ダーヴァー海峡、エアリッシュ海の二つの戦線で勝利を収めた連合軍はアルビオンの南北から上陸を果たした。
チキータ・ドール率いる海軍艦隊が上空から援護射撃を行い、ターニャ・デグレチャフ准将は自身の航空魔道大隊とエアル軍を指揮下に加え、アルビオン陸軍の竜騎士隊と空戦を繰り広げる。
そして、主戦場は空から陸へと変わっていく。
第二集団は、リクセンブルク大公国・トランシルダキア辺境伯国、エアルラント王国の3ヵ国からなる連合軍で、その総数は2万。
その2万の軍はクラウド湾より上陸を果たし、港町ポートパトリシアにて侵攻軍司令部を設置。
第二集団の主力は、ストッコラント最大の都市グラスゴを目指すのであった。
ポートパトリシアの司令部には、軍務卿プディング・カスターを司令官に置き補佐として旧ナチス・ドイツ軍のヴィルヘルム・モーンケ中将を充てたものであった。
地面に敷かれた巨大な地図に軍集団を意味する各種の駒を配置し、状況の変化に即応できる体制を築き上げている。無線や伝令兵の報告をもとに駒を動かしていく。
サラマンダーを模した駒はターニャの航空魔道軍団の駒、これの横においてあるのはエアルラント国旗が描かれている翼人のエアルラント軍の駒。これらはアルビオンの竜騎士団を意味する竜の形を模した駒と向かい合っている。
グラスゴへの街道にはエルザ率いるトランシルダキア辺境伯国軍の駒と幾つかのリクセンブルク大公国陸軍の師団旗が描かれている駒に囲まれて置かれている。グラスゴの所にはアルビオン諸侯軍を意味する貴族を模した駒が置いてあった。
そして、グラスゴよりアルビオン側の街道に敵援軍を意味する駒と、その側面を突く形で配置されている友軍を意味する駒。
オークの駒である。
国を意味する絵柄は藍色の下地に三日月と星。
我々の住むハルケギニアにはない国旗だ。
司令部員の方に視線を向けると、妖精と吸血鬼の士官とそれに交じる少数の獣人士官が時たま駒を動かしたり話し合ったりしている。また、雑役の兵士にゴブリンが忙しそうに動き回っている。
そんな中に一人だけ、オークがいた。
そのオークはモーンケ中将とプディング軍務卿を挟むように並んで立っていた。
そのオークとにかく目立つ格好をしていた。
豚の亜人であるためか太った腹にサッシュを巻いてゆったりとした服装。頭にはターバン巻き、明らかにハルキゲニアの文化圏の服装ではなかった。
どちらと言えば、ロバ・アルカリ・イエの方に在りそうな文化であった。
そのオークの横には通訳であろうか。ミニスカートを履いた妖精士官が控えており、3人の会話の間に入り通訳しているのが解った。
オークの相手はオークに限るのである。同族語を話せる異種族よりは、訛りのキツイ同族の方が信用できると言うものだ。
そもそも、件のオークはオークと呼ぶには語弊がある。
頭の弱いオークが、士官たちの会話についていける訳がない。あまつさえ、将校の横になどいられるはずもないのだ。だが、このオークはそこにいてそれなりの頭脳を持って意思疎通が図れている。そう、彼らはハルキゲニアにはいないはずのハイオークであった。
彼らはエルフの居るサハラの向こう側、ロバ・アルカリ・イエの生物である。
アルビオン各地では、このハイオークに率いられたオーク達がアルビオン軍と交戦を開始。
猛威を振るっていた。
グラスゴの援軍へと向かうエデンバラン伯の前にもそう言った集団が迫っていた。
馬のヒズメを鳴らす音や、兵士の足音が聞こえるだけの街道でから賑やかな音楽が聞こえてくる。弦楽器や打楽器を鳴らしながら2方の側面からエデンバラン伯の軍の頭を押さえる形で、布陣している。
先頭のやけに目立つ格好のオーク達に目が行くが、背後のオーク達も木を切り出して作ったのであろうか。タワーシールドを並べて隊列を組んでいる。
「オークが隊列を組んでいる!?」
低能なオークが隊列を組むと言う行為に、いささかの驚きを見せるエデンバラン伯。
前と上部に盾を並べて、前進してくる。
ターバンとサッシュを巻いたオークが腕を前に振り前進を指示、同じくターバンとサッシュを巻き各種楽器を奏でるオーク。異文化を主張する音楽が管楽器や打楽器、体鳴楽器に乗せて流れてくる。
弓と銃射撃、アルビオン側からは魔法攻撃も加わる。
