V's If-Story:ScalePowder of WhiteMoth   作:よしおか

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 ヴァルヴレイヴアニメも無事(?)に終わり、これから二次創作も増えるかと思います。
 皆!小説版や各種スピンオフコミックも読もうぜ!(ステマ)


第六話 反撃の狼煙

「―――待ってっ、待って下さい!」

 

 七海リオンは自分に向けられた銃口をまっすぐに見つめながら思案する。咄嗟に教え子を守ろうとしたのは、決して間違いではない筈だ、と。

「な、なんだ貴様は! 貴様も我々に歯向かうのか!?」

 突然自分が声を上げたことに驚いたのだろうか。銃を持っていた男性軍人は心持ち舌をもつれさせながら誰何の声を上げる。

 それでも、その様を笑う気にはなれない。彼の言う通り、自分たち拘束された一般市民の命は現在、彼らの掌の上にあるのだから。

(私は、教師だ。免状を持っていなくても、私は教師なんだ)

 自分に言い聞かせるように、胸中で呟く。リオンが好む旧世紀の映画に出てくる台詞の一節だった。

 大学生の身ではあっても、この場にいる“教師”はリオン一人。ならば自分は、持てる手段のすべてを以てして生徒たちを守らなければいけない。たとえ、それが原因で命を落としたとしても。

 兵士の銃は、変わらずリオンに向かって突き付けられている。やはりそれは、とてつもなく怖い。けれど、その銃口が生徒には向けられていないというだけで、どこか安心してしまったのも確かだ―――まあ、それでも怖いものは怖いのだが。

(本物の銃を向けられるって、こんなに怖いんだ)

 もしも目の前の男性軍人が引き金を引いたならば、放たれた銃弾はまっすぐリオンの胸を貫き、容易く命を奪うだろう。

 しかし、その恐怖に屈してはいけない、とリオンは思うのだ。

(草蔵くんは、もっとたくさんの兵隊に銃を向けられていた)

 思い返すのは、先ほど自身の目の前で連行された一年生の少年の姿。

『おい、やめろっ! 先生は関係ないだろ!?』

 いくつもの銃口を向けられた教え子の姿。それを止めさせたくて声を挙げて彼を解放してくれと願ったのに、そのうち一つが向けられただけで自分はあっさりと腰を抜かしてしまった。

『わかったよ! あんた達の調査に協力する! 地下だか何だか知らないけど、何処にでも連れて行け!』

 挙句、ミツルはリオンを庇って自ら軍人たちに着いて行ったのだ。

 仕方なかった、と言うのは簡単だ。実際リオンを責める者は居ない。戦争など経験したことも無いうら若き女性に、本物の軍人相手にもっとうまく立ち回れなど、どだい無理な話なのだ。

 けれども、去っていく軍人たちとミツルの背を見送ったリオンは、涙をこらえることが出来なかった。

 悔しかった。怯えてしまった自分が、只々情けなかった。教え子に守られてただ震えていただけの自分が、ひどく腹立たしかった。

 誰に責められるまでも無く、リオンは自分を責めずにはいられなかったのだ。

(草蔵くんのおかげで、今私はここに居る。だったら、草蔵くんが帰って来れるまでここにいる皆を守らなきゃ!)

 もう、教え子の危機を前にして何もできないのは御免だ―――確固たる覚悟の元、七海リオンは口を開く。

「その子に……生徒達には乱暴なことはしないでください! みんな、混乱しているんです。少ししたら落ち着きます、ちゃんと言うことを聞きますから……」

 言い切って、リオンはやはり俯いてしまう。

 今自分が言った事はなにもおかしくは無かっただろうか。余計な事をしたのではないだろうか。どうにも自分の行動に自信を持ちきれない彼女であった。

「その物言い、貴様はこの学校の教員か?」

「……はい、実習生ですけど……お願いします、私がそちらに行きますから、その子を放してください」

「七海先生!?」

 リオンの言葉に、周囲の生徒達が悲鳴染みた声を上げる。

 こう言ってしまっては何だが、生徒達にとってはライゾウが囚われるよりもリオンが囚われる方が余程の大事である。リオンにだってそれは分かっている。

 しかし、それでもリオンは言葉を撤回するようなことはしなかった。自分が行動を起こすことで、ライゾウも含めた生徒達が少しでも危険を避けられるのならば……と、リオンは思わずにはいられなかったのだ。

