ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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リクエストって結構むずいわ。


受胎告知(ガブリエル)

 

 

 

「………………。」

 

家に帰ると必ずポストに手紙が入っている。宛先不明のものだ。

 

家に入って封筒を開ける。中身はいつもいつも飽きもせず同じ内容だ。

 

 

 

 

 

好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。

 

愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる

 

全て読み終わる前にライターで燃やした。

 

 

「………流石に飽きた。」

 

家は一家揃ってキリスト教徒だ。なんでも母は体が弱く、俺を産むと母の体が危険だった。俺を降ろすか産むかの選択を迫られたとき、天から声が聞こえて『産め』と言われたらしい。

 

その言葉を信じて母は俺を産んだ。しかも母は奇跡的に助かったらしい。

 

それからはトントン拍子でキリスト教にのめり込んだ。

 

しかし俺はこれを疑った。もちろん俺もキリストを信じていた。しかし私の周りでは何か恐ろしいことが起こるのだ。

 

小学校時代、隣人愛を信じ近所の子供達と仲良くした。しかしその一年後、近所の子供達が行方不明になった。それ以外にもクラスの隣の机の子と話せば、半年後に行方不明になった。

 

原因は自分だと自分で分かっていた。祖母も祖父も俺が6歳の時に行方不明になった。その小学校時代の事件以来、俺は他人と話すのをやめた。加えて父親譲りの強面だ、誰も俺には近づいてこなかった。

 

中学校時代、無口が原因でいじめられた。そのいじめていた奴らは俺がどんなにやられても無口なのが気に入らず、些細な嫌がらせが、殴る蹴るに発展した。

 

俺はキリストの『誰かに殴られたのなら、もう一方の頬を差し出せ』という教え通り、やり返すことはしなかった。結果、俺をいじめていた奴らは一週間ほどで行方不明になった。

 

一時は俺が殺人を犯し、隠したのではないかという疑いがかけられたが、十分な証拠が無いため、次第にその疑いは消えていった。しかし学校にはその噂が残り、誰も俺に近づくことはなかった。

 

そして高校時代、筆談であれば大丈夫だと分かったが、俺の噂は中学から進学してきた生徒から噂され、誰も近づくことはなかった。加えて俺は強面で誰とも話すことができず、心は荒んで常に怒りの感情を出すようになった。

 

俺は不良のレッテルを貼られたまま高校時代を過ごすことになった。俺は荒れに荒れ、高校にもまともに行かず、ただただ自分の噂をいいことに力でねじ伏せる毎日を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに終止符を打ったのは両親だった。両親は荒れた俺をしっかりと抱擁し続けた。ただ黙って抱きしめ続けた。俺はいつしか涙を流し、両親の腕の中で眠った。

 

両親は俺を無理に教会に連れて行こうとせず2人で朝の礼拝に行ってしまった。俺は支えてくれた両親のために恩返しをしようと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日以来、両親が帰ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以来、俺は教会に行くことはなくなった。俺は必死で勉強して大学に入り、両親が残した財産を使って生活をした。

 

俺の噂はあらゆる場所に広まっていて、バイトもまともに出来なくなっていた。

 

そんな時、1人の女性が俺に好意を寄せて来た。

 

 

「先輩!」

 

癖のある緑色の髪の活発な彼女。俺が何度断っても毎日毎日来る始末。根負けした俺はすべてのことを自己責任にする事を条件に交際を始めた。

 

不思議なことに、彼女と会ってもう五年以上になるが、彼女はいなくなることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物思いにふけっていると、インターホンが鳴った。覗き穴から外を覗くと、彼女が立っていた。

 

玄関のドアを開けて要件を聞こうとする。

 

 

「先輩…お家に上がらせてもらってもいいですか……?」

 

俺はすぐに追い返そうとした。両親以外の他人を入れたことはなく、何が起こるかわからなかったからだ。すると彼女は

 

 

「何があっても自己責任!でしょ?」

 

うろたえる俺を無視し、彼女は家へ入ってきてしまった。

 

 

「材料買ってきたんでご飯作ってあげます!最近料理にハマってて、先輩には味見役になってもらいます!」

 

彼女は料理の味見役を頼んできた。仕方なく俺は受けた。

 

 

「先輩!どうですか?」

 

言葉で伝えることは出来なかったので、俺は箸の進み具合で、美味しさを表現した。

 

 

 

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彼女を家まで送り届けて帰ろうとする。玄関を出ようとしたとき、彼女が私の手を握って家の中へ入れた。

 

 

「先輩…。実は私…隠していることがあるんです。」

 

彼女がそう言うと私は自分の目を疑った。彼女の背中から三対の翼が生えてきたのだ。

 

