ゾルザル~ン戦記   作:nasigorenn

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第5話 ゾルザルの人心掌握術(笑)

 この世界に来て皇族になったのならば必ず避けられないのが戦争だ。

非常に宜しくないことにこの帝国が豊かなのも戦争によるものが多い。領土の拡大とそれに伴う資源の確保。それによってこの帝国は今のような栄華を誇っている。逆らう者は許さず属するならば寛容に対処する。それが今の帝国だ。

 だから皇族で継承権第一位の俺はこうしてこの『戦場』に立ってる。既に成人を迎えたことでその資格は十分なんだとか。出来ればゴメンなのだが、残念な事にこれは絶対不可避のものらしい。良くある転生物ならここは主人公の俺強ぇ無双が始まるものだが、そんなものは実際にはあり得ない。俺にはそんな便利な能力はないし、それにそんなことに『精神』が持つとは思えない。こんな命のやり取りが激しい戦場で余裕を持って相手を殺しまくるなんておかしいだろ。それをやっても忌避感なく平然と行えるのが所謂『俺強ぇ系転生者』ってやつだ。よくその特典能力に目がいきがちだが、俺は寧ろその能力を恐れることなく平然と人に使うその精神の方が怖い。だって彼奴らは何人もの人を殺しまくっているのにそれをまったく感じない。自分が同じ人を殺しているってことを意識しているのか分からない程に平然と殺していくのだから。ぶっちゃけ人としての精神がおかしいとしか言い様がない。いくら能力があろうと同じ人を殺すんだぞ? 怖くないのか? 俺だったら恐ろし過ぎて怖いよ。『人を殺す』ことに怖くないなんていうのは常規を逸してる。そう言うとつまり人を殺しまくっても平然としている転生者ってのは人として大切なナニカを失っている。いくら強いからって俺はそんな存在になりたくはない。

 そんなわけで俺は『人間』としてこうして戦場に赴くわけだ。俺に付けられた兵士は役30人程。皆緊張した顔をしていた。基本若い者が多く、その実力は『それなり』にあるらしい。強い人間は真っ先に戦場の誉れだとかで戦場に飛び込んでいくため、こうして俺に宛がわれたのは所謂『新人』なんだとか。仮にも次期皇帝の俺にそんなぞんざいな対応はどうなんだと思うが、使える戦力は惜しみなく使った方が良いし俺が出るのは戦場である程度のカタが付いてからだろうさ。つまり出番なしにはこの程度で十分だと。

 まぁ、そう考えればそれも仕方ない。どのみち俺が活躍(人を殺す)するのは後々だろうさ。はぁ………これを見ている諸君、分かるかね。いずれにせよ人を殺さなければならないことを決定づけられている俺の精神状態を。正直ね、もう逃げ出したい。だって俺は記憶こそないがきっと転生する前だってただの小市民だったんだろうさ。そんな奴が人を殺したことがあるわけがない。つまりこれが初の人殺しになるわけである。これがただの農民とかだったら逃げ出してそれで終わりなんだが、俺は皇太子である。逃げ出すことは許されないし、もし逃げ出したらそれこそ帝国に泥を塗った罪人として処刑されかねない。つまり生き残るにはここで戦うしかないのである。あぁ、もう…………最悪だ。ピニャで癒やされたい……………。

 以上、現実逃避終わり。どのみち分かりきっていたことだ。この際腹を据えて覚悟決めるしかない。あぁ、俺は今日から殺人者になるのか………。

 そして覚悟を決めるのに少し時間がかかり今は昼時間近。ちなみに俺達帝国の陣はある程度進んだ上で小休止中。敵国はある程度撤退しているので取り敢えずは安心だ。

 さて、ここで俺にはすべきことがある。普通に考えたらふんぞり返って給仕が作った飯を食っていればいいだけなのだが………ソレでは駄目だろう。

俺は『綺麗なゾルザル』になるのだから、そのためには『皆から愛されなければならない』。そのためにこれから俺はある行動を起こす。実は漫画かアニメで囓ったような行動なのだが、上手くいけば兵達の気持ちを掌握することが出来るかも知れない。いずれ国を率いていく身としては精神誠意仕えてくれる兵士が好ましい。それにいずれ政敵になるであろう『戦争支持派』から戦力を奪い取る良い機会だしな。その為の行動が……………。

 

「なっ!? ななな、殿下!? 何故こんな所に!!」

「ここは給仕所だろう。当然飯を作りにだ。悪いが俺にも手伝わせてくれ。俺の指揮する部隊の皆に作ってやりたいんだ」

「そんな、殿下がそのようなことを」

「頼む、俺の顔を立てるためにもさせてくれ」

 

給仕所で頭を下げていた。

いや、これからすることには絶対に必要なんだって! その為に料理も学んできたんだからな。ちなみに味は保証できる。以前ピニャにクッキーを作って持って行ったら凄く美味しいと可愛い笑顔を向けてくれたからな。だから大丈夫、ピニャのいうことなら絶対だ(シスコン)。

 そして無理矢理頼み込んだ俺は簡易的な厨房にて調理を開始する。戦場に持ち込める食材というのは日持ちすることを考えて干したりした肉や野菜、それに水分を少なめに焼いた荒い小麦粉のパンなどだ。これが一般的な兵士の食事。ただし皇族や将軍などの上役は城の中で食べるものと同じものが食べられる。今回俺はそれを辞退するがね。

