遭難する天空の魔女   作:Kaisu

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お片付け……しなきゃね!

 手持ちのお金が心許ないことになったので、国内飛行禁止令で国外発着用駐機ドックに留め置かれたままのエスメラルダの金庫に入れてあるお金を回収しようとアセロラは借りているガルーダに戻った。

 すると、ガルーダの通信機に留守電の伝言が残されていた。いつきたものかと記録を見れば、つい先ほど。

 

「ふむ?」

 預けてあるエスメラルダになにか起こったのだろうか。

 一抹の不安とともに、録音されたメッセージを再生した。

 

〈こちら、雨龍国防担当です。本日、当連絡より1時間ほど前より、雨龍島外で空賊が大規模な洗濯物泥棒を行なっております〉

 注意喚起の連絡だったようだ。それにしても大規模な洗濯物泥棒ってどういうことだ。

 

〈現在、全力で対処に当たっておりますが、広範囲に及ぶ戦闘のため艦隊が散らばり、雨龍本島の守りが薄くなっております〉

 帝国や共和国に比べて明らかに工業力が低く、人も少ない。戦闘力も、比較したら可哀想ではあるだろう。

 

〈つきましては、大型戦闘艦であるエスメラルダの、雨龍軍による使用許可、もしくはご自身での出撃による防衛を要請いたします。この要請は、現在雨龍に存在する民間の戦闘艦所有者の皆様へお送りしております〉

 戦時民間徴用のお願い、ということになるのか。

 

〈使用許可の場合、艦船の賃借料のお支払いと、戦闘における船の損傷修理を行い返却いたします。ご自身で出撃される場合、雨龍軍より燃料と弾薬の提供と同乗者、報奨金をお支払い致します〉

 よし、手伝いに行こう。行かなければ。少しでもローンの足しにしなくては。

 

〈ご不明な点がございましたら、もしくはご協力頂ける場合、折り返しご連絡をお願い致します〉

 録音はそこで切れた。

 

 アセロラはガルーダのエンジンを始動させつつ、折り返しの連絡を飛ばし自身で出撃する旨を伝えた。

 もちろん諸手を挙げて歓迎された。それどころか通話越しに歓声が聞こえたのだが。

 

 

 非戦闘用の装備である雷鳴の電探を付け替えられないかと打診したところ、戦闘用にいろいろと装備を貸してくれるらしいので、勝手に相性が良いものと付け替えてくれと丸投げした。

  操艦技術にも戦闘技術にもあまり自信が無いのだと伝えると、エスメラルダ貸し出しにするかと問われたが、それは強く断った。

 

 なぜってアセロラのほぼ全財産がエスメラルダに載っているのだ。貸し出して撃墜されようものなら悔やんでも悔やみきれない。

 大型艦でもあるので気分は持ち家も同然。誰が貸そうものか。

 そう伝えると操艦技術に優れた人を預けてくれるという。これは助かる。

 

 すると、にわかに通話口が騒がしくなった。

 誰かが通信室に乗り込み、マイクをひったくったらしい。

 

〈こちらユウヅキと申します。単刀直入に言います、あなたの船に同乗させてください〉

 女の人の声で、どこかで聞いたような名前がアセロラの耳に入った。

「え、えと、どちら様でしょうか?」

 しかし返ってきた声の主はまた違った声だった。

 

〈こちらアゲハ。私も乗せな。あと、ユウヅキ様は、雨龍の巫女様だ。偉い人〉

「アゲハさん!? 偉い人!?」

 驚いた拍子にガルーダの操舵を誤り、飛行艇が大きく揺れた。

 

 一方、通話先もてんやわんやしている様子。

〈静まりなさい!〉

 ユウヅキと名乗った偉い人が一喝、喧騒がピタリと収まった。通話越しのアセロラすら背筋が伸びた。

 

〈私が説明するよ〉

 マイクを取ったのは、アゲハさんだった。

〈雨龍において、一般人は軍の船で出撃できない。当然だね。私は民間の傭兵で、ユウヅキ様は国の重い役人どころ。どっちも軍属じゃないから、軍船では出撃できない〉

 

 軍は基本的に規律を重んじるものである。

 傭兵にせよ役人にせよ、命令系統が通じない存在は味方であっても歓迎はされない。

 ましてやユウヅキさんは重職、出撃自体止めるべきだろう。

 