防火性のある樹脂の塗られた木の大盾は、完全ではないもののアルビオンの火の魔法の効果を落とし、致命傷を与えられずにいる。
「フゴォオオオオオオオオオオオオ!!」
指揮官のハイオークの咆哮を合図にオーク達が走り出し、エデンバラン伯の軍勢に肉薄する。
人間の倍もある巨体がエデンバラン伯軍の前衛を、文字通り突き飛ばす。オークの棍棒や斧がエデンバラン伯の農民兵を死体に変える。魔法使いと言う強力な兵は要るが、複数対1で囲まれては手も足も出ないと言うものであった。
十数分もしないうちにエデンバラン伯軍は壊乱、グラスゴへの援軍は無くなった。
この様な戦いを経て、オーク達は連合軍第二集団のリクセンブルク大公国へ合流していく。
アルビオン北部ストッコラントは燃え広がる火のように第二集団に飲み込まれていった。
エアリッシュ海での戦いは正面切っての衝突であったのに対して、ダーヴァー海峡の戦いは、敵主力とは言え古参のアルビオン海軍を欠いた状態での戦いでもあった。
古参の陸海軍は、ロサイスに最初展開していたのだがダータルネスにて幻影を用いた陽動作戦が実施され、ロサイスの精鋭がそちらへ向かったことによって得た勝利でもあった。
二線級の敵を退けたトリステイン・ゲルマニアを中心とする連合第一集団はロサイスへ上陸を果たす。ロサイスはアルビオンの首都ロンディニウムの南方300リーグに位置していた。
連合軍第二集団は、アイリッシュ海の制空権を確保するとダグラス浮遊島と北部港町を橋頭保としてポートパトリシアへ上陸し、リクセンブルクとトランシルダキア、エアルラントの軍はその精強なる陸兵力にものを言わせ北部主要貴族の領地へとなだれ込んでいった。
そんな、第二集団とは打って変わり第一集団の方はアルビオンの反撃を警戒して、ロサイスを中心とした円陣を築いた。しかし、反撃はなくアルビオンは防戦の構えを見せていた。
ハルキゲニア最大の国家ガリア王国。その人口は1500万人。
魔法先進国のガリアはメイジが多く、自然と貴族も多い。
首都リュティスはハルキゲニア最大の都市。リクセンブルク大公国の拡大を続ける首都もまだこの規模には至っていない。シレ川と言う川沿いに旧市街と言う中心街を中心に発達していった。官庁街は中心街から外れた西側にあり、巨大な宮殿ヴェルサイテイルが今の中心であった。
大規模なインフラプロジェクトや工業団地や軍事施設に及ぶような実用的な、ナチス式建築様式のライヒス・シュロムとは違い、いかにも無駄を好む中世貴族の贅を尽くした。様々な様式の庭園が日々拡大を続けている。無計画にあらゆる文化を取り入れ成長を続けている。国家社会主義の理想と対立するような無駄の塊であった。
そんなヴェルサイテイル宮殿の中、一際大きくな建物があった。ガリア王家の一族は、珍しい色に因んで、王城グラン・トロワは青いレンガで造られていた。
そこに暮らすガリア王ジョゼフは、青毛の美丈夫が興じている遊びは、軍人が見ればすぐわかる差し渡り10メイルの箱庭はハルキゲニアの地図を模したリアルなもの。
「艦隊を招集しろ。アルビオンにいる敵を吹き飛ばせ。三日でかたを付けろ。」
「御意。」
大臣は頭を下げて退出した。
モリエール夫人はがたがたと肩を震わせ始めた。箱庭遊びではない、本物の戦の命令が下されたのだ。
「どうした?夫人?寒いのか?小姓、夫人を別室で休ませてやれ。暖炉に薪をくべて暖かくしてやれ。夫人が震えている。」
「かしこまりました。」
小姓に支えられて、出ていくモリエール夫人を見送ったジョゼフは再び駒を動かし始める。
誰もいない部屋の中、ジョゼフは独り言なのか言葉を続ける。
「実は、この箱庭遊び・・・敵も味方も自分一人と言ったが、ちゃんと対局者がいる。実に手ごたえのある指し手たちだ。トリステインのアンリエッタ女王も面白い駒を持っている今後の成長に期待か。それと虚無の関係で小賢しく蠢動さえている目障りな指し手ヴィットーリオ・セレヴァレ。彼はすごいぞ、ロマリア連合王国聖エイジス31世教皇パウロ・パブロが崩御した時。後継者は別の人間だったのだ、私もその時は先代教皇の指名した後継者が継ぐと思っていたのだ。だが、それを逆転したヴィットーリオ・セレヴァレは面白い差してと言えよう。そして、ロマリアの後継者争いに深く食い込んだ他国・・・、リヒテンブルク大公国。