遭難する天空の魔女   作:Kaisu

10 / 21
宙に波打つ雲を剥ぎ取り

 アゲハと和葉が空賊団「フォボス」の艦隊に突っ込んでいる頃、上空のエスメラルダでは。

 

「らちがあきませんね。アセロラさん、艦橋へお戻りください」

 

 アゲハが濃密な魔力の嵐を両断して隙間を急下降していったが、卓越した個人技によって成された曲芸に近いもの。

 小型の飛行艇だからできることで、エスメラルダサイズの大型母艦級では不可能。

 戦場を分断する蓋となった熱氷の雲海を大きく迂回するか、無理やり通り抜けるかの二択。

 ユウヅキとアセロラで協力して除去に努めるとしても時間はかかる。

 

 艦橋に戻ってきたアセロラは肩で息をしていた。相当消耗している。

 協力して魔力嵐の一部除去をと考えたが、無理そうだ。

 

 ユウヅキが見てきた数多くの人物の中で、アセロラは魔女を自称するだけあって魔力量は多い方だが、敵艦隊を丸ごと抑えつけるために魔法を広げ過ぎたか。

 一応艦長でもある。これ以上体力を削って艦運用に支障が出ては困る。現時点でも怪しいのに。

 

「休んでる余裕はまだありませんよ」

「わかってます」

 

 大規模な魔法を使いにいく前なら、もうちょっと元気な返事をしていた気がする。

 ハツラツとしつつもどこかビクついていたアセロラさんだが、消耗して元気も怯えも削れたのか。

 

「あまり手をこまねいているわけにもいきません。下との連絡もまだ取れていませんので。なるべく早く戦線に復帰する必要があります」

 

 魔力波および電波による通信は、エスメラルダ下方の魔力嵐が壁となって不通状態。

 同様にレーダーでも下で行われているであろう戦闘行為を観測できない。

 それは下からもエスメラルダを捕捉することができないことも意味するが、戦場において浮いた駒となっているのも事実。

 雨龍軍と空賊団のパワーバランスを一隻で雨龍軍に傾かせていた存在が枠外に追い出されれば、どうなることか。

 

「アゲハと和葉が飛び出していきましたが、突撃艇ひとつでどうにかなる相手でもないでしょう」

「やっぱりあれはアゲハさんだったんですね」

 

 個人の戦力としては、アゲハの武力は雨龍随一。

 だがあくまでも個人のものであり、こと艦隊戦では、個人武力の影響力はそこまで大きくない。

 よほどのことをしても小型突撃艇ではやれることに限界がある。

 アゲハがいくら強くとも、天秤を傾け直すほどのことは期待薄。

 ユウヅキの脳内でシュタールという大例外が浮かんだが忘れることにする。

 

「ちょっと無理をしますが、嵐の下へ降りましょう」

「あれをですか?」

「エスメラルダ全体を私が術で安定させて魔力嵐の影響を抑えます。あまり長くは続かないでしょうが、突っ切ってください」

「拒否権は」

「ありません。拙速が必要な場面ですので。準備ができたら声をかけますね」

 

 言うが早いか、ユウヅキは魔力を練り上げながら艦橋上部に急ぐ。アセロラさんは苦笑していたように思う。

 これから使う魔法は、エスメラルダが精製し供給してくれる魔力とは相性の悪いもの。よってユウヅキ自身の魔力で全てを賄う必要がある。

 深呼吸の繰り返しで体内に少しでも酸素を貯めた。途中で息切れはしたくない。

 

『ユウヅキさん、いつでもいけますよ』

 準備はアセロラさんのほうが早かった。

「魔力探査レーダーをアクティブにして薄そうなところを確認しておいてください」

『魔力探査レーダーアクティブ。どうぞ』

「では」

 

 

 

 魔力嵐に飛行艇を突っ込ませられない理由。

 

 発動している魔法を浴びることになるのがひとつ。

 眼下の熱と氷の嵐に突っ込んだとして、視界ゼロかつ乱気流という表現なぞ生易しい乱れに乱れた気象条件。

 対策があったとしても突撃艇サイズなら撃墜されてもなんら不思議ではない。ゆえにアゲハは自らの熱剣で両断してスペースを生じさせて降りていった。

 

 もうひとつ。

 大きく重く、機動性も相応にあり、単なる嵐なら動じることはないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは拿捕状態にあったエスメラルダを、アセロラさんを問い詰める形で情報開示させた際の調査で判明していたこと。

 

 エスメラルダは非常に出力の高い魔力炉を積んでいるが、戦闘のため十全に機能を発揮させるには高温高圧で魔力炉を稼働させる必要がある。

 圧力が危険域にまで達すればリミッター解除砲で適宜それを安全に放出することになるが、この魔力炉が吸気する部分を外的要因で極度に冷却された場合、魔力炉が急冷され、魔力炉破損を防ぐためのセーフティ機能が発動してエスメラルダ全体の出力が一時的にガタ落ちしてしまう。

