ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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1200以上あるヤンデレ作品の頂点に立ちました。(御満悦)


カトリの伝承(フツヌシ)

 

 

 

男は歩いていた。片手に折れて尚、4尺の大太刀を持って。

 

体は赤く、大太刀から血は滴り落ちる。切り殺した賊の血であり、自らの血でもあった。

 

森は開け、切り立った崖のその先に神はいた。

 

 

「…早かったなぁ。前に会った時から100年も経ってねえ。」

 

神は瓢箪の神酒を呷る。男はその姿を怒りもなく、怨みもなく、射殺すような目で見ていた。

 

男はその神を斬らねばならなかった。斬らねば男の未来はなかった。

 

神は振り向き、腰の大太刀を抜いて大きく手を広げた。

 

 

「さ、始めようか。早くアタシを殺しておくれ。」

 

男が走り出す。砕けんばかりに大太刀の柄を握り、その神へ振り下ろした。

 

 

 

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男は刀鍛冶であった。多くの者が人を斬るために刀を頼んだ名匠であった。

 

しかし平和な世になり、刀の時代は終わった。男の出来ることは刀鍛冶しかなかったので、生活は困窮した。

 

それでも尚、男は刀を打っていた。刀が人を斬るためのものではなく、観るためのものとなったからだ。

 

 

「またそんな紛い物を打っているのか?」

 

かつて自分自身が人を斬るために使っていた大太刀を、神は胡座をかいてその刀身を眺めていた。

 

「……人を斬る時代は終わった。刀鍛冶しかできない俺に他に何をしろと言うのだ。」

 

「ああそうだな。だがそれは最早刀ではない。人を斬らぬ刀など、ただ鉄を延べただけの紛い物よ。」

 

神はけたけた嗤うが、男は目もくれず刀を叩き続けた。

 

 

「ならば何故ここにいる。フツヌシ。お前が愚かとする刀を造る男の元に、何を求めている。」

 

フツヌシは何も答えず、雨と刀を叩く音を聞きながら、平和になった世を物憂げに見ていた。

 

 

「……今は平和なんだろうよ。だがすぐにそれも終わる。力で全てを握する事ができたあの時代に人間は必ず戻りたいと思う筈だ。」

 

「神とは人の安寧を願うものではないのか。」

 

「アタシは軍神だぜ?戦が嫌いでどうする?」

 

見下すようにフツヌシは言う。男は刀を打っていた。

 

 

「…もう戦は起こらぬ。少なくとも俺が生きている時はな。」

 

男も分かっていたのである。刀を造っているとは言え、これは人を斬るためのものではない。

 

そんなものは刀とも呼べない。人を斬るために造られた刀が、人の目を集めるだけの延べ棒に成り下がったのだ。

 

それが分かってしまえば、そう考えてしまえば、その考えは腕に伝わりもう人を斬る刀は作れない。

 

フツヌシは男が人斬りの時から傍にいた。男が使っていた大太刀も、今まで戦で人を斬り続けられたのも、フツヌシの力あってこそのものだった。

 

男自身、人斬りの時代は人を斬ると言っても自身の国を脅かすものだけだった。

 

国からは英雄と呼ばれ、武功を挙げては欲しいものを欲しいままにしていた。

 

国を盗られ、人を斬る時代は終わり、路頭に迷ったが今度は見世物の刀鍛冶として名を挙げた。

 

どれ程腑抜けようが関係ない。全ては自分が生きるため。何より、自分の妻を守る為。

 

男には妻がいる。自分より3つ下の、もうすぐ19になる妻。子供はいないが、それでも良かった。

 

守るべき者がいる男は、あの力で全てが思い通りになった時代を懐かしく思ったが、戻りたいとは思わなかった。

 

 

「…逃げられねェよ。お前は。」

 

先を見通すように、フツヌシはため息交じりで言った。男は刀を打っていた。

 

 

「お前が斬ってきた人間の子や、友や、親がお前を殺しに来るだろうよ。或いは…。」

 

フツヌシはそれ以上何も言わず、不意に立ち上がると炉の裏の闇へ消えていった。

 

 

「……あなた?」

 

声をかけたのは男の妻であった。妻は少し先の町の油屋の娘であった。

 

妻の父が死に、親戚に家を奪われたが、男が嫁として娶ったのである。

 

 

「どうしたの…?誰かいたの?」

 

「……いいや、何もない。さぁ飯を食おう。」

 

男はフツヌシの言っていた『或い』とはなんだったのか、心の中で渦巻いていた。

 

 

 

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その日、男の妻は帰ってこなかった。男はその日を境に刀鍛冶をしなくなってしまった。

 

男の妻が辻斬りにあったのである。山へ山菜を採りに行った帰りであった。

 

男の妻は左の鎖骨から右の脇腹へかけて深く斬られ、そして首を取られていた。

 

