒険に溢れていて。若干八歳にして『現実』というものにほとほと嫌気が差していたサキがそれに夢中になるのは、至極当然のことだった。
それからサキは学校に居る間授業もそっちのけで図書室に通い詰め、童話や神話、伝記に小説といった『自分とは違う世界のお話』を読み漁った。
その膨大な量の物語の中には、時たまある生き物が登場していたのだ。
ある時は孤高の反逆者として、ある時は勇者の前に立ち塞がる外道として、またある時は生前の未練を捨てられぬ悲しき亡者として。有史以来、人の伝承に度々その姿を覗かせる、幻想の怪物。
その名は、
サキ達の目の前でミツルに襲い掛かった時、正気を失ったハルトは執拗にミツルの首筋を狙った。
殺そうとしたのならば掴んでへし折れば良いだけのこと、しかしハルトが取った行動は、犬歯を剥き出しにしての噛み付き。明らかにそれは、皮膚の薄い場所へ牙を突き立てる為の行為だった。
(昔読んだ本、それに、この本の中で出てくる吸血鬼そのものだった)
胸中で思案しながら、サキは図書館の本棚から見つけ出した本のページをぱらぱらと捲る。
数々のファンタジーに曰く。夜明けと共に死に、夕暮れと共に蘇る彼らは、生者の血を啜ることで知識と経験、人格でさえも学習する。そうして得た知識は朽ちない美貌を実現し、眷属の身体を憑代とすることで永遠の時を生きる。
(時縞先輩はあの銀髪男に噛み付いた時、目の前に居た人間に噛み付きたくなった、って言ってたわよね。ならきっと、噛み付いて何かをしようとしたのは本能的なもの。食欲か性欲か、どちらかのものだわ)
昨日からの二十四時間で見聞きしたものを冷静に分析しながら、サキは目を輝かせる。
これが。
これこそが、自分が求めていた“
図書館の閲覧机に積み重ねた本に目を通しながら、流木野サキは思案する。
(どうにかして、時縞先輩に―――ハルト先輩に、力を振るわせる方法がある筈)
サキがハルトの身体のことを熱心に調べていたのは、決して彼の身を案じたからではない。
現実では有り得ないオカルト染みた彼の力。それを制御する術を見つければ、自分は彼にとって無くては成らない人物になるであろう。そうすればさしずめ自分の役割は、優しくも強大なヴァンパイアを使役する巫女か魔術師か。どちらにせよ、“物語のヒロイン”としてはこれ以上ないポジションだ。
……そう思っていたのだ、つい一時間ほど前までは。
だというのに、ハルトはARUSから提案された撤退の案をあっさり了承してしまい、ミツルもそれに異を唱える様子も無い。このままでは彼女の思惑なぞ知らぬ顔で、ヴァルヴレイヴはARUSに接収され、自分たちはそれに関わる機会を永遠に失ってしまうだろう。それは、サキにとって非常に面白くないことである。
そんな身勝手な理由ではあったが、サキは何とかヴァルヴレイヴを明け渡さず、ハルトとミツルの手元に留める方法を考えていた。
「流木野さん、ここに居たんだ」
そんな時。聞き慣れた声で名を呼ばれ、読んでいた本から顔を上げるサキ。視線を図書館の入口に向ければ、そちらから校内で唯一の友人である櫻井アイナが自分のもとに駆けてくるところだった。
全校避難の放送が流されてから既に一時間。大半の生徒達は寮の自室へ引き上げて避難船に持ち込む荷物の支度をしているところなのだが、医務室から戻るなり図書館へと向かったサキは、それから未だ女子寮に戻っていなかった。
心配になったアイナが様子を見に来てみれば、当のサキ本人は椅子に腰かけ寛ぎながら、傍目から見れば優雅に読書と洒落込んでいた訳である。
「櫻井さん、荷物はもうまとめたの?」
「あ、うん。私の部屋、元々大事な物は少なかったから……じゃなくて!」
