仕事の都合で艦隊戦参加率が50%を割ったのでもうほんと引退の瀬戸際。
8月2日は天クラリリース2000日の記念日なんだとさ。
たぶんきっと、開始するにはちょうどいい時期、だと思うよ?
魔力とは、いまだに研究が進められている事柄である。
魔力自体は固体液体気体のいずれの形にもなるが、魔力を用いて起こした事象においては、理屈で説明しづらい結果となることも決して珍しいことではない。
たとえば時間魔法。
特定範囲の時間の加速や遅延を得意とする魔女をアセロラは知っている。
薬草と鉱物に魔力を混ぜて作用させて時間を操るという、どうしてそうなるのかさっぱりわからない技術の持ち主である。
魔力の用途および発展性は無限とすら思える。
風を起こす、火を熾す、雨を招ぶ、なんてのはありふれたものであり、蝶を作る、重力を変化させる、顔を持った砲弾にする、花弁とする、幻覚を見せる等々。
どの方向性へ発展するかは個人の
ゆえに、同じように広範囲に火を熾す結果でも、魔力を使う過程が術者によって全く違う。
アセロラは熱魔法を得意とし、高熱を追求する過程で火の魔法にも長じ、概ね火炎旋風という形で目的を達成する。
溶かせぬものはないと豪語する溶解の貴公子フェルベールは溶かす魔法に特化した魔術士で、高温で溶解させる際に副次的に発火する。
ユウヅキさんの業火の導きは、魔力で空間に可燃物を出現させ、それに着火するという形を尋常ではない精度と速度と射程範囲で実現していた。
先天的に魔力があるかないかは個人によって異なり、個人差もまた大きい。
完全に魔力を持たない、持てない人もいれば、自らで制御が困難なほど膨大な量を内蔵していることもある。
先天的に魔力を持たない者に後天的に魔力を使えるようにしようという研究もされている。
魔力というものは、この世界の土台、大地を成立させている存在でもある。
雨龍、帝国、共和国、その他無数の巨大な浮島。
これらはなぜ落下せず浮いていられるのか?
高密度の重力魔法の結晶体であり、飛行艇の基点となる魔法石という鉱物が、浮島に埋蔵されているためである。
負荷をかけることで重力に抗う性質を発現する石であり、使い続けると結晶体に含まれる魔力を消耗するが、重力魔法と同性質の魔力でそれを回復させることもでき、これを浮遊体として機体に組み込み、飛行艇を宙に浮かせ続けることを可能とした。
幸いというべきなのか、魔法石は回復させることができる素材である。
また、なにも手を加えなければ極めて劣化しにくい。
……これで劣化しやすければ、浮かぶ大陸は既に無かっただろうけども。
飛行艇における魔法石の役割は、突き詰めれば船を宙に浮かばせるだけで、前後左右に移動させることではない。
魔法石に求められる機能は、結晶体が含有する重力魔法(含有というよりそのものだが)の強弱により上昇下降を補助すること。
エスメラルダ級の大型艦であれば、直径1メートル程度の塊ひとつあれば半永久的に浮かばせることができる。
そのぐらいの大きさとなると自然塊ではそうそう見つからないものの、魔法石を結合および圧着させる技術は既にあるため問題にはならない。
アセロラが雨龍で借りた中型機ガルーダであればひと抱え程度の大きさの塊が必要で、アゲハさんが使った単座突撃艇であれば人の頭よりも小さい。
実際のところは、リスク分散目的で複数個搭載されているのが常である。不調きたした瞬間墜落では使っていられないし。
浮遊とは別個に魔法石を搭載し補助動力源としている機体もあれば、魔法石を一切使わない機体も存在する。
アセロラの持つ旧型エスメラルダを例にすれば、魔法石はかなりの大きさのものが4つ搭載されており、1個でも残れば浮いていられる程度の出力。
運行マニュアル的には4つのうち1つでも不調になれば即修理入り。攻撃を受けなければそうそう不調になるものでもないけれど。
魔法石4つのうち2つを低出力で運用して、ヘタッたものは余裕がある時に魔力炉から供給される魔力で再充填を行う。
魔力炉自体の動力源は大気中の魔力を吸気して賄い、エスメラルダのそれは極端に大出力であるがゆえに冷却に弱い。
そして魔力炉から供給される魔力で主機を動かし推力とする。
エスメラルダの推力は、飛行艇本体で吸気し魔力炉で大気中の魔力を回収、残った空気を機体後方から噴出させる形で推力を経る。
同時に魔法石の出力と翼のフラップと最後尾の昇降舵も操作することで、重装砲艦ながら強靭な機動力を持つことが大きな特徴であり強み。
さすがに艦体自体が相当重いので、重装砲艦および母艦級としては、の但し書きがつくが。
ちなみに、アセロラのエスメラルダは戦闘後ということもあり雨龍軍のドックでメンテナンス中、もとい雨龍軍の整備技師にオモチャにされていた。
帝国に一周以上の差をつけられている雨龍の工業分野。旧型とはいえかつての最先端に触れる機会を逃すはずもなく。
確かに修理して返すと戦前にも言っていたが、やりすぎではないかと思う箇所までパーツを取り外しての掃除やチェックで、やりたい放題されているような。
整備技師曰く「帝国艦がいかにしてダメージを逃しているのか、ぜひ検証を」とテンション高く。
……私物なんだけどなあ。
ちゃんと元通り復元してくれるよね?
