リヒテンブルク軍のアインフェルト高原での大勝利、ライナー領奇襲から始まるオルデッサ強襲制圧。リヒテンブルク公国は、この戦いでの流れを完全につかんでいた。
この時点で、リヒテンブルク公国は公主フィアリアと護国卿アドルフ・ヒトラーの名を持って、ゲルマニア王国と領地を接するベーレン・メーメン領、スラヴィア領、カルパト領の諸侯に対し、ゲルマニア侵攻を指示。
すでに即応状態にあった諸侯指揮下の突撃隊が、各地で越境を開始。各都市で編成されているリクセンブルク義勇軍フライコールも逐次編成され国境へと進軍した。
一方で、サンクセン平野の戦いでトリステイン軍は国王フィリップⅣ世の討ち死によってトリステイン王国は壊乱状態に陥り、ヴァリエール公軍やグラモン伯軍と言った一部の貴族が潰走を防いでいた。
トリステイン王国軍の陣幕では国王戦死と言う絶望的事態によって、会議自体も遅々として進まず明確な対応が出来ずにいた。一部の貴族はすでに勝手に撤退を始めていたり、脱走兵が後を絶たなくなっていた。
そんな中、伝令兵が陣幕に駆け込んでくる。
「リヒテンブルクより使者がお見えです!火急の要件との事!」
「火急の要件か・・・。まぁ、良い。お通ししろ。」
「っは!」
この場の纏め役でもあった、ヴァリエール公爵はリヒテンブルクの使者を通すように指示する。
リヒテンブルク外務局の役人がホブゴブリンの兵卒を伴って入ってくる。
「リヒテンブルク公国公主フィアリア・ド・リヒテンブルク様のお言葉をお伝えします。」
対して期待していなかったヴァリエール公爵らは使者の言葉を聞いて目を見開いた。
「アインフェルト高原での戦いに大勝利。我が軍は北上し貴軍と相対しているゲルマニア王国軍の背後を突く故。これに呼応し、ゲルマニア王を討ち取られたし。」
目に輝きを取り戻したヴァリエール公らはすぐに打合せ軍に指示を出す。
「撤退しようとしている諸侯を引き留めろ!グラモン伯爵!軍務卿の権限で王軍の指揮を執るのだ!諸侯たちにも撤収を中止させ反転攻勢を仕掛けさせるのだ!」
「あぁ!わかった!」
グラモン伯が王軍掌握のために、陣幕をでる。
残されたヴァリエール公は、伝令兵に指示を出す。
「後方のクルデンホルフ大公国軍にも状況を知らせて進出させろ!我が軍も反撃用意だ!」
アインフェルト高原戦いで大勝利した。リヒテンブルク公国軍はターニャ・デグレチャフ准将率いる航空魔導士軍団主力とサラマンダー戦闘団所属の機甲部隊、歩兵部隊をサンクセン平野のゲルマニア王国軍を寸断させるために北上させた。
そして、軍主力7500を率いたフィアリア・ド・リヒテンブルクが姿を現す。
ゲルマニア王国軍の背後を完全についたリクセンブルク軍。
浮足立つ、ゲルマニア軍の様子を確認したヴァリエール公が、全軍に突撃命令を下す。
「陛下の仇を討て!全軍掛かれ!」
背後を突いたリクセンブルク軍でも、公主フィアリアがメイスを突き出す。
「リヒテンブルク軍!前進せよ!」
後装式銃を装備したホブゴブリンが前進しながら銃を撃ち、先行量産品の中折れ式銃やボルトアクション銃を持った兵士もこれに追従する。
「着剣!」
数発ほど敵の背後を撃ち続け、前進しながら銃先に銃剣を装着する。
士官下士官階級の妖精は腰のサーベルを抜き、ゲルマニア軍に駆け足で突き進む。
その間を縫う形で妖犬騎兵が騎兵銃を撃ち、撃ち終えるとサーベルを前に突き出し突撃していく!
「シュトゥルムアングリフ!!」
トリステイン・リヒテンブルク連合軍にかき回されるゲルマニア軍。
その様子を、ノイバウファールツォイク多砲塔戦車の上から見下ろすフィアリアこと私。
ゲルマニアと言う大国を小国リヒテンブルクが飲み込まんとしている。
リヒテンブルクのフェアリルとアーリアの偉大なる第一歩が始まろうとしている。
「アドルフ。」
「デグレチャフ准将が後方の寸断に成功した。」
「ついに、遂にこの日が・・・。」
前線から鬨の声が聞こえた。
ゲルマニア王が討ち取られたのです。
大国ゲルマニアは統治者を失った。雑多な都市国家の集団になり下がった。
「刈り取りの時間ですね。」
「その通りだ。フィアリア嬢、リヒテンブルクの成長の時だ。」
私達は、戦場を見下ろす。
トリステイン王国軍が、ゲルマニア将兵を捕虜にしている。
「伝令!」
私は戦車から飛び降りて、アドルフのいるキューベルの横に立つ。
「た、大変です!公主様!護国卿!停戦命令です!!」
な、なんですって!?どうして!?
