17話 戦争前夜
護国卿別荘トリアー領オーバルザルツブルク、ベルクホルフ山荘。
先頃、トリステインとの主従関係が消滅し、格上げの意味も込めて大公国を名乗る様になったリヒテンブルク公国。そのトリアー領オーバルザルツブルクにあるヒトラー個人所有の山荘。
旧ナチス親衛隊や大公国関係者の中でも彼が気に入った数少ないものしか招かれない。
ヒトラーの個人的な晩餐会でもあった。
護国卿アドルフ・ヒトラーとリクセンブルク大公フィアリアを上座に対面となり左右の席にずらりと招待客を並べた晩餐方式で、いくつかの小グループになり各々話をして楽しむ形式だ。
「護国卿閣下、アルビオン内乱終結です。アルビオン王党派は滅亡、貴族派の政権が樹立しましたが、閣下は今後どのようにお考えで?」
ハインリヒ・ミュラーに問われたヒトラーは、ゆっくりとそれに答え、地図を眺める。
数十年かけて、旧ナチス親衛隊が作り上げたハルケギニアで最も精巧に作られた地図だ。
「青毛の王様の玩具が、動き出すぞ。手始めにトリステインを攻めるだろうよ。青毛の王様は切れ者でも玩具の方は小心者だ、トリステイン程度なら潰せるだろう。だが、あの新しいゲルマニアや我が国が出れば逆転する程度の無能な指揮官だ。下手をすれば、我々の出る幕すらない。」
「所詮は、人間の平民と言うことですか?」
ヒトラーの秘書官オットー・ギュンシェ少佐であった。ボルマン不在の数十年、彼の代わりにギュンシェ少佐は良くやっている。能力はボルマンに劣るが、あいつと比べては彼がかわいそうと言うものだ。
ヒトラーは軽く笑いながら、
「我々ヴァンピールと違って劣った人間、それもアーリアですらない。無価値な存在である連中故にと言うことは否定しない。この世界の人間は魔法を使える下等種と使えぬカスがいる。アルビオンの頭目はカスだ。魔法を使えるマシな連中を率いていても頭がカスでは全体もカスとなる訳だからな。」
「それに比べて、我々は恵まれていますな!我々のトップはいと尊きリヒテンブルク公主様と世界最高の頭脳を持つ閣下の下で働いているのですから!」
ギュンシェの発言に、ヒトラーは特に表情には出さなかったが注意する。
「ボルマンもおべっかが上手かった。確かに、私は君にボルマンを見習えと言ったことはあったが、そう言った悪いところは真似る必要はない。」
「失礼しました。」
ギュンシェの事は置いておき、ヒトラーはミュラーとその隣に座るマリー・ド・ルクセンシュタインに話しかける。
「そういえば、二人の生命の泉は順調かね?」
「はい、おかげさまで優れた血統を得た子供達が生まれ、すくすくと育っておりますわ。」
「将来は、公国の有望な人材となってくれるでしょう。」
仲良さそうに話す二人にを見てヒトラーは頬を緩める。
「二人の子供も、近々見せてもらえそうだな。」
ミュラーとマリー嬢は、少し顔を赤らめて恥ずかしそうに答える。
「・・・少し恥ずかしいですわ。」
「閣下、妻をからかうのは程ほどにして頂きたいのですが、こう見えて恥ずかしがり屋なのです。」
「二人は、式も席もまだだったな。もう妻呼ばわりとは、気が早いな。」
二人は恥ずかしそうに下を向いてしまった。
「はははははは!良い良い、仲睦まじくて大変結構。式はヴィエンナのシェルブルク宮殿を貸し切ってやる故。」
「感謝いたします。」「ありがとうございます。」
二人の仲は順調のようだな、優良種たるフェアリルとアーリアヴァンピールの血が混じればさらに優れた血が入ってくることだろう。現状知る限り、フェアリル、アーリアヴァンピール、ハルケギニアヴァンピールはこの世界において最優良集団の血統であるだろう。次点くらいに獣人を入れても良いだろうな。あの比較的高い知能を有し、優れた身体能力に精霊魔法も使える事は評価に値する。
ヒトラーは少し離れた席に座る吸血鬼の少女が、少々孤立していることに気が付いた。
この席において新参である吸血鬼少女エルザは、顔見知りも少ないためか会話が弾んでいない様であった。
「エルザ嬢。貴殿に預けたトランシルダキアとマジャルザークのユサールは、どうだね?」
