遭難する天空の魔女   作:Kaisu

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2020/2/25、1つの攻撃スキルを除いて全ての攻撃スキルが陣を消さなくなった。
コスト24シュタールだろうが、コスト22リーブルだろうが、使おうと思えばどんな低コストの船員であろうとも使えるようにはなった。

だからといって、アセロラが実用に耐えうるのかといえばそんなわけもないけども。


そしてトライフォート社、合併を予定。
まーた天クラ運営の看板が変わるようです。


今夜は帰さない

 ふと暦を眺めてみれば、アセロラは月の満ち欠けが1周するほどの時を雨龍で過ごしていた。

 思わぬ長滞在となっていることを今更ながらに思い出す。

 雨龍の物価は共和国や帝国と比べると安く、空賊団フォボス戦の報奨金という臨時収入もあって、今までゆるゆると過ごせていればよかったのだが、できていない。雨龍にきたときから今まで、大概波乱万丈。

 そして現在、アセロラの身柄はまたしても微妙な立場にあった。

 

 

 雨龍の端で時空魔法を見せてもらったその帰り。

 そのままユウヅキさんの仕事場兼住居のバカでかい屋敷に、宿屋に置いてあったアセロラの私物がごっそり移動されていた。しかも勝手にユウヅキ屋敷に滞在することになってしまっていたんだから背筋が寒くなる。

 ユウヅキさんはニコニコ顔だったが、三食飯風呂洗濯付き宿泊費食費なしってもー、裏が怖すぎる。

 日没までに屋敷に帰ることと、相変わらずエスメラルダの国内飛行許可が下りない以外に制限はなく、その気になればダメ人間生活ができてしまうから、いっそ拘束されるか部屋に缶詰めにされる方が気持ちも落ち着くのではないか。

 

 アゲハさんが教えてくれたところによれば、雨龍のユウヅキさん以外の偉い人たちからの横槍だそう。

 エスメラルダを駆って大戦果を挙げた私をユウヅキさんは白と断定したが、それで納得しなかった人もいたという話。雨龍に取り入ろうとするように見える動きがどこかで警戒点を超えたため、監視度合いランクアップ。

 不気味な厚遇で居心地を悪くして追い出し狙い、なのだろうか。

 与えられた餌を開き直って貪れるほど図太くはないし、一人暮らしが長い小心者の私には、全てをしてくれるということが実に効果的な圧迫になっている。

 

 

 それとは別に、フォボス戦後から時空魔法観察前の間で、ユウヅキさんが私と遊びたいがために仕事をすっぽかして脱走しかけたそうで。子供かあの人は。

 ユウヅキさんの屋敷に逗留するようになってからは、深夜の酒飲み交わしで愚痴聞き係にさせられている。ストレスを遠慮なくぶちまけられる相手がいるからか、最近仕事の能率が上がっているとは蝶夜さんの談。

 案外費用対効果はプラスになっているのだろうか?

 

 

 

「さすがにそろそろ帰らないと。家の様子が気になるんですけども」

「そんな」

「この世の終わりみたいな顔されても困るんですけど」

 

 ユウヅキさんとの晩酌何夜目になるだろうか?

 遭難迷走期間を合わせると、家に帰っていない期間は既に月の満ち欠け2周には達している。

 エスメラルダのローン支払いはまだ口座にお金が入っていたはずだが、周りになにも言わず連絡も入れずの長期間不在はさすがに予定していなかった。

 なんなら、時空魔法を見せてもらった翌日に帰るつもりですらあったのだ。

 

 ユウヅキさんの酒の強さは並ぐらいだろうか。

 もともとどこかふわふわした性格の人だが、酒が入るとポヤポヤと表現できる感じにテンションが少々上がって喋りが多くなる。

 酒の勢いに任せて聞かないほうがいいだろうコアな雨龍情報をガンガン口滑らしてくるから始末に負えない。たぶん私をこの屋敷に留め置くことを決定した偉い人が聞いたら卒倒する。

 

「艦隊連盟経由でエスメラルダのローン全てお支払いしますので、雨龍に定住しませんか?」

「公金の私的流用はダメでしょ」

「私の今までのお給金で余裕です。どうせ貯まる一方で使うあてもありませんし」

「そのお金で型落ちエスメラルダをもう1隻買って雨龍軍にパスした方が有意義かと……」

 

