遭難する天空の魔女   作:Kaisu

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天クラは再度運営変更。Trysになりました。
そして仕事を選ばないことに定評のあるキティさん達サンリオの皆様とコラボ開催中です。

また、ゲーム開始時にバラエティ豊かな有用船員が合わせて20体+α入手できるように。
初めてすぐにでもかなりのレベルで遊べるようになりました。CPさえ足りれば。


光泡の夢

 翌朝、ユウヅキさんは体調不良で起きてこなかった。

 蝶夜さんに聞いたところ、薄着飲酒による寝冷めと二日酔いと知恵熱のトリプルコンボとのこと。

 

「知恵熱ってどうしてそうなったの……」

「テンションが上がりすぎたようです」

「プレゼントがそんな刺激物になるとは」

「ユウヅキ様を喜ばせ過ぎでダウンさせたのはアセロラ様が初めてでしょう」

「実に嬉しくない初体験ですね」

 

 人体は複雑怪奇なり。

 昨夜の反応が素のものだった可能性が濃厚になった。

 

「お見舞いには行かないでくださいね。遠からず回復はすると思いますが、風邪か流行性感冒の可能性は一応ありますから」

「わかりました」

「アセロラさんが行くと、また変にテンションが上がって悪化する可能性の方が高いですので」

 

 そっちが本命か。

 

「私が雨龍を去った後はしばらく使い物にならなくなりそうですね、この様子だと」

「それはもう織り込み済みで動くしかないのですよ。残念ながら」

「もうなるべく早く去ったほうが良い気がしてきましたよ。これ以上、ユウヅキさんの内側に占める私の割合が大きくなる前に」

 

 三食タダ飯に宿とクリーニング、挙句付き人すらいる状況。

 いくら戦功があるといえど、限度はとっくに超えているだろう。いつまでも無駄飯を食い続けるのは気が引ける。

 

「そこでこちら、アセロラ様の出国許可が下りました。体調不良で頭がぼーっとしているユウヅキ様に騙し討ちで決裁させました。これでいつでもエスメラルダで出国できます」

「わーお。凄い力技」

「こうでもしなければいつまで経っても出国許可は取れなかったでしょうから」

「お疲れ様です」

 

 これでようやく帰宅への最後の障害が取り除かれた。

 さすがに体調不良の隙を突いて出国許可をもぎとってくるとは思わなかったけれど。

 

「じゃあ今日は保存食買いに行こうかな。生鮮食品はなるべく直前に買うとして」

「気の早い話かもしれませんが、いつ出発になるでしょうか? 各部署に連絡しておきますので」

「ユウヅキさんが回復して、お別れした後になるだろうから、3日後から5日後ぐらいじゃないかな?」

「かしこまりました」

 

 ちょくちょくエスメラルダに不要なものは片付けていたので、ユウヅキ屋敷にはさほど私物は置いていない。荷造りしようと思えば小一時間もあれば余裕で終わる程度の量。

 アゲハさんを載せて共和国まで帰ることになっているので、2人分の食料を最低でも10日分は欲しいところ。水は不要といっても結構な量になる。というかお金も結構かかりそう。アゲハさんに食費請求ぐらいはしておかないと。

 どんな用事でアゲハさんが共和国に行くのかはわからないけれど。待たせてもいい用事、となればそこまで大きな用事ではないだろう。

 

 

 そう思っていた時もありました。

 

 

 出国許可をもらったその日のうちに予定が概ね決まったとアゲハさんに伝えた。その翌日。

 1人旅とは思えない量の荷物がエスメラルダに運び込まれてくるんだからどういうことだ。引っ越しのレベルなんだけど。

 本来二桁三桁以上の人数が乗り込んで遠征もできるはずのエスメラルダにはダダ余りしているスペースがいっぱいあるから、積み込むことに不安はないけれど。飛行可能重量で見れば、アセロラの私物と弾薬と雷雲対策パーツと予備燃料とその他諸々込み込みでもまだ30%も使っていないはずだし。

 

「いやー助かるよ。この量を持って行こうと思うと一般ルートじゃ高くつくんでね」

「それはいいんですけどね、そろそろアゲハさんが大荷物抱えて共和国に行く理由教えてくださいよ。権利ぐらいあるでしょう」

「ああ、もう伝えてた気になってたよ。共和国の六大騎士団長就任なんだ」

「はあ!!? なんでこんなところでダラダラと油売ってるんですか!? これ以上ないぐらい大事な仕事じゃないですか!?」

 