〈私はゴツい船持ってないし、ユウヅキ様は運転させちゃいけない立場だ。じゃあどうするかって、民間の船に乗せてもらうしかない。そこであんた。渡りに船もいいところだよ、偉い人乗せるにも十分な大きさ、格、性能も申し分ない〉

「はあ」

 理屈はわかるし、アゲハさんが同乗を申し出るのは理解の届く範囲。

 

「でも、なんで偉い巫女様がご自身で出撃したいんです? そもそも、戦えるんですか?」

〈召集理由が洗濯物泥棒ってことで察しな〉

 …………偉い人、洗濯物、なるほど、うん、それは、手ずから取り返したいことかもしれない。

 少なくとも、軍の野郎どもには触らせたくないだろう。手遅れかもしれないが。

 

「…………もしかして、アゲハさんも?」

〈……ユウヅキ様は戦えるから問題ないよ〉

 アゲハさんが一瞬返答に詰まった。図星らしい。

〈とにかくだ、なるべく早くこっちに着くように。暖機して、なるべくすぐ発艦できるようにはしておくから〉

「了解です。急ぎますね」

 

 駐機ドックにエスメラルダが留め置かれているが、大型戦闘艦ゆえに重く、駐機場内を移動させるために牽引艇で引っ張るわけにもいかない。

 そのためエンジンと操縦装置の鍵は預けている。操縦室と一部の保管室とエンジンルームには入れるが、それ以外の部屋の鍵はアセロラが持っている。

 アセロラが到着しないことには、弾薬補給や小型飛行艇の搭載等は不可能。

 尊厳を守るため、少しでも金を稼ぐため、アセロラはガルーダの速度を上げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アセロラが到着してガルーダから降りるや否や白の巫女服に身を包んだ女官たちが、有無を言わさずボディチェックを開始。

 すぐにお返ししますからと、杖も取り上げられてしまった。

 何事かと思えば、紫髪で薄桃色の着物の神官然とした女性がしゃなりしゃなりと歩いてきた。

 

「雨龍の巫女、ユウヅキです。この度はご協力感謝致します」

「アセロラです、よろしくお願いします」

 挨拶も早々に、エスメラルダに向かいながら話しましょうということに。

 エスメラルダの鍵は先行して持って行かれた。なんとも忙しない。

 

「アセロラ様にご協力いただくわけですが、今回、船に乗り込むのは全員女性となります。約30名ほど、皆、被害者と思って頂いて差し支えありません」

 少ないな、とすら思う。

「少ないと思いましたね?」

「あ、はい……」

 鋭い人だな。

 

「残念ながら、官憲の戦える人材はもう殆ど出撃済みなのです。これは私の直属の護衛なのですよ、アセロラ様。士気は十分です」

 護衛の部隊もろとも全員被害者とは。

 

「アセロラでいいですよ?」

「ではアセロラさんとお呼びしましょう。その30名に加えて、民間からも2名。片方はアゲハさんです。もう1人は、イロハさんと仰られるそうで、なんでも、お姉様の大事なものを洗濯に預けたら、今回の事件に遭われたと」

「それはまた間の悪い」

「困ったものです。ああそれと、現在判明している襲撃者の情報をお伝えしておきます。首領フリード率いる空賊団〈フォボス〉。古豪の空賊団ですね」

 

 名前は聞いたことがある。評判もいい噂は聞かない。略奪によって身を立てている旧きタイプの空賊団。

 一般人にも襲撃をかけるので、発見報告への警戒度合いは高い。

 首領のフリードは相当なおじいちゃんと聞いている。

 

 

「空賊団が洗濯物泥棒って、悲しくならないんでしょうか……?」

 爺様の下着泥棒と考えると、お近づきにはなりたくない。

 

「アセロラさんはご存知ないと思いますが、たまにあるんですよ、雨龍の洗濯物船への襲撃って。アセロラさんも雨龍の衣服を着ていらっしゃるようですが、基本的に手織りの反物から作る一品もので、着心地の良さと雨風に耐える丈夫さ、元来の生地の良さもあって、雨龍の外では良い値段で売れるらしいのですよ。職人が少ないので輸出もしておらず、希少価値もあるようで」

「買い付けられないなら奪う、かあ……」

「ちゃんと護衛もつけているのですが、今回はそれも見事に抜かれてしまいました」

 

 神出鬼没、根拠地不明の古株の空賊団。

 悪行三昧でも略奪慣れした手際の良さは際立っているし、討伐隊を組まれたことも少なくないがなお生き残っている空賊団であり、逃走力も相応にある。

 