 絶対逃がさない、的な重さを感じる。

 雨龍は私を帰らせたいのか居残らせたいのかどっちなんだ。

 

「もっと親しい友達が欲しいんですよぅ」

「アゲハさんは友達じゃないんですか? 友人みたいなものって本人言ってましたけど」

「もともとアゲハは護衛官でしたから、そこまで気安くとはいきませんし、一線引かれてしまうんですよ。それを別にしても、話があんまり合わなくてですね」

「あー、それはなんとなくわかるかも」

 

 ユウヅキさんは文系寄り感覚派天災型マイペース。優秀ながらも周囲が合わせないといけないタイプ。

 アゲハさんは腕力型でこれまたマイペース。しかし周囲から浮いていても我関せず、確固たる個を維持するタイプ。

 性質も違えば、相手に合わせるという気質は両者ともに薄め。

 

「幼なじみとか同期の方とかいないんですか?」

「幼なじみはいなくはないですが、みんな疎遠ですね。偉くなり過ぎてしまいましたから。近づいてくる幼なじみはお金絡みですね」

「うーん、聞きたくなかった生臭さ」

「同期の職場仲間にしても、元々祭り上げられて特別扱いの身ですから、同期自体いませんね」

「そうそう比肩できる人はいないでしょうね……」

 

 仮に同期の神官か巫女がいたとしても、あの潜在能力を抱えたユウヅキさんを相手に一線引かずに付き合えるか、と考えると、難しいだろうなという感想になる。

 

「これでも私もまだユウヅキさんには一線引いてるつもりですが。ユウヅキさんの地位と監視付きというこちらの立場的な問題で」

 

 距離感が独特過ぎて困惑する。

 引いても引いてもユウヅキさんから間合いを詰められている感覚。

 ユウヅキさんには以前、雨龍に溶け込む速度が相当なものと言われたが、やっぱり、雨龍人側からの距離の縮め方も早くない?

 

「周りには私の機嫌を損ねまいとする人ばかりです。常に下座に出ようとすると表現しましょうか。アセロラさんはそういう線の引き方ではないですから。立場や地位を考えてなお対等な位置から話をしてくれます。あるのは深く踏み込むまいとする一線だけです」

「その一線をそっち側からがっつり侵犯してきてますけどね」

「こちらとしては踏み込んだ話がしたいのですから当たり前ですよ」

「なんで深入りさせようとするのかが、さっぱりわからないからどうしようもないんです」

「気のおけない友達になりたいからですよ?」

「友達になることと、雨龍のやばい情報をベラベラ喋っちゃうこととの天秤が全く釣り合ってませんからね?」

 

 遠慮いらずの親密な関係になりたいという気持ちは汲む。

 ユウヅキさん側からはわざとらしさすらあるほど開放的な、フリーハグなレベルのノーガード。性別が男であったならばハニートラップすら疑っただろうに。

 どうもそれを、アセロラの中では友達作りとの因果関係に結べない。

 自分がこうしているのだから、相手もそうしてくれ、と訴えかけてきている。

 

 友達作りってこんなのだっけ?

 そもそも既に友人ではあるのでは?

 意味としては同じだよね?

 

「諦めが肝心かと」

「それはアプローチかけてくる側のセリフではないと思います」

 

 外濠内濠を同時に埋めるような言動は、確実に友達作りの手段じゃないでしょうに。

 箱入り娘なんだからしょうがないと見るべきなのかな?

 

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 

 街に出れるとはいっても、監視付きでそうそうはしゃげるわけもなく。

 本日の雨龍のお天気は土砂降り模様。

 雨龍外で育ったアセロラの外出気分は、雨龍人ほど雨天時には出歩こうとも思わない。

 

「いえ、さすがにこれほどの土砂降りになると家に篭りますから」

「そうなんです?」

「そうそう。出歩けるのは私達みたいな人間だけだよ」

 

 耐水完全防御持ちと、濡れても即乾燥の炎魔法の遣い手が2名。

 昼下がりのユウヅキ屋敷、監視担当蝶夜さん、それに合わせてアゲハさん来訪。

 

「それで、なんで遊びに来てるんですか」

「アセロラが毎日暇そうにしてるって聞いたから」

「確かに暇ですけども」

 

