ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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21話 バトル・オブ・アルビオン 中編

 

連合軍第二集団は、グラスゴやエデンバランと言った北部主要都市を次々と陥落させていった。

連合軍第一集団は、アルビオン南部の大都市サウスゴータを制圧した。大都市を確保し補給線を固めることが出来ると思いきや、アルビオン軍は住民たちから丸々食糧を取り上げており、補給線が些か不安視される事となった。

 

連合軍、特に国家社会主義の精密な統制された経済システムを導入するに至らない二流三流の国家の集まりである第一集団に属する国家は国家社会主義でない大きな二流国家であるガリアやロマリアと言った第三国へ支援を求めていた。

 

 

降臨祭の期間を休戦期間とし、連合軍とアルビオン賊軍との間で休戦が成立した。

 

 

 

 

この休戦期間において、各国の組織が暗躍し、個々人が思い思いの時を過ごしたのであった。

 

老け顔の三十路男、ただの司教に過ぎない痩せ男。

それが、神聖アルビオン共和国皇帝クロムウェルである。

その痩せ男は小刻みに震えあがる。

 

「おおおおおおお!ミス!ミス・シェフィールド!あの方は!あのお方は確実にこの忌まわしい国に兵をよこしてくださるのですか?南の敵軍は何とか抑え込んでおりますが、北の亜人達はこちらの亜人たちを抱き込んで勢力を拡大しつつあります!連中の相手は、残忍極まりない!連中の前線司令官は、始祖の敵たる先住の吸血鬼ですよ!!何故に、トリステインやゲルマニア、そしてリクセンブルクへ攻め込む必要がありましょうか?」

 

そんな、クロムウェルに対してシェフィールドと呼ばれた黒ずくめの女性は、淡白に答える。

 

「ハルキゲニアは一つにまとまる必要があるの。聖地を回復することが、唯一始祖と神の御心に寄り添うことになるの。」

 

「聖地奪還は聖職者の夢であることに違いありません。ですが・・・、荷が重すぎるのです!敵が!北からも南からも!我が国土に!あの無能なアルビオン王のようにわたしを吊るそうと、敵がやってきたのです!どうせすばいいのでしょうか!これが悪夢ではないと言い切ってくだされ。ミス・シェフィールド。」

 

「甘えるな」と小さくつぶやく。

「ひっ」

 

深い、闇の様なブルネットの長い髪がゆれ、その目が妖しい輝きを放っている。

その目に飲み込まれ、クロムウェルはさらに震え出した。

 

「並の神官が味わえぬような、糖蜜の様な甘い夢を見ておいて、今更悪夢は見たくないなどと・・・。それに我が国土?貴様の土地など、この貧乏くさいアルビオンに僅かたりとも存在しないわ」

 

クロムウェルはシェフィールドの足元の床に頭をこすりつけ、シェフィールドの靴を舐め上げた。

 

「お、お許しください・・・、はっ・・・ひぃ…お許しを・・・」

 

クロムウェルはおそるおそる嵌めた指輪。アンドバリの指輪を手渡した。水の秘宝、使者に偽りの命を与える魔法の指輪を・・・。

 

 

 

 

 

 

ストッコラント、旧グラスゴ候領。

連合軍第二集団はオークの軍勢を加え数を増やした。その第二集団も北部の諸侯平定のために兵を割いて北進させた。残りの兵は南下のために前線を押し下げようとしていた。

 

グラスゴに設営された司令部には、司令官プディング・カスター軍務卿、参謀長ヴィルヘルム・モーンケ、南進司令官エルザ・アントネスク、海軍艦隊司令官チキータ・ドール他幹部陣が集まっていた。

 

「フィアリア大公とヒトラー護国卿より、連合軍は降臨祭期間中は休戦となるとの指示を賜った。皆、思うところはあるだろうが停戦の準備に入ってもらう。」

 

本国よりの指示を伝えるモーンケに対して、思うところがある者たちが次々と口を開く。

 

「困ったわね。敵軍からの刈り取り自由って言っちゃったわよ。休戦になったら兵たちから不満が出るわ。」

 

そう言ったのは、トランシルダキア辺境伯のエルザであった。リクセンブルクの傘下に入ってからメキメキと頭角を現した彼女は傀儡国家の国主に任じられるほどの出世を果たしたが、一介の吸血鬼時代は庶民の暮らしであったためか、貴族としての認識が薄く妖魔本来の性である残忍性が出てこういった指示に出て行き過ぎたものになってしまう事があった。

 

「であれば、統治下の村から搾り取ればいいでしょう。」

「でも、こちらに下ってきた村よ。」

「全く、構いません。所詮は人間の村、亜人である我々の統治など受け入れられないでしょう。良からぬことを考える村もあるやもしれません。連合軍として治安の維持も請け負っていますので、治安を悪化させるような連中は討たねばなりませんので。」

「あぁ、なるほどねぇ。」

 

エルザは悪い笑顔を浮かべて、意見を引っ込めた。

 

アナトルア帝国の協力士官の通訳である妖精兵がアナトルアのハイオーク士官の言葉を述べる。

「西の同胞は堪え性がないので、休戦に従わない者が出るかもしれないとのことです。」

 