 通常航行においてはそこまで魔力炉に負荷をかける必要がないので雪雲に突っ込もうとも問題はないようだが、戦闘用の高稼働状態では影響が顕在化しやすい。

 

 エスメラルダを冷却する外的要因、すなわち敵による氷や水の大魔法。

 アセロラさんの生じさせた熱空間もあるにはあるが、それが祟って、限りなく濃ゆい湯気に近い雲すら生じていた。気象だけで見ても荒れ模様ゆえに、無策ではエスメラルダとてダメそうに見える。

 

 

 

 不可視の魔力がユウヅキの体から湧き出でて着物の袖を揺らす。

 ユウヅキには感知できるそれに、いくつかの性質を付与。

 これはエスメラルダからは供給されない無属性の魔力。

 

 身ひとつで繰り出されるそれは、異なる事象の合わせ技。

 

「ニュートライメント」

 

 ユウヅキの呟きとともにエスメラルダを薄桃色の光輪が複数覆う。

 

 ひとつは空間把握。

 エスメラルダの正確な形の探査と魔力循環イメージとしての形状掌握。

 

 ふたつは調律。

 機動戦や被弾等で歪みの出た魔力障壁と、システム的に偏りの出る魔力循環を強制的に打通し均一化。一時的なリセットをかける。

 

 みっつに加速。

 強制的に均一化した魔力の急速再充填と循環加速。

 

 ユウヅキが行うそれは、心臓を直接手で握って高速ポンプさせるような暴挙。

 調律だけ行って機械の再起動プロセスを待つのではなく、人力で115%のハイビートスタート。

 ユウヅキは人の身でエスメラルダの心臓を司った。

 

 これがなにを意味するのか?

 短時間ではあるが、エスメラルダは魔力炉出力低下を恐れずに済むことを意味する。

 

 

 エスメラルダが魔力嵐に突入した。

 アセロラ産の熱圏を選んで下降するのでエスメラルダ全体の温度が上がる。

 ともすれば寒冷の雪雲範囲によって急速冷却。

 しかしすぐに再加熱。よろしくない温度変化にエスメラルダから軋む音がする。

 混濁した気流もあってエスメラルダが大きく揺すられる。

 

 その揺れがにわかに沈静化した。

 ユウヅキのものではない術による飛行安定化。

 イロハという娘が再び飛行補助魔法を行使したようだ。

 

「いい仕事です」

 ユウヅキが見なければいけない要素がグッと減った。

 艦体は再度冷却されつつある。

 

 

 

+++

 

 

 

 加熱冷却加熱冷却の4層を過ぎたところで、エスメラルダは魔力嵐を抜けた。

 魔力嵐の陰となる空域のためやや暗いが、レーダーの効果は快晴となる。

 

 そのレーダーに映った雨龍軍は、暗澹たる状態であった。

 雨龍軍各艦艇の予測進行方向と高度はともにばらばら、艦隊に不自然な空白もあり、すでにかなり離れた位置で整然と去ろうとしている空賊の艦隊と、その方向には雨龍軍の艦艇が艦首をほとんど向けていない。

 一般人に毛が生えた程度の艦隊運用知識しかないアセロラにも、わかることはある。

 

「どう見てもダメだこりゃ」

「お恥ずかしい限りです。ここまでやられようとは」

 

 独り言が聞こえたらしく、代理操縦士が恥じ入った。

 

 空賊を追いかけるのがいいか、それとも追撃は諦めるか。

 エスメラルダの機動力があれば、空賊団フォボスに追いつくことはまだ可能だろう。

 エスメラルダ単体の観測範囲は抜けつつあるが、まだまだ雨龍空域と呼べる範囲は抜けていない。

 しかしながら雨龍軍は下方で大混乱状態であり、すぐに立ち直りそうではない。よってエスメラルダ単騎で背を追うことになる。

 

 フォボスにエスメラルダと比肩できるような戦闘艦は存在していない。

 フレスベルク級の新型機が混じっている可能性はあるが、数は多くないはず。

 単艦相手に負けることはまずないと言えるものの、離脱された20から30隻のフォボス全体をエスメラルダ単独で相手取れるか、という基準が求められる。

 相手は、決して烏合の衆ではない。

 

「アゲハさんは……どれだ……?」

「フォボスと雨龍軍の間にある輝点がたぶんそうですね。重なっているようですが」

「ど、どゆこと?」

「回線繋ぎますね」

 

 しかし、回線が繋がっても応答はない。

 オープンチャンネル化設定されていたので一方的に音声を拾ってもみたが、無音。

 

「近寄って目視確認しましょう」

「それの方が早そうですね」

 

 提案を受け取ったアセロラはエスメラルダを操作し、雨龍軍の上空を通り過ぎて、アゲハさんの突撃機の反応を示す輝点に艦を向ける。

 

「遅くなりました。状況は?」

「芳しくはありませんよユウヅキ様。空賊には見事に逃げられています。今はアゲハ機と敵艦の反応が重なってるところを目視確認しようとしているところです。回線開いても反応がないので」