リュックサックの肩紐を握って荷物の小ささをアピールするアイナだったが、思い出したように大声を出す。高等学校の物としては大きな図書館は、二人以外に人が居ないことも相まってか、アイナの声を予想外に大きく反響させた。
わっ、と木霊のように響いた自分の声に驚いたのか、恥ずかしそうに頬を染めるアイナ。小動物を思わせる仕草に思わず笑ってしまったサキは、机に積み上げていた本の山から一冊を手に取ってアイナに見せる。
「これを探してたのよ」
「えっと……『吸血鬼伝説』?」
アイナが読み上げたタイトルの通り、それは現ARUS領であるヨーロッパの地域で旧世紀に出版された小説である。古典文学を通り越してもはや立派な古文書であるそれは、広い知識の宝庫と呼べる咲森学園の図書館に偶然にも保管されていた。といっても勿論原書では無く、写本のジオール語訳版を電子データで保管していた物を、貸出カウンターの機械でプリントアウトしたコピー用紙の束。レプリカのレプリカの、そのまたレプリカだ。
「ここの……このページ。これを見て」
故に、それを扱うサキの手付きも多少乱暴というか、雑なものとなる。
紙のたわみも気にせずばらばらと捲ったページを手で押さえると、サキはある一文を指し示した。
そこに綴られていたのは、死者より生まれ、生者の血肉を喰らいながら知識と眷属を増やす、キリスト教の悪魔の在り方。実在した一国の君主、その苛烈な人生を悪意で歪めた情報を基に執筆されたというそれらを読むうちに、アイナは驚きに目を見開いた。
「これって!?」
「まさしく今の時縞先輩と草蔵のことだと思わない?」
驚愕するアイナとは対照的に、サキの顔は明るい。気にかけていた事柄、その手掛かりが見つかったことが素直に喜ばしいのだろう。
「流木野さんは、ハルトさんと草蔵君が本物の吸血鬼になっちゃった……って言うの?」
「可能性としては、近いでしょうね。意図的に似せた存在だとかそんなところじゃないかしら」
それは違う、と面と向かって否定したくても、アイナはそれを言葉にすることが出来ない。個人の感情はどうあれ、ハルトとミツルが人智を超えた力を手にしたのは事実なのだから。それでも、親しい二人を人外の者だと区別するような言葉に納得できないのが視線に表れたのか、アイナと目を合わせたサキは多少びくりと肩を震わせる。
「……あくまで事実の話よ、事実の。だからどうにかしようって話じゃないわ」
誤解するな、と口先では言いながら、咄嗟に険しい視線に気付けた自分の観察眼に感謝する。非日常に惹かれるサキの心は本物だが、だからと言って数少ない友人に嫌われたいわけでは無いのだ。
アイナの視線が緩んだと感じたサキは、けど、と前置きをしてさらに言葉を紡ぐ。
「草蔵にも言ったけど、事実は事実。有り得ないことを楽しむつもりで向き合わないとやってられないんじゃないかしら。私達も、あの二人も」
「それは、そうかもしれないけど……」
サキの言葉に反論することが出来ず、言い淀んでしまうアイナ。その様子に、サキが何事かと様子を窺っていると、やがてアイナはぽつりと口を開いた。
「だからって、二人に全部任せちゃったら、いけない気がするの」
その言葉にサキは、成程、と納得する。
櫻井アイナという少女が大人しそうに見えて強い芯を持つ少女であることを、サキは良く知っている。そして打算や同情抜きに、困っている人物には手を差し伸べずにいられない人物であることも。彼女の為人はサキから見ても好ましい物であるし、何よりサキ自身、そんなアイナの優しさに心を救われた一人なのだ。
「そりゃまあ、私だって知っちゃった以上は私なりに二人のフォローはするつもりよ。バレないようにとか、先輩や草蔵が発作を起こさないように、とか」
