ヤンデルモンスト〜書いたら出るを添えて〜   作:千銀

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お前子供が多いゲームでそんな格好していいと思ってんのかオオン⁉︎(リボンα)


寝たきりの王子様(リボン)

 

 

 

 

 

「……よし、送信。」

 

作った資料が務めている会社に送られた事を確認してパソコンを閉じ、一仕事終えた俺はナースコールを押してベットから車椅子に移してもらった。

 

慣れない手つきで車椅子を動かし、ようやく自販機にたどり着いた。

 

 

「あ……。」

 

コーヒーを押そうとして気付いた。受付にある自販機は、車椅子に座ったままではボタンに届かなかったのだ。

 

病院の内部には車椅子でも届く自販機があったが、早く外の空気を吸いたくて受付の方の自販機を選んでしまった。

 

 

(受付の人に押してもらうか…。)

 

そう思い入れたお金を払い戻そうとレバーに手をかけたところで、コーヒーのボタンが押された。

 

 

「はい、どうぞ!」

 

「……どうも…。」

 

眩しい笑顔でコーヒーを渡してくれた彼女は、絶大な人気を誇るアイドルのリボンちゃんだった。

 

 

「外に行くんですか?」

 

彼女は車椅子の取っ手を掴むと、外へ向かわせてくれる。

 

 

「……すみません。」

 

「良いんですよ。あなたに会いに来ているんですから。」

 

それを聞くたびに自分の心に重りをつけられたように落ち込んでくる。

 

彼女の恩返しを使っている。その事ばかりが頭の中をぐるぐるしていた。

 

 

 

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彼女とは同級生だった。

 

と言っても、彼女はクラスの人気者。俺は端っこの自分の席で寝ているふりをして彼女を見ていただけだったが。

 

ほんの一度だけ、彼女の気を引こうとしたのは人生で1番の黒歴史である。彼女が忘れていると願いたい。

 

雲泥の差があったのだ。泥が雲の気を引けるわけがなかったのだ。

 

進学して彼女とは別の学校へ行き、平凡な大学を経て今に至る。彼女がアイドルになったというのはテレビで知った。

 

テレビで見た彼女は、昔よりもずっと綺麗で可愛くなっていた。多くの人が虜になるのも頷ける。

 

そういう俺もその1人だった。その分自分の平凡さが際立つような気がしたが。

更に偶然な事に、俺の家の近くで彼女の姿を見たのだ。近くに家があったらしい。

 

 

(……俺のことは…覚えていてくれているだろうか…。)

 

クラスの人の顔と名前を全て覚えていた彼女。同級生だったと言うだけの事が、そんな考えを生み出してしまった。

 

この際はっきりと言っておく。彼女を近所で見た日から、俺は彼女のストーカーになった。

 

特段何かを送りつけたり、家をバラしたりした訳じゃない。ただ「覚えていてくれただろうか。」それだけを聞きたかった。

 

その分怖い事もあった。もし彼女が俺の事を忘れていたら?そもそも、覚えられてすらいなかったら?

 

それが怖くて、話しかけたいのにずっと彼女の前に姿を表せず、いつ来るかも分からないタイミングを追い求めて彼女を追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……よし。今日は絶対に言おう。)

 

作戦は曲がり角で偶然を装って出くわすように見せかけるという至って古典的なものだった。

 

あった時のリアクションも決めてある。あとは彼女が来るのを待つだけだ。

 

 

(……今…!)

 

曲がり角から出てきて、彼女の前に立った。彼女はたいそう驚いていた。

 

 

「あの……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ……

 

声をかけようとした瞬間であった。背中に誰かがぶつかってきたのだ。

 

背中にくる衝撃。押し出される肺の中の空気。相当な速さでぶつかられたらしい。

 

問題は……それからだった。

 

 

「えっ……?」

 

足が痺れだしたのである。がくがくと膝が笑い……

 

足の力が抜け、感覚も痛みも消え、その場に崩れ落ちた。

 

 

「あ……?な…なん……。」

 

背中が濡れていく感覚。触ると血がべっとりと手についた。

 

彼女が叫び声をあげた。俺は救急車が来るまで、自分の身に何が起こったのか分からなかった。

 

 

 

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脊椎の損傷による下半身不随。そう医者の口から告げられた。あの後、俺にぶつかってきた男は捕まった。

 

男は彼女に特別扱いをされたかったらしく、犯行に及んだと言う。そして俺が彼女の前に立ってしまった。

 

偶然にも、俺は彼女を庇う事になってしまった。

 

彼女からはとても感謝された。が、俺の心の中は絶望と後悔で埋め尽くされていた。

 

後悔はそんなくだらない理由で自分の足が動かなくなってしまった事。絶望は自分さえ良ければと思ってしまった事。

 

その上彼女の恩を利用して自分だけが特別扱いされている事に罪悪感と幸福感を覚えている。もしかしたら自分があの男のようになっていたかもしれないのに。

 

そう考えると、彼女をストーカーしていて、尚且つ今も彼女を騙し甘い蜜を吸っている事実に押し潰されそうになってしまう。

 