バラして戻せませんでしたがありませんように。
+++
雨龍軍の整備に不安があるのも確かではあるが、わざわざエスメラルダの修理にアセロラが立ち会っているのには別の理由がある。
右衛門さんよりエスメラルダ艦内で使う2輪車が完成したと連絡があり、届けてくれるというので待っていたのだ。
「この前の騒動では大層ご活躍だったって?」
納品を終えて、右衛門さんが世間話を振ってきた。
「あはは、同乗してくれた皆さんのおかげですよ。私だけではとてもとても」
飛行艇性能は確かに頭ひとつ以上抜けていた。
けれども、単独操縦で同じ活躍ができたはずもなく。
「空賊相手だってのに、民間機におんぶにだっこなあたり、もうちょっとウチの軍にもシャキッとしてほしいもんだが」
右衛門さんの緑髪と小さな丸メガネに逞しい肉体は相変わらず。戦えば強そうだけどなあ。
「軍がもっとしっかりしてほしいのは同意かも……」
図らずも主軸に据えられてしまい、かなりの負担がエスメラルダにのしかかっていた。
乗員のエスメラルダへの理解度と練度は高くなかったはずなのに勲功第1の活躍になったのは、アセロラ自身でも不安を覚えるところ。
「籠城戦っていうべきなのかな。筒雲を盾に戦うことは相当上達したらしいんだけどな? 最近、といっても5年10年スパンの話にはなるが、襲撃があっても雨龍本土に侵入されて攻撃を許す事態にはなってないのよな」
「それで、筒雲の外の船が狙われると?」
「そういう傾向にあるのは確かだな。雨龍内部に被害が出たってなると、タケルが筒雲抜けてきて遺跡に墜落したってのが、近々では数少ない例になるんじゃないかな」
タケルさんが凄いんだかそうでもないんだか。
「それに、いくら雨龍が閉鎖的といっても、完全に内部で完結できてるわけじゃない。たとえば塩。雨龍軍で大船団組んで四季の島に買い付けに行ってるよ」
塩は言うまでもなく人体には必須のもの。
アセロラが知る限りでは、帝国共和国は双方とも岩塩層に真水を注入して塩水を回収、そこから塩を生産しており、生産量も多い。
岩塩層を掘り出すことも少なくなく、そちらもなんらかの加工後それなりに流通している。
魔力をもって塩を生み出す者もいるが、魔力塩と呼ばれるそれは触媒として工業や研究分野でほぼ全てが消費される。
そのどれらでもないところでいけば、通称「四季の島」、その中に属するラック島産の湖塩が有名か。
四季の島そのものは大きめの浮島が島同士の草原を目視で確認できるほどの近距離で集まっている空域の総称である。
広い平原に大小の連山はバラエティに富んだ四季の島の特徴のひとつだが、とりわけラック島はウミと呼ばれるソルトレイクに広大な浮島の半分以上を覆われており、暑い盛りには保養地としての賑わいを見せる。
アクセス面でも帝国と共和国双方からそう遠くなく、透明度の高いスカイブルーの湖水は煌々と、丈の短い若草色の草原が広がる光景は目にも鮮やか。
アセロラはまだ訪れたことがないが、伝え聞くそれは確かにバカンス地としてSS3級のものだろう。
あらゆる意味で、雨龍とは対極的な地域かもしれない。
いっそありすぎる塩水と、雨龍とは真逆な晴天性の気候から製塩業も盛んであり、四季の島の主要産業のひとつ。
特にラック島の天日湖塩は料理の味をシャープにするとされ、盛んに輸出されて各国の食卓に登っている。
アセロラがこの世に生を受ける遥か以前、この四季の島一帯の統治権を巡って地方領主の非常に大きな抗争が起きた。