 

 

 現帝国皇帝エドワードのトップダウン、帝国八大軍団。

 優れた才能を持つ現役学生採用や、武闘会開催による一般選出や、在野の空賊登用までして作り上げられた帝国最強の剣。

 かつてアゲハさんが戦ったという狂戦士ガラシャも軍団長に名を連ねている。

 

 その共和国版が六大騎士団。

 帝国ラファエル朝崩壊の後、共和国で行われた軍の再編成。その最上位にあたる将帥職。

 時期は帝国に比べて再編速度は遅かったが、いずれ共和国軍の核となるであろう。帝国に対抗意識でもあったのか、こっちも現役学生を騎士団長の一角に採用していたけども。

 そして、軍団を6つ作ると言われつつも、候補者選びが難航して空席が残っているとは聞いていたが。

 地位として見れば、武で辿り着ける頂点に近いとすら言える。

 

 

 

「部下募集中。アセロラも騎士団に興味あるなら口添えできるよ? それぐらいの権限は貰ってるし、給料もたぶん良いよ?」

「断固拒否! します!」

「そういうと思ったよ。アセロラは明らかに軍向きの人材じゃない」

 

 軍の仕事なんてアセロラの目的からしたら対極に近い。

 雨龍では軍に協力したが、エスメラルダを失わないための自衛のようなものである。

 

「でも、騎士団長の話を受けてるのになんで雨龍にいるんですか。しかも結構長く」

「持ち込む荷物をまとめるのがひとつ。軍入りってこともあって今生の別れになるかもしれないから挨拶しに来たのもひとつ。知り合いに声かけて部下にならないか勧誘しに来たのもひとつ」

「勧誘の成果は?」

「残念だけど雨龍からは引き抜けなかったよ。有望株を流出させてなるものかーってね。滞在が長引いた最大の理由だね。アセロラが帰るのは、タイムリミットとしてちょうどよかった」

「あらま」

「1人ぐらい連れて帰らないと示しがつかない気がしたから、アセロラにも粉かけたわけ。憶えてるかな、アセロラが雨龍に来た時の監視。あれも魔女だって聞いたから能力次第では口説こうと思って監視役に立候補してたんだ」

「えぇ……」

 

 思惑を隠してしれっと人を品定めしてるあたり、アゲハさんも実に雨龍人らしい行動だと思った。

 国外でも活躍している人といえども、根っこは育ちに忠実なのかもしれない。

 

「共和国の機密書類や要封印の古文書にアセロラの探してる雲の情報が載ってるかもしれないけど、本当に部下にならない?」

「ぐっ」

「お、ちょっとグラついたね?」

「いえ、やっぱり拒否です。自分で見つけてこそ価値がある」

 

 戦闘力や事務能力に期待されても困るし、仮に情報を入手できたとしても共和国軍を抜けられなくなりそうだし。

 なにより、エスメラルダを買って行動範囲が拡がったというところで共和国に釘付けにされてはかなわない。

 

「魔導士ならともかく、魔女の知り合いなんてそうそうできるもんじゃないからね」

「知らぬ間に共和国軍トップ級との繋がりができていたことに驚きしかないですけども」

「外部協力者として声をかけることもあることかもしれないから、その時があったらよろしく」

「あっちこっち行ってる身なのですぐに連絡取れるかはわかりませんけど、覚えてはおきますよ」

 

 ラファエル朝が倒れた結果、妙なコネクションが複数出来てしまったのだ。バタフライエフェクトも甚だしい。

 それに蝶の名を持つ人が関わっているあたり、蝶の羽ばたきもそう馬鹿にできないか。

 

 

 

 

++++

 

 

 

 

 ユウヅキさんの発熱は1日寝て回復したものの、復帰しようとした朝にアセロラが帰国すると聞いてもう2日追加で寝込むという動きを見せ、周囲を呆れさせていた。それでいいのか国家の屋台骨と、アセロラすらも呆れた。

