ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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ルイス・キャロルは唯一女体化していい人だと思いました。(迫真)


私のお人形(アリス)

 

 

 

 

お腹に綿を詰めましょう。

 

 

 

目にはボタンを、手にはカメラを。

 

 

 

古い布を取り替えて、カラフルな布を縫い合わせたら…。

 

 

 

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涼しい風と、葉の擦れる音で目がさめる。疲れて休んでいるうちに、眠ってしまったようだ。

 

大きく息を吸って、吐き出す。寝起きの息苦しさも、うるさい心臓の音も、少しは落ち着いた。

 

 

(あのウサギは…もう逃げてしまったか…。)

 

世にも珍しいウサギだった。貴族を思わせるスーツに身を包み、金色の懐中時計をぶら下げながら忙しそうに私の目の前を通り過ぎた。遠くからだが、頭のところにツギハギがあったようにも見える。

 

売れない写真家の私は、その珍しいウサギに、まさに飛びかかった。捕まえて写真を撮れば、有名にはならないにしろ、今よりまともな食事にありつけると思ったからだ。

 

ただ、ちゃんとしたものを食べていなかったせいか、いくら追いかけてもウサギには追いつけなかった。

 

 

(どこまで追いかけてきたんだろう…。)

 

小さな丘の上に、木が一本。少なくともこの辺りにはそんな場所はない。

 

 

「なにしてるの?」

 

後ろから声をかけられる。女の子の声だった。振り向いてその子を見た瞬間、私はカメラを構えて写真を撮っていた。

 

ずっと追いかけてきたあのウサギを、その子は抱きかかえていた。

 

 

「ねぇ?そのウサギは君のかな?」

 

怖がらせないようになるべく優しく問いかける。

 

 

「うん!私の大切なお友達!」

 

ニコニコと笑いながら答えた。女の子がぎゅっと力を入れて抱きしめると、縫い目から綿が飛び出していた。

 

 

「ねぇ!一緒に遊びましょ?」

 

この子と仲良くなればあのウサギを貸してくれるかもしれない。断る理由はなかった。

 

 

「うん、いいよ。君の名前は?」

 

 

 

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おそらく半年前のことである。ここには昼夜こそあれど、日付はない。カメラのフィルムは全て使い切って、後はこれを新聞社にでも届ければいいのだが、ここから抜け出すこともできず困り果てていた。

 

この『不思議の国』と呼ばれる場所は、はっきり言って異常だ。

 

はじめは、ただ面白そうな場所だと思った。カラフルな家にカラフルな城、青々とした草原に深緑の鮮やかな森。遠くからは海も見えた。

 

ぬいぐるみが街を歩き、猫や帽子屋がタルトやクッキーを食べてお茶会をしている。手足の生えたトランプが、兵士の真似事をしている。

 

いかにも子供が考えそうな、そんな場所だった。さらに自分を女王と名乗るあの子。あの子は自分のことを『アリス』と名乗っていた。

 

聞いたことがある名前だった。3年以上前、私が住んでいた街でほんの2、3分目を離していた隙に、行方不明になってしまった少女。その子の名前もアリスといった。

 

今はフリルのついたドレスを着ているが、彼女は間違いなく3年以上前に行方不明になったアリスと言う子だった。

 

動くぬいぐるみは見世物にできる。行方不明になった子も見つけた。これを伝えれば一生食っていける。ここまで来たのに、私はこの場所で半年近く過ごしている。

 

原因としては、彼女に気に入られてしまったことだ。ここは子供の空想を描いた場所。だが実際は恐ろしいものだった。

 

綺麗な森は中に入ってみれば木漏れ日も届かない真っ暗で、右も左も分からなかった。草原は彼女が通る度、自らを美しく見せようと風に揺られた。海は墨のように真っ黒で、魚どころか海藻1つなかった。

 

ここにいる住民達も、ただずっと笑っていた。異様でしかなかった。寝ても覚めても、黙っていても喋っていても、その口角が下がることは一度もない。

 