二人の為にというよりは、難しい顔をしたアイナに少しでも笑って欲しいからか。気が付けばサキは、先程まで自分が考えていたのと正反対の言葉を口にしていた。
それを聞いて安心したのか、アイナはふわりと微笑んだ。
「えへへ……ありがとう、流木野さん。なんか、流木野さんってこんな時も落ち着いてて、すごいね」
「そうかしら?」
「うん。ハルトさんが草蔵君に噛み付いちゃった時も、冷静に色々調べてたし……それに、吸血鬼とかそういうのに詳しいんだね」
「嗜み程度には色々と読んでたもの。あ、他にもこんなのもあるけど、読んでみる?」
「ええっと……『ハクオーキ』? へえ、これ新撰組がモチーフなんだね」
そのまま二人は、サキがチョイスした吸血鬼ものの書籍をライブラリから閲覧し始める。サキの好みと言うかなんというか、書架から見つけられたものは悉くライトな文体の物ばかりで、美麗なイラストで表紙を彩られたそれらはアイナにも気軽にページを開くことが出来た。
すっかり盛り上がってしまい、荷物を纏めるのを忘れていたことにサキが気付くまで、あと一時間。
「うんうん、子どもは素直が一番だよ」
窓から見える避難誘導の景色を見て、フィガロ・エインズレイは顎の無精髭を撫でながら、満足そうに頷いた。
全校避難の放送から一時間半ほど。生徒会長である連坊小路サトミと数少ない成人である七海リオン、そしてヴァルヴレイヴのパイロットである時縞ハルトの三人の呼びかけは生徒達に効いたようで、表面上、避難に対する大きな不満は上がっていない。
「いやはや全く、先生の人心掌握術は老いて尚健在、という訳だ」
この呼びかけの内容とそこまでの段取りは全てフィガロが考案したものだが、それを彼に叩き込んだのは政治家としての恩師である現ARUS大統領、ジェフリー・アンダーソンその人だ。かつて一介の州知事であったジェフリーの下で政策秘書として働いていた頃、フィガロはジェフリーからありとあらゆる“人気稼ぎ”の術と、そこから得られる権力の大きさを学んだ。
そして今回ジェフリー大統領は、月面にある国連の中立都市へと視察に赴いていたフィガロに「ジオールの秘密兵器である人型ロボット」の奪取を要請し、フィガロはこれを快諾した。
現政権の大統領に貸しを作れるのはもちろんのこと、嘗ての恩師に成長した自分を見せるいい機会だと思ったのだ。その手段にしたって、不安に揺れる未成年達を上手く丸め込み、ザルな警備状態で放置されている兵器を掻っ攫うだけでそれが功績と認められるのだ。喰い付かない筈が無かった。
「ま、彼が思ったよりも単純に動いてくれたのがこっちにとってもプラスに働いたかな」
ぼやきながらフィガロはパソコンの画面に視線を向ける。ジオール強襲のニュースが流れてから十数回は見ただろうか、ドルシアの戦闘ポッドを相手にモジュール77の夜空を軽やかに舞う、赤いロボットの姿があった。
大きな力を手に入れた人間というのは、総じて調子に乗り、周囲の声援がそれを助長することで下手な使命感や正義感というものを持ちやすい。思春期のカッコつけたがりな男子学生とくれば尚更だ。今回フィガロがARUSへの避難を提案するに当たって最も難しいと想定していたのは、ハルトとミツル、二人のパイロットの説得だ。
もし仮に二人が避難を拒み、たった二機のロボットを頼りにドルシアへ徹底抗戦する意思を示していた場合。隣の部屋に潜ませていた陸戦隊が即座に二人を拘束、場合によっては殺害することも視野に入れていた。その点で、ハルトとミツルを呼び付けた際にミツルが保健室で眠っていて、フィガロのもとに来たのがハルト一人だったと言うのは誤算だったのだが。
