遭難する天空の魔女   作:Kaisu

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飛行艇の設定について一気に運営が提示したけど、小説的には特に影響なかった。






三線葬奏

 アセロラが求めている魔力の黒雲かもしれないものを再現するためには膨大な魔力を使うので、戦闘後で消耗した体では無理。

 戦後処理が残っているので1日2日では難しい。

 

 というユウヅキさんのお言葉により、後日改めて連絡してもらうことになった。

 エスメラルダの修理や報奨金支払いもあるので、やはり何日かは待つことにはなるのだが。

 ともあれ、思ったより長逗留になりそうである。

 

 

 戦闘から一夜明け、アセロラは戦没者追悼式典に参列した。

 強制参加ではなかったが、打診されたのを断る理由もなかった。共に戦ったのだから。

 

 雨龍軍の死者および行方不明者37人。

 回収された空賊団フォボスの死者8人。

 

 規則に則って火葬され、雨龍軍所属だった者の骨は墓地へ埋葬された。

 フォボス所属の者の骨は大部分が空の底へと落とされ、放逐予定のフォボスの捕虜に一部が託された。

 

 艦隊戦となった案件において、雨龍軍の損害が37名というのはかなり少ない部類という。

 褒められるとまではいかなかったが、参戦して損害を減らしたという点において、アセロラは感謝の言葉を受けた。

 そのぶんフォボスに大打撃を与えたということでもあるので、彼らからの恨みを買っていそうだが。

 

 フォボスの捕虜を多数獲得した雨龍ではあるが、その処遇はアセロラには明かされていない。

 辛うじて放逐される人がいるということを教えてもらったが、それだけ。

 フォボスが空賊で、侵攻してきたこともあり、あまり明るい未来は待っていないだろう。

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 しんみりした後は派手に騒ぐのが雨龍流だそうで。

 

 昼までに事後処理、昼から追悼、雨龍特有の早い日没と同時に解散、喪章を襟に残して喪服を脱ぎ捨て、楽な格好で宴会場へ。

 樽酒を叩き割り米酒や光球が飛び交う大宴会に、アセロラは当然のように連れ込まれる。こういう時に備えた酒保が雨龍軍にはあると樽酒を持ってきた人が教えてくれた。

 

 三味線による葬送曲から始まり、水芸、腹芸、光芸、手品、隠し芸。

 

 仲間に先立たれても残された者達は元気だぞ、だから安心して眠れ。

 死んでしまったらこんな楽しいこともできないんだぞ、だから皆死ぬな。

 大宴会にはそんな想いが込められている。

 

 アセロラがエスメラルダの所有者ということは参加者全員に知られており、雨龍に迷い込んだことはもはや誰も気にしない。戦友として雨龍軍に受け入れられていた。

 が、結構酒精の強い酒を皆が飲ませようとしてくるので酔いの回りがえらく早い。

 料理もほとんど酒の肴しか置いてないし。

 

 それを救って?くれたのはアゲハさんと和葉さんのコンビ。

 というより、絡み酒と化したアゲハさんのお守りを押し付けられたという方が正しいか。

 和葉さんはあっという間に人波に消えた。見事な逃走っぷり。

 敵艦に凸を敢行した2人に大きな怪我はないようでなによりと思うべきか。

 

 

「感謝してるよ? してるけど、苦労が報われなかったのは腹立つんだ」

 べろんべろんに酔っ払い、近付く野郎にガン飛ばしながら、アゲハさんは愚痴る。

 アゲハさんの出した洗濯物はフォボスが持ち去っていたそうで。

 お気に入りが混じっていたので激しく落ち込んでいるとのこと。

 

「一個人だからね。雨龍軍の損害は正直どうでもいい。自分の利益が全てだよ」

 手のひら2枚分ほどの深い塗り碗になみなみと透明な米酒を注いで、それを結構な勢いで流し込んでいくアゲハさん。

「参戦したぶんの報酬はある。あんたには船のぶんの追加報酬もあるだろう。公平でなにより。怒りの行き所がないのがやってられない」

 これは相当面倒くさい酔っ払いに捕まったとアセロラの危機管理警報が鳴る。

 