やめたくてもやめられなかった。嫌われたくなかったから、彼女を騙し続けた。

 

 

「お仕事は順調ですか?」

 

「え……ええ…まぁ…。」

 

ただ、そんな悪循環にもようやく歯止めが利いてきた出来事があった。言わずもがな就職である。就職がなかなかできず、バイトをしながら悩んでいたが、足が不自由になった途端、すんなりと就職が出来た。

 

仕事で忙しくなった分、彼女の事を考える事が少なくなった。それは同時に、彼女から離れていく事につながった。仕事をして責任感が芽生え、自分の趣味ばかりに現を抜かしている場合ではないと思い始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女に病室に送ってもらった後、医師に退院の予定を聞く。そろそろ退院してもいいと言われたので、明日か明後日くらいには退院出来るそうだ。

 

手紙には自分が今まで騙していた事、ストーカーだった事を謝罪の言葉と一緒に書いた。

 

彼女は幻滅するだろうか。自分を助けた恩人が、自分を襲おうとしたストーカーと同じ事をしていたのだから。

 

仕事場の近くに引っ越す事もあり、手紙は事後報告として送る事になる。

 

 そうして俺は彼女に退院を伝える事なく引っ越し先の家へ向かった。

 

 

 

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 気がつくと、また病院にいた。自分の記憶が混濁して状況が掴めない。

 

 側には彼女が泣きそうな顔をしていた。目が覚めたのに気づくと、手を握って泣きじゃくった。

 

 その握られた手を見て、自分がどうして病院にいるのか思い出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事も軌道に乗ってきていた。住む場所は電車を一本挟まなければならなかったが、特に不自由はなかった。

 

 その日も、電車で仕事場へ向かおうとしていた。その日は特に暑く、車椅子のベルトが蒸れて汗ばんできてしまっていた。

 

 だから、そのベルトを外し、外気に触れさせていた。電車が近づいてくる風で、涼しい空気が入ってきた。

 

 その矢先だった。自分の背中に衝撃を感じた。

 

 体は前に倒れていた。車椅子から体が離れた。電車のブレーキが甲高い音を出していた。

 

 

 

 そして気がつけば、病院にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が更に強く手を握る。

 

 そう…。手を握っている筈なのだ。それなのに全く手を握られた感触が無い。

 

 ブレーキを掛けていても、沢山の人を乗せた電車にぶつかったのだ。衝撃で、頸椎を損傷したらしい。

 

 全身不随。それを聞かされた時、喪失と失望を感じ、取り乱したりもせず、ただただ溜息ばかり吐いていた。

 

 

 

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 私が泣いていたら、颯爽と駆けつけて助けてくれる王子様。そんな人と結婚するのが私の夢。

 

 沢山の友達に囲まれて、幸せな日々を過ごしていたと思う。私がいじめに会うまでは。

 

 陰で沢山いじめられて、私が辛い思いをしていても、友達は助けてくれなかった。理由は私がみんなを平等に扱ってきたから。特別扱いなんてしてないから、いじめられている時にも誰も助けてくれなかったんだ。

 

 私は誰もいない静かな公園で泣いていた。

 

 

「………あ…。」

 

 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げると、帽子を深くかぶって大きなリンゴを持ったあの人が立っていた。

 

 あの人は私にリンゴを渡すと、走って何処かへ行ってしまった。

 

 話したこともない、会ってもぺこりと頭を少しだけ下げるだけの彼。私が思い描いていた王子様と全く正反対の彼。それでも私にリンゴを渡してくれた彼。

 

 あの人が、運命の王子様なんだって、心の底からそう思った。

 

 その時食べたリンゴは、今まで食べてきたリンゴの中で、1番美味しかった。

 

 

 

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 彼と道であった時、やっぱり運命ってあるんだって思った。

 

 彼の足は動かなくなってしまったけど、2人きりの時間が沢山できてとても嬉しかった。

 

 車椅子を押してあげながら髪の匂いを嗅いだりして、泣くふりをして彼に抱きついたりして。

 

 この時のためだけにアイドルをやってきた。そう思える日々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日突然、彼からの手紙がファンレターに混じって入っていた。

 

 彼が私のストーカーだった事、今まで何も言わずに騙していた事が、謝罪の言葉と一緒に事細やかに書かれていた。

 

 私は急いで病院に行ったけど、もう彼はいなかった。

 

 

 (また…また彼と離れ離れになっちゃう…。)

 

 やだ…そんなのはやだ…。

 

 

 

 私が…私の運命を変えなきゃ…私が運命を変えるんだ…。

 

 

 

 私の…私だけの王子様…。

 

 

 

 

 

 

 

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「こんにちは!」

 

「あ…あぁ…。」

 

 彼と一緒にいられる。彼のお世話ができる。

 

 私は自分で運命を作ったんだ。

 

 

 彼は寝たきりになってしまったけど

 

 

 私は今、とっても幸せ。

 

 

 ずっとずっと…一緒だよ?私の大好きな王子様…。

 

 

 

 

 





寝たきりで一生お世話されたい(ニート)

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