 街中に出ることはできるといっても、ユウヅキ屋敷自体が市街地から離れている。

 そこに雨龍の早い日没と雨による移動速度低下が合わさると、存外行ける場所が限られるのだ。

 屋敷でできることといえば、元々の手慰みである魔導具の小物作りしかない。家事手伝いしようとも言い出したのだが、使用人にキッパリ断られた。

 読書でもと考えるも、ユウヅキさんに読書の趣味がないらしく、その手の本は見当たらず。

 

「ユウヅキさんに趣味はあるんですか?」

「種や苗植えて、不思議な力で一気に育てて、自分で収穫して食べる、ってのが一番の趣味かな」

「ダイナミックというかエキセントリックというか、スケールの大きな話ですねそれ」

「誰も真似できないストレス発散方法だよ」

 

 超絶短縮家庭菜園、農家が羨みそうな話。

 そして全く話を膨らませられそうにない趣味。土がどうとか育て方がどうとかの話になる気がしない。

 

「普通に植えたら雨龍じゃ育たないような作物でも、ユウヅキさんなら育てられたりするんですかね」

「可能性はあるだろうね」

「雨龍の植生を乱す可能性もあるので、外来種持ち込みは検疫で弾かれそうですけれど」

「ユウヅキ様しか育てられないなら広がりようもない気はするけどね」

 

 手土産としてアゲハさんが持参したカチカチな煎餅をゆっくり齧る。

 三者それぞれに足を崩し、しばしの空白。

 

「ところでですね、いったいどうやったら、私は雨龍から自宅に帰れるんでしょうね」

「帰りたいけど抑留されている状態、というのは一応上には伝わっていますので、もうしばらくかと……」

「八割がたユウヅキ様のわがままでアセロラが軟禁されているわけだから、時間が経てば他からの圧力で開放せざるを得ないことにはなるよ。どれぐらいかかるかはわからないけど」

 

 上層部の横槍とは聞いたが、ユウヅキさんの責任割合そんなに大きかったのか、これ。

 

「正確には、横槍があって、それを大義名分として嬉々として自分の派閥で受け入れたんですよね。アセロラさんともっとお近付きになれると」

「ダメじゃない?」

「思いっきりダメです。アセロラさんが食い込みすぎているという問題からの、さらに内へ入れるような行動ですから」

「ユウヅキさんああもうお馬鹿…………」

「アセロラはそんな重要人物には見えないけど」

「アセロラさんの人物評云々より、ユウヅキ様がデレデレ過ぎるのが問題になってきてますから」

「よっぽど気が合うと見える」

 

 気が合わなければ晩酌に付き合い続けはしない。

 押しの強さに引きはしているけれども、それ以外で不満があるわけではない。

 遠慮と同時に楽しんでもいる。

 

 その過程において湧いた疑問。

 

「薄々思ってましたけど、ユウヅキさんって、友達作り下手ですか?」

「はい」

「下手っていうか、そもそもいないよね。あたしは一応友達扱いだと思うけど」

 

 蝶夜さん即答。アゲハさんバッサリ。

 アゲハさんはユウヅキさんを友達と思っているようだが、ユウヅキさんからは話合わないと聞いてるし。

 だーめだこりゃ。

 

「なぜそんなことに?」

「小さい頃から凄すぎたのさ。早くに頭角顕して囲われて、敵も多けりゃ味方も多いし、味方はほとんど全員神輿担ぎ。公私分けるもなにも、公人しか周りにいなかったんだから対人の距離感覚も歪むだろうよ。猫被るのが上手くなった代わりに、猫の脱ぎ方忘れたのさ」

「詳しいですねアゲハさん」

「もともと護衛官だから事情は嫌でも入ってくる。加えてこっちも剣で神童と謳われた身だからね。蝶夜もそうだよ」

「あの魔力操作見た後だと納得ですね」

「まだまだ修行中です」

 

 蝶夜さんは謙遜しているが、あの技術をほったらかしにするのはいかにも惜しい。

 是非栄達してもらいたいと思う。

 

「優れた素材を優れた者の近くに置いて切磋琢磨させる。優れた先人は優れた後輩を育成しノウハウを継承する。狭い国の知恵です」

「ユウヅキ様は雨龍を背負って立つ人物として育てられて、神童と持て囃された女の子が20過ぎてただの人どころか突出し続けて国の屋台骨にまでなってるんだ。育成大成功したんだから国としては万々歳」