(実際には、そこまで気にする程の子でもなかったか)
ハルトと対面したフィガロは会話の中で幾つかのキーワードを出して、その反応を窺った。
そして彼の性格を、フィガロはこう見定めた―――ノリと勢いでうっかり戦場に飛び出して奇跡的に生還を果たしたラッキーボーイ。しかも、戦う事への恐怖が拭えていない。
ならば多少優しくして、戦争に否定的な態度を見せることで親しみを持たせた後、自分の意見を聞かせてやれば良い。もう戦いに駆り出されないと解れば、自分の言うことに疑問など持たないだろう―――実際その方法でハルトはあっさりとフィガロのことを信用し、“生徒全員で生き残る”ためにフィガロの指示どおり現在各所を走り回っている。
政治に明るい
(もう一人の方へも自分から説明してくれるんなら、僕がわざわざ出向いて説得する必要も無い)
引率として着いて来たリオンから聞いた限りでは、時縞ハルトと草蔵ミツルの二人は同じクラブに所属する先輩後輩で、個人的にも親しいとの事。ハルトはフィガロの言葉を疑うことも無いし、ミツルもまたハルトに従うだろう。
(最悪、赤いロボットだけでも持ち帰ることが出来れば、と思ったのだが)
現在世界中に注目されている“ジオールの秘密兵器”は、ハルトの駆る赤いヴァルヴレイヴだ。モジュール77の人工の夜空をバックに舞う姿は全世界に発信され、既にWIRED上では“レッド・サムライ”なる呼称まで付けられている。対してミツルの駆る白いヴァルヴレイヴはといえば、学校の監視カメラに映った映像では然程活躍しておらず、戦闘車両を何台か潰した後はさっさと宇宙に飛び出してしまった。更にハルトの方はツィッターに上がった生徒手帳の画像のせいで実名と顔写真まで周知されており、赤いロボットのパイロット・時縞ハルトの知名度は、ミツルと比べ物にならないくらい高いのである。
(この映像を流したユーザー……RAINBOW、だったか。恐らくは現在もモジュール内のどこかに潜伏して情報発信を行っているな。ジオールの情報部局の人間か、それともネットアイドル気取りの目立ちたがりか。なんにせよ、学校のセキュリティに干渉できるのなら早いうちに身柄を確保した方が良いかもしれないな)
RAINBOWのハッキング能力は放置しておくには惜しい。すぐさまこの人物の身元を特定し確保するべく、フィガロはヴァルヴレイヴ用の武装を回収する作業に当たっていた女性兵士に連絡を取り始める。通信回線の逆探知装置は、確か彼女の指揮する工作班が持っていた筈だ。
「ひっ、くしゅん」
『だ、大丈夫かアキラ!? 風邪か、熱は無いか? すぐにそっちに行くからな! 部屋に毛布はあるか、飲み物は充分か、ああそうだ風邪薬と熱冷ましの常備は―――』
「……お兄ちゃんうっさい。電話切るよ。あと絶対来んな」
『え、ちょっ、待っ』
校長室から数メートル直上、本校舎四階の空き教室でそんな兄妹の会話が成されたことを、フィガロは知らない。
一年三組の生徒達が必要最低限の荷物を持って教室に再度集まった時、ミツルはハルトと共に教室の見回りを始めたところだった。
「おーい、ミツルくーん!」
教室前の廊下を歩いていると、見慣れた少女が声を掛けてきた。茶髪のポニーテールと、きちっと切り揃えた前髪が特徴の快活な女子生徒、自動車部の腕利きエンジニアと名高い
「燦原、もう全員揃ったのか?」
「うーん、と……櫻井ちゃんと流木野さんが来てないや」
「そっか……流木野の奴め、またぞろ何処かで櫻井や先輩達のこと振り回してるな」
この十数時間でサキに対する遠慮というものを空の向こうへブン投げたミツルは、あんにゃろー、と悪態をつきながら、鈍く痛む額に手を当てる。その様子を見て、ナツキは意外なものを見た、と目を瞬かせる。