「はい、トランシルダキアとマジャルザークの二つの騎士団の統合は既に済んでおります。」
「貴殿には、そのままユサールの騎士団団長に就任してもらいたい。無論爵位も用意してある。」
ヒトラー直々の出世話に幾人かの賓客達が耳を傾け始める。
「他のもの達も、興味があるか?うむ、この場で話しておこう。所領はトランシルダキア全領、辺境伯にと考えている。」
知識を吸収しやすい子供の脳であったからか、多くの知識を吸収し軍内でも頭角を現している彼女だ。将来を見越して、大盤振る舞いしても良いと思っている。彼女にはハルケギニアヴァンピールの纏め役を担ってほしいとも思っているのだ。
「そういえば、彼女の姓はこのままで良いのですか?村の名であるザビエラでは少々寂しいのでは?」
そう言ってきたのは、ハンス・カムラー技術長官だ。彼には新型艦の設計開発を任せている。
「名か・・・。確かに必要だな・・・、騎士団もユサールと言うのは捻りがないか。では、こうしよう。騎士団の名も、新たな姓も我が以前の世界において、私の信頼のおける友人と同じものを与えよう。騎士団の名は鉄衛団、姓はアントネスクを名乗るといい。」
「ほう、場所的にも適切でありますな。」
ハンスの隣に座るメレンゲ博士もしきりに関心していた。
甘い口当たりの貴腐ワインを飲みながら、ヒトラーらはほろ酔いで語り合い暫し、晩餐を楽しんでいた。
伝令兵が、オットー・ギュンシェに耳元で報告を告げる。それを聞いたギュンシェは早足でヒトラーに歩み寄り報告する。
「アルビオン賊軍、トリステイン王国に宣戦布告。アルビオン賊軍はタルブ領を制圧した様です。」
「始まったな。念のため公都の守り、高射砲塔の指揮官に警戒するように伝えておくのだ。よろしいか?フィアリア嬢。」
ヒトラーに確認を取られたフィアリアは、ゆっくりと「そう・・・ね。」と答えて応じた。
それを確認したオットーが、指示を伝えるために部屋を出ていった。
軍務卿プディング・カスターがヒトラーに尋ねる。
「我らがリクセンブルク大公国は、トリステインへ加勢ですか?それとも背後からトリステインを襲いますか?それとも、ゲルマニア再侵攻ですか?」
ヒトラーは手を振って否定して答える。
「ゲルマニア再侵攻は魅力的ではあるが、あまり独走するのは良くない。国際協調は必要だ。ブリミルの王権を倒した国家をロマリアは認めまい。世界の流れはアルビオン賊軍を倒す流れとなろう。他の国全てから叩かれるアルビオンは植民地になり下がるだろう。飛び地ゆえ旨味は少ないが、資源地を割譲させるくらいはさせたいところだ。」
ヒトラーは声のトーンを切り替えて、大きめの声で話し始める。
「トリステインがとるべき手はいくつかある。一つは自力で何とかする事、無理だ。二つ目、ゲルマニアを頼る。恐らく条件は始祖の血統アンリエッタの婚姻だろうな。実際、式の日取りは近いようだしな。そして、三つ、我が国を頼る。実はこれが一番成功率が高いのだが、トリステインが是としないだろうな。これ以上我が国の勢力拡大を望むまい。」
「では、静観されるのですか?」
ミュラーの問いにヒトラーは、即座に否定して返す。
「参戦はする。それが、トリステインに追従するのか。単独で宣戦布告するか。あるいは、ガリアの動きに乗じるかの違いだけだ。」
ヒトラーは、ギュンシェが置いて行った報告書に目を通す。
「トリステインはアンリエッタ姫御自ら出陣か。奇襲であったからな、トリステイン負けるやもしれんな。公都のモーンケ親衛隊中将に大本営の設営を命じておくか。」
ヒトラーが、色々と思考を巡らせているとギュンシェが慌ただしく戻ってきた。
「急報です。トリステイン大勝利!アルビオン賊軍の侵攻軍は壊滅です。」
「む、流れが変わったな。・・・諸君!参戦だ!軍部は軍を編成したたまえ!ドロップス外務卿、ガリアの動向を掴んできてくれ!さて、予想とだいぶ違うが、戦に予定外、想定外はつきものだ。フィアリア嬢、私に任せてくれれば問題ない。よいかね?」
「はい、アドルフ。」