 

「出撃するの、もう遅くないですかね……」

 襲撃開始から2時間ほどは経っているはずなのだ。

 ユウヅキさんの言うところによれば、もう洗濯物が奪われた後。

 逃げ延びられていてもおかしくはない。

 

「むざむざ逃してあげるわけはありません。雨龍近辺の空域は私たちのホームグラウンド。気流の傾向、突っ切れる雲の位置、動ける数多の監視拠点アルツェバロア、そう易々とは見失いません」

 ユウヅキさんは豊かな胸を張るが、護衛をつけてなおホームグラウンドで襲撃を受けている時点で監視網はかなり穴があるのではないかと思うのだが。

 

 もっとも、帝国にしろ共和国にしろ、襲撃を受けてから本気出す傾向は否めない。

 空は広いのだから全域のカバーリングなどまず不可能。ことさらに雨龍が悪いとも言い難い。

 先に発見するより発見したあとに絶対見逃さないことの方が重要視されているのだろう、と、思いたい。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「やあ、数日ぶりだね」

「まさかアゲハさんとご一緒に戦うことになるとは」

「私も、まさかあんたの船に乗ることになるとはだよ」

 薄紫のショートカットと鋭い目つき、薄桃色の着物と太刀はアセロラにも見覚えのある出で立ちだが、朧げに体を覆う魔力が以前見たときより刺々しい。

 

「で、こっち、同乗するもう1人の一般人」

「イロハです! よろしくお願いします!」

 栗色の髪をサイドの高い位置でリング状に丸めた女の子。黄色ともオレンジとも取れるグラデーションの着物で、アゲハさんに比べればただの町娘にしか見えない。

 

「……あの、アゲハさん、大丈夫なんですか? その、戦力として」

「私から見たら、あんたもこの子と大差ないよ」

「ぐ、やぶ蛇……」

 アセロラ自身そこまで戦闘が得意ではないから、強い人から見るとそうなるか。

 

 

 既にエスメラルダのエンジンは暖機が仕上がっており、戦闘物資の積み込みが終わればすぐにでも出撃可能。

 買ったばかりでほとんど改造の手を入れていないので、まだまだ大型戦闘艦としての面を失っていなかったのは幸いだったかもしれない。

 もっとも、エスメラルダではない飛行艇にも多かれ少なかれ自衛の戦闘能力は常識的に備わっているし、民間人が武力を保有してはいけない条項があるわけでもない。

 備わっているからこそ、民間の参戦を促せるわけだが。

 

 

 戦闘力を持つ飛行艇には自動的な敵船ロックオン機能はほぼ常備されている。

 魔力砲撃であれば、180度程度までは砲弾が追尾する術式まで組み込まれている。

 

 魔力砲は、自動ロックかつ自動追尾かつ術者の魔力もしくは魔力炉の燃料続く限り弾数無限の搭載重量を無視できる大変優秀な攻撃手段だが、それが祟って、対抗策を用意されやすい手段でもある。

 なにもしなければほぼ必中するそれを、ある者は卓越した操縦技術で回避し、またある者は防楯に受けさせ防ぎ、魔力系砲撃であればイレース系と呼ばれる防御術式の展開による無効化、果ては魔導シールドにダメージを肩代わりさせそれを機体に備わる魔力炉で回復し続けるゾンビシステムなどなど、防御方法も千差万別。

 

 それは同時に、銃砲火器による物理弾頭と突撃艇による乗り込み白兵攻撃が廃れない理由でもある。

 

 大前提として、魔力を自力で発生させられない人間、および獣人の割合が、魔力を持つ人数より多いことがある。

 術者の魔力を非固形のエネルギー弾に変換する、魔力銃や魔力砲と呼ばれるものは当然扱えない。

 加えて威力も個人の魔力量と制御力に比例するため、魔力を持つ者でも向き不向きがある。

 もし豊富な魔力量とそれを十全に扱う技術がある者が使うとなると、長射程高威力弾数ほぼ無制限で連射可能さらに風にも影響されにくいという、派手な武器に化ける。

 

 しかしながら、それでもなお魔力銃は普及していない。

 適性の問題もあるが、火薬式の銃に比べ弾速が遅く、避けられるかどうかはともかく、動体視力の良い者ならば目で追える弾速である。

 

