映画はどの時間帯に見るのがいいのだろう?人が少ない朝?みんなで盛り上がれる昼?一人謎のテンションになる夜?
そんなことを考えながら俺は3回目の映画観賞に来た。しかも全て同じ映画である。
映画に行くと特典が貰えたりするが、俺にとってはどうでも良かった。
(やっぱいいなぁ…。)
映画のキャラ、ソラ。声優の人は初挑戦でキャラにせよ、声にせよ、好みは分かれるが俺は好きだ。
特にキャラのギャップだ。こういう高圧的な性格のキャラが見せるデレは、多分一番可愛らしいと思う。
ただ……。
(やば……。)
急な眠気に襲われた。ソラとその仲間達、特にソラとカナタの恋愛っぷりはとても良かった。
だから徹夜でイラストを描いてみた。正直恥ずかしいのでネットにも載せられないが…上手く描けたと思う。
自論だが、映画を観に来るといつもより眠気を誘われる。
(いかん…せっかく観に来たのに……。)
そう考えていても、瞼はどんどん重くなっていき、ついに意識を持っていかれた。
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「………ん…。」
目を覚ますと辺りは真っ暗だった。俺は自分が寝落ちしてしまったことを後悔した。
(なんというミスを…。くそっ……。)
後悔しても遅い。また次のチケットを買って見に来よう。そう思って立ち上がった時だった。
(……人がいない…?なんでだ?)
あんなに賑わっていた映画館には誰もいなかった。映画が終わったから帰ったという事もあるが、俺だけ残されたのはおかしい。
(まずいな……。しまってたらどうしようもないぞ…。)
スマホのライトで明るくしようと、ポケットに手を入れた。
(え…⁉︎ない!)
スマホがポケットに入っていなかった。どこかに落ちていないか身の回りを調べ、椅子の下を手探りでくまなく探したが見つからない。嫌な汗が背中に出てくる。
(取り敢えず明かりを探さないと…。)
壁を伝いながら映画館の外へ出た。
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「どこだ……ここ…。」
そこに広がっていたのは…。自分のいた場所ではなかった。映画館こそ同じものの、明らかに違っていた。
壊れたビル、ヒビの入った道路、一台も走っていない車、そしてあまりにも近い空。
(これは……これじゃあまるで…!)
「何をしているの?」
高圧的な口調、高圧的な声、映画館で何度も聞いた声だった。
振り向くと、そこには彼女がいた。その時、俺はすぐに理解した。
「見ない顔ね…。私はソラ。あなた名前は?」
ここは映画の中だと言うことを。
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俺は焦りながらも内心狂喜乱舞した。あの憧れの映画の仲間達に会えるなんて!
俺が別の場所から来たと言うことは伏せておいたが、ソラは俺をアジトに案内してくれて、尚且つその仲間達も俺によくしてくれた。
トウヤの剣、ユウナの機械仕掛けのマシンガンとスナイパー。ソラの大鎌。どれも映画で見たものと同じなのはもちろん、その重さも、変形の動きも、リアルに自分の目で見ることができる。
貰ったカンヅメもとても美味しく感じられた。
その後、仲間達とはすっかり打ち解けて、ソラの高圧的な態度も和らいできた。今ではよく楽しく話をする。
ただ…。なぜかカナタがいない。ソラにも聞いてみたが、カナタを知らないと言う。
(これは……もしや原作前ということか?)
カナタがいないことに仮説を立てた。原作前であれば早く彼らから離れなければならない。
俺というイレギュラーがいると、今後の展開に支障が出るかもしれない。それに……。
(やっぱソラとカナタは結ばれてほしいよなぁ…。)
俺のせいでソラとカナタの関係が変わってしまうのは嫌だった。寝取りも寝取られも嫌いだ。
だから俺は原作が始まる前にソラ達から離れることにした。俺は置き手紙を置き、ビルの中に潜むことにした。
内容は裏工作をするというもの。もともと裏で活躍していた事もあり、ソラ達は納得してくれていたようだった。
それからは俺はソラ達のサポートにまわった。ユウナの狙撃ポイントを教えたり、俺を見つけた神威に手紙を持たせて解放戦線達の情報を伝えたり…まぁとにかく色々とやった。
そしてカナタも登場した。取り敢えず原作までには間に合った。あとは解放戦線と戦い、エンディングを迎えるだけだ。
それまでは遠くでソラ達の戦いを見ていた。呂布の猛攻、カインのスターレーザーなど、大迫力のバトルが双眼鏡越しに間近で見ることができた。
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そして迎えたエンディング。つまり俺も帰るということ。やはりソラとカナタは結ばれてほしいと、ラストを見て何度も思った。
(いやぁ、楽しかったな……。少し寂しいけどいい体験ができた。)
体が光の粒になって空に昇ってゆく。俺はこの澄み渡った空を絶対に忘れないだろう。
そう思いながら、俺は意識を手放した。
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「………………ん…。」
気がつくと、俺は映画館の椅子に座っていた。
少しの間感傷に浸って、席を立った。
(…………?)
