ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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10話 公主公務

公主専用車のフォルクスワーゲンと内務局のフォルクスワーゲン、それに護衛の妖犬騎兵

が、国営企業の前に止まり、国営企業の総裁の妖精と幹部階級の妖精とホブゴブリンが整列して出迎える。

 

私は、護衛責任者の近衛長官トリエルの手を取りワーゲンから降りる。

 

「公主様、お手を。」

「ありがとう、トリエル。」

 

隣の内務局のワーゲンから同様に、メアリー・パール内務卿が下りて来て声をかけてくる。

 

「ハイル!」

 

私は軽く手を上げて応じる。

 

「公主様、こちらがリヒテンブルク織物製造有限会社になります。彼が経営責任者のツァイス・ポールです。」

「ハイル!ヘルツォーギン!お会いできて光栄です!公主様!」

 

メアリーの紹介で、視線を向けると経営責任者の妖精の少年が敬礼をしてきたので、メアリーにしたように軽く手を上げて返礼する。

 

リヒテンブルク公国の政治にナチスが入ったことで、内政軍事と各方面で改革が進んだ。

土と血の法により、国家の精密な管理統括下に入った集団農場は国内から飢餓を一掃し、新たに繊維産業の隆盛させ、新たな産業として花開かせました。

また、周辺諸国が未だに家内制手工業を主体にした問屋制手工業の走りの段階であるのに対し、リクセンブルク公国はすでに工場制手工業に至り、方向性として工場制機械工業を見出している段階であったのです。

 

工場では、数百のホブゴブリンが紡績機を廻して糸を紡いでいた。

 

「現在我が社では、糸車を廃止しこちらの紡績機を採用しております。また、織機の方も現在は手織機を使用しておりますが、風石や水石を用いた自動機械式の物を開発中で完成し次第更新していく予定です。」

「繊維産業は、我が国伝統の鉄鋼業に並ぶ有力産業です。また、我が国の織物は高品質で他国の市場を乗っ取ることも容易でしょう。その証拠にトリステインでは我が国に輸出するための綿花栽培が盛んです。」

 

この頃に至ると、ヒトラー内閣内の勢力図にも変化が出て来ることになります。内務卿メアリー・パールの復権、内務局の権限は縮小の一途を辿りましたが、アドルフの指示で創設され、彼女が最高責任者に就任した内務局下部組織リクセンブルク労働戦線。

母体の内務局を越えた極めて巨大な規模の組織です。飢饉が解消された我が国では繁殖力の高いホブゴブリンを中心に人口が増加しており、その規模は年々増加の一途です。

その組織の中に国家社会主義経営細胞組織・国家社会主義手工業小売業組織が存在し、さらにその下部に歓喜力行団や国家労働奉仕団が組織されています。また、国家労働奉仕団は準軍事組織の側面を持っており、有事には軍に組み込まれるようになっており、労働者の大半が所属しているゆえに国民皆兵制度に近い物でもありました。

 

人口増加に際して、余剰部分で行っていた綿花栽培枠が、食糧生産枠に移る過程で形骸化した宗主国トリステインに、外務卿リップル・ドロップスが綿花の輸出強化を提案。関税などを調整。

当時経済が悪化していたトリステインは、この提案に飛びつき多くの貴族領で綿花栽培が始まりました。

 

「なるほど・・、そうですか。」

 

私は口元に手を当てて、何かを考えるような仕草をしてから落ち着いた様子で答える。

この動きが深謀遠慮を魅せるようでした。

 

次に視察した場所はリヒテンブルク製鉄製造有限会社。

ここでは、石灰石で焼結された鉄鉱石が高炉へ投入される。石炭を蒸し焼きにしたコークスと言う燃料の熱エネルギーは、まるで火系統の魔法のように熱かった。製鉄所のシンボルとも言えるこれらの巨大な溶鉱炉は、ハルケギニアを全土を探しても我が国にしか存在しない。金属を鍛錬して製品を製造する鍛冶屋レベルの物しかないのだから・・・。しいて言うのならば、魔法の補助を加えた反射炉がゲルマニアで試験運用され始めた程度。

 

「そこの高炉から取り出された銑鉄を混銑貨車にて、溶銑のまま製鋼工場まで輸送します!」

 

騒音のために製鉄製造の経営責任者が大声で説明する。

それを聞きながら、混銑車で運ばれて来た銑鉄を追うためにワーゲンで並走する。

製鋼工場では取鍋に移されたあと、内部に耐火レンガを敷き詰めた転炉に装入される。

攪拌作業が終了し、転炉は最初とは反対側に回転して、別の取鍋に完成した溶鋼を排出する。

 

さすがに、熱さで参ってしまいそうです。

トリエルから冷水を貰って、体を冷やす。

 

「すこし、疲れました。休憩をとりたいのですが・・・。」

 

私の発言で、製鉄製造有限会社の視察を切り上げ、鍛造工程と圧延工程の公主視察は中止、内務卿のメアリーに引き継いで、暫し休憩室で休養を取ることにしました。

 

