『小説』
その言葉から、何が連想されるだろうか?
世間一般的な反応としては、有名な太宰治や夏目漱石などの小説家が出てくる人も入れば、絵がない物語とひとくくりにする人もいると思う。
しかし近年、若い人を中心に新たなジャンルが広がってきている。
そう、ライトノベルだ。
僕は余り好きではないが、僕が学校帰りに今から行く本屋の店番にも、ライトノベルに魅せられた人がいる。
「あ、やっと来ましたね。最近よく此処に来てくれてますけど、そろそろラノベを読む気になりましたか?」
「何度言われても、もう読む気にはなりませんよ……」
僕がよく通う本屋に、行くと必ずと言っていい程、僕にライトノベルを勧めてくる彼女───────鷺沢文香と、僕は大学生だ。そう、大学生なのだ。
なのにも関わらず、中学生のように主人公がカッコイイ、ヒロインが可愛い、ハーレムは正義とかなんとか言っている。
数年前は文学小説や良くて雑誌しか置いていなかった古本屋には、今や全体の10分の1はライトノベルやマンガに占領されてしまっている。当然新刊も揃っている。
叔父の店の手伝いをしてるだけの筈なのに、こんなにしてしまって大丈夫なのだろうか?
なんだかんだ小学生のときからの付き合いなので、文香の趣向は知っていた。
小6になった辺りからよく本を読むようになって、中学生になると、さながら文学少女と言う言葉が似合う程に小説を読み、高校生になる頃にはライトノベルを目を光らせながら読むようになった……おかしいな。
他のお客さんの邪魔にならない様に、カウンターの中に入れさせて貰って、今買った本を読み始めようとした時、3年くらい前から恒例になりつつある、文香のライトノベル紹介タイムがなんの断りもなく始まってしまう。ようやく読めると期待していたこちらの気持ちは完全無視だ。これが始まってしまうと、普段の文香の面影が完全に消え、例えるならば……深夜テンション?と言うものになるらしい。
「いいですか、確かに将来的にはラノベは必要無いのかもしれません。しかし、想像力を膨らませてくれるんです!
そしてその想像力が足りなければ、宇宙から…いえ、異世界から敵が来た場合、私達は為す術もなく負けてしまいます!」
既に何回か聞いた事のある謎の主張にため息をつきながら反論する。
「そもそも宇宙からも異世界からも敵は来ませんし、異世界に至っては存在すらしませんよ。」
「な、何故来ないと言いきれるのです!」
「逆に何故来ると信じてるのですか……?」
「うっ、それは……そう!
少し待っててください!」
そう言ってライトノベルの本棚を漁り出して、一冊の本を取り出してきた。
「この本に異世界に行く為の魔法陣が載っていた筈です!」
そういい、文香はまた本に夢中になってしまう。
昔からなのだが、1度本を読み始めたら、此方が話しかけてもなかなか気付かずに読み続けてしまう為、読み終わるのを待つしか出来ないのだ。
という事で、僕も今日買った数冊のから、人気芸人が書いた小説を取り出し、読み始める。
本というものはライトノベルだろうが、文学小説だろうが、何回も読んで理解をより深めていく物だと僕は考えている。
レンタル等で読む時間が短いのであれば仕方ないが、買ったのにもかかわらず、1度しか読まずお蔵入りにする人は勿体無いなーなんて思ったりもする。
ある程度読み終わり、1度休憩しようとすると、文香は読んでいた本を机に置き、電話に出ていた。
恐らく彼女の仕事の話だろう。
これでも文香はアイドルをしている。
偶々文香とそのプロデューサーと話している所を目撃した時はとても驚いた……
プロデューサーさんがかなり怖そうな人ってことにもビックリしたが、何より───────文香が全く2次元の話を持ち出さず、僕に話しかけるのと違い、ゆったりとしたまるで淑女感?を漂わせるような……とにかく僕とは違う接し方だった。
普段からそうしてくれればいいのに……
結局、その後も文香の主張に一言二言で返すだけの時間が過ぎていった。そんなしょうもない話にお互いムキになっていたら、いつの間にか時計の針が夜の7時を過ぎていた。
「もうこんな時間か……それじゃぁ帰りますね。」
「そうですか……次こそはあなたを2次元の世界へ引きずりこんで見せますから、期待してて下さいね。」
「期待しませんし、読みません!」
そうして見送ってくれた文香の目線は……やっぱりライトノベルだった。
もう見慣れた光景の筈なのに、なぜか落ち込んでしまう。
「さっさと家に帰って続きを読むか…」
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気が向けば続きも書いていきます。