様子がおかしかった。映画館が真っ暗なままだったのだ。そして、この光景は前にも見たことがある。
スマホもポケットは無かった。ぞっとした俺は急いで外に出た。
「なんでだ…………。」
外には見覚えのある光景が広がっていた。壊れたビル、ヒビの入った道路、一台も走っていない車、あまりにも近い空、そして…
「何をしているの?」
ソラの声だった。
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ループしている。まるで映画が何回も上映されるように。
(なんでだ…。なんでだなんでだなんでだ……!)
考えて考えて、俺は結論に至った。
(まさか……俺がいるからか…?)
原因と思われるは俺というイレギュラーの存在。だったらどうするべきか…。10回目のエンディングを迎えながら考えた。
(俺が原作のキャラと会った瞬間、そこからループが始まるのではないか……?だったら…俺が原作のキャラと合わないようにするしかない……!)
俺は何度も何度も繰り返しキャラ達の動きをメモにとって会わない作戦を練った。
キャラに会ってはメモをとり、隠れる場所や安全地帯を探しながらループし続けた。
そして352回目のループ。俺は一度も映画のキャラと会うことなくエンディングを迎えた。
(頼む……頼む…!どうか終わらせてくれ!)
体が光の粒になっていき、意識を手放した。
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「…………ん…。」
気がついて飛び起きた。そして俺は帰ってきたと確信した。
映画館の電気がついているのだ。ポケットにスマホも入っている。スクリーンには何も映っていなかった。
「終わった……。終わったぞ!やった‼︎」
ようやく終わった。相変わらず映画館には誰もいなかったが、間違いなく今までとは違っていた。そして意気揚々と映画館のホールに行った。
そして、違和感に気づいたのはその時だった。
(……静かすぎる…。)
時刻は11時、上映が終わっていたとしても、スタッフくらいはいるはずだ。
(いや…!大丈夫だ!今までとは違うんだ。ちゃんと帰ってきたんだ!)
不安になってきた。俺は急いで帰ろうと映画館の外へ出た。
「なんだ……なんだよ………これ……。」
広がっていたのは東京の街並み。しかし問題はその東京の街にだれ一人として人が存在していないということだった。
「だれかー!だれかいないのかー‼︎」
精一杯声を張り上げて叫ぶ。応えるものは一人もいなかった。
その時、だれかがビルの物陰に入っていくのが見えた。
「おーい‼︎待ってくれ‼︎」
人影が入っていった方向へ走る。近づくと、たしかに人だった。
(やった!助かった‼︎)
「すいません!これは一体どうなっ‼︎……って………。」
目を疑った。
あの見覚えのある大鎌。
あの蒼い髪。
そうだ…。間違いない。彼女は……!
「久しぶり。」
「ソ…ラ……?」
「どうして?って顔してるでしょ。教えてあげる。」
「あの映画をループしていたのはあなただけじゃない。私もループしていたの。」
「私はずっと知っていた。だれが出てくるのか、だれがだれと戦うのか。そして……
私があなたを好きになったことも。」
「ループするたびにどんどんあなたへの思いが募ってゆく。」
「ひどい人。あんなに笑いあっていたのに自分だけ逃げようとするなんて。」
「だからね、私は思ったの。あの映画はあなたがエンディングを迎えさせた。つまりあなたが主人公の映画だったんじゃないかって。」
「あなたはエンディングを迎えた。じゃあ次はだれが主人公の物語が始まると思う?」
「まさか…!」
「そう。次は私が主人公の映画が始まった。そしてここは私の映画の中の世界。」
「映画の内容は…私とあなただけしかいない世界。」
「そしてエンディングは……私とあなたが一生を終えること。」
「ねぇ…もう分かるでしょ?あなたがしなければいけないこと、あなたの役割。」
「い…嫌だ……。」
「あなたはね、私の恋人として一生付き合っていくしかないの。」
「嫌だぁぁぁぁぁあ‼︎」
「ふふふ……。バカな人。」
嫌だ…嫌だ!逃げなければ!
(終わってくれ!終わってくれよ!)
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「あ」
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「おはよ……。」
「おはよう!朝ごはんできてるからね!」
「ええ…。」
本当に馬鹿な人。私が主人公なんだからこの世界の権限は私にあるのに。
私が私のものをどう使おうが自由。だから……
あなたの記憶を消して私の恋人にしてあげた。
嬉しい……あなたの全てが私のものになった。
「行ってくるわ。」
「うん!あ、ちょっと待って。」
そういうと彼は私をしっかりと抱きしめた。ああ…そう言えばこんなふうに設定したんだっけ。
「愛してるよ…。」
「私もよ……。」
絶対に終わらせない…。何度だってループしてやり直してやる……。
エンディングなんて……絶対に迎えさせない…。
明日はザドキエルを書く(鋼の意思)