トリステイン王国の魔法研究所実験小隊と合流したアインザッツグルッペの80人からなる派遣小隊は、ダングルテールの村を包囲する。
「村人は教会に押し込めろ。」
「っは!」
アインザッツグルッペの兵士が、ダングルテールの村人を教会の中へ押し込める。
「とっとと歩け!異端者が!」
村人たちは、怯えながらも指示に従った。その場にいた村人たちが全員教会に入ったのを確認した兵士が、キューベルワーゲンに乗せていた油を教会の壁にかけて回る。ガソリンはもったいないので止めた。異端者に金をかける必要はないからだ。
ケイユはMP35短機関銃を肩に下げ、教会に火を放たせた。
新教徒教会なら燃やしても問題ない。メラメラと教会の壁に火の手が昇り、異常に気が付いた村人たちが正面扉から逃げだそうと殺到する。
ケイユと数名のVG魔導小銃を持ったアインザッツグルッペンの兵士達が、村人たちの足元に発砲し、村人たちを中に押し戻した。
2・3人は足を撃ち抜かれ炎から逃げ遅れて、生きたまま焼かれていく。
「あはははは!!どの国でも異端者は処分しなくてはな!!爆裂術式、単発でだぞ。」
兵士達が爆裂術式を単発で打ち込む。村人たちは炎に包まれた。炎は嵐のように教会中に広がった。
上機嫌のケイユは、自分の近くにいたトリステインの魔法研究所実験小隊の隊員に話しかける。
「どうだね?メンヌヴィル班長、肉の焼けるいい香りだ。そうは思わないかな?」
アインザッツグルッペンの兵士達は酒を飲みながら、ケラケラと楽しそうに笑っている。
ヒクヒクと動いている村の子供をクロスボウの的にして遊んでいる。家に隠れていた村娘に度数のキツイ酒を頭からぶっかけて、そのまま火を掛ける。村娘は悲鳴を上げながら転げまわっていた。普通なら目を伏せるところなのだろうが、その姿があまりにも滑稽で噴出してしまう。
「っぷ、ケイユ少佐!これは愉快だな!こういった裏方任務にも役得は必要と言うことだ!ハハハハハ!」
大声で嗤うメンヌヴィルを見て満足そうにケイユは頷いてから、教会の一角を指さす。
「メンヌヴィル殿の二つ名は白炎でしたな。小官は以前から系統魔法の炎の魔法に興味がありましてな。是非、白炎の由縁等を見せてもらいたいと常々思っていたのだ。」
「ほぅ。」
メンヌヴィルはケイユの指す方に視線を向ける。
教会の後ろのステンドグラスを割って窓から逃げ出そうとしていた。アインザッツグルッペンの兵士達に交じって自分の部下たちも参加して、攻撃していた。絶望的に窓枠にしがみ付く村人の手だけが見えた。
「いいだろう。俺の白炎を見るがいい!」
白い炎が教会の中に放り込まれる。
教会の中からは断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
窓枠に掛かていた手が炭化しているのが見えた。
「素晴らしい!異端者は焚刑が王道!素晴らしい!」
ケイユは純粋に称賛した。
一方で、メンヌヴィルの部下が何やら焦った様子で何かを伝えていた。
それを聞いたメンヌヴィルの形相は、ケイユの称賛を受けて満足げな顔から、怒りの形相に代わっていた。
「あの、クソ隊長が!悪いがケイユ殿、野暮用が出来たので片づけてくる。後で異端の処分法について語ろうではないか!」
「うむ、楽しみにしているよ。」
メンヌヴィルが部下たちを連れて立ち去っていく。
ケイユは教会の中に生き残りがいないか確認のために残り、兵たちに火が落ち着いてから死体をナイフや短剣でついて回らせた。
と言ってもメンヌヴィルの白炎は見事であったから生き残りはいないだろう。
周囲の家々には、生き残りはいない皆魔法で焼死体になっている。
後の処理は部下や、魔法研究所実験小隊に任せて自分は村から徴収した椅子に座ってロマリアへの報告書を書き始めていた。
実験小隊の隊員たちが何やら慌てて戻ってきた。
酷く混乱しているようだった。
「班長がやられた。」「隊長がガキ連れて逃げだした。」「裏切りだ!」
だの言っているのが聞こえた。
ケイユが近寄っていくと、苦しそうにうめくメンヌヴィル。その目には包帯がまかれている。
他にも、彼の部下や他の隊員が死傷もしくは重軽傷を追っていた。予定外の事が起こったことを理解したケイユは実験小隊の隊員に掴みかかる。
「おい!何があった!詳細を報告しろ!」
ケイユの声に、一瞬だけ慄いた隊員はすぐに答える。
「隊長が裏切った!異端のガキ連れて逃げやがった!それでメンヌヴィル班長を!」
報告になっていなかったが、事態は理解した。
ケイユは途端に怒りが込み上げてきた。
ガキ一人のために、部下を殺して逃げるだと!?ガキ一人のためにか!?それも異端の!?
