ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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25話 恐怖の鬼ごっこ

死体の山に火が掛けられる。

各家庭や食堂などにあった安くて古い油が放り込まれ。

肉の焼ける不愉快な香りが充満する。

 

死体処理のために残される兵たちが不満げな視線をケイユに向ける。

 

「後方の諸君には悪いが、我々は一足先に狩りを楽しむとしよう。」

 

ケイユは後方部隊の士官に軽く敬礼をして、お楽しみに参加できない後方部隊の兵達をしり目に、キューベルワーゲンに乗り込む。

後方の彼らも彼らで、家屋に収蔵されていた酒類や摘みになりそうな食料にタバコと言った趣向品を接収しそれなりに楽しんでいるようではないか。アインザッツグルッペの司令官としては結構なことだ。

だが、接収品全部を開けられては嬉しくない。

 

「我々の分も残しておくように・・・。」

 

 

 

 

 

 

アインザッツグルッペの兵士達が、あえて殺さなかったウッド村の住人、農家と町人数名、村長息子、食堂店主の10人を解き放つ。

 

 

吸血鬼の士官が部下たちにクロスボウを持たせる。

「まだだ。まだ撃つなよ・・・。当たるか当たらないかくらいまで泳がせてから・・・それ撃て!」

 

幾つかのクロスボウの矢が逃げる住民に当たったようで足を引きづったり、腕を抑えたりしながら逃げ続けている。

うち一人は頭から矢を生やして崩れ落ちる。

 

「お、一人は命中。頭蓋に一発か・・・あれをやったのは?」

 

「自分であります!」

 

クロスボウを持った妖精兵が名乗りを上げる。

 

「賞品だ受けとれ!」

 

吸血鬼の士官は妖精の兵士にチョコレートを投げわたす。

それを軍服のポケットに入れるのを見た彼は周りに向けて言い放つ。

 

「励めよ!一発当てるごとに景品をプレゼントだ。」

 

「ひゃほー!」「やりぃ!」「流石、少佐だ!」

 

部下たちが喜ぶ姿を見て、軽く笑う少佐の横にキューベルが停車してその中からケイユが話しかける。

 

「ブルーノ少佐、部下の人気取りも大変だな。」

「いえ、現地接収品ですので大した出費ではありませんよ。」

「知ってる。ところでだ・・・。」

 

ケイユが一拍置いて、実に困ってますの体で話し始める。

 

「シェフィールド女史が、ガーゴイルを率いて先に進んでしまったようなのだ。案内人がいなくてな少々困ったことになった。」

 

ケイユの言葉にブルーノ少佐は顎に手を置いて答える。

 

「でしたら、あれらを案内人にしましょう。」

 

ブルーノは兵士達にクロスボウで追い回されている住人達を指さした。

 

「あいつら知っているのか?孤児の村の場所を?」

「さすがに村長息子は知っているでしょう。彼らの先頭を進んでいるようですし・・・。」

「まぁ、最悪死体だけでもなんとかなるさ。確か、今狩りに参加しているのはA・Bのコマンドか。Cも投入しよう、住人のいない村なんて1部隊置いておけば十分だ。」

 

 

けもの道を進むアインザッツグルッペは少しづつウエストウッドの村に迫っていた。

 

 

 

 

 

アニエスは走った。

このウエストウッドの村に迫る危機を理解したからだ。

 

日が沈んだかろから森を抜けた先にあるウッド村が騒がしくなっていた。

300人近いアインザッツグルッペの集団である。村がにわかに騒がしくなっていた。

夜となり、夜風に当たるついでの散策とアニエスは森の中まで足を延ばしていると、数発の銃声が聞こえてくる。

 

夜風の寒さとは違う別の寒気を彼女は感じた。

銃声は規則性なく単発であったが、何度も撃たれた。

こんな片田舎で、意味もなく銃を撃つことなどない。アニエスは息をひそめてウッド村の方へと向かったのであった。

 

「!?・・・これは・・・。」

 

死体の山、彼女は即座に理解した。この村で虐殺が行われたのだ。

そして、死体の多くには傷一つない。

彼女はこのような死体に覚えがあった。

リッチュモン邸の毒殺事件だ。あの時とは場所も状況も違うが、死体のいくつかに共通するものがある。

なによりも連中の指揮官であろう妖精の口からメンヌヴィルの名前が出ていた。

こいつらは、リッチュモンのあれこれだけでないのか。たしかダングルテールの記録に毒殺者も多々いたと記されていた。

確かあの事件には魔法研究所実験小隊の他に塗り潰された部隊がいた。もしや、彼らが!