女王である彼女には逆らえない。曰く、可愛いものや気に入ったものは大切にするらしい。

 

では、彼女の気分にそぐわないものが現れたらどうなるのか。やはりそれは、彼女にとってはいらないもの。

 

蝋人形ならば炎で溶かされ、ぬいぐるみなら糸を取られる。

 

彼女に気に入られてしまった私が、あの子の気持ちを裏切れば、どうなるかなど簡単に予想がつく。

 

幸い、周りに流されるように生きてきたので、こう言うことには慣れていた。

 

(今は彼女には逆らえない。でもいつかは…。)

 

腕の中で眠っている彼女の髪を撫でながら、こんな決心を半年前から繰り返していた。

 

 

 

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素敵な人に出会った。蝋でできていない。布でもできていない。私と同じ材料でできた素敵な人。

 

私のことを誰よりも見てくれる。誰よりも分かってくれる。私のことをずっと褒めてくれる。

 

鞄の中は美術館。花の咲く丘、青い海、空も森も川も海も、みんな鞄の中に詰まってる。

 

もっと私を褒めて欲しい。もっと私を見てほしい。もっと私と遊んでほしい。もっと私とお話ししてほしい。

 

美味しいタルトを食べて、甘い紅茶を飲んで、美味しいご飯をたくさん食べるの。

 

肉をすり潰してハンバーグ。腸に詰めてソーセージ。豚の心臓を四角く切ってスープの中へ。パンも忘れずに。

 

あの人が来てから、毎日が楽しい日々。退屈のしない日々。でもまだ足りない。

 

もっともっと私を見て。もっともっと私を褒めて。もっともっと私と遊んで。もっともっと私と楽しいお話をして。もっともっとお茶会をしましょう?もっともっと美味しいご飯を食べましょう?

 

あなたと話した人形達はもういない。私が殺したわ。あなたと話す人形は嫌い。私のものじゃなくなっちゃうから。

 

私はもっとあなたがほしいのに、素敵なあなたはどんどん増えていく。

 

ほしい…あなたの全部がほしいよぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、決めた。

 

あなたをお人形にしちゃえって。

 

お人形になって、ずっと私と一緒にいるの。

 

 

 

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最近、アリスの私に向ける眼差しが違う。

 

人の機嫌ばかり取っていたせいか、色々な目を見てきた。だから私は今まで独裁者のようなアリスから生き延びてきた。

 

でも、今の目は違う。人形を殺す目でもない。嫉妬する目でもない。新しい玩具を買ってもらう子供のような…無邪気な目。

 

その目は…狂気に満ちた目。蒼い目の奥に、血のように赤黒くドロドロの目が…。

 

 

「ねぇ……?」

 

なぜ…なぜ私をそんな目で見る…?なぜ嗤う…?なぜこちらへ向かってくる…?

 

 

「私ね…素敵なあなたを私だけのものにしたいの…?」

 

来るな………………。

 

 

「あなたをお人形にしたら……きっと…きっと!」

 

 

 

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お腹に綿を詰めましょう。引き裂くのは私の大鎌。あなたの中身はもういらない。

 

 

 

目をくり抜いてボタンをつける。手にはカメラを縫い付けて。

 

 

 

豚の心臓はもういらない。あなたの血で美味しいスープを。あなたの心臓を四角く切ってスープに入れるの。

 

 

 

宝石のように綺麗な目は美味しいキャンディ。

 

 

 

あなたの皮は何に使いましょう?新しい絵本の表紙?可愛いバッグ?

 

 

 

赤、青、黄色、カラフルな布を縫い合わせて…。

 

 

「できた!」

 

 

私だけのお人形。私だけの素敵な人。楽しい時も、悲しい時も、ずっと一緒にいてくれる素敵な人…。

 

 

 

素敵なあなたは、全部私のもの……。

 

 

 

 

 

 





お前を芸術sん・・・てあげんだよ!

お前を芸術s、品にしたんだよ!



お前を芸術品にしてやるよ!(KBTIT)

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