 寝込み合計3日目になって見舞いが許可されたので、アセロラはユウヅキさんの寝室を訪った。というより、状況打開のためとして送り込まれた。

 病は気からを地でいく血の気が失せたユウヅキさんに、アセロラがプレゼントしたタンブラーに、球形の結界炉を組んで、ヤカンや急須を使わずにお茶を淹れた。時空魔法を見せてくれた日の意趣返し。

 

 その時ユウヅキさんはタンブラーは飾ると言ったのだが、飾らず日常生活で使ってくれた方が嬉しいと伝えた。凝った装飾もしていないハンドメイド食器なんて使ってなんぼ。

 そのあと、ユウヅキさんからも、これで最後だという雨龍に残らないかを問う勧誘があったが、丁重に断った。

 後ろ盾や地位が欲しいわけではないし、魔導具師として栄達したいわけでもないし、生活を保証してくれる人が必要なわけでもない。

 

 それからアゲハさんのこともいくつか話した。

 騎士団長就任のことは当然ユウヅキさんも知っていて、雨龍からそんな人が出るかと驚いたことと、その力を雨龍のために使ってくれないことを悔いていた。

 アゲハさんを使えるほど雨龍の器を大きくできなかったことに忸怩たる思いがある様子。

 

 同時に、外の世界へ羽ばたけることを羨んでもいた。

 自身の抜きん出た才覚を若いうちから雨龍のために擦り減らして消費しなければいけない、屋台骨の自覚ゆえの葛藤。ユウヅキ自身からの評価、ユウヅキ以外からの評価、どちらからでも雨龍になくてはならないという結論に達する悲哀。

 過去の自分によって仕事が効率化され、成果を挙げてしまったがために現状のシステムを変えがたい辛さ。外に出たくとも、なまじ統治能力に長けていたせいで自ら雨龍という檻を強化し続け、良い環境を整えれば整えるほど自分の存在が重要になりますます自由度が減る矛盾。

 

 自分では理解できるし説明もできるが、周囲には実現が難しくてレベルを落とす選択肢を採り続けなくてはいけない理解者のない孤独と、理論上可能でも手札が足りず質の改善も望めないから現実路線に舵をとらなければいけない板挟み。

 その上で、わかっていても対処できない事象を抑えられないことへの苛立ちと諦め。空賊の戦闘スタイルが分析の結果ほぼ解明されていてなお止められない雨龍軍の質と設備と技術的制約。金でどうにかならないからこそのもどかしさ。かといって白旗を振るわけにもいかないから突き上げが止むこともない。

 

 それらネガティブな話題を一通り吐き出すと、ユウヅキさんは魂が抜けたように眠り始めた。

 性格なのか立場がそうさせたのか、今までのアセロラには見せていなかったユウヅキさん個人が抱えている負の部分。アセロラを楽しませようとする意図すらもかなぐり捨てた一方通行。

 気持ちが沈んだことで、底の方にあった見せる気もなかった弱みすらも吹き出した。そんな印象を受けた。今までで一番自分を曝け出していたかもしれない。

 これで憑きものでも落ちたのか、ユウヅキさんは翌日に復帰していた。

 

 

 

 

 お見舞いからさらに2日経過し出国当日。天気はいつものごとく雨。もう慣れたもので。

 雨龍軍にいじられ放題だったエスメラルダも元に戻され、出発の時を待っている。

 それを名残惜しそうに見ている整備員が多いのは気のせいではあるまい。漏れ聞く限りではとてもいいオモチャっぷりだったようだし。

 

「皆様、お世話になりましたっ!」

「今度は歓迎できるはずだからさ、また来るんだよ」

「エスメラルダ預かって頂いて、ありがとうございました」

「こっちこそ、いい勉強になったさ」

 

 戦傷補修の名目で行われた検証。

 船体が大きいがゆえに修理補修のための許可を出す書類が冊子になるぐらい。

 そして悲しいかな、巨大さはそのまま修理費用が高いことに繋がる欠点が露呈。今回は軍所属の人間を多数連れて出撃したので雨龍軍の100%負担だが、そうでなかった場合の全額自腹見積もり書は気が遠くなる額だった。

 もうひとつ、フォボス戦後にユウヅキさんが遡って免除してくれていたのだが、本来の駐機代も結構バカにならない金額になることが判明。高さも横幅も奥行きもあるんだから当たり前といえば当たり前。

 