「でしたら、南側には指示に従えるものだけ残していただいて、そうでないものを北の人狩りに・・・失礼、言い間違えました。賊狩りにでも廻してください。協力士官殿、構いませんか?」

 

妖精兵の通訳を聞いたハイオーク士官が頷いて応じる。

 

「うむ、これで以上だな。各人、休戦の支度に・・・。」

「お待ちください。プディング司令官、まだ一つあります。」

 

プディングは副官の言葉に、ん?と言った感じで聞き返す。

 

「ん?何かね?」

「近日到着する輸送飛行船に若い男女100ほどを見繕って積み込んでください。エイプトラへの鼻薬とするとのことです。」

 

鼻薬たちの運命を察したエルザなどは口元を押さえクスクスと笑っていた。

最もなところ、北部貴族を山賊や野盗と同列に扱い北部征伐の手を緩めずに継続した。

南部のアルビオン賊軍本隊に対してはリクセンブルク軍が暫定線に張り付いた。事が起きればすぐにでも暫定線を突破する気であった。

 

会議が終わりモーンケは天幕から出る。

曇り空から一片の雪が降ってくる。従卒の妖精兵がオーバーコートを手渡してくる。

 

「雪・・・か。」

 

 

 

食事の時間に、酒と一皿追加されたささやかな降臨祭の第二集団とは違いトリステイン・ゲルマニアと言った生粋のもしくは敬虔なブリミル教徒が多い第一集団の降臨祭は、派手な物であった。

 

満点の夜空に花火が打ちあがる。

トリステインや一部ゲルマニアから呼び寄せた商人や女性たちを相手に、シティオブサウスゴータの宿営地はかつてないほどに活気づいていた。

 

少年少女たちの思いが絡み合う夜。

ほろ苦くも甘酸っぱい感情が絡み合う。

 

 

その一方で・・・

ガリア王国ヴェルサイテイル宮殿、貴賓室。

 

リヒテンブルク大公国外務卿リップル・ドロップスは、ガリア王国外務卿マルゾフ・ポリタンとの間で、協定が結ばれた。

 

「えぇ、この内容で構いません。」

 

リップルはモノクルをカチャリと動かして、書面を確認し内容を確認して了承を伝える。

 

「両国の素晴らしき関係を築けたことに、始祖への感謝を・・・。」

「感謝を・・・」

マルゾフの返答に、さらに返して応じるリップル。

 

第1条:リヒテンブルク大公国・ガリア王国(以下リ・ガ)両国は、相互にいかなる武力行使・侵略行為・攻撃をも行なわない。

第2条:リ・ガの一方が第三国の戦争行為の対象となる場合は、もう一方はいかなる方法によっても第三国を支持しない。

第3条:リ・ガ両国政府は、共同の利益にかかわる諸問題について、将来互いに情報交換を行なうため協議を続ける。

第4条:リ・ガの一方は、他方に対して敵対する国家群に加わらない。

第5条:リ・ガ両国間に不和・紛争が起きた場合、両国は友好的な意見交換、必要な場合は調停委員会により解決に当たる。

第6条:条約の有効期間は10年。一方が有効期間終了の1年前に破棄通告をしなければ5年間の自動延長となる。

第7条:条約はガリア王国のアルビオン侵攻と確認し次第批准し、調印と同時に発効する。

 

リ・ガ不可侵条約、署名したマルゾフ、リップル両外務卿の名前を取り、マルゾフ=リップル協定とも呼ばれた。

 

 

 

また、アドルフ・ヒトラーは協定が結ばれる数日前に同盟国であるアナトルア帝国・エイプトラ王国の駐在大使を護国卿官邸へ呼び出して、条約締結についてのリヒテンブルクの意図を誤解しないように伝えた。

 

「リヒテンブルクは、ブリミル・・・いえ、シャイターン・・・。あの悪魔どもの犯した罪を忘れたことは1日たりとも無い。ガリアとの不可侵は、奴らに我々が決して靡いたという訳ではないと言うことをご理解いただきたい。」

 

ヒトラーが同盟各国に対して理解を求める一方で、アナトルア帝国・エイプトラ王国の支援を受けて北部アルビオンのオークやコボルトを中心とした亜人達を統合した戦力の編成を整え南下に備えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の日付けが変わろうとしていた夜半の時間。

 

連合軍第二集団司令官プディング・カスターは、自身の従卒に起こされて第一集団で反乱が発生し、さらにアルビオン賊軍の攻撃を受け壊乱状態にあると報告を受ける。

 

「モーンケ将軍、こちらの状況は?」

「目立った変化はありあせん。」

 

モーンケの言葉を聞いたプディングは、迷うことなく命令を下す。即断であった。

 

「前線部隊の南下を開始、敵の採掘場や物資集積所は押さえるんだ。時間が迫っている。護国卿の読み通りなら奴らが間もなく参戦する。要所は押さえておかねばならん!。」

 

ガリアとの秘密協定を結ぶ前から、この動きを予想していたヒトラーは司令官のプディング軍務卿や副司令官のモーンケにはこれらの予備作戦を詳細に伝えていた故の即断であった。

 

アルビオンをめぐる戦いは急転直下、世間の予想とは大きく違う結果になろうとしていた。

 

 

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