 学生たちの誰もが、心の底から願っていた。この最悪な状況を打ち破ってくれる“誰か”の登場を。

 

 

「てっ、敵襲!敵しゅ―――ぎゃああああああっ!!」

 そして、それは轟音と共に現れた。

 

 

 突如体育館の床を揺らした振動に足を取られて、リオンはその場に蹲る。そんな彼女を押し退けて、兵士たちは体育館から足早に出て行った。

「何事だ!」

「て、敵襲です!外にあの“人型”が……特一級戦略目標、『ヴァルヴレイヴ』が!」

「んなっ……何だとぉ!? 馬鹿な、あれはカイン大佐の特務隊が鹵獲した―――」

 そんな会話を頭上に聞き流しながら、リオンは呆然としていた。

(一体、なにが……)

 そして、兵士たちが走り去った方向へと目を向けたリオンは……いや、その場に居た生徒達全員が、“それ”を目にした。

 体育館の窓に映り込んだ、巨大なシルエット。窓から差し込んでいた光を遮り、館内に暗い影を落としたその物体がその巨大な腕を振るった時、体育館の外でいくつもの爆発が起こる。

 すぐに生徒達は、巨大なシルエットがドルシア軍の車両を攻撃しているのだと思い至った。

「な、なんだ、何が起こって……」

「あれ、さっきのロボットじゃない!?」

「時縞が助けに来てくれたんだ!」

 俄かにざわめきだした生徒達の中からそんな声が飛び出した辺りで呆然と座り込んでいたリオンに数名の生徒が駆け寄り、手を取って助け起こそうとする。

「先生、助かったんだよ! あのロボットが……!」

「あ……うん。そう、だね」

 しかし、緊張の糸がぶっつりと途切れたことでリオンの精神的な疲労は限界に達し、そのまま瞼ががくんと下がる。

 やがて意識を失う寸前、リオンの耳に、スピーカー越しのくぐもった声が届く。それは音も割れていてまともに人の言葉として聞こえなかったが―――

 

『―――俺…ちの学校……今……出て行けぇぇぇーーーーーーーーっ!!!』

 

 どこか聞き覚えの有るその声を聴いて、リオンは薄れ行く意識の中で呟いた。

 

 

 

 

―――また、助けられちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方的な虐殺とも呼べる、蹂躙の後。体育館の表に、拳を振り下ろした姿勢のまま鎮座するヴァルヴレイヴ八号機の姿があった。

「はぁっ、はっ、はーっ……」

 コックピットの中で荒い呼吸を繰り返しながら、ミツルはモニターの外に広がる静けさを取り戻した体育館の周囲の風景を見て思考を巡らせる。

(なんでハル先輩の“ヴァルヴレイヴ”は来ないんだ……皆は無事なのか? まさか、もう連れて行かれたり、殺され―――)

「お、おい! やっぱりあのロボットだ!」

 そんな不吉な予想が脳裏を過ったのも束の間、体育館から見覚えのある制服を着た生徒達が現れた。

 大人しげな、しかし堅物の印象を受ける男子生徒に、その後ろに隠れるようにして現れたポニーテールの女子。そして、その後ろに続く数人の生徒。彼らの襟元には、ミツルのものと同じ一年生の校章が付いている。

(委員長に燦原、アリヒトまで……良かった、みんな無事だったんだ)

 現れた生徒達はいずれも一年三組に所属する学生達……ミツルのクラスメートであった。

 ポニーテールの女子生徒と、茶髪の頭に前髪だけ金髪という目立つ髪の男子生徒は周囲にドルシア兵が居ないことを確認すると、八号機の足元まで駆け寄り、その巨体を見詰める。

「でも、時縞先輩のは赤かったよね? このロボットは白いけど……」

「すげえ、こんなロボットがまだ他にもあったんだな……マジぱねぇわ」

「お、おい君達っ!危ないぞ、そんなに近づいたら!」

 二人を制止する堅物そうな男子生徒……一年三組の学級委員長の声も何のその。二人は八号機の足首に当たる箇所をバシバシと叩き、賛辞の声を口にする。

「ありがとーっ!」

「おーい、助かったぜー!」

 いつの間にか二人だけでなく、その場に居た一年三組の生徒達のほぼ全員が、八号機に向かって声を投げかけていた。

(へへ、何かこういうのも良いな……)

 大勢の生徒達に感謝されて少しばかり調子に乗ったミツルは、姿勢はそのまま、八号機の右腕を平手の形にするとそれを左右に振って見せる。

 巨大な人型ロボットが地上の人々に手を振り返すというシュールな光景にも、集まった少年少女たちはおぉーと歓声に沸く。

「……あ、そうだ! ミツルがどこに連れて行かれたかも知らないかな?」

(ん?)