「なんだと!!いったいどこの誰が!!そんなふざけとことを!!」
アドルフは顔を赤くして怒鳴りつける。
気圧された様子の伝令兵が告げる。
「ろ、ロマリア連合王国聖ペレドロ3世教皇よりの命令書です。また、ガリア王国からも同様の要請が来ています。」
私は愕然とする。
「ろ、ロマリア教皇・・・。なんで、このタイミングで・・・。」
私は、その場で膝をついた。
伝令兵は消え入りそうな声で、続きを述べる。
「ガリア王国軍が公国国境に集結中。また、ロマリアの指示を受けたと思われるシュヴィーツ契約騎士同盟軍に動員が掛かっているとの事、南部トリアー領にて騎士団が続々と集まっています。」
アドルフはキューベルのボンネットに拳を叩きつけて、怒りを露わにする。
「おのれ!ここまで来て!!クソ坊主共が!!横槍を入れてきやがったな!!ガリアもハイエナのように集りやがって!!無視するか!?いや、いくらなんでもゲルマニア・ロマリア・ガリアを相手に戦うのは無理がある・・・。トリステイン・ゲルマニアと不戦を結んで・・・、ダメだ。あの二国を相手にできるか?アルビオンが参戦するのを防げるのか?そもそもトリステイン王国が不戦を結んでくれるかもわからん。国内の獣人や他の亜人を動員して・・・ダメだ数が足りん。」
アドルフはキューベルのボンネットに広げた地図を睨んで、悩み思案を巡らしている。
彼から教えを受けている私には解る。どうしようもない・・・。
「ぐぅううううう。全軍に停戦を指示、ただしオルデッサは渡さない。落ち着くまで兵力をガリア・ロマリア国境に回してください。」
トリステイン・リヒテンブルク連合とゲルマニア王国の戦いは終戦を迎えた。
ガリア・ロマリアの介入で、不本意な形で。
ロマリア、ガリアより手出し無用となったゲルマニアは都市国家間の乱世突入、最終的にヴィンドボナの領主アルブレヒトⅢ世が5年ほどかけて統一するまで、トリステインもリクセンブルクも手出しできずに時が経った。
トリステインはほとんど負けっぱなしで領地の割譲はなく国王不在が現在まで続き、衰退の一途であったが・・・。一応、賠償金は我が国よりも多く得ていることを付けくわえておく。
私達のリクセンブルクも国力の多くを注いだこの戦争で得たのは割りなわない程度の領土、
当初の予定であったライン領オルデッサ周辺とトランシルダキアと接するモルドダヴィア領と僅かな領地と、相場より安い賠償金だけであった。
護国卿官邸。
「オルデッサ鉱山の採掘に精力を注ぐのだ。」
護国卿官邸では、アドルフ・ヒトラーが各所に指示を飛ばしていた。
執務机には、赤い鉱石が置かれている。
オルデッサ鉱山で採掘される、この赤い鉱石はフレイル鉱石。
今まで、採掘地が発見できず。手持ちの鉱石を混ぜ物することで造っていた。従来の演算宝珠の性能を格段に下回る劣化演算宝珠で誤魔化して作っていたが、これを手に入れたことで、優良な演算宝珠を作ることができる。フレイル鉱石、演算宝珠の中核材料であった。
「各種新兵器の開発計画も滞りなく進めよ。ハルキゲニアを火の海に沈められるだけの戦力を用意するのだ。」
「護国卿、御時間です。」
「ギュンシェ君、ライヒス・シュロムへ向かう。」
「ハイル!ヒトラー!ワーゲンの用意は出来ております。」
オットー・ギュンシェ少佐の用意したワーゲンに乗り込む。
ナチス地下施設。
『死の天使』の異名を持つヨーゼフ・メレンゲ博士が指揮を執る研究開発機関。
広くとられた実験施設では何本もの電極が頭に刺さった竜が何匹も並んでいた。
アストライア・アイシス国民啓蒙卿の言葉を聞いたメレンゲ博士は装置を動かしながら、要望を訴える。
「国民鼓舞のパレードに使えますね。」
「もう少し、時間をいただければ。数を揃えられますぞ。それにとっておきも・・・、あの巨竜が総統の・・・。」
アストライアが、メレンゲの言い間違いに強い視線で非難する。
「失礼、公主様の指揮の下、力を奮う姿は素晴らしいものでしょう。」
「そうね。新設される海軍艦隊と並べたら壮観ね。」