「地位を思うと、若くして育ち過ぎてませんかね」

「それだけ人的な層が薄いのさ。アセロラがエスメラルダに乗るだけで雨龍軍を優越できたぐらいには」

「あー……。実に説得力のある実体験……」

 

 ポッと加わっただけの魔女が重宝されたレベルなんだからそりゃ辛い。

 

「あたしも、当分雨龍には帰って来れなくなりそうだからね」

「アゲハさんも雨龍出るんですか」

「まーね。ちょっと共和国の知り合いに呼ばれて大きなお仕事だよ」

「呼ばれてるのに行かなくていいんですか? わたしが雨龍に来てからだいぶ経ってますけど」

「緊急の話じゃないし、向こうにお願いされてる側だから」

「これだから全く。アゲハは責任感のない」

 

 蝶夜さんは呆れているが、アゲハさんには気にした風もない。

 

「どんな仕事なんですか?」

「まだ内緒。共和国に行ったら遠からずわかるだろうさ」

「そんな大きな仕事なんですか」

「なぜ話が来たか分からないぐらいさ」

 

 アゲハさんは小さく口元だけで笑う。

 

「ああそうだ、アセロラの家が帝国か共和国にあるなら、乗せて行って欲しいんだが」

「幸か不幸か共和国ですよ」

「よろしく頼むよ。ユウヅキ様の説得も手伝うから」

「それはありがたいですけど」

「なにか不満でも?」

「ユウヅキさんをどうやって説得するかのとっかかりが見えてきてないもので」

 

 友達作りが下手とはいえ、金と権力持ちをどう説き伏せるのか、展望は見えていない。

 ユウヅキさんの友達になることに不足があるわけでもないし、アセロラが受け入れればそれで達成されることではある。

 あるのだが、愛が重いと形容すべきなのだろう。友達になった上で、雨龍を出ることを了承させる要素がない。

 エスメラルダの飛行許可が貰えないことには帰れないし、飛行許可を下す権限を持っているのもユウヅキさん。

 他派閥からの圧力でそのうち解決するといっても、粘るだろうことは目に見えているわけで。

 

 たびたびお世話になり、アセロラの目標たる魔力雲探しに指針をくれたユウヅキさんとの情も湧いている。恩もある。

 ユウヅキさんとの関係悪化を覚悟するなら、声高に「帰りたい」連呼でもしてエスメラルダに立て篭もる、なんてこともできるが、それをするほどアセロラの性根はねじ曲がっていない。

 

「雨龍に移住するから一旦帰らせてください、なんて言えば一発でしょうけど」

「アセロラが往復してる間に家が建ってるだろうね」

「それはさすがにちょっと……」

 

 家を引き払ってエスメラルダに住んでしまおうかとは考えはしたが、それはアセロラの目的と合致するからの発想。

 雨龍に縛りつけられるのは困る。

 

「ユウヅキ様は、アセロラが自分のことを友達だと思ってくれている確証が欲しいんだろう。アセロラが雨龍の人であれば、話はもっと簡単になっただろうけど、そうじゃない」

「いずれ帰ることはわかっていらっしゃるでしょう。それをわかっているから、なるべく長くアセロラさんを手もとに置いておこうとしているわけですし」

「だからユウヅキ様とアセロラの間に、目に見える繋がりがあればいいんだよ」

「つまり?」

「プレゼント。必要なのは身近に置いて使うなり飾るなりできるものか、装身具だろうね」

「親友の証、ってところですか」

「そういうこと」

 

 目に見える繋がり、か。

 ユウヅキさんの執着ぶりからして、なにを贈っても大事にはしてくれるだろうが、仮にも国家を担う重職を相手にチャチなものでは申し訳が立たない。

 心のこもった、それでいてそれなり以上の価値を持つ品。

 それを心を読める疑惑の人を相手に隠しながら用意する。

 

 

 難しくない?




今夜は帰さない
【赤】 自分を含む生存中で最も攻撃力が高い味方レギュラーの力で2回連続で敵4~5体に特大ダメージを与える さらに自身に『即死回避』の効果を付与する【天火陣発動時】威力軽減ストック非発動

2018年のホワイトデー船員が所持。
1回しか使えないことを除けば現役での使用にも耐えうる。




チンタラ書き進めていたらアゲハの役職がゲーム本編で追加されてしまった。
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