遭難する天空の魔女   作:Kaisu

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最近トライフォートによる天クラの艦隊戦バランス調整がぶっ壊れてきてる。
自由にゆるゆるやってたはずなのに、所属船団がゲーム内トップ10入るか入らないかぐらいの戦力になってるせいでクソゲー化がマッハ。
ちょっと一桁ランク船団が硬すぎんよー。おもしろくなーい、つらーい。






扉渡り、ファンブル

 雨龍軍基地に戻ってしばし。アセロラは応接室に通されていた。

 部屋に窓がなく、部屋自体も広いものではなくて、ここが軍事基地のど真ん中ということもあってアセロラが圧迫感と居心地の悪さを得ているのとは対照的に、ユウヅキさんはまったりした雰囲気で、熱いお茶で身体を温めている。

 その様子は、沸騰したお湯で淹れたお茶をふぅふぅと息を吹きかけて冷ます、肩の力の抜けきったお姿で。

 愛らしいといえば愛らしいのだが、毎度毎度、客人の前で見せていい姿なのか、それは。

 

「もう私は友人のつもりでいましたが?」

「この距離感に慣れ始めてるのが私自身でもちょっと怖いですよ」

 

 ナチュラルに心を読まれていることも、アセロラの目の前で注がれているお茶がユウヅキさんによって淹れられていることも。

 湯を沸騰させるところから既にユウヅキさんの熱魔法が使われていて、こんな厚遇を受けられるのは雨龍に何人いるのか。

 

 アセロラが出会った周りだけかもしれないが、雨龍の人たちって、敵じゃないとわかってからの距離の縮まる速度がやたら早いような。

 

「それはあると思いますよ。排他的ではありますが、内側の繋がりは強いですから。私としては、アセロラさんが雨龍に溶け込んだ速度もかなりのものだと思いますけれど」

「フォボスのおかげ、ですかね? 敵じゃないアピールには最適過ぎるぐらいの相手でしたから。気を悪くするかもしれませんが、正直、雨龍社会の恐ろしさを垣間見たというか、なかなかの落差に驚きが」

 

 

 

 

 軍艦で雨龍に乗り込んできた大馬鹿者という、第一印象は劣悪もいいところの評価だったのが、雨龍の味方として大活躍した、という事実は相当好意的に受け止めてもらえたようで。

 狙ってやったことではないが、戦没者追悼式典とその後の宴会に出たことは雨龍文化を尊重していると見られていた。邪心なく一緒に悼み、一緒に飲み食い騒ぐ姿は、警戒心の壁を取り払うに足りる行いでもあったらしく。

 さらに、乗ってきたエスメラルダも結局いじらせ放題というフルオープンぶりは、軍他各方面の心証を良くするダメ押しに。

 

 結果として、空賊団フォボス戦から今日までそれなりの日数があったが、アセロラに対する雨龍住人の当たりは日に日に柔らかいものに変化していた。

 

 少々肌寒かったので、雨龍に来た始めごろに古着を買い求めた店を再度訪れたら、おばちゃんの態度がいつのまにか劇的に軟化していて、隠していたらしい上物の新古品を出してくれたり、着こなしがもっと自然になるようにアドバイスをもらったり。

 そのまま話の流れで、一見さんお断りの雰囲気バチバチだった足のむくみ取り店に半ば引きずり込まれたり。しかもむくみ取りの店の方でも格安にしてもらったり。

 ……最初に売ってもらった古着、雨龍基準ではかなり奇抜な様式と着こなしであったことは後で知った。よそ者に対して実にいけずなことで。

 そんなものを着てたんだから余計目立つし、正体の看破もされやすくなるだろう。

 

 そんな出来事もあったので茶店「小豆庵」にも再度顔を出してみれば、出てきたお茶の質がまたえらく差がついていたもので。

 前回飲んだのがただの緑色したお湯だったというぐらいの差だから、驚くやら自分の馬鹿舌を嘆くやら。

 白鞠ちゃんが「前回のお茶は一見さん用」って邪気のかけらもない笑顔で言うんだから毒気も抜かれてしまう。

 きっとあれぐらいはご挨拶だったんだろう。げに恐ろしや雨龍の教育。

 

 ともあれ、改めて雨龍ナイズされたアセロラに奇異奇特の目を向ける人はいなくなり、身内向けのサービスが提供されるようになったご様子で。

 

 

 

 

「それも雨龍の悪いところではあるのですが。閉鎖環境由来のものですし、今から止めろといってどうにかなるものでもないのです。雨龍を代表してお詫び致します」

 ユウヅキさんが神妙な顔で頭を下げた。

 

