「きゅうじゅうきゅう、ひゃ~く!さて、兵士諸君!前進だ!」
ケイユの号令でアインザッツグルッペの吸血鬼と妖精の兵士達が前進を開始する。
兵士達もお遊び用もしくは弾薬節約用のクロスボウを仕舞って、銃を装備している。
リヒテンブルク・ドライゼ・ゲヴェーア。
この銃は地球世界のドライゼ銃とは違い紙製薬莢ではなく金属薬莢が採用されている。また、モーゼル翼型セーフティーレバーなどの地球世界の技術が盛り込まれた野心的な銃であった。そんな後装式銃である、この銃も配備が始まったのはリュクサンジュール候領併合後。60年近く昔の話であり、10数年前に生産が開始されたフォルクス・ゲヴェーアはこれの廉価版である。技術革新の速度が遅くなってしまうのはこの世界の特性か。はたまた吸血鬼化による時間感覚の変化故か。ブルーノは意味もなく考えてしまう。自身の護衛兵は固定化魔法の掛けられたMP35短機関銃を持たせている。
「よし!我々我の部隊が先行する!ガキどもは食用にしてもいいからな!女は各自に任せるとしよう!進め!」
村から離れた岩場、そこにサイトとルイズ、アニエスがいた。
シエスタやティファニアたちは先に行かせた。
戦う力のない者たちを残すわけにはいかない。
最初はルイズも先に行かせるつもりだったが、彼女自身がもう離れるのは嫌と言ってきかなかったからだ。無理について来られるよりはと言うことであった。
アインザッツグルッペの吸血鬼と妖精の兵士達はもう目の前まで迫っていた。
アニエスが拳銃で牽制すればその10倍くらいの銃弾が返ってくる。
「捕獲予定の虚無を取り逃がしてしまいましたがよろしいので?」
「あのピンクブロンドも虚無ではないのか?治安の悪い土地では行方不明者が出るのは仕方のない事だろ。金髪の天使の代わりに連合の聖女様でも構うまい?」
「それもそうですな。」
ケイユとブルーノは簡単に会話をしてから攻撃を再開させる。
いつまでも岩場に隠れていたは面倒だと言わんばかりにコマンド部隊の一部を突入させる。
小銃を持った妖精たちが岩場に踏み込んでくる。
アニエスは拳銃で応戦し幾人かを討ち取る。
3人は移動しながら戦い続ける。
戦い移動する過程でサイトは敵の小銃を手に入れ、アインザッツグルッペの部隊に向けて銃を発砲する。
「この岩場を抜ければ、トリステインの管轄区域だ!」
「死ぬんじゃないわよ!」
「わかってる!」
アニエスの言葉にサイトは応じて発砲回数を増やす。彼の左手にはガンダールブの印がすでに浮かび上がっていた。
ルイズのエクスプロージョンも連中の自動車を破壊してからは、かなりの牽制になっている。さらに、サイトは流石に何回もはやっていないが投げ込まれた手榴弾を投げ返すなんて芸当もやって見せた。
「おい!」
イラついた様子のケイユが部下に指示を出す。
「例の奴だ!あれ持ってこい!」
「っは!」
数名の兵士が体をひねる様に構えたそれは・・・パンツァーファウスト!
「伏せろ!」
サイトの声で身をかがめた三人の頭上を通過したそれは、大きな岩を半壊させた。
それでも抵抗を続けたが・・・。
「っく、弾切れか!」
アニエスが近づく敵兵に拳銃を投げつける。幸運にも額に命中し妖精兵が岩場から滑り落ちた。
「まずいな。」
アニエスは険しい表情で呟く。
サイトも敵から奪った銃で応戦している。ルイズもコモンマジックレビテーションに応用を効かせた投石で応じている。さすがに、エクスプロージョンは何度も撃てないか。
一方でケイユ達アインザッツグルッペであったが、部下の一人がケイユに耳打ちすると舌打ちし撤退命令を出す。
「たった3人でここまで苦戦するか。敵を過小評価しすぎた撤収だな。」
負傷兵を下げ始め、死体に火の魔法を掛け始める。
「さて、虚無の聖女様。そして、ここにいらっしゃらない皆様方・・・大変なごり惜しくはありますがそちらのお迎えが来てしまいましたので我々は大人しく引きましょう。」
ケイユの言葉にサイト達が視線を向けると周囲を巡回していたのであろう騎兵隊が砂煙を立てて近づいてきていた。
「よろしいのですか?中佐?」
ブルーノの言葉にケイユは肩をすくめて答える。
「仕方あるまい?少々遊びすぎたことは否めないが、ガリアの気遣いで立案された計画如きが大勢に影響を与えるものでもあるまいに。」
ケイユたちは森の中へと下がりその姿は見えなくなっていた。
銃声を聞いて駆けつけたのであろう警備隊の騎兵たち。
「お前たち!ここで一体何をしている!」
騎士たちの隊長格が杖を抜き、その部下たちはそれに合わせて拳銃や剣を抜く。
「待て!私はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン!アンリエッタ女王陛下直属の銃士隊隊長である!」
そう言って、アニエスが身分の証として紋が入った剣を見せた。
その後はトリステイン軍の庇護下に置かれることとなり、街で再開したティファニア達もアニエスの報告と執り成しによって、ティファニア達も将来的にはトリステインに移住する予定として一時的にこの町で保護されることとなった。
その数日後、トリステイン王国はリクセンブルク大使を呼び出して詰問するが・・・。
「我々を示す証拠は何もない。死体の照会もできていない、我々を示す物的証拠は無し。いくら直属の部下の言とは言えこじ付けが過ぎると言わざるを得ない。」
リクセンブルク大使はこの件に関しての関与を一切否定、不快感を示した。
その後、ガリア王国が妖しい動きを見せリクセンブルクの一件は一時忘れられることとなる。
また、アルビオン戦争の一連の功績とルイズに続く虚無の確保と言う功績を持って平賀才人はトリステインの騎士爵位を与えられ近衛騎士隊長に任じられたのであった。
(あいつらの着てた服・・・、まさかな。)
女王の騎士に任じられ、自分が惚れた主人の下に戻ることが出来て物事が漸く良い方向に向き始めた矢先、彼の心には一抹の不安が過っていたがそれはそう遠くないうちに現実の脅威として現れることになるのであった。
リクセンブルク大公国総統官邸
「ヘーヴェル少将には引き続きアルビオン植民地の統治とエアルラントの外交に注力するように伝えておけ。」
ヒトラーはそれだけ伝えると電話の受話器を下ろした。
その眼前には大きなテーブルの上に地図が敷かれ、いつくかの駒が乗せられていた。
ハインリヒ・ミュラー大将、ヴィルヘルム・モーンケ中将、ヨアヒム・パイパー准将、ターニャ・デグレチャフ准将が控えていた。
「諸君、トリステインの虚無が2つになった。ガリアに1つ、4つ目はいまだにわからぬがガリアが把握していないところを見るに市井にはもう居るまい。恐らくはロマリアかゲルマニアが抑えているのだろう。虚無に関する事項は完全に出遅れたが心配はない。我々は多くの手札を持っているのだから・・・。」