「ちゃんと聞いてる?」

「ええ、怒りの行き所がないと」

「そうだ。また雨龍出るか。服取り返しに行くんだ。アセロラのあの船で、フォボスのいそうなところに」

「いや、私は一般人なのでそれはちょっと」

「あんな馬鹿でかい砲艦に乗る一般人がいるか」

「はい、ローン組んで買いましたすいません」

 肩を掴まれていて逃げ出すこともできない。刀を振るうだけあってアゲハさんの腕力は相当ある。武闘派ではないアセロラの筋力では脱出不可能。

 和葉さんも逃げ出すわけだ。次会ったら覚えてろ。

 

「あれ見なよ、アセロラ」

「お?」

 アゲハさんが指差した先、庭先に赤・青・紫に輝く蝶が何匹も舞っていた。

 

「あたしは蝶が好きだ。儚くて、朧げで、気ままで、それでいて華やかで」

 アゲハさんの左肩には名前の由来でもあろう揚羽蝶の入れ墨がある。

 後頭部にも揚羽蝶の意匠の髪留めを使っている。

 好きというのは嘘ではないどころか、いっそ偏執的ですらあるように思えた。

 

「蝶のように生きていたい。けど、どうも血なまぐさい星の元に生まれたらしいから」

 アゲハさんはひらひらと手を振る。

 袖が少し下がり、火傷痕のようなものが覗いた。

 炎を刀に纏わせて使うのだから多少火傷するのは当然なのかもしれない。

 

 庭先にいた色とりどりの輝く蝶が、何匹もこちらへ飛んできた。

 そのうちの一匹をアゲハさんは指にとまらせた。

「蝶夜か」

 仏頂面だったアゲハさんが眉根を緩ませる。アセロラにとっては少々意外な、油断のある表情だった。

「任せるか」

 次の瞬間、アゲハさんはかっくりと肩と首を落とし、眠り始めた。

 無防備にもほどがある姿だった。

 

「え、えー……。風邪引きますよー?」

 武人としての姿しか見ていないアゲハさんの予想外の姿に、どうしたものかアセロラの酔っ払った頭は解答を出せない。

 

「そのまま寝かせておいてください。睡眠魔法ですから、ちょっとやそっとでは起きません」

 

 まだ若い、少女といって差し支えない若い声。

 黒紫の長い髪に牡丹と蝶の意匠の髪飾りふたつ、アゲハさんと同じく肩を出した紫の露出多めな着物を黒い帯で止め、長い袖に数多くの蝶の模様。腰から下はレース付きのミニスカ型。

 というか、どういう服なんだこれ。帯の上と下が繋がってるのか怪しいぞ。

 

「ど、どちら様で?」

「初めまして、迷い込んだ魔女さん。蝶夜と申します。アゲハがご迷惑をおかけしました」

「ご、ご丁寧にどうも。アセロラといいます」

 蝶夜さんは椅子を持ってきてアセロラの近くに座った。

 

「あの蝶はあなたの魔法ですか?」

「はい。その通りです」

 蝶は夜に活動しないし、自ら発光もしない。

 証拠とばかりに、蝶夜さんは手のひらから何十匹もの小さな蝶を発生させてみせた。

 きらきらと輝くそれは蝶夜さんを一周し、アセロラの顔の前で光の粉となって消えていく。

 

「綺麗ですねー。それに、魔力制御と造形力も凄い」

「お褒めに預かり光栄です」

 魔力を蝶の形に成形して発生させる技術、それを生きているかのように自然に舞わせる技術に、数多く発生させて制御する同時並行処理能力。

 今の一瞬に熟達した技術が垣間見える。

 

「アゲハさんとお知り合いで?」

 眠りに落ちる前、アゲハさんは蝶を見て少女の名前を言い当てている。

「はい。わたしはユウヅキ様付きの女官の1人で、アゲハと面識があります。昨日は別の用事でフォボス戦不参加でしたが」

「ちなみに、理由伺っても?」

「ユウヅキ様が戦いに飛び出してしまったので、放置された仕事の後始末です。服は自分で洗って干す派なので、わたしの被害はありませんでしたから」

「それは幸い、なんですかね? 仕事投げつけられたわけですし」

 そういえば、最初にユウヅキさんと通話が繋がったとき、騒がしかったなあと今更思い出す。

「公務のサボり癖というか、逃げ癖というか、そういうものがユウヅキ様にはありまして」

 もしや戦闘後にエスメラルダで愚痴っていたのは、鬱憤吐き出しだけではなくサボタージュの一環だったのだろうか。

 