31世の時代は、かの国の意見はほぼ素通りと言える程であったのだ。他国の後継者争いに、それも宗教権威の後継者だ。それに、あそこまで深く食い込むのは尋常ではないのだ。そして、大きい都市国家程度の規模であったかの国が余の祖父の代から私に至る5・60年で余のガリア、そしてロマリア、ゲルマニア、アルビオン、トリステインの5大国家に並ぶ国家へと急成長させた。リヒテンブルクの女王フィアリア、そして護国卿アドルフ・ヒトラー。彼らは、余の想像を超える一手を打ち続けている。予想は出来たがゲルマニア侵攻には驚かせられた。エアル参戦などは奇策も奇策だ。奴はアルビオンの件に影に余がいることを察している。でなければ、外務大臣を送り込んで探りを入れたりはせぬだろう。そして、アルビオンに食らいついているオークども。あれは世が完全に把握していない駒だ。」
ジョゼフは控えの間につながるカーテンのある後ろを振り返って、再び声をかける。
「貴様に言っておるのだ。ビダーシャル・・・。」
ジョゼフの言葉が聞こえてかカーテンの影から一人の男が姿を見せる。
とても美しく若々しい外見を持ち、非常に長命な寿命と大いなる存在を感じ神秘に通じた存在。ハルキゲニアの人間たちからは野蛮ともいわれるが、中立的な者あら見れば純粋に美しい容姿の存在エルフ。
そのエルフが立っていた。
そして、リクセンブルク大公国の護国卿官邸の地下施設。大公国軍最高司令部が置かれている。無線通信機や魔法電子式アナログ計算機が動く音が喧しい。参謀階級の高級士官達が情報の整理を行い絶えず地図上の駒を動かし、有線電話機から伝えられる報告を上官に報告する士官達。そんな喧騒の中で、地下上層階の会議室でフィアリアとヒトラー、そして一部を除いた閣僚と重臣たちが円卓を囲んで状況を見守っている。ガラス張りの部分から
戦場地図の動きが見えるので何人かは席を立ち窓辺から見下ろしている。
従卒の兵士が各人の好みに合わせて、コーヒーや紅茶の支度を始める。世話役のメイドたちもケーキや焼き菓子のお茶請けを用意している。
甘いものを好むヒトラーに合わせて、従卒がピーチティを用意する横で、ヒトラーは皇族やその親族に当たるフィアリアやマリーに問いかける。
「フィアリア嬢、オークの伝手は私もあまりよく知らんのだが?どういった関係だったのだ?」
ピーチティの入ったカップを持ち上げ香りを楽しみながら、ゆっくりと飲んでいるヒトラーは世間話でもするようであり、それに応じた二人も同様であった。
二人のカップにはアップルティーとアールグレイがそれぞれ注がれている。マリーの婚約者であるミュラー酸味の強いアルビオン産のコーヒーが注がれている。
「私の叔母、マリーの母の妹がオークの王の初代に嫁いでいるのですよ。5000年前に亡くなりましたが、確か6000年前にエルフと人間がバカやった時に強力して対処したんですよ。」
「そうでしたわね。私達はまだ幼かったから、よく覚えてないけど。あの頃はリクセンブルク大公国も皇国でしたからね。ハルキゲニアの唯一の統一国家リクセンブルク皇国。たしか、あの頃の人間はヴァリヤーグ・・・吸血鬼と戦ってたのよね。」
フィアリアとマリーの会話が脱線し始めたが、どうせ世間話とヒトラーは放っておくことにした。マリーの隣に座るミュラーもそれに倣った。
「あの時、母上が介入しておけば・・・。今の様な憂いをする必要もなかったと言うのに・・・。」
「こればっかりは仕方がないわよ。皇が王同士の揉め事にいちいち気を揉める様な考えがあの頃には無かったわよ。」
「あの頃は大らかだったものね。」
昔を懐かしむような二人。ケーキをフォークで刺してパクリと口に入れる。
完全に世間話の昔話であった。
「あの頃からだったわね。人間が増長して楯突くようになったのよね。魔法の登場は致命的でしたね。生活魔法一辺倒だった私たちは転がり落ちるように転落・・・。」
「エルフはエルフで王政を排して、共和制へ・・・。私達の救援要請をすべて無視、同じ精霊系統のくせに・・・忌々しい連中よ。・・・そういえば他の精霊はどこに言ったのかしらね。」
エルフの話題で顔をゆがめる二人はすぐに話題を変える。
「フェアリルやエルフ以外の精霊族は少数種族ですものね。ラグドリアン湖にウンディネが一人いたわね。そういえば、エントってまだ生きてるのかしら?」
