ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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19話 バトル・オブ・アルビオン 前編

ダーヴァー海峡。

アルビオン浮遊大陸とハルケギニア大陸を隔てるア・ランシュ海峡の最狭部である。

 

連合軍盟主国トリステイン王国国王アンリエッタは、連合各国と足並みをそろえてア・ランシュ海峡へと兵を進める。

 

トリステイン王国、帝政ゲルマニア、オクセンシェルナ大公国、クルデンホルフ大公国を主力とした連合軍第一集団はア・ランシュ海峡の最狭部ダーヴァー海峡にて、アルビオン軍と接敵。

連合軍第一集団、一等戦列艦1隻、二等戦列艦3隻、三等戦列艦10隻、四等戦列艦16隻、五等フリゲイト8隻、六等フリゲイト6隻、竜母艦2隻。

アルビオン主力艦隊

一等戦列艦2隻、二等戦列艦4隻、三等戦列艦12隻、四等戦列艦20隻、五等・六等フリゲイト艦数不明。

 

両軍の艦から繰り返し打ち出される砲弾は、双方の艦をすり減らした。

両軍の艦の合間を縫って、両軍の竜騎士や幻獣騎士が各所で白兵戦や銃撃戦、魔法戦が行われていた。

 

陸軍の竜騎士団の支援を受けたアルビオンの航空艦隊は、疲弊したとは言え空軍強国の意地を見せ、連合軍航空艦隊と一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 

そして、ダーヴァー海峡で連合軍第一集団が激しく争っていた時。

リヒテンブルク大公国とトランシルダキア辺境伯国を中心とした連合軍第二集団は、北部エアルラントを襲撃した。

上陸部隊の主力はトランシルダキア軍とリヒテンブルク獣人部隊。

トランシルダキア辺境伯国、リヒテンブルク大公国によって擁立された先住及び人工双方ハルケギニアヴァンピールの国家であり、最初にリヒテンブルク大公国に合流した。ハルケギニアヴァンピールのエルザ・アントネスク、旧姓ザビエラをトランシルダキア辺境伯として擁立した傀儡国家であった。この傀儡国家は吸血鬼化したユサール騎兵の騎士団を保有しており、これを鉄衛団と呼んだ。

そして、リヒテンブルク大公国の生命の泉計画において優良種に分類されている妖精・吸血鬼そして、3番目の種族にあたるのが獣人であった。獣人の優遇政策を施行以後、各地より獣人の難民が押し寄せた。しかし、彼らもすぐにリクセンブルクに地盤を築ける訳ではなく多くは軍の門を叩いた。軍と言う厳しい環境に置かれたいる彼らではあるが、他国と違い出世の道は均等にあり、軍人保障も握りつぶされるようなことのない待遇は、彼らにとって忠誠を捧げるにふさわしい存在であった。

 

連合軍第二集団は、北部エアルラント外苑地域に上陸した。

そして、ノースタウンより上陸したトランシルダキア軍。

 

全軍の吸血鬼化を成し遂げた鉄衛団は、その圧倒的な力を持ってノースタウンの部隊を一蹴。エルザ・アントネスク辺境伯は前線に立ち兵達を鼓舞する。

 

「行け!鉄衛団の精鋭達よ!人の血を啜り、肉を食らうことこそ!我ら妖魔の本分よ!!」

「「「「「おぉおおおおおお!!!」」」」

 

エルザの左右に控える旗手が、十字を三つ重ねた大天使ミカエル十字を描いたトランシルダキア辺境伯旗を掲げる。

 

「見よ!諸君らの晩餐がベルトファスに集っているわ!」

 

エルザは自身が殺した敵兵の心臓を掲げ握りつぶす。心臓から滴る血は彼女の顔を赤く染める。

 

「武器を持つ人間は、老若男女全て敵よ!殺して殺して殺しまくってしまいなさい!!あの石畳を奴らの血で赤く塗装してあげなさい!!」

 

 

そして、もう一つの軍集団。その集団はリクセンブルク軍の獣人部隊であった。

彼らの旗手はアームの終端が矢の形状をした十字、クロスバーディ、矢十字の描かれた旗を掲げていた。

 

「後れを取るな!敵陣を突き崩せ!!」

 

連合軍第二軍団は北エアルラント領都ベルトファスに迫った。

指揮官の号令で、獣人兵が背負っていたパンツァーファウストを下ろし構える。

 

「狙え!…撃てぇ!!」

 

発射されたパンツァーファウストは薄っすら白煙を引きながら、直進してベルトファスの外壁に突き当たる。ベルトファスの外壁は、戦車の装甲を破るパンツァーファウストに対して有効な守りではなかった。2発、多くても3発撃ちこめば、外壁は壁の機能を失い瓦礫の山と言う石ころの集まったものへと変わった。

 

「今だ!行けぇえええええ!!!!」

 