 今までは対人対物事故補償しか入れてなかった保険を、共和国に帰ったら絶対に真っ先に予定外駐機と戦闘修理のオプションに加入しようと決めるほどに。

 ローンに加えて保険料値上げは痛いことこの上ないが、それすらも霞みそうな高額債権者待ったなしな概算だったんだから必要経費と考える他なく。

 ……本当にエスメラルダに住もうかなあ。市街地へのアクセスは悪くなるだろうけど、共和国にある家より使えるスペースは遥かに大きいし。その方がトータルでは安くなりそうな気がしてきたよ。飛行艇自体を家にする傭兵稼業な人や運送業の人も少なくないんだし。

 

 非戦時用静音エンジン暖機は少々時間がかかる。

 アゲハさんと私は発着場でのんびりと、来るであろう人を待っていた。

 

 

 

 

 からん、からん、と館内放送で鐘の音が鳴り、発着場にいた職員全員が作業を止め、姿勢を正した。

 アゲハさんも刀を足元に置き、手を後ろに直立不動。

 アセロラも、杖を背中に固定し起立した。

 

 長い紫髪を全て編み上げ翡翠色の石が嵌められた頭冠を被り、白桃色の正装は襟元も袖口も緩ませず、高下駄ではあるが丈の長い着物で足も晒さず、左手には銀色の祭鈴。

 従者を引き連れて現れた気品と威厳のあるその姿は、アセロラが知る砕けたユウヅキ像とは異なる高位神官の佇まい。

 しゃん、と一振り鈴を鳴らすと、発着場内の音が数瞬だが完全に消えた気がした。

 

「作業中の者は作業に戻るように」

 

 あまり手を離せない作業をしていたらしい数人がいそいそと動き出したが、不急の作業中だったらしい者はほんの少し肩の力を抜いただけで不動は崩さない。

 

「アセロラ様、雨龍を代表して改めてお礼申し上げます。雨龍に住まう者達にとって、大変良い刺激になりました。この度は本当にありがとうございました」

「こちらこそ。多くの便宜をはかって頂きました。感謝しております」

「また、遊びに来てください。歓迎致します。そして、これを与えます」

 

 ユウヅキさんは、朱金色で手のひらより少し大きいほどの包みを、従者が持っていた盆から取り上げアセロラに差し出した。

 

「雨龍原産の紫檀の扇子です。貴女に雨龍の加護があらんことを」

「謹んで拝領いたします」

 

 張った空気を弛緩させないまま、ユウヅキさんはアゲハさんに向き直った。

 

「アゲハ、雨龍の長としてユウヅキが命じます。心して聞きなさい」

「はっ!」

「その武をもって共和国を(たす)け、なるべく雨龍に害が及ばないよう、差配するように。しかし、雨龍があるからといって手を抜くことは許しません。常に最適最善最大限を考え続け、共和国にも恥じぬ成果を挙げるのです」

「この身命に賭しましても、その任、果たさせて頂きます」

()()く励むように」

 

 じゃらん、じゃらんと、ユウヅキさんは左手の祭鈴を鳴らす。

 そして右手を体の前で横に振り、なにかを撒くような仕草をした。

 

「旅立つ者に幸多からんことを」

「「「旅立つ者に幸多からんことを」」」

 

 アセロラとアゲハさん以外のその場にいた全ての者が、ユウヅキさんに倣って復唱する。

 唐突に大きな声が響き、アセロラは少々面食らった。

 

 じゃん、と祭鈴を強く一振り。ユウヅキさんは最後に強く床を踏み、大きな足音を出した。

 それが終了の合図なのか、発着場の空気が一気に弛緩した。館内放送で再び鐘の音が流れる。

 

 発着場内に喧騒が戻ってきた。












あと1話で終わるとはなんだったのかその2。
終わる終わる詐欺もいいところ。
書いてるとユウヅキさんが勝手に動くんです。



光泡の夢
【無】撃墜中を含む味方全体のHPを回復し、味方5体に撃墜されても一度だけ自動的にHPを回復する効果をかける さらに味方5体の攻撃力を非常に大きく上昇させる ※同系スキルと重複しない
登場時点では有能なスキルだった。
今でも使えなくはないが、今話冒頭の20体配布の段階でこれより強力なスキルが配布された。よって未だ採用していた人でもお役御免か。
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