「優秀な方ということは間違いないのですが。奔放なところは昔からのようで、みんな手を焼いていますよ」

 戦闘後のエスメラルダ艦橋内で見せただらけた感じ。あれが素に近いユウヅキさんだったのか。

 もっとも、不思議な力のカラクリを知ってしまったので複雑な気分になる。

 暴露しても……酔っ払いの戯言(たわごと)になるのかなあ。

 

「お酒、飲みます?」

「いえ、まだ仕事が。というか、アゲハの回収が今の仕事ですので。あと未成年です」

「それはそれは……」

 

 せっかくだしちょっと深掘りしてみるか。

 

「蝶夜さんは相当魔法の技術ありますよね? その視点から見て、ユウヅキさんってどう見えるんですか? ユウヅキさんって魔力持ちですし、昨日の戦闘でも使ってましたし」

「神通力ってわかります? 魔力とは違う力でいろいろ変わったことを起こすので、魔法を使う様子はあまり存じていません。ユウヅキ様が祈ると、なにかが起きます」

 

 微妙に話が噛み合ってないような。

 

「神通力……?」

「ちょっと話が逸れますが、東国はご存知で?」

「知ってます」

 共和国から見て北東、帝国から見れば北西、雨龍から見れば北北西。

 地理的には共和国に近いが吸収されずに独自の文化を保っている。距離はあるが、雨龍の文化はこの東国に近い。

 

「東国には神が乗船したという宝船が祀られた神木があります。実際に霊験の確かな由緒あるもので、神守りの一族がそれを守護しています。雨龍にも同様のものがありまして、ユウヅキ様のお力もそれに由来しています」

「確かなんですか?その由来」

「伝承と資料に照らすと間違いないかと」

「その不思議な力でなにをさせようとしてるんでしょうね?」

「そればかりはわかりませんね」

 

 口は神妙だが、改めて説明され、そういうことになっているのかと内心でアセロラは大いに笑っていた。

 伝承と資料には、どんなことが書かれていたのだろう。

 それとも、伝承と資料で後世に伝わった人もユウヅキさん同様の、神の使い(偽)だったりするのだろうか。

 

 伝承に残ることをしたということは、昔の人も常人では真似できないことをやったはず。

 それと照らし合わせても遜色のないことをユウヅキさんも自身の魔力と技術で実現していることになる。

 引っ込みがつかなくなって、その苦労を誰にも打ち明けられないとすればぶっちゃけたくもなるかと、改めて同情の念が湧いてくる。

 

 ともあれうまく偽装したものだと思う。

 蝶夜さんはユウヅキさんが自力で全てを起こしているとは全く思っていないようで。

 年若いといえど、これだけ技術のある人を騙くらかしているんだからたいしたもの。

 

 

「そういえば蝶夜さん。アゲハさんを呼び捨ててましたよね。歳結構離れてるように見えるんですけど」

 蝶夜さんはまだ少女とカテゴライズできる歳だろう。アゲハさんは姐御と形容するような歳だし。

 アセロラも魔女としては若いが、さすがに少女という歳ではない。

 ……魔女って基本的に長命なので、見た目で年齢わからないことも多いんだけども。

 

「アゲハは蝶が好きですからね。わたしの魔法は蝶の形をとるので、小さい頃からよく気にかけてくれています。わたしにとって姉のような存在ですし、戦闘技術も相当鍛えてもらいました」

「和葉さんが弟子なら、蝶夜さんは妹か。なるほどねー」

「これでわたしには甘いんですよ?この不肖の姉は。時々飲み過ぎるのは(きず)ですが」

 蝶夜さんはころころと笑い、紫揚羽蝶色の目は慈愛を湛えている。

 相当な信頼を置いていて、それはきっと、緩みきった顔で眠るアゲハさんも同じだろう。

 

