ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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モン玉貯めたので引きます。


寂しがりやの人魚姫(キスキル・リラ)

 

 

 

母が倒れたとの事で数年ぶりに故郷の沖縄に帰って来た。もっとも、母は俺に会いたくないだろうが。

 

 

「………よお。」

 

「この馬鹿…!何しに来た‼︎」

 

母に会うなりいきなり怒号を飛ばされる。

 

 

「体大丈夫か?」

 

「はっ‼︎お前なんかに心配される筋合いはないんだよ!さっさと出てって何処へでも行っちまえ‼︎この親不孝者!」

 

母に棚に置いてあった写真立てを投げつけられる。俺と母が写っているものだ。親戚や近所に白い目で見られながら家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

俺は誰がどう見てもロクでもない奴だと自負している。父の漁師を継ぐと言っておきながらいきなり上京。東京の大学へ入り母は必死に働いて生活費を送ってくれた。

 

しかし大学を中退。送られてきた生活費やバイトの給料を趣味の釣りに殆どを費やした。

 

でも、俺にはそうしないといけない理由があった。結局帰るための船には乗らず、近所の人や親戚がいなくなる時間まで海を眺め続けていた。

 

 

 

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俺がもう一度家に戻ると、母は夕飯の準備をしていた。茶碗が2つあった。おそらく母の知らせを聞いて飛んできた兄のものだろう。

 

 

「…なんだ!まだ帰ってなかったのか!」

 

母が庭に立っている俺に気づき怒号を飛ばす。

 

 

「なぁ、変なこと聞くけどよ。」

 

「……なんだ。」

 

「俺が海に入って泡になって消えちまうって言ったら信じるか?」

 

瞬間、クォーツの時計が俺の頭に当たり、頭の皮が切れて血が出てきた。

 

 

「お前!ついにおかしくなったか!そんなもん信じるわけないだろ!」

 

「そうか……。」

 

「言っとくけどお前がどこでの垂れ死のうと私は知らないからね‼︎さっさとくたばっちまえ‼︎」

 

「ああ…そうするよ。じゃあな。二度とここへは来ない。」

 

結局、家の敷地から出るまで怒号を飛ばされ続けた。

 

 

 

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海に戻ってきて、切り立った岩山を進む。風はなく、穏やかな波を立てていた。

 

着ていた上着を捨てて、水の中へ入る。海中の岩を掴んで泳いでいると、岩の影に隠れて横穴があった。

 

その中へ進むと、小さな空洞に着くことができた。その空洞の潮溜まりに足を入れて、子供の頃から変わらない挨拶をした。

 

 

「…よお。いるかい?」

 

その直後だった。俺は細く、白い両腕で海の中に引きずり込まれた。目を開けると、子供の頃からずっと変わらない姿で泣いた顔を見せる彼女がいた。

 

 

「久しぶりだな、リラ。」

 

「……うんっ‼︎」

 

彼女は俺をきつく抱きしめた。海底についてもなお、彼女は俺を離すことはなかった。

 

 

 

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彼女との出会いは、俺がまだ子供の頃だった。当時、父のような漁師になるためにモリ突きをしていた俺は、目の前の大物を追うのに夢中で切り立った岩に気づかず、頭をぶつけて気絶してしまった。

 

目を覚ますと、彼女がいた。彼女はすぐに逃げてしまったが、俺は彼女に助けてもらった恩を返すために、毎日その場所へ行くようになった。

 

彼女は自分の事をリラと名乗り、お礼と言っても何をすればいいのか分からなかった。

 

すると彼女は一度も海から出た事が無く、海の上ではどんな事をしているのかをよく聞かれた。

 

 

「よお!いるかい?」

 

そう言うと、彼女は少しだけ顔を出して俺かどうかを確かめる。俺だと分かると出てきて話を始める。

 

彼女はとても嬉しそうに俺の話を聞いていた。そして別れる時はいつも悲しい顔をした。

 

中学の頃、父が亡くなった。俺は結局、父に一人前と言われることはなかった。そんな時でも彼女は俺を慰め、あの秘密の空洞を教えてくれた。

 

そして俺が高校生になり、大学受験が近づいてきた頃、俺は勉強に忙しく殆ど彼女のもとへ行くこともなくなった。

 

大学に入ればもう彼女のもとへ行くことはできないだろう。大学に入って船の運転資格を取り、漁師になるのだ。その前に彼女に一目会いたかったのだ。

 

彼女は久しぶりに会った俺にきつく抱きつき、恐らく泣いていた。落ち着いたところで俺はもう会えなくなる事を彼女に告げた。

 

 

「…………いや…。」

 

彼女は俺を組み敷いてきた。状況が分からず固まっている俺に、彼女は身を寄せ、口づけをした。その時、彼女は俺に血を飲ませた。

 

ようやく気を取り戻した俺が彼女を見ると、彼女は光のない目で泣いていた。

 

「いや…嫌よ……。やっと寂しくなくなったのに……。だったらいっそ……」

海の中へ引きずり込もうとする彼女の手を払い、逃げるように家に帰った。その後、俺は彼女のもとを少しでも離れるために上京し、二度と帰らないつもりで東京での生活を始めた。

 

 

 

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どのくらいの間潜っていただろうか。普通の人間であればすでに窒息死している頃だろう。しかし俺は地上に上がる事を必要とせず、彼女の謝罪の言葉を聞き続けていた。

 

「ごめんなさい……!ごめんなさい…‼︎」

 

「いいよ……。もう参った。降参だ。俺はずっとここにいるからもう泣くな。」

 

ようやく離れたかと思うと、彼女は俺の顔を優しく抑え、口づけをした。あの日と同じく、血を飲まされる。

 

上京した頃はいつもと変わらず、何事も無く過ごしていた。しかし月日が経つにつれ、体が海を求めるようになっていった。

 

今では海のそばにいないと、呼吸すらままならない。そしてさらに血を飲まされた。これで完全に地上へ上がることはできなくなったと思う。さらにここから何かが変わるといえば、多分俺は不老不死になっていると思う。

 

その証拠が頭の傷だ。ズキズキとした痛みが嘘のように消え、傷を触ると、そこにはもう傷は無かった。

 

 

「これからはずっと一緒よ…。」

 

「分かってる。もう二度と離れたりしないさ。」

 

ずっと泣いていた寂しがりやの人魚姫は、もう二度と無くことはなかった。

 

 

 

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後日、ある男の上着と荷物が海に浮かんでいるのを漁師が見つけた。

 

その男の遺体は見つからず、消息も分からなかった。

 

一時は人魚に攫われたと噂されたが、日が経つにつれ、男のことは次第に忘れられていった。

 

 

 

 

 




リラ出た。

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