 生徒の一人から出た言葉に、ミツルはおや、と眉を跳ね上げる。どうやら生徒達は、この機体に乗っているのがハルトと同じく学園の生徒だとは思っていないらしい。

「あ、そうだな……なあ! クラスの仲間が、どっか連れて行かれちまったみてぇなんだよ!」

 続いて足元に居た茶髪と金髪のツートーンが、八号機に向かって大声で問いかける。

 ミツルは知らなかったが、先程ミツルがリヒャルト達に連行された時の会話は、ちょうどリオンが引率として立っていた列に居た一年三組のほぼ全員が聞いていたのだ。

 彼らはミツルが連れて行かれるシーンと、その後悔しさに涙を流すリオンの姿を全て見ていた。

 それで、ここにドルシア軍の車両があったのなら、ミツルも救助されたんじゃないのか、と思ったのだ。

 一方、そんな彼らの心配など露知らず、先程までの流れで調子付いたミツルは、ひょっとして自分のことを言っているのかと思い立ち―――悪戯を考え付いた子供のようにほくそ笑む。

(良いタイミングで俺がヴァルヴレイヴを動かしてたってばらしたら、こいつらどんな顔するかな……)

 子供じみた発想をしつつ、ミツルは彼らの言葉を待つ……構図だけ見るとこの男、なかなかに最低な事をしている。

「えーっと、茶髪の癖っ毛で、目は青い色で―――」

(よーし、ここはひとつ、特徴を聞き終わった辺りで『それはこんな奴のことかい?』とでも言いながら……)

 

「―――オタマジャクシみたいな眉毛してるんだけど……」

 

 その瞬間、ミツルは外部スピーカーの音量を反射的にMAXまで引き上げ、コンソールのマイクに向かって声を張り上げた。

「誰がオタマジャクシだ、誰がぁ!?」

『しゃ、喋ったぁあああああああああ!?』

 草蔵ミツル。独特な形状の眉毛にコンプレックスを抱く十五歳であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モジュール77の人工海岸にある、民間港。本来は水上船舶などが利用するその港に、赤と紫で船体を彩られた巨大な宇宙戦艦が停泊していた。

 ドルシア軍の主力艦“バァールキート級機動戦艦”の四番艦『デュッセルドルフ』。モジュール77奇襲作戦の前線指揮官である軌道突撃大隊の隊長、グスタフ・ザッハ中将の座乗艦だ。

 現在この船の医務室では、三つ編みにボブカットの少年が入院着に着替え、治療を受けていた。

 ジオールスフィア奇襲作戦にて、ヴァルヴレイヴの“工房”である咲森学園を占拠するという多大な戦果を挙げた特務隊の次席指揮官―――アードライ=カルルスタイン特務大尉だった。

 アードライの左目には消毒液のしみ込んだガーゼの上から何重にも包帯が巻かれ、彼の怪我の重さを物語っている。

 左眼球破裂と、幾つかの裂傷。

 迅速な治療によって、傷口からの細菌感染やそれによる腐食などには至らなかったが、アードライの表情は重い。

 アードライが横になったベッドの近くには、同じ特務隊の面々が沈痛な面持ちで腰かけていた。

 逆立てた茶髪に、耳元の五色のピアスが特徴的な長身の青年、ハーノイン=カルルスタイン特務大尉。

 緩いウェーブと青みのかかった黒髪に、眼鏡をかけた理知的な青年、イクスアイン=カルルスタイン特務大尉。

 そして、唯一暗い表情を見せずに手にした携帯ゲーム機でアクションゲームに興じるバンダナの小柄な少年、クーフィア=カルルスタイン特務大尉。

 同じ姓を持つ四人であったが、彼らに血の繋がりは無い。彼らは、同じ軍事教育施設で育ち、修練を積んだ仲間なのだ……この場に居ない、一人の少年も含めて。

 