「こ、この!!国家の統制を乱すクソッタレが!!追え!追え!殺せ!!アインザッツグルッペ!!山狩りだ!!ガキ共々奴の生皮剥いで、キューベルで引き摺り廻してやる!!」
ケイユ率いるアインザッツグルッペは実験小隊の小隊長が逃げたとされる山に追跡部隊を編成して、追いかける。
山の各所で炎の魔法と銃声とクロスボウの矢が撃ち合われる。
半日以上の山狩りで、明け方と言うこともあり難航していた。
そして、夜明け直前になって裏切り者と異端者のガキが洞窟に逃げ込んだことが分かった。
兵たちが、洞穴の中まで追い込んだらしい。
「よぉし!!異端者め!不穏分子め!この私自ら引導を渡してやる!」
「少佐、危険では?」
副官の言葉に対して、少しばかり鼻で笑う。
「私の二つ名を忘れたか。毒霧のケイユだぞ?私の毒霧の魔法ツィクロンで苦しませて死なせてやる。」
ケイユは洞穴の前で魔法を唱える。
毒の霧が洞穴に流れ込む。ニヤニヤと愉悦の表情を浮かべてその様子を眺める。
しかし、なぜか洞穴から苦しむ声、声そのものが全く聞こえない。
おかしい、どういうことだ。
以上に気が付いたケイユは毒霧の魔法を止めて、慌てて浄化魔法を掛けまくる。
「クソッ!!」
他の兵にも手伝わせて浄化する。
兵士たちが、洞穴の中を探すが、もぬけの殻。
「いません!洞穴はさらに奥につながっているようです。」
「逃げられたか。」
この事件は記録には残さず。知っているのは当事者のみであった。
ダングルテールの虐殺を期に、新教徒狩りはひとまず落ち着きを見せる。
司法局の暖炉では、ダングルテールの資料がくべられパチパチと薪と一緒に燃え上がっていく。
マリー・ド・ルクセンシュタインは執務机の別の書類に目を向け、ミュラーは彼女と近日中の予定を聞いて、自宅への晩餐の招待を受けて軽い足取りで司法局を後にする。
すでにダングルテールなど無かったかのような扱いであった。
都市計画は佳境に入り、この公城も新しく立て直すことに・・・。
「お迎えに、上がりました。ヘルツォーギン。」
ちょっとした装飾のなされたフォルクスワーゲンが、止められている。
トリエルがフォルクスの扉を開ける。車内でアドルフが先に乗って待っていました。
「フィアリア、城の建て替えの間は最高級宿水晶邸を貸し切りにしておいたよ。」
「ありがとう、アドルフ。」
リヒテンブルク公国の公都は、ここ数十年で大きく様変わりした。
時代遅れの家屋や建造物は軒並み建て替えられ、アドルフの以前いた世界の建築家アルベルト・シュペーアなる人物が書き残した資料を基に作り上げられた。
偉大な新古典派の新しい姿の公都。私の城も、大きく作り変え変えられライヒス・ハレ・シュロムとして建て替えられるそうです。財務局、軍務局、内務局他のすべての役所も巨大な建築物に建て変えられるとか。いくつかはもう完成していましたね。
外の様子を眺めていたアドルフが、不意に声をかけてくる。
「フィアリア嬢、戦争だ。大きい戦争が起こる。」
「戦争・・・、また・・・。」
私は特に何も考えないままに声に出す。その姿が他人には憂いているように見えるのだと、アドルフは言っていた。
「そうだ、今回は比較的大きそうだ。ゲルマニア、トリステイン、アルビオンの参戦は確定。ロマリアは国境線に出て来るみたいだ。偶発的な小競り合いは、あるだろう。」
「あら?ガリアは出ないのかしら?」
アドルフの手が私の髪をなでる。
「ガリアは、後継ぎ問題だ。外にかまける余裕はない様だ。」
「ガリアの次代は結局誰なの?」
私の疑問に、アドルフはほんの少しだけ思考した様で一瞬、極一瞬動きが止まった。
「おそらくは長男だろう。魔法以外の才はあっちが上だろう。恐らく、暗殺だなんだで国が乱れるだろう。」
「内戦になるのかしら?」
「そこまでは、まだわからんよ。」
「私たちは、どう動くの?」
アドルフは、軽く笑って答えた。
「今回は見送る。静観するつもりだ。」
「あら。」
「でも、もうじきだよ。もうすぐ、我々も動くべき大きなものが来るはずだ。」
「そう、もうすぐなのね。」
そう、もうすぐ私たちの世界が来るのね。
この30年近く、私達フェアリルはアーリアと結びつき力を付け続けた。
もうすぐ、もうすぐなのね。
「あぁ、そうだ。」
石畳で舗装された道路の上を走るワーゲン。
アドルフの持っていたシュペーア計画書の半分の規模なのだそうだ。
この倍の都市計画を実行しようとしていた。彼の国はどれほどの物だったのか。
これほどの街は、きっとここ以外ないはず。ガリアの首都リュティスでも、ゲルマニアのボンドヴィナでも、ロマリアでもこれほどの街ではなないはず。
「フィアリア嬢、フェアリルとアリーアの時代が来るよ。」
「えぇ、そうね。」
彼らが気が付いた時には、私達は強大な存在となって返り咲くの。
新たな世界の王として・・・。