翼人の指揮官が号令を叫んだ。

祖国解放と復讐戦に燃える翼人たちは、獣人部隊やトランシルダキア軍の背後でリクセンブルクから提供された我が国では旧式扱いの後装式銃を撃ち援護を続けていたが、形勢が変わり全軍突撃命令を受けて銃剣もしくは剣や槍に持ち変えて一気に突入していく。

 

上陸軍の司令官でもあるエルザは部下に、第二集団司令部にエアルラント解放戦の終了を伝える旨の電文を打たせる。

 

「我、エアルラント解放に成功す。エアルラントより歓待の意を受ける。」

 

解放されたエアルラントは翼人達が街の中央道で花を撒き、参加国の国旗を振って歓迎の意を示した。

 

結果、北部エアルラントのアルビオン軍守備隊を一蹴。連合軍第二集団はエアルラント解放を成し遂げたのであった。

 

 

 

その日の夜、第二集団司令官プディング・カスターと副司令官ヴィルヘルム・モーンケはエアルラント国王リシュオン・ド・エアル他閣僚と会談。

 

リシュオン国王は、連合軍に参加を表明。

エアル軍の翼人兵3000が連合軍第二集団に加わった。

 

 

第二集団はエアル浮遊大陸のタブリン港、ホーリーレアリー港にて補給を受け出港。

リクセンブルク大公国海軍一等戦列艦グナイゼナウを旗艦とし、トランシルダキア辺境伯国軍海軍、エアルラント王国海軍のフネを加えた連合艦隊はアルビオン浮遊大陸北部へ向けて進軍を開始した。

一方のアルビオン革命政府は、エアルラント陥落の報を受けて北部諸侯に対して対処を命令。アルビオン北方艦隊とストッコラント大公らを中心とする大貴族の保有するフネを糾合した臨時艦隊を編成しエアルラント方面へと派遣したのであった。

 

連合軍第二集団の艦隊とアルビオン北部臨時艦隊は、エアリッシュ海にて激突する。

アルビオン戦争における二大海戦の一つエアリッシュ海海戦であった。無論もう一つはダーヴァー海峡の戦いである。

 

アルビオン海軍の最精鋭レキシントン他を先のタルブ侵攻で失くしているアルビオン海軍であったが、最強海軍の予備兵力は他国の常備艦隊と同等の練度を持っていた。

 

最精鋭を失ったとは言え、アルビオン海軍は十分強い存在であり連合軍の苦戦は免れないものであった。

 

エアリッシュ海ではリクセンブルク大公国、トランシルダキア辺境伯国、エアルラント王国軍の連合軍がアルビオン北部臨時艦隊と相対する。

連合軍第二集団、二等戦列艦3隻、三等戦列艦6隻、四等戦列艦9隻、五等フリゲイト3隻、六等フリゲイト2隻、飛行船型補助艦艇4隻。

アルビオン北部臨時艦隊、二等戦列艦2隻、三等戦列艦8隻、四等戦列艦8隻、五等フリゲイト10隻、六等フリゲイト7隻、武装民間船8隻。

 

すでに、双方の接近を察知していた両軍は周囲に竜騎兵、幻獣騎兵、航空魔導士、翼人兵が展開し突撃命令を待つばかりの状態であった。

 

グナイゼナウの艦橋で海軍司令長官チキータ・ドールの持つ双眼鏡が、敵艦隊を睨む。

 

「第二〇三魔導大隊、前列へ。」

 

副官の状況報告の言葉が聞こえた。

チキータはこれには特に返事をせず、呟く。

 

「これは・・・、流石ですね。」

 

彼女の視線の先では、大公国航空魔導軍団軍団長ターニャ・デグレチャフ准将の演説が始まっていた。

 

「諸君!我らの頭上喧しく騒ぎ立てるアルビオンを地面にたたき落す時が来た!エアル同志諸君!諸君らの郷土を取り返す時が来た!ゲルマニアとの戦争の時から連勝無敗の我らが大公国!!高度な空戦知識を持つエアルラント!!そして、優良種ヴァンピールの新進気鋭たるトランシルダキア!!それら3つを合わせた存在とはなんだ!?・・・そう、最強である!!その最強である我らは、悪しきアルビオン賊軍を討たんとする!!これは裁きである!!偉大なる存在に盾を突いたアルビオンへの裁きなのである!!そして裁きを与える我らこそが選ばれた審判者!!我らは審判者として奴らを裁く!!」

 

ターニャら第二〇三魔導大隊の隊員たちが敵艦隊に銃口を向ける。

 

「貫通術式!爆裂術式!用意!!狙え!!撃て!!!」

 

第二〇三魔導大隊の撃った弾丸が敵艦奥深くに突き刺さり爆発した。

 

「敵二等戦列艦、撃沈確認!」「よろしい。」

 

副官のセレヴリャコーフ大尉の報告にて戦果を確認したターニャは、再び自軍の方に振り返る。

 

「この場の連合軍将兵諸君!!これは聖戦である!!我に続け!!」

 

「「「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」

 

 


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