塩水池なればそこそこに各地で見られるものの、下手打てば遭難できるほど広大な塩水湖は世界を見渡してもラック島をおいてほかになく、戦火によって荒れ果てた結果製塩業が汚染で大打撃を被ってしまい、当時の帝国共和国の二大列強をして無視できない塩不足が広範囲の空域に発生。
帝国と共和国両方がタッグを組んで騒動を武力で鎮圧し、そのまま復興支援に尽力。
統治権が宙ぶらりんになったものの、介入した両国とも世界規模で打撃を与えうる塩カードを相手に渡すわけにもいかず、かといって争って荒廃するのもよろしくないのでアンタッチャブル化。
艦隊連盟が結成された折に、落としどころとして帝国共和国双方の手から離れ、艦隊連盟の緩やかな監視のもと自治区として独立して現在に至る。
塩不足騒動は相当な衝撃を世界に与えたらしく、四季の島での戦闘は誰であれご法度という不文律が出来たほどの影響を残した。
それで空賊の襲撃が完全にゼロにはなることはなかったが、相当低い確率になったのは事実である。
戦闘非推奨空域となったおかげで空域自体に平和が醸成されたため、艦隊連盟に旗が移った後には、官民賊問わずの保養地として発展することにも繋がった。
製塩と観光以外に目立った産業はない、というか環境変化を危惧して開発が制限されているため四季の島に住む人口はそう多くないが。
「塩の自給ってやらないんですか? このサイズの浮島群なら、探せば岩塩層ぐらいありそうですけど」
「候補となりうる鉱脈っていうのかね、それはあるんだが。雨が多過ぎるせいか地盤が緩くてな。それにちょっと深く掘ればどこからでも地下水が噴出する雨水流入するであっさり坑道が水没する。湿気は多いし虫も多いし、山掘り仕事は誰もやりたがらん。人口だって多いわけでもないし、わざわざ面倒な自給を行うより買ったほうが結局安く上がるってことらしい」
「なるほど」
「塩購入の定期的な大規模遠征は雨龍軍の練度向上も狙ってるって話もあるが、どこまで本気やら」
そんな狙いがあっても不思議ではないのかもとアセロラは思う。
雨龍の命綱を託されている船団となれば気合も入るだろうし。
「塩を買うお金ってどうしてるんですかね? 貿易赤字待ったなしでは?」
雨龍においても、共和国や帝国と同じ貨幣が使えた。
外貨、とするのも変な話だが、外向けの輸出産業がないっぽい閉鎖的国家の雨龍。
外に資源を求めるなら雨龍の財力は目減りしていく一方ではないのだろうか?
「空荷では飛んで行かんのさ。反物や装飾品や木材なんかを積んでいくんだ」
「実質物々交換ですかね?」
「ま、そうだな。雨が多いぶん、屋内でやる細工品は多いのさ」
そういえば、茶店の小豆餡でも木皿に団子が載っていた。
戦没者追悼大宴会でもガラス製や金属製のグラスは見ておらず、
雨龍の地理には明るくないにせよ、森や山は深く、緑に溢れた国であるのは確か。
木造船や木造建築物が非常に多いあたり、太い木には困っていないのだろう。
空賊が襲いに来るぐらいなのだから、それだけ価値はある、ということでもあろうし。
まだ掘り下げられるエスメラルダの巻。
四季の島およびラック島
天クラ世界に普遍一般的な意味での「海洋」が存在しないため生み出された公式の塩湖。
俗称「ウミ」。観光地であり戦闘御法度というのは公式設定。
イベントストーリーの描写的に帝国と共和国双方からの距離がそう遠くないのはおそらく正しいはず。
そうでもないと両軍バカンスがかち合うストーリーなんて作られないだろうし。
艦隊連盟の管轄下、製塩業盛んというのは創作。
この島、サメも飛んだりする。比喩じゃなく。