アニエスは反射的に剣の柄を握っていた。切りかかろうと動こうとしていた。

 

連中の指揮官が連発銃の天空に撃ち放ち言い放つ。

 

 

 

「楽しいの鬼ごっこをしようではないか!あ、そうだった!虚無の小娘は生かしておけよ!それ以外は皆殺しだ!ヒャッハー!進め!アインザッツグルッペ!やさしい妖精さんとして子供達と遊ぼうか!人生最後のお遊びをさせてあげよう!クハハハハッハハハハ!!」

 

その言葉を聞いたアニエスは背筋が冷えた。

あの村には戦う力などない孤児しかいないのだ。あのような連中の手に村が落ちれば彼らがどのような目に合うか簡単に想像できる。あそこには今、サイトやヴァリエール嬢、そしてメイドのシエスタやハーフエルフの少女ティファニアもいるのだ。

確かにサイトと言う戦える少年もいるがこの戦力を相手にするには無理だ。とにかく今は戻って知らせなくては、そのうえで逃げるしかない。

アニエスは息を殺してその場を離れ森を駆け抜けたのであった。

 

 

 

アニエスが村に戻ると村の方でも戦いが起きていた。

すれ違うティファニアに孤児たちを連れて村から出るように伝える。

彼女の表情から何かを察したティファニアは孤児たちの居る家々を回り始めた。

自分の小屋においてあった旅用の軽鎧を付けて拳銃を腰のホルスターに収め、サイトたちがいるであろう村はずれの洞窟へ向かった。

 

 

洞窟ではルイズとサイトが怪しげな女と彼女が率いるガーゴイル達と戦っていた。

 

「何を遊んでいる!」

 

拳銃の撃鉄を起こして、敵ガーゴイルに向けて引き金を引く。

サイトの背後にいたガーゴイルは崩れ落ち、腰からさらにもう一つの拳銃も撃ち放つ。

 

「アニエスさん!」

 

サイトの方もデルフリンガーをガーゴイルから引き抜き、次のガーゴイルほ切り伏せる。

アニエスも拳銃を腰に素早く仕舞い、するりと剣を抜き放つ。

 

しかし、ガーゴイルの数も多いそのガーゴイルの1体がルイズに近づく。

ボコンっと言う音がしたかと思うと、地面に崩れ落ちたガーゴイルの後ろから、大きな荷物を持ったシエスタが立っていた。ガランと音を立てているフライパンを見るに彼女がぶん投げたらしい。

 

「シエスタ!」

「あたっちゃった・・・。」

 

サイトに気付きシエスタの顔が歓喜にあふれる。

しかし、その顔はすぐに青くなり焦りを見せる。

 

「みなさん!森から!森の方から!はやく!」

 

すばやく残りのガーゴイルを倒すサイト達。

暗がりの中、その様子を見ていたシェフィールドは当惑した。

あいつらはただの人間じゃないか。それなのに二人の剣士は、ガーゴイルをすべて倒してしまった。特に少年の方に驚かされた。ガーゴイル1体を倒すごとに動きが鋭くなっていった。

 

「さすがはガンダールブの遺産、さすがは我が同類。一筋縄ではいかないわ。」

 

シェフィールドは猛禽のような笑みを浮かべ、闇に潜み続けた。

次に頭に響いた言葉で、今度は純粋に笑みを浮かべた。

「ジョゼフさま!解りました対局を楽しむのですね。虚無対虚無。つまりそれは、ジョゼフさまがご自分で指されるようなもの・・・。秘宝と指輪を集めるより、楽しいに違いありませんわ。それでは最期に、あの担い手の力をはかりましょう。試金石としては重過ぎる気がしますが、ジョゼフさまの遊び相手になってもらうんですもの。彼らを退ける程度のことが出来て当然ですわ。」

 

そう言って、シェフィールドは闇に溶ける様に姿を消した

 

彼らが洞窟を出るとティファニアが孤児たちを連れて待っていた。

 

奇声を上げ、威嚇するように銃を空撃ちする音。

村から洞窟まで距離があるが、ギリギリ視認できる距離だ。

村に向かって逃げていた最後の男が崩れ落ちる。

 

迫ってきた敵の姿を見たサイトは一瞬言葉を失った。

 

「な、自動車!?あいつらは・・・!」

 

妖精士官フランツ・ケイユは次席指揮官のブルーノ・ヴァルター少佐と共にキューベルから降りる。

「かわいい少年少女たち!こんばんは!私たちはかわいい妖精さんだよ~!楽しい鬼ごっこをして遊びましょ?ルールは簡単!私達から逃げるだけ!でも、捕まっちゃうと大変!お隣のウッド村の人達みたいになっちゃう~。」

 

ブルーノが先ほどの死体を持ち上げて、見せつけてくる。

 

「こわいね~、クロスボウの矢がこんなに刺さって痛そ~う。ウッド村の人たちはみんな捕まって死んじゃったよ~。みんなは死にたくないよね?じゃあ私が百数える間に逃げるんだよ?わかったかなー?みんな、逃っげろ~!」

 

 

 

 


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