「いやいやいや、頭上げてくださいって」

「外から来られた方も、居心地の悪さを感じて出国されるという話も多いですので。馴染めない方はいつまでも馴染めないようで」

「…………もしかして、私、相当運が良いですか?」

「遭難して迷い込んだ、という前提を無視すれば」

「やっぱり運が良いのは無しで」

 

 遭難している時点で既に運気はろくなものじゃない。

 遭難したまま餓死せず雨龍に着いただけ強運という考え方もできるかもしれないけど。

 

「実のところですね、エスメラルダで出撃する際、私が乗り込んだのも、監視を兼ねてのことなんですよ?」

「高級神官が乗り込むのは予想外でしたが、監視役だろうとは思ってましたよ?」

「魔女の相手はそれに通じる者、というわけです。杞憂でなによりでした」

 

 大口径バカ火力(雨龍比)の持ち主が、完全に味方とはまだ断じれない人物。

 それが援軍とくれば、背中なぞ任せられるわけもなく。

 仮に突っ撥ねられたとしても、どんな理由をつけてでも監視は乗り込ませるだろうし、アセロラにそれを断れる理由はなかっただろう。

 もっとも、監視役はユウヅキさんではなくアゲハさんだと思っていたのだが。

 

「エスメラルダを素直に貸して頂けたならそれでよし。ご自身で出撃されるにしても監視及び艦橋の制圧はできる人数を乗り込ませる。搭乗拒否されたときの理由づけもいろいろ考えていたんですが。ありがたいことに二つ返事で用意した人員全て乗せてくれましたから、こちらの裏は拍子抜けだったんですよ」

 

 まだアセロラに裏があるのか探っている段階だった、ということなのか。

 出撃自体、エスメラルダのローン返済の足しとしか考えていなかったから、裏もなにもあったものではない。

 多数の戦闘員が乗り込むのも、エスメラルダ自衛戦力が増えると内心で歓迎したぐらいだったし。

 

「えーと、エスメラルダに乗り込む理由はどこまで本当だったんですか?」

 

 女官一同およびアゲハさんイロハさんが洗濯物泥棒の被害に遭った。

 ユウヅキさんアゲハさんイロハさんは軍属ではないから軍船では出撃できない。

 だからアセロラのエスメラルダで出撃したい。

 そんな理由だった。

 

「アゲハとイロハさんの洗濯泥棒被害と、軍属ではないから軍船で出撃できないのは本当。女官全員が被害に遭ったのは嘘。被害者は混じっていましたが和葉を始め一部だけです。私も被害はありませんでしたから。そして、ユウヅキ直属人員は乗ろうと思えば軍船にも乗れます」

「あれだけエスメラルダから指示飛ばしてましたし、軍船に乗れないわけないですよね」

「雨龍軍含めても、最も撃墜されにくそうだったのがエスメラルダであった、というのも事実なのですけれど」

「いろいろ思惑が乗ってたんですね」

「非常時にこそ人の本性は暴露されます。戦闘中にあわてふためくのも人の一面でしょう。どのようにして船を明け渡すか。どの程度の制限を課してくるか。何人なら受け入れるのか。どれほど戦闘技術を有しているか。全部わかりました。でしょう?」

「お恥ずかしい限りです……」

 

 エスメラルダ貸し出しの時点から既に、以降ずーっと採点され続けていた。そういう告白。

 実に赤裸々に観察データを取られたということ。

 監視要員を渋らずに全員許可、艦橋および操縦桿解放、武器兵装操作も全解放、出撃直前での最前線投入への変更も断らず、アセロラ自身が率先して艦橋をカラにして船を墜としに行く、まあいろいろ開けっ広げに行動したものだと今更ながらに思う。

 

「『あなたの本性はもう暴きました。警戒不要ですので』でしたっけ?」

「はい。今なら、その意味もおわかりでしょう?」

「完全に言葉通り、ですね」

 

 観察終了。ユウヅキさんの評価と結論、アセロラという魔女は無害。

 そういう宣告だったわけだ。

 

「戦闘終了後のあの時点での評価であって、無害に評価が留まらず、好ましい人物として迎え入れられたのは、その後の行動によるものでしょう」

「ユウヅキさんの人物評は正しかったということでは?」

「私が下したのは、脅威となるか否かの判断だけですから。人柄はまた別ですよ。先にも述べましたが排他的な色が強い国民性ですから、喜んでいいことだと思います。是非そのままの在り方であってください」

 

 直接的な好評価を受けるのはむず痒い。

 間接的にも、アセロラの生き方を肯定されたのは嬉しかった。

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

「せっかくなので、アセロラさんに言ってしまいたいことがあります」

「ろくでもない暴露の予感しかしませんけど」

「さすが。わかってきましたね」

 

