シンドバッドおじさんの壁ドンは強いってはっきり分かんだね。
10年間眠ったままだった叔父が目を覚ました。
10年前、俺はまだ7歳だったから叔父のことはよく覚えていない。
病室の扉を開けると、叔父がいた。窓から入る光が、叔父の痩せた顔を照らした。
当時28歳だった叔父は10年経っても当時のまま変わっていないように見えた。
「叔父さん。退院の手続き終わったから帰ろう。」
「ん…ああ。」
両親がまだうまく歩けない叔父を乗せて家に向かう。叔父の衰えた筋肉が普通に歩けるほどになるまでは叔父と暮らすことになった。
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夜になって両親も寝静まって、起きているのは俺と叔父のみになっていた。
「おやすみ叔父さん。」
「ああ…。」
部屋を出る間際に見た叔父の目は鋭く、なにかを警戒しているように見えた。
日が昇る頃、俺は早くに起きて日課のランニングを始めようとキッチンにパンをかじりにいった。
「叔父さん…?」
「ん…ああ。もう朝か……。」
こんな朝早くに叔父は起きていた。叔父は俺を見た後水を一杯飲み、寝室へ向かった。
「どうしたの?こんな朝早くに…。」
「いや……何でもないんだ。もう少し寝るよ…。」
そうして叔父は寝室へ入っていった。しかし俺はおかしいと思った。
布団が綺麗に整っているのだ。めくられた後もなく、皺一つも無かった。
少し不審に思ったが、ランニングの時間に遅れるので考えないようにした。
結局叔父は日が暮れるまで眠り続けた。
それからと言うものの、叔父は奇妙な行動をとるようになった。
昼間に寝て、夜に起きている。生活習慣が逆転していたのだ。
両親はすぐにおかしいと思い叔父を病院に連れて行ったが、おかしなところはないと言われた。
俺は両親に頼まれ、叔父になぜ夜に眠らないのかを聞いた。
「夜は…だめだ。あの子が来る…。」
「あの子って何?」
「…名前もだめだ。あの子は私の呼ぶ声に反応する…。必ず見つかる……。」
結局『あの子』とは誰のことかわからなかったが、叔父が異常なまでに怯えていたことが、あまりにも不可解だった。
両親は何度も病院に連れて行ったが異常はないとされ、叔父に何度も夜に眠るように言うが、その度に叔父は怯え、聞き入れることはなかった。
次第に両親は叔父を厄介者として見るようになり、夫婦仲は険悪になっていった。
「叔父さん……頼むから夜に寝てよ…。」
「…………すまん……。」
叔父も分かっているのだ。自分が迷惑をかけていることを。しかし俺はそんな叔父の気持ちを汲み取ってやることはできなかった。
「はい。用法・容量を守るようにしてください。」
「ありがとうございます……。」
高校の帰り、精神科に行って叔父のために睡眠薬を貰った。
それを叔父にビタミン剤と言って飲ませた。
そして叔父はそのままソファーで眠ってしまった。
(ごめん…叔父さん。)
布団をかけて両親に寝たことを言うと、二人は安心していたようだった。
(俺ももう寝よう……。)
叔父のことを少しだけ気にしながら俺は眠りについた。
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「……‼︎ここは…!」
目覚めると長い長い廊下に立っていた。戻ってきてしまったのだ、この場所に。
「ごめんなさい……ごめんなさい………。」
あの子の声だ。忘れるはずもない、死の淵を彷徨う私を殺そうとしたあの子の声。
「ごめんなさい…ごめんなさい……。」
「ラミエル…!」
ふらふらと私の方へ近づいてくる。
「やめろ!こっちへ来るな!近づくな!」
彼女は止まる気配を見せない。彼女が近づく度に、その足音を聞く度に、彼女に殺されかけた恐怖が体を駆け巡る。
「くっ……!」
私は全力で逃げた。決して振り返らず、ただ目の前の闇に向かって走り続けた。
(くそ!早く!早く夢から覚めてくれ‼︎)
(まだまだやりたい事が沢山あるんだ!趣味にだって没頭したい、両親に会いたい、義理の弟と酒を交わしたい、あの子に叔父らしいことをしてやりたい!)
(まだまだやりたい事が……。)
何かにぶつかった。
檻だ。闇の中に黒い鉄格子ができていた。扉などどこにも無かった。
「くそぉぉお‼︎開け開け開け開け開け‼︎」
何度も何度も鉄格子を引き、ガシャガシャと音を立てた。
「開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け‼︎
「ごめんなさい…。」
背後から聞こえる声。背中から伝わる異物感と痛み。
「あ……。」
一歩でも…一歩でも……彼女から距離をとらなければ……。
「あがっ……。」
手にしていたナイフで腹を刺された。ずるりと血のついたナイフを抜き取られると、体から力が抜けていった。
倒れた私に彼女は馬乗りになる。そして手に持つナイフを……
「やめ……て…くれ……。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
謝る度に彼女私の体に穴を開けた。何度も…何度も……何度も………
(だれか…だれか……助け……て………。)
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………
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ごめんなさい…ごめんなさい……。
あなたを見つけてしまってごめんなさい
あなたと出会ってしまってごめんなさい
あなたと話をしてしまってごめんなさい
楽しいと思ってしまってごめんなさい
あなたとの夜を待ち遠しくなってごめんなさい
天使なのにあなたを好きになってしまってごめんなさい
あなたに依存してしまってごめんなさい
あなた無しじゃ生きていられなくなってしまってごめんなさい
あなたを欲しくなってしまってごめんなさい
あなたを殺そうとしてしまってごめんなさい
あなたと一つになりたいと思ってしまってごめんなさい
あなたの魂を抜き取ろうとしてごめんなさい
あなたを逃げられないようにしてごめんなさい
あなたを刺してごめんなさい
あなたを殺してしまってごめんなさい
あなたの魂を閉じ込めてしまってごめんなさい
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……。
でも…こうしないとあなたは逃げていってしまうから……。
あなたを私の中に閉じ込めるの……。
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……。
悲しいのに……嬉しくなってごめんなさい……。
ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……。
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いつもよりランニングを早く終わらせて帰ってきた俺は、ソファーで寝ている叔父を尻目に、カーテンを開け、朝日の光を浴びた。
時刻は朝の7時を回っているが、両親は疲れていたのかまだ起きてこなかった。
叔父を起こそうと俺は体を揺すった。
「叔父さん、朝だよ。」
「叔父さん……?」
叔父はもう二度と目覚めることはなかった。
チャイコフスキー姉貴が使用率二位で草星五のキャラで楽勝なんて恥ずかしくないの?