 

 一時間ほど前。特務隊の面々は、ジオールの秘密兵器『ヴァルヴレイヴ』を何とかして鹵獲するべく、作戦を練っていた―――本来は起動する前に抑える手筈であったが、指揮官である少年のらしくないミスによって、地下施設から地上への射出を許してしまったのだ。

 事前に情報があったとはいえ、実際にはその戦闘能力は未知数。計四機のバッフェを瞬く間に葬り去った点だけで見ても慎重にかからねばならない相手である。

 しかし彼らが有効な手を思いつく前に、当のヴァルヴレイヴが学園からほど近い砂浜に降り立ったのだ。ひとまず、五人の中では一番能力の高い指揮官の少年が先行し、様子を見ることになっていたが、そのうちに同じ場所に三人の学生が姿を現した。

『エルエルフからの連絡は……!?』

『いや、まだだ……連絡があれば次の指示まで待機、何もなければ数分後に学生どもを排除、エルエルフと合流する』

 予め打ち合わせておいた通り、指揮官である銀髪の少年からの連絡が途絶えてから数分後、彼らは学生たちと対峙した。

 一応警戒はしていたが、パイロットの知り合いと思しきその学生たちの所作を見る限りどうやら軍属ではなかったらしく、銃を向けても抵抗する素振りすら見せなかった。

 排除、と言っても相手は所詮民間人。エルエルフと合流するまで拘束しておけば、後はどうとでもなるだろうと思っていたが……

『咲森学園の生徒じゃないの……!?』

『ドルシア軍だってーの』

 滑稽な質問を口走った女生徒を嘲笑う様にクーフィアが銃の引き金を引こうとした瞬間、発砲音と共にその銃が弾き飛ばされたのである。

『なっ―――!?』

 驚き、その音の発生源に目を遣って―――彼らは再び、愕然とした。

 

 クーフィアの手元から拳銃を弾き飛ばしたのは、彼らの仲間である筈の銀髪の少年―――エルエルフだった。

 

『向こうに換気口があります』

『はっ?』

『早く!』

 鋭い声で学生達に促すエルエルフ。その声に真っ先に反応したのは、先程クーフィアに銃を向けられていたストレートヘアーの女生徒だった。

『っ……』

『え、あ……!?』

 戸惑うもう一人の女生徒の腕を取って立ち上がらせると、エルエルフが示した方向の換気用ダクトに向かって一目散に走り出す。やや遅れて、長身の男子生徒がその後ろに続いた。

『ちっ……』

『放っておけ!』

 ハーノインが三人の方に銃を向けるが、アードライに制されて銃口をエルエルフへと戻す。

 一対四の構図で、砂浜で対峙する五人。四人の先頭に立つアードライが、混乱も露わにエルエルフへと問いかける。

『どういうつもりだ、エルエルフ! 何故我々に銃を向ける……!』

 対するエルエルフの返答は―――発砲。

『うぐぁあっ!』

 悲鳴と共に、アードライの左目が爆ぜる。エルエルフの指先に力が込められたのを見て咄嗟に身を捩ったが完全に避けることは出来ず、放たれた銃弾が眼球を掠めたのだ。

『アードライっ!?』

 イクスアインが、撃たれたアードライの名を呼ぶ。眼窩から夥しい量の血を流しながらアードライは銃を取り落として両手で目元を押さえ、眼球を失った痛みに悲鳴染みた呻き声を上げた。

『てめえ、何て事を……!』

『アードライっ!おい、しっかりしろ!』

 部隊の指揮官であるエルエルフが、同じ部隊の仲間を撃った。その事実に頭に血を上らせたハーノインは、咄嗟にエルエルフに向けて発砲する。

 そのハーノインの背に隠れるようにして、イクスアインが崩れ落ちかけたアードライを支えながらその容態を確認する。幸い、というべきか、アードライの怪我は眼球のみで、脳や神経に至った様子は無かった。

 クーフィアは咄嗟に砂浜に跳ぶようにして転がると、先程自分が取り落とした拳銃を拾いそのまま伏射の姿勢でエルエルフを撃つ。

 しかし、その銃弾はわずかにエルエルフの右腕を掠めただけで、彼の足を止めることは無かった。

『クーフィア、周囲の警戒を!』

 イクスアインの言葉に、クーフィアはつまらなそうに腕の力を緩め、空になった拳銃のマガジンを交換する。

『ぐぅうっ、う、ふうぅぅぅっ……!!』

 ともすれば、蹲って叫んでしまいたいほどの痛み。アードライはじくじくと痛む左目―――が、あった場所―――を押さえながらも、混乱と、憎悪に歯を食い縛る。

―――何故。何故、彼が自分を撃つ。裏切った? 共に誓った革命の約束は、嘘だったと言うのか!? 馬鹿な、彼はそんな男ではない! しかしそうでなければどうして彼は仲間に、自分に銃を向けた! 何故、何故、何故―――!!