さて、どうしようかと考えること数分…………メニューは決まった。

 そして行動を開始する俺。不慣れな厨房ではあれど、やることはかわらない。ナイフで食材を切り湯を沸かし投入。そこに調味料を入れて煮込み始めたりした。気分は食檄な気分である。その様子を見ていた他の者達は『本当にこいつ皇太子かよ』って感じに驚いていたようだ。度肝を抜かすのは悪い気分じゃない。

 そして料理が出来たことで俺がいる陣地まで運んでもらう。出来上がった料理を見て兵士達は普通に受け取る。中にはやっと飯かぁと頬を緩ませている者もいた。

皆に配り終えたところで食事が開始される。そこである程度食った所を見計らって俺は皆に聞こえるように声をかけた。

 

「諸君、本日の飯の味はどうだ!」

 

急に何事かと慌てる皆ではあるが、流石に皇太子である俺を怪訝そうに見る奴はいなかった。そんなことがバレたら不敬で殺されかねないってのが兵士達の共通認識らしいからな。分かってはいたがおっかないもんだ。俺はそういう所から直していきたいよ。

俺の質問に対し、皆答えずらそうに何とか口をあける。下手な事は言えないと思ってるんだろうさ。

 

「えっと、その…………」

「正直に答えろ。何、味が薄いだの不味いだの正直に答えたって誰も咎めはしない。皇太子ゾルザルの名に誓って約束しよう」

 

何が誓ってだよと内心苦笑しながらそう言うと、皆口々に感想を述べてくれた。

 

「その………美味い……と思います」

「できればもうちょっとスープの味が濃ければ………」

「逆に私は薄味の方が良いかと……」

 

その感想を聞き入れ俺はうんうんと頷いていく。そして全員が感想を言ったところで種明かしをすることに。

 

「そうか、皆の意見は良くわかった。実はな…………今日の飯を作ったのは俺だ」

 

その言葉に騒然とする皆。自分で咎めないと言っておきながら皇太子が作った食事に文句を付けたのである。そんなことをする皇族など今までいなかったからアレだが、確実に不敬罪で殺されても文句は言えない所行だ。そんな事をしでかしたのだから、その衝撃は計り知れない。中には俺に土下座で許して下さいと言おうとする者も現れたが此所で一喝。混乱していては話など出来ないからな。

 

「落ち着け、皆の者。さっき言っただろ、咎めないって。皆の感想は大いに結構だ。個人差があるとは言えそういうのは作る側としては重要だからな。それでだ………何で俺がお前達に飯を作ったか……分かるか?」

 

その質問に当然周りは答えられない。それは当然だろう、今までの歴史で兵士達の為に飯を作った皇族なんていないからな。

その質問の意図が分からなくて困惑する兵士達に俺は胸を張って答える。

 

「どこぞの国ではな、『同じ釜の飯を食う』という言葉がある。この言葉は一つの鍋で作ったスープをその場で皆と一緒に食べることを指す。その言葉の真意は運命共同体、すなわち『家族』であるということだ」

 

その言葉では当然わからないであろう。だからこそ追加する。

 

「お前達は俺が作ったこの飯を食べた。そして俺も食べた。つまり俺達は『家族』ということになる。あぁ、勿論血筋だとかそういう意味じゃない。仲間だと言い換えても良いが、俺は『家族』の方が好きだ。だから俺もお前達も一緒の『家族』だ。そして家族ならお互いに支え合え。窮地には助け合え。そして家族を殺されたのなら絶対に相手を許すな。戦争だから仕方ない。だがそれでも家族を殺されて怒らない者などいない。何、難しいことは言ってない。ただ俺はお前等と家族なのだ。家族のために俺は俺が出来る精一杯をして皆を助けよう。だから皆も自分が出来る精一杯をして俺や周りの家族達を助けてやってくれ。家族ならそれは当たり前のことだからな」

 

そして最後の止めをさす。

 

「だからこそ、俺はお前等に言う………『絶対に生き残れ!!』。周りの騎士達は戦場で散るのも誉れだと宣うが、俺からすればそんなものは糞食らえだ! どんなに生き恥をさらそうがお前達には生き残ってもらいたい。だって家族だからな、そんな思いは当たり前だろう。お前達が一人でも欠けたら俺は悲しい。家族が死んで悲しくない奴なんていない。だからこそ、お前達は何があっても生き残れ!その為に皆で努力しろ。尻をまくって逃げたっていい。それで生き残れるのなら絶対にしろ。そして逆襲してやるんだ。その為に一時の恥だと飲み込み備えて欲しい。皆が生き残ってこの戦場から帰る事こそが俺達の『勝利』だ!」

 

その演説に…………あれぇ!?

てっきり上手くいけば皆雄叫びを上げて戦意を高揚させると思ってたんだが、目の前で起こっているのは………皆の号泣だった。何故こうなった?

逆に俺が戸惑っているわけだが、そこで何とか泣き止んだ兵士が俺に跪きながら答えてくれた。

 

「まさか殿下にこれほどに思われていただけたとは…………感無量であります!」

 

それを皮切りに皆が俺にそんな言葉を返してきた。俺としては逆にここまで感動されていることに驚きだよ。

そして皆が一同に並び俺に跪き、纏め役の騎士が声高々に俺に言った。

 

「我ら近衛師団一同、殿下に魂からの忠義を!! 御身のために我らは喜んで死地に赴きましょう!」

「いや、だから死ぬなって言ってんだろ」

「あ、申し訳ありません!」

「まったく………まぁいい。お前達の忠義、確かに受け取った。だからまぁ…………よろしく頼む」

 

『御意ッッッッッッッ!!!!』

 

 

 

 こうして俺は自分が率いる兵達の心身を掌握した。

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