お城の客室でアドルフさんと、お話をする。
彼との会話は、非常に有意義なものに思えました。
彼自身、私の言いたいことを言いやすく誘導するのが非常に上手い。
彼の話術は非常に優れている。耳に心地よいものを感じる。
「フィアリア嬢。お困りの様ですね。貴国に巣食う横暴な人間たちはどう思う。」
「行商人や旅人たちは、問題ないのです。」
「もちろん、そう言った一個人に追求するものはない。もっと大きな存在に関してだ。」
アドルフの言葉が心に刺さる。
私は彼に促されるままに、思いのたけを吐き出す。
「ロマリア、ガリア、ゲルマニア、アルビオン・・・大国の商人達が大国の大貴族の威を借りて私達の国の富を奪っていくの・・・。同盟国も例外じゃない。国境線上に兵を出して国境線を押してくる・・・。」
「その通りだな。聞くところによると、貴国含め周辺の独立諸侯の大半は近々大国の代官が到着し自治が形骸化すると聞いた。大国の代官とやらは貴国に利益をもたらすのかね?国民の生活を守るのかね?」
「いいえ。」
彼の言っていることはもっとなのです。
私は、何も言い返せずに頭を重く下に俯く。
まるで彼と言う人間の姿を借りて、民から叱責を受けているかのような気持ちだ。
とても、辛く惨めだ。
そして、彼は私にやさしい言葉をかける。
「だが、今、私が貴女と会話した限り。私が貴女に抱いた貴女像はとても賢明でまっすぐに思える。平和な時代であればあなたは間違いなく名君と称えられる家の人物だ。」
「あ、ありがとうございます?」
急に称賛の言葉をもらい。戸惑いながらも私は彼に礼を述べた。
「うむ、素直なところも美徳と言えよう。今日は貴女と言う人物の良さを多く知ることが出来た。これは大きな収穫と言えよう。」
彼は、しばらくの間沈黙する。
私は彼の次の言葉を聞きたくて待っている。
否定の言葉なら悲しく思うと思し、褒めてくれるなら純粋にうれしく思うのでしょう。
ですが、彼の言葉はそのどちらでもなかった。
「私は、思うのです。貴女に足りないのは踏み出す勇気なのではないかと?そして、これは提案なのだが、もし貴女が否と思わないのであれば。貴女に協力しようかとも思っている。」
そう、私が心の奥底で求めていた。救いの言葉であった。
なんと言う、なんと言う神々しさ、並の人間ではない。私の心を癒すような優しい言葉。
「あぁ、あなたは大いなる神が遣わされた存在なのですか?」
思わず、膝をついて拝みそうになってしまう。
すると彼は、私の手を引っ張り上げて私に言ったのです。
「人の上に立つものが、易々と他人に膝をついてはけない。君と言う存在は国そのもの、国がそれ以外に膝を屈することはいけない。」
私は彼に引き起こされて椅子に座らされる。
ドアをノックする音が聞こえる。
「陛下、野盗が領内で暴れまわっております。直ちに討伐隊の編成を!」
家臣の訴えを聞いた私は、討伐隊の編成の指示を出そうと口を開こうとしたが、それより先に彼が口を開いた。
「ふむ、女王陛下。よろしければ、賊の相手は我が精鋭にお任せしてもらってもよろしいか?貴国の傘下に入ると言うことで、貴国の軍人たちの信頼も得たいと言うものだよ。良いかね?」
「もちろんです。」
アドルフ・ヒトラーはフィアリア・ド・リヒテンブルク女公の信頼を勝ち得て公国中枢へと、食い込んで見せた。
そして、女公の信頼のみならず公国の臣下たちの信頼を得るために、共にこの世界に渡って来たナチスドイツ軍に出撃命令を出す。
ドイツ軍はフィアリアの好意で城の空き部屋での滞在が許されていた。
さらに、ヒトラー個人へと宛がわれた個室に、彼は部下を呼び出す。
「デグレチャフ准将、入ります。」
「うむ、ご苦労。」
入室と同時に背筋を伸ばし、手を上に掲げるナチス式敬礼を行う。