メレンゲと数言話すとアストライアは上層へのエレベータに乗り込み、この場を後にする。
リヒテンブルク国営造船場。
「軍務卿・財務卿!これがリヒテンブルク海軍最初戦艦です!」
新任の海軍長官チキータ・ドールは造船場の前に立ち、自慢げに手を広げて見せる。
「その名を!神々の黄昏、ラグナロク!!」
建築機器や技師たちが動き回る姿が見える。
エリザベス・パブリーナ財務卿、プディング・カスター軍務卿は手を叩いて喜ぶ。
「素晴らしい!国家社会主義の精神が形となったようだ!!」
「これさえあれば、各地を植民地化する事も容易い!」
二人の目の前では巨大な建造物、円盤型の巨大な船の建造が行われていた。
国営兵器工廠。
国営企業の経営責任者のダイム・ラベンツが、視察に来たハインリヒ・ミュラーとマリー・ド・ルクセンシュタインに武器生産状況を説明している。
「ミュラー参謀長、ルクセンシュタイン司法卿。フォルクス・ゲヴェーア国民小銃、フォルクス・ピストル国民拳銃。生産ラインに乗せられました、来月より逐次更新してく流れになるでしょう。」
施設内を歩く二人の横で、妖精達はナチス軍が持ち込んだ戦車群に固定化の魔法を掛けている。IV号戦車、Ⅴ号戦車そしてその亜種戦車が超長期的に使えるように固定化されていく。
「戦車の方も、固定化しています。これらはこの世界における最強の陸上戦力です故。」
ラベンツは作業員の妖精が魔法を掛けている様子を見せる。戦車の横ではナチスの戦車兵がその様子を見守っている。
「大変結構なことだ。他の兵器や機器もちゃんと固定化の魔法を掛けているんだろうね?」
「もちろんです。ナチスの兵器は我々では再現困難なものばかりです。フォルクスシリーズも生産体制を整えて行く予定です。」
「よろしい。」
ラベンツの回答にミュラーは満足そうに応答し、マリーの方に振り返る。
「マリー?司法局の方はどうなんだい?」
「司法局も国内法の整備を進めているわ。劣等因子排除法が懸案にかけられているわ。私達の理想が、もうすぐかなうわ。」
「そうだね。もうすぐだ。」
フォルクスハレ国務卿待機室。
この待合サロンには内務卿メアリー・パール、外務卿リップル・ドロップス、フランシーヌ・エルテ突撃隊指導者の3人はライヒス・シュロムでの重要会議に備えて待機していた。
「軍拡計画が完遂した今。公主様は、遂に動くのでしょうか?」
「外務局として、彼らと交渉する予定はないそうです。むしろ、相手も好ましく思ってないようですので・・・ね。」
「では、アルビオンの反乱はどちらにも肩入れはないということですかね。」
「少なくても、護国卿からは大使館の撤退の指示が来ましたので・・・。」
内務卿と外務卿の二人は先程からずっと、情勢について話し合っていた。
だが、ライヒス・シュロムへ移動する時間も近いので、軍事知識を持つフランシーヌが、二人の会話に落ちを付ける。
「あれの意図を引いているのは、ガリア。勝ち馬に乗るのを良しとするか。それとも・・・。」
ライヒス・シュロム。
私は、宮殿から見える景色を眺める。
ガリアが、糸を引いているこれらの事象は、アドルフの言っていた大戦の始まり。
ギャラルホルンを鳴らしたつもりの愚かなるガリア王ジョゼフよ。
そのラッパは偽物なの、本物は私達が持ってるの・・・。
ガリアでは無能王と呼ばれた男が王位に就き、大鉈を振るい。体制を盤石にした。
そして、この男は大いなる戦乱を招いた。その行為が、異世界の亡霊達を呼び覚ましたのだ。ナチスと言う亡霊を・・・。その亡霊は無垢なる者たちを、どす黒く染め上げ・・・。大いなる意志を歪める大きな力となるのだ。
そして…。
ロマリアの新教皇聖エイジス32世より召し上げられた少年が動き、アルビオンの森の中にある隠れ里ではハーフエルフの少女がこれからも続くと信じた平和を暮らし、トリステインの魔法学校では魔法がすべて爆発する少女が、日々努力を続けていた。
時は経ち4人の虚無の使い手が時代の表舞台に現れる大戦の時代へと突入する。