ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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29話 地獄の業火

東側世界最期の人間国家であるコーサカス小国家連合に滅びの時は迫る。

ここを落とせば、残りは東端未開世界と国家の体を為していない集団規模の勢力のみとなり、東側世界に人類の国家は事実上消滅する。

 

「焼夷弾投下ぁ!」

 

まず戦端が開かれたのは南コーサカス地方、小国連合に所属するアルマニア共和国。

森林は国土の15%程だが乾燥した牧草地帯を多く保有するこの地域を瞬く間に炎と言う原初的な脅威が襲った。

 

リクセンブルク軍事顧問団の計画した大規模火災には及ばないものの、ナフサ火薬と炎の精霊魔法の組み合わせによって誕生したこの疑似劣化ナパーム弾とも言える油脂焼夷弾はアルマニア共和国の人と物を無差別に焼き払った。

 

「・・・!?」

 

前線に降り注いだこの魔法要素を持つ疑似劣化ナパーム焼夷爆弾は、通常のナパーム同様に燃焼の際に大量の酸素を奪い。塹壕の兵士達を叫ぶ暇さえ与えずに一瞬で窒息死させた。

 

彼らの予想をはるかに上回る速度で、連合軍の防衛線を破った帝国軍はアルマニア共和国を蹂躙した。

 

人や家屋に降り注いだそれは、その親油性のために落ちず、水をかけても消火がほぼ全く出来ない。それ用の消火剤と言う概念が存在しないために消化不能なこれら火あるいは炎は、敵軍コーサカス連合軍と味方のアナトルア帝国軍とその援軍のエイプトラ王国軍双方から悪魔の火あるいは地獄の火と呼ばれた。

 

わずか数日でアルマニア共和国を攻め落とした。

アルマニア共和国の人口密集地では石造りの建物ですら変形し、生き物は炭化するか炭すら残っていないあり様であり、僅かに死体と呼べる肉片も人か家畜か見分けがつかない惨状であった。

 

アルマニア大虐殺と呼ばれ、そのその残虐性の高い戦果は種族的な攻撃性の高いオークやコボルトの目から見ても常軌を逸したものであり、リクセンブルク軍事顧問団の策定したこの作戦に対して中止が検討されたほどでもあった。

 

しかし、その中止命令はリクセンブルク大公国より使者として派遣されたターニャ・フォン・デグレチャフ准将によって発令されることは無くなった。

 

 

アナトルア帝国エディルーネ宮殿で皇帝マフマト・ムハンマドとの謁見を許されたターニャはアルマニアでの戦術に関して非難された際にこう返した。

 

「陛下、この戦術は間違いなく効率的です。戦士の誇りと言った物が戦争に伴うことは理解していますが、重要なのは結果!結果なのです!!我らが生まれるよりはるか昔に行われた大戦争では、我々は敗北し滅亡すら見える衰退に次ぐ衰退。この東側世界においてオークは、人間に駆逐され東の不毛地帯まで追い詰められた。今ここで攻めの手を緩めれば奴らは産めよ育てよと瞬く間に数を増やし我々の脅威へと再び成長するでしょう!なればこそ!今!ここで!叩かなくてはならんのです!!敵に慈悲など与えたところで僅かの利益にもなりません!その僅かな気の迷いは国を滅ぼしかねないのです!奴ら我らの僅かな綻びや隙間を食い破ってきますよ。」

 

かつてのオーストリア皇帝が騎士道精神などと宣い敵将を解放する愚を犯し、巡り巡って国の滅亡へと至った。そうぜざるを得ないのならいざ知らず、最善を尽くさないのは怠慢だ。

 

「我々は引き金を引いたのです。後には引けないのです。敵も全力で抵抗するでしょう。戦士も魔法使いも庶民も・・・。逃げ惑う民とやらも潜在的には敵なのです。将来的にその子らは軍に入り兵士となり我らの子を殺すかもしれません。憎しみの連鎖は永遠に続くのです。」

 

マフマトはその巨体を玉座に預けたまま、ターニャに問う。

 

「では、貴様は余にどうしろと言うのか?」

 

「まずは作戦中止命令の発令はしないこと・・・。そして、陛下は帝国の全将兵にご命じになればよろしいかと・・・。」

 

ターニャは大きく息を吸い、マフマトが言うべき言葉を伝えた。

 