彼は、それに手を上げて軽く応じる。
入室して来た士官は白く透き通った肌を持つ金髪碧眼の幼女。
ターニャ・デグレチャフ親衛隊准将。
合理的判断と高い分析能力、そしてエレニウム九五式によって隔絶した戦闘能力、指揮能力を有する愛国者。非常に好ましい人材である。
「准将、我々の現状は理解しているかね。」
「はい、ここが南米ではなく、孤立無援の異世界であると理解しております。公国と友好的な関係を築けたことは、非常に好ましいことであり、我々はこの関係の維持に努めるべきであろうと・・・。」
彼は、彼女の言葉を途中で遮る。
「うむ、それだけ理解できているのなら十分すぎるほどだ。であるならば、貴殿の戦闘団に対いて公国内の賊討伐を命ずる理由は理解できるな。」
「もちろんであります。現在の我々は公個人の優遇あっての立場。公国そのものの信用を得るには、力を示すことが重要と言うことですね。」
彼は、そのことばに頷き言葉を続ける。
「そういうことだ。部隊の運用は貴殿に任さるが、少々の派手さも必要だと言うことは理解したまえ。」
「ハイルッ・ヒトラー!」
本来ならユーゲント所属でもおかしくないローティーンの幼女(少女)。
しかし、能力は並の将校を軽く凌駕する。否、帝国指折りの有能な将校だ。
大戦終盤の時期にゼートゥーアから召し上げて親衛隊所属にしたのは正解と言えた。
彼女の容姿は幼女と言うだけあって、厳つい他の軍人たちに比べて妖精達の受けが良い。
リヒテンブルク公国とナチス第三帝国を繋ぐ外交的にも重要な役割を買ってもらうことになるであろう。
ヒトラーは指令所を受け取り退室したターニャが、すでに建物の外に出て待機している兵たちの前で訓示を述べている様子が窓から見えた。
すると再びノックの音がした。
「ミュラーか、入れ。」
ミュラーも先ほどのターニャ同様にナチス式敬礼を行い。ヒトラーも先ほどと同様に応じる。
ハインリヒ・ミュラー親衛隊大将。元は秘密国家警察長官だったこの男は、南米脱出時には親衛隊全国指導者・国家保安部長官へと大抜擢された。
「ミュラー、成果の方はどうだね?」
ヒトラーに問われたミュラーは報告する。
「この地域では、1年ほど前に大規模な戦争があったようで、戦勝国敗戦国共に荒廃したそうです。戦勝盟主国の国王は戦傷の深さから政務が滞り、敗戦国の大国は政変で国王が変わり終戦こそ迎えましたが、賠償請求はうやむや。戦勝諸国も不況に陥り、情勢不安。山賊化した兵士に占領された国もあるようです。このリヒテンブルク公国は鉱山資源の産出国で比較的マシなのですが、大国に輸出レートをいいようにされて不況に陥っており、治安もあまり良くないです。」
ヒトラーは物思いにふけって、窓の方を見る。
まるで、第一次世界大戦後のドイツに似ているところがあると、昔の事を思い出しながら、このリヒテンブルク公国の現状と重ねて考える。
幸いにして、仮にも戦勝国。
そして、昔と違いこの国の国主であるフィアリア女公主の全面的な支持を受けている。
あの時と同様に外圧を受けている。
やりようはある。状況はナチ党の時に比べ、余裕がある。
内側の問題は、フィアリア嬢を通じて統制すればどうにかなる。
問題は外圧、諸外国。異世界の技術力は中世並、軍の兵力を持ってすれば・・・。
「ミュラー、ツキはこちらにある。」
「閣下・・・。手持ちの兵力の総勢は海軍の人員を足しても旅団未満と言ったところです。いささか少なく思います。」
不安げな表情をするミュラーにヒトラーは口角を歪め、嗤う。
「さて、私も公国軍に同行せねばならん。戦果を得ても、それをうまく利用する事が出来なくては意味がないのだよ。」
彼は流れ着いた異世界で、野望を胸に暗い炎を灯していた。