「公主様、明日のリヒテンシュタイン土石製造有限会社への視察は中止しましょうか?」

「いいえ、その必要はありませんよ。」

 

トリエルの言葉に、私は拒否を示します。国主が最前線に出ることは迷惑になることが多いけど、こう言った後方の現場に出て状況を確認したりして士気を挙げることは悪いことではないもの。

 

「それに、土石製造有限会社ではアドルフと合流するのよ。恥ずかしい姿は見せられないわ。」

 

トリエルは「仕方ないですね。」と言わんばかりの溜息をついてから、私の言葉に応じる。

 

「わかりました。ギリギリまでこちらでお休みください。」

 

私は火照る体を覚ますために、紫のプリンセスドレスの止め具を緩める。目の前のテーブルにはガラス製の水差しとアイスペール(氷入れ)、そしてコップが置いてある。

 

少し横になって、体が冷めて楽になる。

頭に乗せられたゴム製の氷嚢はすでに溶けていた。

それをすぐ横に控えていた随行員のメイドに渡して、アイスペールの氷をコップに移し水を注がせる。

 

それを受け取って、立ち上がり窓の方へ眼を向ける。30年前は何もない平野だったこの地に、今やハルケギニア屈指の近代工場が林立している。今、リヒテンブルクは・・・、否、フェアリルは人間を越えた。

胸の中に沸々と湧き上がる愉悦にも似た高揚感。

 

「そう、休んでいる暇はないのよ。」

 

疲れが取れた後、少しばかり暗くなっていたが急ぎワーゲンでライヒス・シュロムへ戻る。

公都リヒテンブルクの中央にある私の宮殿ライヒス・シュロムは、都市計画当初の宮殿一体型国民議会ライヒス・ハレ・シュロムの計画を二つに分けて、それぞれ宮殿のライヒス・シュロムと国民議会フォルクス・ハレに分けられ向かい合って建っている。

 

「あぁ・・・。」

 

宮殿の寝室で、腰を落ち着けた私の声が零れる。

まだ、未完成のはずなのにまるで、神々の住まう神話の世界のように荘厳な公都、この建設途中の都に想いを秘めて私は誓うのです。

私が敬い慕う彼の理想。国家社会主義の楽園を・・・共に築き上げるのだと。

 

 

 

 

翌日、兵器工廠の視察をしていた護国卿のアドルフと合流し、リヒテンブルク土石製造有限会社への視察に向かう。

公主専用車と護国卿専用車、内務局の車両と護衛の車両と騎兵。

 

土石製造有限会社では、公都改造計画の土台である新しい建築素材ポラルドセメントの製造工程の説明を受ける。

前回同様に各工程の様子の説明を受け、土石製造有限会社の視察は終了した。

 

昼食を挟み、午後からは国家社会主義公共福祉団の児童施設「母と子の家」の視察が行われた。

 

アドルフの肝いりで組織された国家社会主義公共福祉団は経済的に貧困な家庭を援助したり、また腐敗が進むロマリア教会と入れ替わる形で子供を援助し、児童施設を運営した。

また、繁殖力の低いフェアリルと言う種族への救済政策として母子援助活動が行われ、対象の家族への住宅や住宅費用への支援。新しい母親への支援が実施された。

 

「何か困っていることはありませんか?」

 

私は、児童施設の施設長に何か困っていないか尋ね、施設長の妖精が穏やかな口調で答える。

 

「はい、公主様。護国卿閣下の福祉政策のおかげで、この国には飢えに苦しむ子供たちは一人もいなくなりなりました。大変感謝しております。ただ、しいて言うなら子供たちの勉強道具が足りないことでしょうか。」

 

「・・・アドルフ。」

 

私は、アドルフの方に視線を向ける。きっと、子供が何かおもちゃを親にねだるような目をしてたかもしれない。そんな私に彼は軽い笑みを見せ応じる。

 

「うむ、それは問題だ。ただちに、福祉団に全国の施設の子供たちに勉強道具を手配するように指示しよう。」

「それがいいですね。」

 

そんな私達の様子を見て、施設長を始めとした諸君たちは謝意を述べる。

 

「感謝いたします。マイン・ヘルツォーギン、サーユージーン。」

 

その後でフェアリル、アーリア、ホブゴブリンの身寄りのない子供や片親家庭の子供達が、様々なレクリエーションを行い、健全育っていく姿を視察していきました。

レクリエーションの中には私が子供たちに童話の読み聞かせをする物があり、おおむね好評の様でした。

 

そういえば、この流れに乗ってナチス軍政顧問団団長ハインリッヒ・ミュラーと司法卿マリー・ド・ルクセンシュタインはアーリアとフェアリルの純血性を保ちつつ、世界屈指の優生種であるフェアリルとアーリアの交配による究極血統を作り出すための機関、生命の泉教会レーベンスホルンを創設。完璧な世界を作り出す第一歩を踏み出したようです。

 

民族が団結し、こういった苦難を乗り越える姿は国家社会主義のすばらしさを物語っています。なにあともあれ、理想世界は目前に迫っているのでした。

 

大戦まであと・・・、十数年。

 

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