 

「私は…天使なんです。」

 

俺は彼女を知っていた。教会で何度も見たステンドグラスに描かれていた大天使ガブリエルの姿。しかしなぜ彼女が俺のもとに現れたのか分からなかった。

 

すると彼女は顔を赤らめて

 

 

「ずっとあなたのことを見ていました!私は…あなたのことが好きです!」

 

その言葉に俺は黙っていることしかできなかった。

 

 

「あなたの噂は知っています……。でも!私はあなたが好きです!消えてしまってもいい!だから……!」

 

彼女に強く抱擁される。絶対に離さないと力のこもった抱擁だった。

 

 

「私を愛して……‼︎」

 

『断る』と『嫌だ』と言いたかった。しかしどんなに声に出そうとしても声に出ない。俺はいつの間にか涙を流していた。彼女は涙を流す俺の頭を撫でる。

 

 

「大丈夫です…。どこにも行きませんよ。ずっとあなたのそばにいますから……。」

 

泣いたのは、これで2回目だった。

 

 

 

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「じゃあ行ってきますね先輩!ちゃんとお留守番してないとダメですよ!」

 

彼女が大学へ行く時間になった。俺は彼女を見送ったあと、どうしようもない不安に駆られた。

 

彼女が消えてしまったら?彼女がこのまま帰ってこなかったら?そんなことばかりが頭の中をよぎる。俺は彼女が帰って来る時間までずっと神に祈り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまです。先輩!」

 

彼女が帰ってきたことに俺は安堵し、涙が溢れ出した。そんな俺を彼女は優しく抱きしめる。

 

 

「大丈夫です。私はちゃーんと帰って来ますよ。でも…私を信じてくれないのはちょっと悲しいです。だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなものよりも、どんな人よりも、私だけを信じてくださいね。」

 

そうだ。彼女が俺の事を信じているのに俺は彼女のことを信じられなかった。そんなのは駄目だ。俺は彼女だけを信じていればそれでよかった。

 

これからは彼女だけを信じよう。もう神なんかどうでもいい。彼女だけを信じることができれば、俺は幸せなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母親の胎内で眠る彼を見て、私は顔が熱くなった。

 

一目惚れだった。しかし、彼の母親は体が弱く母親が助かるためには彼の命を犠牲にするしかなかった。

 

 

「いや…………そんなのは嫌‼︎」

 

私は彼の母親に彼を産むよう伝え、彼が産まれた。その夜。彼のもとへ向かうと、彼は私に向かって笑ってくれた。

 

その瞬間から私は彼の全てが欲しくなった。

 

 

 

でも、彼は私より先に他の人に沢山のものをあげてしまった。

 

だから私は彼を奪った人を徹底的に消していった。電撃を放つと彼を奪った人は簡単に塵になって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が小さい頃、彼の声と楽しげな表情を奪った子供達を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が大人びてきた頃、彼の傷を、血を、優しさを奪った人を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は彼に手紙を書いた。手紙はすぐに燃やされてしまったりしたが、彼の不安そうな顔が私に向けられたのがとても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のおかげで彼は産まれた。だから彼の全ては私のもの。彼の両親は彼を産んでくれたから消さないでおいてあげた。あの日が来るまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が大人に近づいてきた頃、彼は泣いていた。両親の腕の中で。自分の辛い事をぶつけるように、押しとどめていたものを吐き出すように、産まれた時に泣くのとは違う、静かな悲しみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

なんで?

 

 

それだけは奪われたくなかったのに。

 

 

彼の笑った顔も怒った顔も驚いた顔も安心した顔も落ち込む顔も眠った顔も疲れた顔も感動した顔も怒りも悲しみも優しさもぬくもりも信頼も疑念も血も汗も涙も髪も爪も手も足も歯も骨もみーんな奪われて辛くて、でもそれだけはずっと奪われてなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけるな……

 

 

ふざけるな‼︎

 

 

それだけは私が初めてになるはずだったのに!よりによって生かしておいたものに奪われるなんて‼︎

 

 

あああああ‼︎消しておけばよかったんだ!あの時消しておけば!

 

 

もういい。堕ちたって構わない。彼さえいればもう何もかもどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に彼は私のものになった。たまらなく嬉しかった。これで彼は私だけしか信じられない。そして私は奪われたものを全部取り返してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は彼の初めての『肉欲』を『純潔』を、私の『肉欲』と『純潔』を以って与え合うことができた。

 

そして次は彼と私との間の『命』を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その家の隅には、埃を被っている聖書が無造作に投げ捨てられてある。

 

 

受胎告知がもうすぐ始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 





ガブリエルが出る事を祈って

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