 威力も術者依存なため、火薬銃の方が威力が出るということも起きやすい。

 身も蓋もない話ではあるが、魔力を扱えるのであれば魔力銃を使用するより、魔法を使えるように鍛えたほうが潰しが利き、多くの場合そちらの方が良い結果になる。

 アセロラとて魔力銃は使おうと思えば使えるし威力は出せるが、自力で似たようなことができるしやる意味は薄いのだ。

 

 飛行艇であれば魔力炉の搭載が可能だが、魔力炉自体個人で携行するには巨大過ぎ、また出力も大き過ぎる。

 土台の技術の時点で、巨大な船を着陸をも一切考えず浮遊させ続けるための出力を得るためのものなので、それ相応のサイズになるのも当然。

 

 現在の技術レベルでは、重量を増さずに魔力を貯めることはできてもまだ人の身から生み出される魔力の方が効率が良く多い。

 アセロラには不可能だが、エスメラルダ級の大型戦闘艦クラスであってもなんの補助もなく個人で浮かせ続けることができる魔女すらいる。

 

 アセロラはエスメラルダを単独で持ち上げるほどの魔力出力は持っていないが、時間をかけて魔力炉に魔力を注入することで、半永久的に飛ばし続けることはできる。

 あくまで理論上はであって、疲れもするし体調にも左右されるから、動力全てを自分で賄うことはしないけれど。

 そして、それゆえにアセロラの主な稼ぎ口にもなっている。

 魔力を持つ人数が多くはないのと、まだ人力で魔力を発生させそれを蓄積する方が効率がいいため魔力補給の需要は少なくない。

 

 アセロラ1人でエスメラルダ級の大型戦闘艦を動かせる魔力を発生させられるのだ。

 魔力炉のサイズが小さくなれば、それだけ数もこなすことができる。

 

 これだけのことができても、魔女の中ではアセロラの格付けは低い。

 魔法によって効果を及ぼせる範囲には自信があるが、起こせる事象は炎系の熱魔法のみである。それしかできない。言ってて悲しくなるけども。

 魔力制御は一流の自負はあるし、魔力量自体も相当あるほう。それを魔法として行使する才能に、相対的に恵まれなかった。

 

 だからアセロラは魔力を帯びた伝説の黒雲を探している。

 魔力量を増やせば、貧弱な魔法への才能を別の形で押し通せるかもしれないし、魔力が高密度高濃度の場所で鍛えれば、殻を破るキッカケになるかもしれない。

 いずれ、二つ名を後世に遺すような魔女になるためにも。

 




小説書くのも天クラでミッション周回するのも同じiPadでやってるからゲームでやる気出せば出すだけ小説が遅くなるジレンマ。



監視網がザル過ぎるところを原作再現してみる。
そしてエセ科学のお時間再び。
11/13文章微修正




ポイント獲得イベント勃発。
原作だとりんご飴35万個買い占めたり、餅30万個集めたりします。
さてアセロラの戦果やいかに。

アセロラの参戦理由が雑?
原作からしてほとんどライブ感の参戦理由しかないから細かいこと(ry
小説としては間違ってるけども。




アゲハ【4周年】
猛火を刀に宿す剣士。彼女自身善人という訳ではないが、自分の日常を邪魔する悪党を斬り続けた結果、人々から感謝されるようになった。
好き 静かな日常
嫌い 大々的に感謝されること

例によって天クラwikiより抜粋。最高レアリティ星7版。
性能は…………………最高レアリティに見合っているとは言い難いとだけ。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E3%83%9F%E3%83%89%E3%82%A6%20%E3%82%BF%E3%82%B1%E3%83%AB


イロハ
雲の中の小国『雨龍』に住む少女。姉と二人暮らしだが、家事は全て一人でこなしている。姉のことが好きすぎて家事が苦になることはない。
好き アマネ、家事
嫌い 雷、男の人

星5。名前だけ前話で出ていたアマネの妹でシスコン。
サブタイトルはイロハのボイスから拝借。
現在は入手不可能。サポートスキルは、新登場当時としては強かったが、謎のステータスの低さ。
アゲハから見ると、アセロラともども似たような強さというのは、実際、その通りだったりする。
登場時期の関係で、同じ星5だが、アセロラの方が弱いぐらい。
https://wikiwiki.jp/craftfleet/%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%8F


ユウヅキ・フリードの紹介、イロハの参戦理由、アゲハとユウヅキの原作にない関係性は次回以降。
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