「サーチ・アンド・デストロイ!我々の敵は叩いて潰せ!ただ進み!押し潰し!!粉砕しろ!!と・・・仰っていただければ。大公様もそう切に願っておられます。」

 

リクセンブルク大公国の使者ターニャ・フォン・デグレチャフ准将の後押しを受けたアナトルア帝国皇帝マフマト・ムハンマドは東側世界の命運を決める決断を下した。

エディルーネ宮殿玉座の間に集められたアナトルア帝国将校らに向けて皇帝の勅令が発令された。

 

「余の命令はサーチ・アンド・デストロイ!!我らの障害となるあらゆる存在は叩いて潰せ!忠勇なる将兵はただ進み!押し潰し!!粉砕しろ!!コーサカスの人間どもを殲滅し、東側世界ロバ・アルカリ・イエより人類の生存圏が消失したことを全世界に示せ!!サーチ・アンド・デストロイ!!これは勅命である!!」

 

 

アナトルア帝国軍、アルマニア共和国を越えてハルバニア共和国・グルシアン共和国へと侵攻する。

 

 

 

「准将、このような辺境までご側路有り難う御座います。」

 

大使館の応接室でリクセンブルク大公国軍事顧問チェリー・コーンウォリスはターニャに頭を下げる。

彼女らはターニャらナチス転移者からじかに教導を受けた世代の妖精士官である。

特にコーンウォリスらターニャに指導を受けた者たちは銀翼の雛達と呼ばれ、その冷徹でさはリクセンブルク大公国でも一線を画す存在であった。

 

「うまいこと、アナトルア帝国もこちらの思惑に乗ってくれましたね。」

「そう仕向けたのだから、そうなってもらわねば困ると言うものだよ。」

 

応接室のテーブルにアナトリア原産のオーキッシュ・コーヒーが並べられる。

「これはありがとうございます。」

「いえ。」

 

畏まったコーンウォリスの感謝の言葉に、コーヒーを淹れたセレヴリャコーフ大尉は短く返した。階級こそコーンウォリスの方が上であるが、ヴィーシャの存在はコーンウォリスら銀翼の雛達と称される将校たちにとっては信奉するターシャ第一の側近として畏怖と憧憬の対象であった。

 

「どうせ、私的な会話だ。大尉も自分の分を淹れて席に着け、後何か甘い物が欲しい。」

「では、チョコレートでよろしいですか?」

「あぁ、そうだな。軍用兵糧ではなく、アナトリアで買った方だぞ。」

「わかりました、すぐ持ってきますね。」

 

ヴィーシャが甘味類を用意するために部屋を出て行き、ターニャとコーンウォリスの会話も続く。

 

「コーサカスが片付けば後、暫くは残敵掃討くらいしかやることが無くなる。」

「そうなれば、今度はこちらが動くときですね。准将?」

「チェリー、貴様には保険としてアナトルアをネフテスに向けておいて欲しい。連中は大いなる意志だ世界の調和がなんだと喧しくてかなわん。」

 

手を軽く払い追い払う様な動作をする。

私的会話と言うこともあって階級ありきの呼び方から下の名前で話し始めるターニャ。恐らく、セレヴリャコーフ大尉の事もこの時間帯はヴィーシャと呼ぶのだろう。

 

「確か本国では、護国卿閣下がエルフとの交渉役に鉄血団結党のエスマイールを指名したと聞いていますが・・・。」

「と言っても鉄血団結党にネフテスを主導する程の力はないだろう。閣下もせいぜい足を引っ張ってくれればと良いとお考えのようだ。騒ぎを起こしてくれるのあら尚良し程度にしか思っておられんだろうさ。エルフに関してはアナトルアが本命だ。」

 

「人間は基本強制収容ではなく処分なんですね?鉱山とかの強制労働に使えばよいのに?」

コーンウォリスの疑問にターニャは答える。

 

「単純に労働力の問題だ。産めよ育てよするのなら、半端な人間よりは腕力のあるオークの方が適任だ。」

 

気が付けばヴィーシャも席について適度に相槌を打っている。

話に深入りしてこないのは付き合いの長い優秀な副官ゆえか。

 

「ここまで行きついたのだ。我々もまた労働に勤しまなくてはな。それにすぐにでも本国へ戻らねばならんのだよ。ガリアの動きが激しくてね。」

「アルビオンに続きガリアもですか。西側も忙しそうですね。」

「結構なことだよ。平時だと軍は厄介者だからな。ハハハハ。」

 

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