怨みか、金か、それとも憂さ晴らしか。誰が何のためにそれほどむごい事をしたのか。

 

犯人を突き止める前に、男はみるみるうちに無気力になっていった。

 

 

「腑抜けたなァ。」

 

暫く現れなかったフツヌシが、男と向かい合うようにいた。手には酒と干した肉を持っていた。

 

 

「喰え。」

 

そう言ってフツヌシは男に干した肉を渡す。本人は瓢箪に入った酒を呷っていた。

 

どれだけ無気力になっても腹は減る。刀鍛冶も辞めたのに、食うことだけは一丁前だった。

 

 

「お前が斬ってきた人間の子や、友や、親がお前を殺しに来る。そう言ったな。」

 

瓢箪の口を塞ぎ、フツヌシは話し出した。

 

 

「……だから何だ…。」

 

「お前は…結局逃げられなかったな…。いや、逃さなかったの方が正しいか。」

 

 

 

 

 

「お前の嫁を殺したのはアタシだよ。」

 

男は理解できずにフツヌシを見た。その顔を見てフツヌシは嬉しそうに笑った。

 

 

「そうだ…。その目だよ。人斬りの目だ。やっと戻ってきた。」

 

「なぁ…。仮にも葦原中国平定を成し遂げた神がお前みたいな餓鬼といたなんて普通ねェんだよ。」

 

「お前はアタシと同じ目をしてた。人を斬りたくてしょうがないんだよ。」

 

「斬れれば何でもいい。敵だろうが味方だろうが、自分の嫁だろうが神だろうが。それをお前は抑え込んじまったよ…。」

 

「なぁ…アタシはお前に惚れてたんだよ…。お前のその目に…。アタシと同じ目をしたお前に!餓鬼の頃から人を斬らせて…刀だってアタシが鍛えてきた…!だがお前は腑抜けた‼︎あんな有象無象の女1人の為に‼︎」

 

「だが。それももう終わりだ…。その肉はな、アタシの肉だよ。神の肉を人間が喰ったんだ。」

 

男の手にはいつの間にか刀があった。かつて人を斬ってきた刀が。何故男がその刀を手にしているのか、男は分からなかった。ただ一つ分かることは……

 

 

 

この女を斬らなければ、俺は人間ではいられない。何より、この女を斬りたい。

 

 

「もう二度と腑抜けさせやしねぇ…。もう刀鍛冶は終わりだ…。」

 

 

 

「あの女の首は取ったよ。」

 

フツヌシはまるで自分の子に言い聞かせるように、微笑みを浮かべ言ったのである。

 

それを聞いた瞬間、男は刀を抜いていた。怒りも怨みも沸かなかった。ただ、斬りたいと言うだけ。

 

だが、男の刀は弾かれた。フツヌシの大太刀で弾かれたのだ。

 

 

「アタシを殺しに来い。何度でも…何度でもだ!」

 

フツヌシが刀を振り下ろす。男は防ごうとした。が、フツヌシの大太刀は男の刀を容易く折り、袈裟懸けに男を斬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男が気がつくと、自分の体は何も無かった。斬られた感覚も、痛みもあった。だがその傷はどこにも無かった。

 

その姿を見て、男は斬られたことに気がついた。袈裟懸けに切られた跡があった。

 

(あの女を…あの女を斬らなければ…。)

 

男の頭には、それしか入っていなかった。

 

今よりおおよそ、100年前の話である。

 

 

 

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男の刀が弾かれる。大きく仰け反ったが、力で体を戻し、押し切ろうとする。

 

 

「はははッ!アタシと同じ斬り方だ!ただ斬ろうとするだけの斬り方だ!」

 

男はその言葉も聞かず刀を振り下ろす。

 

 

(それで良い…。ただアタシを斬り続けるだけで良い。)

 

(そうすれば…アタシだけを見てくれる…。アタシだけを考えてくれる…!)

 

(あぁ幸せだ‼︎惚れた男が、アタシの事だけを考えてアタシを殺しに来てくれる‼︎)

 

神が男の本胴を腕ごと断つ。男は悲鳴も上げず崩れ落ちた。

 

 

「もっとだ…もっと人を斬れ…。斬っていれば…いつかはアタシを…。」

 

その刀は、未だ神に届かなかった。

 

 

 

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ある場所に、ある伝承がある。

 

 

男が神に妻を殺され、復讐の鬼となった。

 

 

しかし男は人を斬り続けているあまり、神を斬ると言う事だけを残して、自分が何のために人を斬っているのかを忘れてしまった。

 

 

男は、ただ斬りたかっただけなのである。それが敵であろうが味方であろうが、自分の妻であろうが神であろうが。

 

 

多くの兵を、多くの人を、その男によって斬られた。

 

 

その力を、その刀を、人は恐れて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カトリと呼んだ。

 

 

 

 

 




男勝り乱暴者巨乳姉貴肌のフツヌシ好き(属性過多)

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