「おそらくは敵艦に乗り込んで戦闘中でしょうね。前にもありましたから」

 

 呆れ顔とも諦め顔とも見える表情でユウヅキさんは元いた席に腰を落ち着け、レーダーを暫時眺め、やにわに通信機を掴んだ。

 

『雨龍軍に告げます。追撃は諦めましょう。状況を統制状態に戻すことを優先するように』

 

 緩やかなる戦闘終了宣言がユウヅキさんから発せられる。

 

「諦めるんですか?」

「諦めるのも大事ですよ、アセロラさん。エスメラルダなら追いかければ間に合うかもしれませんが、エスメラルダは雨龍軍のものではありません。正規軍が仕事をしないのに、徴兵した民間にそこまで負担は強いることはできません。悲しいことですが」

 ユウヅキさんは大きなため息をついた。

 

「フォボスは何度も何度も来寇していますが、雨龍軍の練度は相変わらずですね、全く」

 白い指を宙に泳がせ、ユウヅキさんはレーダーの輝点をカウントする。

「雨龍軍の戦闘艦の被撃沈はおそらく8隻程度、戦闘不能がおそらく20強ぐらいですか。拿捕鹵獲はいかほどになるか」

 無人機を含む小型戦闘艦や突撃艇の損失は両軍数限りなく。小型有人機はどれほどの数が空の底へ消えたのか。

 

「正確な犠牲者数はまだわかりませんが、中型戦闘艦8隻撃沈程度で済んでるのは、我々の基準ではかなりマシな戦闘結果です。アセロラさんの参戦が無ければ相当削られたと思いますよ。フォボスにも決して無視できない損害は与えていたでしょう。特にフレスベルクは向こうも痛いでしょうから」

「言っちゃったら悪いのかもしれませんが、そういうものなんですか」

「そういうものです。雨龍軍の人的損失が大きくないことを祈りましょう。戦闘艦は補充ができますが、軍務をこなせる人を集めて育てるほうが時間もコストも面倒です」

 

 

 

 エスメラルダがなだらかに高度を下げ、アゲハさんが突っ込んだらしいフォボスの輸送船ステルラに寄っていく。

 ステルラの飛行は鈍化しており、フォボス本隊からは完全に見捨てられている。

 

 輸送船とはいえ多少の対艦武装はされているはずなので気を抜けない。

 艦橋・エンジン・テイル・シールド8枚全部、それらを多重に手動ロックオン。

 なにかあれば即時で丸裸にできる状態を用意。

 

『こちらエスメラルダ、輸送船ステルラに告ぐ。貴艦は完全にロックオンされている。抵抗せず投降しなさい。またアゲハに告ぐ。無事なら連絡よこしなさい』

 オープンチャンネルへの投降命令を下すと同時に、拡声機によって直接大音量も叩きつける。ステルラとエスメラルダ間の距離は、聞こえなかったでは絶対に済まされない距離。

 

≪こちらステルラ艦橋の和葉です≫

 しばらく後、通信先に顔を出したのは弟子の方だった。

 

≪艦橋は制圧済みなんですが、人手が足りなくて船の完全制圧まではできていません≫

『アゲハは?』

≪艦橋下の通路で封鎖防衛中です≫

『ではすぐに増援を手配します。もうしばらく耐えなさい』

≪早めにお願いしますね≫

 

 ユウヅキさんは既に混乱から立ち直っている雨龍軍最後列から近接戦闘員を抽出してステルラへ送り込んだ。

 

 

 雨龍軍近接部隊員がステルラに乗り込んで十数分、完全に制圧したと報告が上がり、雨龍軍と空賊団フォボスの戦闘は終結した。

 







ガラシャが帝国軍団長の一角とか予想できるわけないだろ虎ァ!
ということでこの話の投稿時点でちょっと過去の記述を修正してたり。







さくらんぼ集め20万個突破させて期間中に交換終わらせて満足して、終了後エピソードを回収し忘れたアホは私です。
天クラwikiはここ2ヶ月ぐらい全く触ってない現状。



ステルラ
初期組ではHPに高い補正がつく比較的高耐久の船だった。
が、割とあっさり↓の船にその座を奪われることに。
登場当時から性能的には空気。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%A9


ペナルダン
かつて後衛といえばこの船が花形であった。
船自体が比類ない回復スキルアップを持ち、支援アップバフで超絶鬼畜製作難易度(当時)のブリッジを装備した姿はサポートの鑑として尊敬を集めた。
同時に非常に高いHP補正パーツと高い緑属性のスキルコスト削減パーツもあり、前衛としても時折お呼びがかかっていた。
なおATK補正は無きに等しいレベルなので破壊力は芳しくない。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E3%83%9A%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%B3


エスメラルダ
本当に水や冷気に、もとい青属性に弱い。
雷、もとい緑属性には被ダメージカット持ち。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。