「火竜山脈のふもとの森に生き残りがいたじゃない。近いうちに私たちの勢力圏に移動するそうよ。」
「そうだったわねぇ・・・。あの時に戦乱に巻き込まれて、彼らの女はドライアドの多くは死んでしまったわ。トレントは恨み骨髄よねぇ。」
脱線知ってしばらくして、ミュラーが本筋に話を戻そうと話しかける。
「マリー?オークの事を知りたいんだが・・・。」
「あら、ごめんなさい。彼らの事ですわね。1万年近く、6000年前のことが起きる直前を含む大昔、リクセンブルクが大国だった頃。今でいうロバ・アルカリ・イエのあたりにも大国があったのよ。それがオークの国アナトルア帝国、かの国もネフテスの共和化と東方の人間国家の共和化によって帝政国家であるアナトルアも力を失っていったのよ。私たちと同じ老国家だったのよ。瀕死の老人だった我が国と同様に彼らも一世一代の賭けに出たのよ。」
マリーの言葉に続けてフィアリアも一言述べる。
「私達フェアリルも、オークシアンもエアリッシュもコボルトも皆、かつての栄華を奪った人とエルフを恨んでいるのよ。機会さえあれば、奴らからすべてを奪ってやろうと思っていた。そして、機会が巡ってきた。」
マリー・ド・ルクセンシュタインは遠い目をして天井を仰ぎ、フィアリア・ド・リクセンブルクは沈黙して紅茶に口を付け始めた。
ハルキゲニアの遙か東方ロバ・アルカリ・イエ。
アルビオンの一連の戦いでガリアを第三国として扱うのなら、リクセンブルクに協力士官を送ったかの国は第四国と言ったところであろう。
エルフのネフテス評議国との決戦に敗れた人間たちの国家の衰退は、永い雌伏の時を耐えてきたアナトルア帝国と言う老帝国に復活の機会を与えた。
アナトルア帝国エディルーネ宮殿のバルコニーにおいて、アナトルア帝国皇帝マフマト・ムハンマドは眼前に集う兵士達に演説を奮う。
「勇猛なるアナトルア帝国よ!汝の軍隊は幾度となく、世界にその名を轟かす!汝の軍隊は幾度となく、世界にその名を轟かす!!アナトルアは滅びぬ!!何度でも甦る!!」
アナトルア文化的とも言える詩的な演説を奮うマフマトはナチス文化を取り入れたオーバーな身振り手振りを交えた演説を奮い。自慢の軍楽隊メフテルハーデの奏でる音楽が彼の演説に力強さを与えた。
「アナトルア帝国よ!アナトルア帝国よ!!汝の自由を享受せん!祖国の敵を打ち負かし、忌わしき奴等に絶望を与えん!祖国の敵を打ち負かし、忌わしき奴等に絶望を与えん!!」
旧来のイェニチェリ軍団と共にリクセンブルクより近代化したリクセンブルクの士官を招き、ニザーム・ジェディードと呼ばれる新式武器を、つまるところリクセンブルクの銃火器の輸出を受けて編成された兵たちを加えたアナトルア帝国の軍集団は北進西進を開始し精力の拡大を始めていた。
「野蛮で愚か!憎く忌まわしい人間とエルフに滅びと死を与えん!!」
ハルキゲニアとロバ・アルカリ・イエの中間点、サハラに存在する国家。有名どころはエルフのネフテス評議国。だが、広いサハラには彼らだけが済んでいるわけではない。
ここ、プルトレマイオス朝エイプトラ王国。コボルトが奉じる犬頭の神を祭った独自宗教の総本山である。
柱のあるポーチ、または中庭を取り囲むコロネードで中央に庭園のあるペリスタイルの宮殿。ナブディーン宮殿の庭園、樹木や花々の世話をしながら、国王スネフェル・カフは家臣から報告を受けた。
「そうか、アナトルア帝国は動いたのか・・・。リクセンブルクにヴァリヤーグの子孫たちも・・・遂に・・・。」
スネフェル王は剪定鋏を小姓に預ける。
「あの愚かな毛なし猿どもを、根こそぎ我らの神に捧げよう。フェアリルもエアリッシュもオーキシアンも皆、奴らが嫌いなのだ。利害の一致を見た。」
スネフェル王は軍官僚が用意した命令書にサインをしながら詩を詠んだ。
「古き天、ついに下知る時ぞ来た。東西に響いた懐かしき大号令。」
家臣はスネフェル王に伝える。
「軍を東進させ、アナトルア帝国軍と合流を目指します。リクセンブルクにも使節を送っておきましょうか?」
スネフェル王はニヤリと嗤って答える。
「うむ、そうだな。彼らに誼を通じておけば祭壇に捧げる供物がたくさんもらえるであろうからな。」
モブじゃないオリ勢力が二つ増えました。
次回には、原作主人公たちの事も書きたい。