『エ、ル、エルフ……エェルゥエルフぅぅぁああああああああああああああああああああああああ!!!』

 親友に裏切られたという怒りと、嘆き。咲森学園の人工海岸に、アードライの悲痛な叫びが木霊した。

 

 

『おーい、誰かいるのかー?』

 直後、色んな意味で一足遅く海岸に辿り付いた哀れな男子生徒が疑惑半分八つ当たり半分に酷い目に遭わされるのだが、その点についてはこの場では割愛する。

 

 

「……なぁ、イクス。エルエルフの行方は掴めたか?」

 ハーノインが苦い顔で発した問いに、イクスアインは眼鏡のブリッジを人差し指でくい、と持ち上げて答える。

「未だ不明だ。そもそも、奴が何故あんなことをしたのかも不明……洗脳でも受けたのか、或いは―――」

「最初っからこのつもりだったんじゃないの?」

 なんでもなさそうな調子で放たれた言葉に、俄かにハーノインとイクスアインは背を強張らせる。

「考えてみたらエルエルフの奴、なんか変だったじゃん。ジオールの学生に突っかかるわ、標的のヴァルヴレイヴも最初は逃がしちゃうわ。妙な事考えてて作戦に集中してなかったんじゃない」

「……クーフィア、まだそうと決まった訳じゃない。大佐も仰っていただろう。この件については当面のところ、調査は我々に一任すると」

「けど、結局は殺すんでしょ? だったらボクにやらせてよ、今回の作戦ではエルエルフにほとんど持って行かれちゃったから、つまんなかったんだ……退屈な任務かと思ったけど、最後の最後で隠しボスとか、最高だよ」

 まるで、この後起こることが自身の手にあるゲームの延長だとでも言わんばかりに、ニィ、と唇を下弦の形に歪めるクーフィア。

「だいたい、そのエルエルフ本人が言った事でしょ。『殺されるなら殺せ』ってさ」

 何を馬鹿なことを言っているのか、とあくまでも無邪気に放たれたクーフィアの言葉に、年長者二人は揃って目を逸らす。それはエルエルフも含めて、五人の足を等しく縛り付ける枷たる言葉。隊の中では一番の年少者であるクーフィアにその言葉を言わせる自分が情けないと思う反面、それでも、酸いも甘いも共にしてきた仲間を信じたいという気持ちが、確かにあったのだ。

「……駄目だ、クーフィア」

 クーフィアに待ったをかけたのは、アードライだった。

「えー? 王子サマまであいつの肩持つのー?」

「その呼び方は止せと言っている……そうではない」

 アードライはベッドに横になったまま、点滴の針が刺さっていた右腕を宙にかざす。

「エルエルフを……あの裏切り者を始末するのは、私だ」

 噛み締めるように言った彼の右手が、ぎゅっと握られる。エルエルフに片方を潰されて残った彼の右目には、昏い怒りの炎が渦巻いていた。

 と、その時。医務室の出入り口が開き、通路から恰幅の良い髭面の男性が姿を見せた。その姿を認めた特務隊の面々は咄嗟に姿勢を正す。アードライもベッドから立ち上がろうとしたが、髭面の男性に手で制され、上半身を起こすに留めた。