「まあ良いや、全員揃ったら順番にモノレールに……なんだよ、その目」
「いや、ミツル君って流木野さんと仲良かったっけか?」
「良かぁねーよ別に」
「それにしては何かこう、遠慮が無いって言うか……ほら、流木野さんってあんな感じじゃない。うちのクラスだって櫻井ちゃん以外と話してるの見たこと無いし」
ナツキはそう言って、数ヶ月前のことを想起する。
『全員、うるさい』
入学式が終わって、ホームルームの為に担任が来るまでの待ち時間。元芸能人という物珍しさから入学したてのクラスメイト達に取り囲まれたサキは、サインが欲しいという好意的な声から週刊誌に載ってた記事ってホントなのかという不躾な質問までを、十把一絡げに纏めて切り捨てたのだ。
あまりといえばあまりにもつっけんどんな態度とその後に起きた一悶着によって好奇心半分に言い寄られることは無くなったが、同時にサキはクラスのほぼ全員から距離を置かれることになった―――後に
ナツキもその言い草に腹を立ててサキと距離を取った口だし、ミツルもまたその場に居合わせた一人だ。
「ひょっとしてアレ? 一緒にロボットに乗って、吊り橋効果で愛が芽生えるとかそんな感じ?」
「ねーよ。そもそもあいつが乗ってたのは俺じゃなくてハル先輩の方のロボットだよ」
年相応の興味、というべきか。急に距離が縮まったように見える級友の関係にナツキはよくある想像を巡らせるが、何度も言う通りミツルはサキへの遠慮を頭の中から取っ払っただけである。故に、彼女について語る口も、自然と上品とは言えないものになる。
「あの愉快犯め、面白半分にロボット乗るわこんな時こそ楽しめとか偉っそーな言い方するわ、実際のところ碌でもないぞ?」
「え……あの流木野さんが?」
「ああ、櫻井が前にあいつのこと普通だとか言ってたけど、とんでも無い。ありゃ立派な悪党だよ。でなきゃトンデモ女」
いきなり“乗っ取り”を強行させられた鬱憤も溜まっていたのだろうか、水を得た魚の如くサキの悪口を並べ立てようとするミツルだったが、不意に頭に軽い衝撃を感じて、その口が止まる。
「こーらっ、草蔵くん。女の子の陰口は感心しないわよ?」
「おわぁっ!? な、七海先生!?」
水泳の補習でも出席簿として使っていたタブレットをミツルの頭に落としたのは、何時の間にかミツルの後ろに立っていたリオンだった。
「流木野さんのこと随分悪く言ってたけど、何でそんなに嫌ってるの?」
「いや嫌うもなにも、あいつホントにタチ悪いんですよ!?」
「何か考えがあるのかもしれないじゃない。ひとまず、あんまり人のこと悪く言うの、止めよう?」
「うっ、ぐ、ぅうう……!」
訴えるような口調で言うミツルだったが、マイペースなリオンに逆に諭されてしまい、悔しそうに唸る。すると、話しかけるタイミングを窺っていたナツキが、多少申し訳無さそうにミツルに話しかけた。
「と、ところでさミツル君。見回りの途中だったみたいだけど、もう大丈夫なの?」
「ああ、草蔵くんはまだ見回りの途中だったのね。それじゃ教室の方は私が見ておくから、本校舎の三階から上の方、引き続き見て来てもらって良いかな」
「……へーい」
毒気を抜かれてむくれながら、ミツルは元来た道を引き返そうとする。するとその背に、そうだ、と何かを思い出したかのようにリオンが駆け寄る。
「草蔵くん、草蔵くん」
「今度は何スか……っ!?」
声を掛けられ、億劫そうに振り返ったミツルの頭にリオンの手が乗せられ、偶にマリモと評される癖毛の茶髪を優しく撫でる。
「さっきは叩いてごめんね。痛かった?」
「あ、い、いや、全然」