 遮音性の高そうなお部屋で2人きりなのだ。

 散々ぶっちゃけられているので、そんな話の切り出し方をされては予想もできよう。

 

「聞きたくないんですけども」

「聞いてくれないとエスメラルダ返しませんよ?」

「公権力を盾にする素晴らしい脅迫ですね」

「ルールを行使し判断する側に脅迫はありません」

「職権濫用ハラスメントってところですか」

 

 機密を強制的に聞かされるのって、なにか罪にならないのか。

 情報漏洩ってのもちょっと違いそうだし。

 

「実は私、時空魔法にはちょっと苦い思い出がありまして」

 止めても喋るんだからアセロラは大人しく聴かされているしかない。

 

「その日、とても体の調子が良くて、力があり余っていたんですよ」

 雨龍の雲に風穴空けたり滝を逆流させるような人の力が余るなんて、周りにとってちょっとした災害では?

 

「その何日か前に時空魔法に関する資料を読んでいて、1回ぐらいやってみたいなー、って思って、やってみたんですよ時空魔法。そして成功しまして」

「思いつきでさらっと成功させるのはさすがですね」

「空に開いた時空魔法の穴から飛行艇が飛び出してきまして、そのままあれよあれよと雨龍に墜落。遺跡を破壊してしまいまして、大目玉食らったんですよ」

 

 馬鹿と天才は紙一重というが、天才肌が思いつきでやらかすと、なまじ成功する分、予測がつかなくて1番たちが悪いと思う。

 

「その話に心当たりがあるんですけど」

 雨龍に墜落して遺跡破壊した人物。それをアセロラは知っている。

「墜落された方、タケルさんと仰ったりします?」

「あら、よくご存知で」

「うわーお……」

 

 カラクリ右衛門の技術者、タケルさんの正体見たり。異世界人でしたか。

 飛行艇の型番がわかるはずないよなあ。

 

「アセロラさんは彼のことをどの程度ご存知で?」

「ちょっと話しただけですけど。雨龍に突っ込んで遺跡破壊して記憶無くしたってぐらいしか知りません。まさか記憶消去しました?」

「まさか。記憶が飛んだのは偶然ですよ。もし異世界の話や技術が聞けるなら、ぜひ聴取したいものでしょう」

 

 それはそうか。

 未知の世界から持ち込まれる技術は、概念それそのものがアドバンテージの塊。

 その時点で再現性がなくとも、実現可能な技術であることは証明されるのだ。あるいは、発想を別の形で再現できるかもしれない。

 

 異文化から来るものは変革と文明進化への端緒だ。

 アセロラのエスメラルダによる来航も雨龍にとっては衝撃であったし、帝国戦闘艦という技術を喰らおうと必死。

 

正体不明、技術不明、思想不明の上位者(リアンカ)との接触は警戒すべきものですが」

「あれはユウヅキさんでも手に余りますか」

「こちらが一苦労して開けた穴から出て来られて、あの暴風を気にするでもなく、手慣れた様子で時空魔法を行使して去る。時の魔導士と名乗り、複数項の情報開示へのロック、と考えると、ほぼ間違いなく先の世の人。待ち構えた上で現れてくれるならまだしも、不意のコンタクトは脅威でしかありません」

「話の通じる方で良かった、ですね?」

「その通りです」

 

 好奇心旺盛ではあったが、様子を見にきた、という感じでもあり。

 リアンカさんとの接触は、あちらに見逃してもらった、というのが正しいだろうか?

 

「おわかりだとは思いますが、彼女との接触があったことは他言無用ですよ?」

「もちろんですとも」

 あんなおっかない遭遇、そう何度もあってたまるものか。













扉渡り
【青】 自分を含む生存中で最も攻撃力が高い味方レギュラーの力で2回連続で敵4~5体に特大ダメージを与える 拠点の場合ダメージがアップする【天水陣発動時】天水陣+1回
ソシャゲコラボの定番、Reゼロが天クラにも2018年8月に来ました。
その時のベアトリスが持っていたスキル。まだ現役で使える。
アニメしか見てない勢だが、次元を捻じ曲げる能力はあっても過去未来に飛ぶ能力はなかったような。


ファンブル
【緑】TPを全て消費し、3回連続で敵3体にダメージを与える 消費TPが少ないほど威力が上昇し、最大時は超大ダメージ 撃墜した数分TPを回復する 【天風陣発動時】天風陣+1回
サブストーリーでいろいろ話が進行しているナーダのスキル。
最大威力は悪くはないが、条件が厳しくやや使いにくい。

TRPGの致命的な失敗としての意味合いの方が有名か。


2年前に仕込んだミドウ・タケルの小ネタを回収していく。
長かった……。

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