リクセンブルク大公国ヘルツォーギンホーフ軍港
軍港より飛び立つ木造の戦列艦とフリゲイトが飛び立つ光景を、ヒトラーらナチス将校に見送られる。さらに横には大臣たちもいた。
「あれは、我が国に於ける航空艦隊の主力ですよ。ロバ・アルカリ・イエへ送り出してよかったのですか?」
空軍力の低下を懸念し、不安を口にするプディング・カスター軍務卿。
「時期にハウニブとディグロッケの数が揃う。空軍戦力の穴はすぐ埋まる心配はいらん。」
「ですが護国卿、短期間とは言え防空能力が低下するのは・・・良いとは言えません。」
「オルデッサやアルビオン領土の宝珠核原石の採掘も進んでいる。今年中には全妖精兵にエレニウム99式の配備が完了する。」
エレニウム99式、サラマンダー戦闘団及び親衛隊航空魔導士が保有していたエレニウム97式をもとに開発再設計を幾度となく繰り返し量産にこぎつけた演算宝珠。なお、エレニウム95式は再現不可能と早々に開発局から匙が投げられた。
ターニャいわく「イカレタMADの作ったものを真面な秀才如きに作れるわけがない。」とのこと。
「デグレチャフ准将のサラマンダー軍団であれば大概の敵は問題ないでしょう。」
ヴィルヘルム・モーンケ中将が続いて答える。
「いえ、そうではなく。」
ヒトラーは「あぁ」と言った感じで答えた。
「ロマリアの腐れ坊主の首魁が来るのであったか。」
「はい、そうです護国卿閣下。」
「軍備を見せつけ圧力をかけるか軍備を隠し侮らせるかと言う話ですね。閣下如何いたしますか。」
ハインリヒ・ミュラー大将がそれに応じる形で尋ねた。
「うむ、私の切り札はまだ表にしたくない。それに出来ないものもある。勝敗がはっきりするまでは大人しくしている蝙蝠と思われるのが良かろう。蝙蝠でいるためには侮られておいた方がいい。上空警戒は高高度のみで良い、それと市内の警備は・・・。」
「私の隷下にある警察擲弾兵師団シュターツポリツァイが担当しますわ。もちろんMP41は倉庫に仕舞いますのでご安心を・・・。」
司法卿であり大公従姉であるマリー・ド・ルクセンシュタインが応じた。
ミュラー大将はマリーの夫であり入り婿なのでミュラー姓を改めるべきだが、改姓すると作者が解らなくなるのでミュラー大将と表記は変えない。
一通りの会話を終えてヒトラーは彼らの前に立ってから軽く手を上げる。
「ジーク・ハイル」
「「「「「「ジーク・サーユージーン!!ヒトラー!!!」」」」」」
アナトルア帝国エディルーネ宮殿
東側世界、通称ロバ・アルカリ・イエ。この東側世界は急速な復活を遂げたアナトルア帝国が猛威を振るっていた。
エルフとの戦争に敗北した東側世界の人間国家は、リクセンブルクの支援を受けたアナトルア帝国によって破壊され、人間達の抵抗組織は日に日に追い詰められていた。
アナトルア帝国は既に旧領をほぼすべて回復させ、ネフテスと国境を重ねるに至った。
また、人間国家はコーサカス山脈の向こう側と東側世界でも未開地である東端へ追いやられた。
「陛下、リクセンブルクよりさらなる支援物資が届きました。」
「うむ、大義である。」
ニザーム・ジェディードへ配備される大砲群、10.5cmL(リクセンブルク)17野砲はナチスのサラマンダー戦闘団の砲兵隊が異世界に持ち込んだ唯一の野砲10.5cm leFH 18をもとに開発したもので性能はもとになった砲に比べると落ちるもののこの世界においては他に類を見ない砲であることは間違いない。
ある程度の量産にも成功したこの砲はアナトルア帝国へ輸出されたのであった。
「これさえあれば、コーサカスの人間どもに止めがさせる。余の常勝軍よ!進撃せよ!」