 特務隊の敬礼に、同じく右手で以て返礼した髭面の男性は、右手を腰の後ろに戻すとアードライに視線を遣る。

「傷の具合はどうかね、大尉」

「は、もうじき作戦に復帰できますが……このような姿勢で失礼します、少将閣下」

 少将と呼ばれた男性……戦艦『デュッセルドルフ』の艦長、グスタフ・ザッハ少将はアードライの返事を聞いてフン、と鼻を鳴らす。

「ならば構わん。それと、貴官らが制圧した目標施設の検分もこちらの部隊が始めているよ。当面のところは特務隊の出番は無い、そのまま養生するのが良かろう」

「はっ!」

 少しばかり棘のある物言いではあったが、グスタフ少将はひとまずアードライの傷が命に関わるほどでは無かったことを喜んでいるようであった……この辺りは、彼ら特務隊の直接の上官がグスタフと折り合いの宜しくない立場に居ることもあるのだろう。加えて、厳密に言えば話の順番が違うが、半ば彼らの“アシ”代わりになるために、グスタフの指揮する機動部隊が後詰の歩兵として作戦に参加する羽目になったのも、特務隊への大人げない態度の一因でもあった。

 特務隊の少年たちにしてもそこの辺りは弁えている心算なので表面上、グスタフの態度に眉を顰めるような真似はしなかった。

「しかし、付添は一人で充分だろう。イクスアイン大尉とハーノイン大尉はブリッジに戻り、カイン大佐の別命あるまで待機だ」

 言って、グスタフはイクスアインとハーノインを引き連れてブリッジへと戻る。医務室には、アードライと、その付添であるクーフィアが残った。

 しばし経って、再び携帯ゲーム機の電源を入れたクーフィアはアードライに話しかける。

「ねぇねぇアードライ。エルエルフ、どれぐらいで戻ってくると思う?」

「……戻ってくる、とは?」

「だーかーらー。こういう場合って、裏切った奴はすぐにこっちに攻撃しかけてくるじゃない」

「有り得んだろう。奴ならば直ぐにどこか別の場所へ移動し、潜伏する」

 動機は未だ不明だが、ともかくエルエルフはアードライを撃ってから現在逃亡中だ。すぐに姿を現すとは思えなかった。

「そーかなー。こういう時ってゲームだと、急に奴らと手を組んで反撃に協力するってのがセオリーなんだけど」

「クーフィア、現実とゲームは違う。貴様もカルルスタインの兵士ならば、堅実な戦略眼というものを―――」

 呆れたようなアードライの言葉に説教臭さを感じ取ったクーフィアは、続く言葉を遮るように言葉を紡いだ。

「けどさぁ、今起こってることだって十分に有り得ないっしょ。だったら、もう一つか二つぐらい、有り得ないことが起きてもおかしくないよ」

「……ふん」

 鼻を鳴らして、アードライは再び身体を横たえると、そのまま瞳を閉じる。その様子から小言を回避したと確信したクーフィアは、喜々として再びアクションゲームに意識を移すのであった。

 

 エルエルフが現れ、ヴァルヴレイヴとパイロットの身柄を奪還されたという報せが二人に届いたのは、それから数分後だった。

 

 

 

 

 咲森学園からモジュールの外縁部に向かい、およそ一キロメートルほどの地点。市街地上空を飛翔する八号機と、その八号機を追跡するバッフェ部隊の機影があった。

「くそっ、しつこいんだよっ!」

 苛立ちのままに叫ぶミツルは急制動をかけて、空中で最小限の動きでUターンする。そのまま頭部のバルカン砲からエネルギー弾を斉射しながらバッフェに肉薄すると、脇下から引き抜いた『フォルド・シックル』で掬い上げるようにバッフェを切り払う。防御プログラムに従って両肩のシールドを構えるバッフェであったが、間一髪、二枚のシールドの合わせ目を閉じ切る前にエンジン部を切り払われ、そこから爆発を起こす。

(ああもうっ! なんでこの機体、ハル先輩のみたいに刀とか持ってないんだよ!)

 ハルトが駆る赤いヴァルヴレイヴ……一号機と違い、八号機に装備されていた武器は左腕の楯を除けば、基本装備であるフォルド・シックルとバリアブル・バルカン、ハンド・レイのみだった。

 詳しくマニュアルを読んだ訳では無いので未だ機体の全容を把握しきれていないミツルではあったが、情報の“侵食”によって焼き付けられた操縦方法から、八号機の特徴を読み取ることは出来た。

 ヴァルヴレイヴ八号機『火集』。二号機『鉄火』の再設計機であり、安定した加速性能を持つ『高速侵攻型』の機体だ。その再設計のくだりで『簡略化』とか『攻撃能力を破棄』といった文字が見えた気がするので、おそらく元々のモデルと比べて火力は下がっているのだろう。

(つまり、素早さ最優先で造られたから火力は後付けのパーツで補えってことかよっ! しかもその後付けパーツも盾しか無いんじゃねーか!?)