「そっか、やっぱり男の子だから強いんだねー。頼りにしてるわよ、私達のヒーロー!」
「っ、は、はい! もう全部俺に任せちゃってください!」
満面の笑みを浮かべたミツルはリオンの言葉に力強く答えると、その健脚で以て階段を駆け上り、ナツキとリオンの視界から姿を消した。
いやー危ない危ない、子どもを叱ったらちゃんとフォローしないと拗ねちゃうもんね、と大学で教わった“上手な子どもの叱り方”を実践して得意げに頷くリオンに、ナツキは何とも言えない表情を向ける。
「あのさ、七海ちゃんってもしかして、実家で犬とか飼ってた?」
「え? 別に飼ってないけど、どうして?」
「いや、うん。何でもない……」
たった今走って行った級友とのやり取りが、どう見ても子犬と飼い主のそれだった、と。燦原ナツキはどうしても言葉にすることが出来なかった。
「はいこちら工作班六班……これはこれは、エインズレイ議員」
クレーン車の陰に隠れるようにして、女性兵士は通信相手の名前を呼ぶ。先ほどミツルと短い会話をした後、引き続き武装の回収作業に当たっていた彼女は、全くタイプの違う二つの銃を残骸の中からサルベージしたことで非常に機嫌が良かった。安全保障条約によって手を結んだ同盟国、という建前の下、ARUSはこれらの武装を回収し、自国の戦力に組み込めるよう量産体制を整えよ、と上から命令されていたのだ。こそこそするのは性に合わないが、技術者としては冥利に尽きる話である。
しかし、上機嫌だった彼女のテンションは、続くフィガロとの会話で急速に下降する。
「は、確かに自分の班で保管しておりますが……はっ? い、いえ可能ではありますけど、こちらもまだ作業中でして……え、優先って……解りました、現在の作業が終わったらすぐに取り掛かります。はっ、失礼します」
通信機の電源を切った女性兵士は、はぁああああ、と大きな溜息を吐くと、
「野郎共ぉおおっ!! 上からのありがた~いお達しだ、今やってる作業マッハで終わらせなっ!」
軍属の工作兵であると同時に心の底から“技術者”である彼女の部下たちにとって、その言葉の意味するところは宝の山を前にしての撤退。当然あちこちからぶーぶーと不満の声が上がるが、上官、ないしそれに当たる権力者からのオーダーに、軍人たる彼らが逆らう事など出来ない。
「マジかよ、まだ拾ってないパーツがわんさかあるのに」
「だから議員ってのは嫌いなんだよ、現場を知らない癖して口出ししてきやがって……」
「つべこべ言ってんなっ! 今回収してるのが上がったら、うちで持ってきてる逆探装置全機立ち上げるよ!」
「逆探? 班長、あのボンボン議員、何言ってきたんですか?」
「ネズミ取りだってさ。ったく、そーいうのはうちじゃなくて諜報部にでもやらせとけっての」
口々に文句を言いながら、地下区画に潜っていた工作兵達もはしごを使って地上に戻る。
侵入者の居なくなった地下区画には、未だヴァルヴレイヴ用の巨大な兵器が幾つか並んでおり、工作兵たちは名残惜しげにそれらに目を向けつつも、その場を後にする。
そして、そんな巨大な兵器たちの陰に埋もれて、小さな箱が鎮座していたことに、結局工作兵達は気付かなかった。
小さな、と言っても、人間よりは大きなものであるが、全長十数メートルの銃やらなにやらが並ぶ中では、やはり縦横三メートルほどのその箱は小さい。
その箱には、ジオールの文字でこんな一文が示されていた。
『DRI-Ve遠隔操縦システム:レシーバーユニット』、と。
サキ「趣味は読書です(ラノベどっさり)」
ミツル「いやその本のチョイスってどっちかって言うと文学少女じゃなくてオタ―――」
サキ「せいやあっ!(無助走ドロップキック)」
ミツル「げふぁっ!?」