アナトルア帝国軍は遂に東側世界最期の人間国家であるコーサカス小国家連合の攻略に取り掛かる。
10.5cmL17野砲で構成されたニザーム・ジェディードの砲兵団による開幕射撃で、コーサカス軍の前衛は壊滅し防戦一方となる。
従来の青銅砲や石射砲によるイェニチェリ砲兵による砲撃も加わり、コーサカス軍は塹壕や拠点に篭りきりとなる。
アナトルア帝国軍ムスタファ・ウマル将軍は新設された航空艦隊を投入する。
リクセンブルクより譲渡された旧来の木造戦列艦やフリゲイトであるいわゆるフネを先頭に、アナトルア帝国の新しい航空戦力である飛行船が続いた。
アナトルアの航空戦力は気球がせいぜいであったが、リクセンブルクの技術指導で風石を用いたプロペラ動力の飛行船が採用され、その多くは中小の軟式飛行船であった。航空艦隊旗艦は元々軟式であったのをリクセンブルクの軍用硬式飛行船をもとに設計された硬式飛行船に更新されていた。
「爆弾投下!!」
飛行船の船長の号令で飛行船の乗組員たちが爆弾に火をつけ投げ落とす。
砲撃と爆撃に晒されたコーサカス軍の疲弊の度合いを十分と判断したウマル将軍は号令を発する。
「前進!前進せよ!敵前哨拠点を攻め落とせ!!」
オークの兵士達が武器を抱えて前進を開始する。
最前列の兵士達が担いでいたパンツァーシュレックやパンツァーファウストを撃ち放つ。
コーサカス軍の櫓に命中しガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
平野部拠点をすべて陥落させたアナトルア軍は山間部の拠点つぶしを開始、コーサカス軍は山林部の茂みや洞窟を利用し抵抗を続けた。
砲撃や爆撃は継続して行われたが効果的な攻撃にはならなかった。
ウマル将軍はリクセンブルクの軍事顧問チェリー・コーンウォリス少佐に意見を求めた。
「コーンウォリス少佐、先進技術国たるリクセンブルクの軍人ならば何か案はあるかね。」
「えぇ、一応はあります。私どもの上官が昔立案し実行したものがあります。」
ウマル将軍はコーンウォリスに続けるように促す。
「上官はこれを市街地で実施し6万以上の敵を焼き払ったそうですよ。」
ろ、6万!?ウマル将軍は少々驚きながらも続きを促した。
「砲兵隊による砲撃と魔導士の操作術式で火災旋風・・・解りやすく言えば炎の竜巻を発生させて丸ごと焼き払うと言う作戦です。なんでも悪魔の計画書とか言うそうですよ。」
悪魔の計画書、まさにその通りだろう。人為的に天災を引き起こし全てを焼き払うなど常人の考えではない。
「しかし、穴倉に隠れた者たちは殺せるのか?」
「蒸し焼きです。ほとんど窒息死するでしょう。それ以外もそれこそ老若男女見分けがつかなくなるほどの焼死体になるのではないでしょうか。」
「だが、操作術式はそちらに依頼するとして・・・、火力の問題だが我が国の砲の大半は旧式の物ばかりだ。それに爆弾も焼夷系の物を使えば足しにはなるだろうが・・・。」
「あるではないですか、貴国には素晴らしい焼夷兵器が。」
ウマル将軍は視線をわずかに逸らせて答える。
「ナフサ火薬か・・・。」
原油を常圧蒸留装置によって蒸留分離して得られる物、ガソリンに類する物である。
「あれを使えば、悪魔の計画書の再現も可能でしょう。」
「うぅむ。」
コーンウォリス少佐はニッコリと笑顔でウマル将軍に話し続けた。
「この時期の木や草はよく燃えますよ。うまくいけば山の向こう側まで延焼させられるかもしれませんよ?」
悪魔の様な天使の笑顔。後にウマル将軍は彼女の表情をそう評した。