壁
一言でその国を現すならこの言葉しか思いつかなかった。国の外周を沿うように高い壁があり巨人の侵入を拒む、アノールロンドも四方を山に囲われ、自然の要塞の中で繁栄したが、この国は人口の壁で国を守っている。
「この壁は人間が作ったのか」
となりで馬に乗るキースに問いかける。
「分からん。少なくとも100年前から人間を守ってくれているありがたいものだ」
「・・・・」
私はこの壁に不信感を抱いていた。兜を樹脂で潰されてから耳を使い、またソウルを感じながら生活してきた私は壁からわずかなソウルを感じていた。
「着いたぞ、ここが正門だ。しかしお主の体格では少し狭いか」
「まあ十分くぐれるだけの大きさはある、我慢するさ」
キースの開門という号令と共に正門が重い音を出しながら開く、そして扉の向こう側から人々の歓声が聞こえたかと思うとそれは一瞬で消えた。恐らく私の所為だろう。キースたちが中に入る中私も門の大きさを十分に確かめてから中に入る。そして門が閉まりキースの声が響く。
「国民のみなさま!今回も我々は巨人の秘密を暴く事ができませんでした!しかし我々人類は!ゴーという同志を得ることに成功しました!彼もまた巨人でありながら人類の為に戦うと誓ってくれた仲間です!彼に称賛を!喝采を!」
キースの演説に民衆から歓喜の声が上がった。しかしそれと同じだけの怒号も。私の体に石つぶてが投げられる。信頼なんてものが一朝一夕で得られるものではない。私は門番に頼み正門を開けて貰う。民衆から声が消える、あるものは私の機嫌を損ねて返ってしまうのでないかと、またあるものは自分たちの正義がまかり通って喜んでいるもの。私は弓を構え、矢を取り出す。そして矢を放つ。もう一度、もう一度、もう一度。7,8回撃った所で、私は門から出て行き首に矢の刺さった巨人の遺体を民衆に見せ付ける。
「これが私の貴公らへの覚悟の表れだ」
蒸気を上げ消えていく巨人を門の外へ放り投げる、観衆から再び歓喜の声が上がる。そしてわたしはキースに連れられてこの国の王と謁見することとなった。
四騎士はもとより、直属の騎士団、または多くの民との謁見をしていたグウィン王と比べるとこの国の王はいささかに陰湿だった。常に複数人の護衛が王を守り、本人は顔すら見せようとしない。私の感想でいえば命をかける程人望のある人物ではないと思ったが、この王に命を捧げる者がいるのならば私はそんな事は言わない。私とて王に拾われ命を繋いだ者なのだから。
謁見を無事に終わらせ私はシガンシナという区に来ていた。キースからここは巨人に襲われた時の為のいわゆる人柱、囮のような所だと聞き、また戦いの最前線となりうるところとも聞いたが人々の様子を見る限りそんな事など考えてもいないようだ。
市外から少し離れたところに丘がある。私は見えないがどうやら一面に花が咲いているようだ。久しぶりに横になる。昔まだこの兜を貰う前、私がまだ野にいたころは地面に横になるなど当たり前だったが今横になると妙な違和感を感じる。私も軟弱になったようだ。
ガサッと音がする。私は音の方向へと顔を向ける。子供が3人いるようだ。
「すまないな、邪魔だったか。私は移動しよう」
遊びの邪魔になったかと移動しようとしたときに、子供の一人が声をかけてきた。
「邪魔じゃないよ、それよりおっさんはどうして人間の味方をするの?」
子供らしい率直な質問だ。出来うる限り簡単な言葉にしてその子供に応える。
「私は人間が好きなんだ。いいところも悪いところも含めて、それに私は困っている人を見過ごせないんだ」
「おぉすげえ!カッコイイ!アルトリスとオーンスタインみたいだ!」
「童!今何と言った!」
聞き覚えのある名前に思わず声を荒げてしまう。その子供は屈託のない笑い声と共に話す。
「昔からあるおとぎ話に出てくる英雄だよ!二人は壁が出来る前に人類を巨人から守り続けた英雄だんだ!そうだアルミンがその本持ってた」
そしてアルミンと呼ばれた子供が二人の英雄の話をした。壁が出来る以前、巨人から逃れるために各地を転々としていた人類の前に突如現れた二人の英雄 巨人狩りのオーンスタイン 我らが友アルトリウスの英雄譚。
そしてゴーが子供たちの話に耳を傾けている所に一つの影が立っていた。