27話 薄氷上の会談
廃された元王族オルレアン公シャルルの娘シャルロットの爵位が剥奪される。
ガリア王家においてタバサ詰る所シャルロット元王女が生存していると言うことはある程度の諜報能力を持つ国家なら把握している。彼女が北花壇騎士であることは知られていない、それはガリア王国の諜報を担う北花壇騎士団の能力の高さを証明していると言えた。
このことはリクセンブルク大公国にもガリア王国のちょっとした政変として、ヒトラーの耳にも届いていた。
「オレルアン公派の残党に止めを刺すつもりか。」
副官のオットー・ギュンシェ少佐は報告を述べる。
「シャルロット王女もすでに拘束されたと駐在大使から報告が上がっています。」
ガリア王ジョゼフは自身の足元の不安要素を完全に取っ払うことが出来たわけである。
「あの男、やはり手際が良いな。できれば長引いて欲しいものだが・・・。」
「閣下、ネフテスからの使者が来ていますが如何いたしますか?」
ギュンシェ少佐の言葉にヒトラーは少々不快そうに眉を寄せる。
「今更になってこっちにも挨拶に来るか。私より先に大公様の所に行くのが筋と言うものだろう。なっていない、全くなっていない、失礼極まりない。しかし、無下に追い返すのも良くない。確かに国政の多くを担っているのは私だ。フィアリア大公に感じるものがあって彼女の風下に付いたのだ。そういった私の思いに対しても礼を失した行為だ気に入らん。・・・ライヒス・シュロムに行かせろ、私も行く。」
「っは、畏まりました。」
ヒトラーは、不快な思いを隠そうともせず。徒歩で向かうエルフに対して自身は総統官邸よりワーゲンを出してライヒス・シュロムへと向かった。
ライヒス・シュロムにはフィアリアとヒトラーが城の近衛妖精兵に加えナチス・ヴァンピール全国指導者リヒャルト・グリュックス親衛隊中将と吸血鬼化武装親衛隊の兵士数名を並ばせて出迎えた。リヒャルト・グリュックスかつての世界でナチスの設置した全強制収容所の総監に収まっていたがこの世界においても吸血鬼化政策における吸血鬼化を拒んだ国内の人間の強制収容所総監とナチス・ヴァンピール全国指導者の地位に収まっていた数十年を掛けて行われたこの事業により、新規移住者の様な何も知らぬもの達以外の旧来の住人達のすげ替えは完了している。
リヒャルト・グリュックスのプロフィールはここまでとして、幾人かの役人たちも到着し大公との謁見と言う形で会談は許された。
エルフの使者ビダーシャルは告げた。
「ネフテスのテュリューク統領より、リクセンブルク大公国へシャイターンの門の活発化が深刻なところまで来たことをお伝えする。六千年前の事は我らより長命なフェアリルならばよく理解していましょう。」
ヴァリヤーグの子孫たちとつるんではいるが、大いなる意志を正しく信奉しているフェアリルならば当然協力する旨を返すだろうと思っていたビダーシャルはフィアリアの困惑した。
「そう思うのであれば、私達に頼らずネフテスがハルケギニアに打って出ればよいではないですか。」
「フィアリア大公、我らは争いを好みません。ですがシャイターンの復活は防がなければなりません。」
「では、私達に何を望むと言うのです?」
「大公は蛮人世界各所に影響力をお持ちだ。すでに我らは蛮人世界最大の集団ガリアを束ねる王に協力を取り付けました。大公にはシャイターンの門に近づこうとする一派を押さえてほしいのです。」
「はぁ・・・・・。」
フィアリアはここで大きな溜息をついた。
疎遠の時期があったにしろ、本質的に自分たちエルフと同じ平和を愛し争を好まない性質の彼女たちの口からその言葉が出て来るとは思いもよらなかった。フェアリルに入れ知恵をしているヴァリヤーグの子孫たちも大いなる意志を感じられる種族だ。自分たちと彼彼女たちとで何かが食い違っていることを感じ始めたビダーシャル。
「私は6000年以上生きています。私の記憶が確かなら、かつてありし大国の幼き姫として母上の膝の上で聞いた気がします。そう…あの時は確かガリアではなくヴァリヤーグとアナトルアで協力してと言った旨だったような気がします。かつてありし私の故国はこの西側、ハルケギニアの大半を領土に繁栄していた国だったような気がします・・・。同胞たるフェアリルも今の10倍以上いたような気がします。首都には世界樹がそそり立って大いなる意志の荘厳さ見せてくれていた気がします。」
急に昔話を始めるフィアリアに困惑するビダーシャル。
「6000年前のシャイターンの力は私達フェアリルの多くがいえ大半が死に絶える原因となりました。それはヴァリヤーグもアナトルアも言えたこと・・・、あの頃は国家の体を為していなかったコボルトたちもたくさん死にました。他の多くの種族が犠牲になった。あの災いを引き起こしたシャイターンに連なる者たちは見逃せない、そう思います。ただ・・・ビダーシャル殿・・・いえ、この親書書いたテュリューク殿も信じられないほど高慢ですね。」
「フィアリア大公・・・我々を高慢とは・・・、我々は大いなる意志に導かれそれに従ったまでの事。」
氷の様な冷たい瞳をビダーシャルに向けるフィアリア。
「その大いなる意志に導かれて、貴様らは高みの見物か・・・。我々に血を流させて、高みの見物か?自分たちの血を流さずに我らに負債をすべて担がせて、自分たちは安全なところで偉そうに物を語る。人間は野蛮で愚かです。ですが、貴様らは高慢で悪辣だ!」
「・・・っ」
ビダーシャルは愕然とした。
この場にいるフェアリルとヴァンピールから向けられたのは明らかな敵意。
憎しみの感情が読み取れるその瞳を向けられビダーシャルはたじろいだ。
「また・・・また!貴様らは私達をあの地獄に叩き込む気か!国が焼かれ・・・象徴たる世界樹が崩れ落ちたあの地獄に我々を突き落とす気か!あの大国を、この情けない小国に貶めた屈辱を・・・東の大国アナトルアを東の僻地に追い込んだあの地獄を、ヴァリヤーグをバラバラにしたあの地獄を、長い時間を掛けてようやっとここまで戻った今・・・また、あの地獄に行けと言うか!!我々はあの地獄の時代に戻るつもりはないぞ!」
フィアリアはビダーシャルを睨みつけたまま口を閉ざした。
かわりに、今度はヒトラーが告げる。
「我々は、シャイターンを抱える人間たちを大いなる意志に反した絶対的な敵であると認識している。しかし、己が血を流さず我々に負債をすべて押し付けた貴様らエルフに対しても並々ならぬ感情を持っている。だが、大いなる意志を信奉するもの同士、共存する道を歩む唯一の機会を持とう。確か、貴国の議会の派閥には人間たちに打って出ようと考える派閥があると言うことを我々は知っている。」
ヒトラーもその眼光は鋭い。
「我々はエルフとの交渉窓口に鉄血団結党を指名する。」
ビダーシャルはあまりの事に即答を控え、一度ネフテスへ持ち帰って検討すると言ってライヒス・シュロムを後にするのであった。