 自分が陸上部所属だからこんな機体に当たったのだろうか、なんならスポーツ射撃部に居れば大火力の機体に乗れたのか……などと半ばやけくそになったミツルは、心の中で唱えていた開発者への文句もそこそこに、時折遭遇するバッフェ部隊を相手にしながらも目的の場所―――港湾部にある民間港を目指していた。

(ハル先輩……本当に捕まったのか? くそっ、せめてなんとかして合流できれば……)

 本来のミツルの思惑とはかなり違う形であったが一年三組の面々を大いに驚かせた後、その場に居た生徒から『ハルトが捕縛された』と聞いたミツルは再びヴァルヴレイヴに乗り込み、ドルシア軍の戦艦を探していた。

 ミリタリー事情に詳しい霊屋ユウスケ曰く、『二十メートル級のロボットを収容するには、戦艦の格納庫を用いる筈。モジュール防衛隊が使用する宙港は攻撃を受けて使用できないだろうから、戦艦クラスの宇宙船が停泊できるのは学園正門から十時の方向にある民間港のみ』とのことである。

(待ってろよ、ハル先輩……っ!?)

 そのまま暫くモジュール上空を飛んでいたミツルだったが、やがて目の前に見えてきた光景に驚き、しばし八号機の動きを止めた。

 ミツルの視線の先では、一機のヘリコプターが地上を走る装甲車から攻撃を受けていた。

「仲間割れか!?」

 何が起こっているのか一見しただけではミツルには解らなかったが、カメラを拡大してよく見ると、装甲車の他にもドルシア軍の白い軍服に身を包んだ数名の歩兵たちが、手にしたアサルトライフルや対戦車ロケット砲などでヘリコプターに攻撃を仕掛けている。

(じゃあ、こっちは“敵の敵”か!)

 ヘリコプターに乗っている者達が味方かどうか判断は付かないが、明確な敵であるドルシア軍に追われている以上、直に自分と敵対するようなことは無いだろう。そう判断したミツルはヘリコプターを庇うように躍り出る。

「そこのヘリ、下がってろっ!」

 外部スピーカーからヘリに向かって叫ぶと、ミツルは頭部のバルカンと両手甲の対人レーザーの引き金を一斉に引く。

 二機目のヴァルヴレイヴが現れたことで驚き、反応が遅れた装甲車は襲い来るエネルギー弾とレーザーの熱線から逃れられず爆散。地上に居た歩兵たちもまた、装甲車を瞬時に破壊した白の巨兵の威容に慄き、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

「っ、はぁぁーーーっ……」

 歩兵たちが逃げ出した後、バッフェが追撃してくる様子も無く、ミツルは操縦桿から手を離さないまま大きく息を吐いた。

(さっきのヘリ……勢いで助けちゃったけど、一体なにがどうなって……)

『ミツル! おい、さっきの声、ミツルだろ!?』

「……えっ?」

 外部から聞こえてきた声に、ミツルは大きく目を見開いた。

 何があった、と思いモニターに映った周囲の風景に目を遣ると、先程のヘリコプターが丁度八号機の近くに着陸しようとしていた。その操縦席のキャノピーを開けて中から姿を見せたのは、なんとキューマであった。