「それにしてもアセロラさん、凄いですね」

「なにがです?」

「アゲハがこんなにあっさり心を開くとは。出会ってすぐの人の前で酔い潰れるまでいくようなことってないですよ。かなり人付き合い選ぶタイプなんですけど」

「ガード緩くなってるとは思いましたけど、そんなに意外ですか」

「わたしの記憶にないぐらいですよ、こんなにあっさりノーガードに近いところまでいったのは。どんな方法使ったんですか」

「え、えー、特別なことはしてないと思うけど……」

 

 対アゲハさん脳内回顧録を開陳。

 その1、アゲハさん監視で洗いざらい雨龍侵入の理由を喋りまくる。

 その2、ユウヅキさんがエスメラルダで出撃したいと言い出してそれの解説。

 その3、エスメラルダ艦内で世間話。

 その4、戦闘中に叱咤激励される。

 その5、さっき酒の席で泥酔状態のアゲハさんを押し付けられた。

 

「アゲハがアセロラさんのことを気に入ったとしか思えないですね、今のを聞くに」

「本当になぜでしょう……」

 ユウヅキさんといい、アゲハさんといい、どこに信頼度を荒稼ぎした要素があったのかさっぱりわからない。

 情けない姿しか見せていない気がするのだが。

 

「さて、そろそろアゲハを回収して帰ります。酒宴はまだ続きそうですし、アセロラさんは引き続きお楽しみください」

「歩けなくなる前には帰るけどね」

「では、おやすみなさい」

「はーい、おやすみー」

 

 蝶夜さんの華奢な体でどうやってアゲハさんを連れて帰るのだろうと眺めていると、浮遊魔法をアゲハさんに付与して襟を掴み、空中で引きずるようにして宴席を出ていった。

 浮遊魔法の制御が静かで上手だなあと感心する。アセロラも使えるが得意ではないし、なめらかな浮遊にはならず、もっと不安定な浮遊になってしまう。

 

 同時に、雑というか荒っぽさを感じもする回収方法に、実は結構怒っていたのだろうかとアセロラは思った。

 夜もしっかり更けているし、時刻は寝始める人もいるだろうぐらい。

 アゲハさんの寝落ち前の様子と蝶夜さんの手慣れた様子から、これが初めてのことではないと察せられる。

 

 蝶夜さんには悪いが面倒な酔客がいなくなったことだし、飲み直そう。

 酒精は強いが、水が良いからなのかどの酒も飲み口がすっきりしていて美味しい。

 ひとりでゆっくり飲むにはとても向いている。なんとかして酒樽か酒甕を持ち帰れないものか。

 










三線(さんしん)葬奏
2016年1月に低レアで実装されて約1年、当時の環境の最前線で猛威を奮ったスキル。
その暴れっぷりは蟹運営が間接的なバランス調整で相対的弱体化を2度実施したほど。
低レアゆえに数多の人が容易に入手でき、ATKに左右されない攻撃性能とスキルコストの安さ、当時の主力船との非常に高い親和性で必携というレベルにまで至る。
なんならレギュラー10人全員で同時に発動して相手を崩壊させることまでしばしば。

奈々緒
流しの三味線弾き。奏者としての技術を磨くために各地を渡り歩いている。陰陽師としての素養も身につけていて護身には困っていない。
好き 着物
嫌い 転調

↑の持ち主。
三味線引きといいつつスキルは三線でどっちだかわからん。
沖縄では三線のことを三味線と呼ぶこともあるようだが。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E5%A5%88%E3%80%85%E7%B7%92




蝶夜
魔力を持つ蝶を自在に操ることのできる少女。彼女が操る蝶は羽から特殊な魔力を発し、敵に幻覚をみせる。彼女と戦うと夢か現実かの判別ができなくなる。
好き 蝶
嫌い 蜘蛛

投稿時点でゲーム環境の最前線でバリバリ働いている人。
持ってるならほぼほぼ必携レベル。
アゲハとの関係は創作。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E8%9D%B6%E5%A4%9C
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