「い、犬塚先輩!?」

 思わずキューマの名を呼ぶミツル。更に着陸したヘリコプターの後部からは、クラスメートであるアイナまでもが飛び出してきた。

「櫻井まで!? ふ、二人とも何してんの!?」

 ミツルは慌ててヘリコプターの近くにヴァルヴレイヴを着陸させると、外部マイクからの声に耳を傾ける。

『お前こそ、なんでそのロボットに乗ってるんだよ!』

 外部マイクが拾ったキューマの問いに、ミツルは咄嗟に答えあぐねてしまう。ここまでの数十分間に自身の身に起こった出来事を、簡潔にまとめるのがとても難しかったのだ。

「なんでって言われても、成り行きとしか……」

『何だそりゃ……』

 呆れたような表情を浮かべるキューマ。次に問いを発したのは、アイナだった。

『草蔵くんも、そのロボットに乗れるんですか……?』

「あ、ああ。なんかよく解らないけど、乗ったらいきなり出来るようになって」

『ハルトと同じか……』

「そ、そうだっ! ハル先輩、どうなったんですか!? 捕まったって聞きましたけど……」

 その問いはキューマに向けて放った言葉だったが、それに反応したのはアイナだった。

『草蔵くん! お願い、ハルトさんと流木野さんを助けて!』

「流木野って…流木野サキ? あいつがどうしたんだ?」

 アイナの言葉に、ミツルは彼女と仲の良い同じクラスの寡黙な女子の姿を思い浮かべる。クラスに馴染もうとしない為にあまり良い噂は聞かず、何故アイナと彼女が親しくしているのかと以前から疑問に思っていたが、ふと思い出したミツルの疑問は続くアイナの言葉によって綺麗に吹き飛んだ。

『流木野さん、ハルトさんのこと追いかけてあの赤いロボットに乗っちゃったの!』

「…………はっ、はぁあああああああああ!?」

 顎も外れよとばかりに大口を開けて絶叫するミツル。さもありなん、あまりと言えばあまりにも予想外な内容である。何がどうしてそうなったのか、流木野サキに小一時間掛けて問い詰めたいところだった。

「ばっ、馬っっっ鹿じゃねえのか!? っていうか何がどうしてそうなったんだよ!?」

『えっと、最初に皆でハルトさんのこと助けに行ったの、そしたらハルトさんが起きなくて、それで、それで……!』

『アイナ落ち着け、俺が話すから……ミツル、今ハルトは流木野さんと一緒にあの赤いロボットに乗ってる! 俺達も助けようと思ったけど、ドルシアの戦艦が海に潜っちまったんだ。もしかしたら、宇宙に出たかもしんない!』

「宇宙って……あ、そうか! この先の港は、宇宙船も入れるから……」

 混乱でまともに話せないアイナに代わり、キューマが現状をかいつまんで説明する。ミツルはそこで、ユウスケから聞いた話を思い出した。海に潜ったと言うその戦艦はおそらく、海底のどこかにある通路から、宙港エリアを抜けて宇宙に出たのだろう。

『俺達も出来ることがあれば良いんだけど、戦闘ヘリじゃ何も出来なくて……ミツル、頼まれてくれるか?』

「……わかりました。先輩と櫻井は、このままヘリで学園に戻って下さい。俺が行きます!」

 ここに来るまで、遭遇したバッフェ部隊はあらかた叩き落としてきた。恐らくはキューマの操縦するヘリでも、無事に学園までたどり着けるだろう。

 踵から硬質残光の光を放ち再び八号機を離陸させたミツルは、二人に背を向けると足早に飛び立つ。

 後には、その加速が生み出した風に両腕で体を覆ったアイナとキューマが残った。

「わ、きゃ……」

「っ……すげえ加速だな。ハルトの赤いロボットとはまた別の機体なのか?」

 一瞬のうちに小さくなってしまった八号機の背を見送った二人は今更ながら、ミツルが乗っていた白いヴァルヴレイヴが、ハルトの赤いヴァルヴレイヴと形が異なっていたことに気付いた。

蝶々(ちょうちょ)みたいな形でしたね……あのロボットも、学園の地下から出て来たんでしょうか?」

「さて、どうだろうな。だがそうだとしたら、うちの学校は一体何なんだ……あれ」

 言いさしたキューマだったが、視界の隅になにか白く煌めく物が見えた気がして視線を上に持ち上げる。つられてアイナも、空を見遣った。

 二人が見上げたビル群の空の合間には、いつの間にか白い粉状の光がはらはらと舞い降りて来ていた。

 常であれば、それは雪を連想させるものだっただろう。しかし今は夏だ。雪が降るにはいささか季節が外れている。

 すると、それは何なのか。アイナは先ほど、自身が蝶のようだと例えた白いヴァルヴレイヴの姿を思い浮かべ、そこから連想した言葉を無意識に口にしていた。

「鱗粉……?」

「……おいおい、ホントに蝶々かよ」

 キューマの言葉に応じる者は、何処にもいなかった。

 

 

 




一年三組「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 一年三組メンバーの容姿や性格等の設定は、主にスピンオフコミック「流星の乙女」を参考にしています。
 次回、ようやくオリ主とハルトの共闘シーンです。
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