ハルケギニアの新生第三帝国   作:公家麻呂

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32話 復讐の芽

 

ガリア王国王都リュティス。その都市郊外にある居城ヴェルサルテイル宮殿の王城グラン・トロワ、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大なそれは世界中から招かれた建築家や造園師の手による様々な増築物によって現在も拡大を今も続ける。

 

その宮殿の中で、晩餐会が催される。

一流の料理人が腕を振るった豪華な料理が並べられ、美しい旋律を奏でる音楽が楽団から奏でられる。

ガリアとリクセンブルクの晩餐会であり、その晩餐会も最終日となる。

ガリア王ジョゼフ主催でリクセンブルク大公を歓迎するための催しである。

ガリア側の主だったホストは国王ジョゼフは当然として、その娘イザベラに実質的な室に当たる妾のモリエール夫人、側近中の側近シェフィールドことミョズニルトン、他にも外務卿マルゾフなどの重臣たちが参加していた。

 

「協定は守りますわ。レドラーはご自由にお使いください。後程、他のレドラーも差し上げますので担当者にお伝えくださいね。」

「俺の竜騎士人形という訳か!両用艦隊と一緒に行かせよう!!」

「やはり、竜と言う生き物は男心をくすぐるのでしょうか?」

「ははははは!!そうかもしれんな!!」

 

ジョゼフとフィアリアの会話が聞こえているモリエール夫人は顔を青くする。

少し離れたところで、シェフィールドは適度に相槌を打ちながらカムラーと技官談義に花咲かせていた。

 

「カムラー長官、レドラーは何体程譲っていただけるので?」

「そうですな、シェフィールド女史。女史からは技術局、医学総監府共に良い情報をいただきましたので手持ちは全て提供します。」

「それはありがたいわね。」

 

リクセンブルクからも大公フィアリア、技術局長官ハンス・カムラー。そして、後から到着したリクセンブルクの高官達、医学総監ロベルト・グラヴィッツとトランシルダキア辺境伯エルザ・アントネスク、ギュンター・シェンクとヨーゼフ・メンゲレらである。

 

 

「ファンガスの森で捕獲したキメラどもは実に興味深い。生体改造は我々も手掛けているが、あのキメラはただ生き物を繋が合わせた程度の簡易キメラではない。異核共存の要素を用いた本物であります。特にファンガスタイプのキメラは細胞単位で同化し変化している。新たな生命と言っていいでしょう。」

「エズレ村事案などは脳移植による記憶や知識の移転の成功例。焼死体故に保存状態が悪いが十分貴重なサンプルです。」

 

 

ガリア王国の王女イザベラは、晩餐会中盤となり少々暇を持て余し始めていた。

リクセンブルク大公と話す父ジョゼフやその側近シェフィールドとは元々あまり話さない。

モリエール夫人とは個人的にそりが合わない。内心が見え隠れする貴族達との会話は不愉快となると来客対応が一番マシなのだが、彼らも彼らで固まり始める。つまりは暇なのだ、よって会場内を散策すると言う行動を始めていたのだが、少々未見覚えのあるワードが耳に入る。

 

ファンガスと言えば自分が従妹に最初に北花壇騎士として化け物の討伐を命じた場所だ。それ以外にも少々と言うかかなり聞き覚えのある名前が出ていた。

学者と思われる者たちを侍らせているのは、リクセンブルクの護国卿に擁立された新興貴族エルザ・アントネスク・ド・トランシルダキアだったか。自分や従妹よりも幼い容姿ではあるが吸血鬼故に実年齢は違うだろうが、幼い容姿からは想像もできないような狡猾さを持つ少女であると北花壇騎士の密偵から報告を受けていた。

 

そういえば、父上の命令で北花壇騎士団の任務報告書をリクセンブルクに提供していた事を思い出したイザベラは自身の興味から声をかけることにした。

 

「トランシルダキア辺境伯、晩餐会冒頭でご挨拶をさせていただきましたが改めてご挨拶を・・・。」

 

イザベラに声をかけられたエルザは笑顔でそれに応じる。

 

「これは、王女殿下。私の様な新参者にまで御声を掛けていただけるなんて嬉しいですわ。」

 

貴族となって日が浅いゆえのぎこちなさを感じるが、自分も人の事を言えたものではないのでここは黙っておこう。それよりも・・・

 

「いえ、皆さまの話が聞こえましてね。少々聞き覚えのある単語が・・・ね。」

 

エルザの横に控えていたグラヴィッツが耳打ちするとエルザは「ああ。」と声を上げてから反応を示す。

 

「王女さまは北花壇騎士団の団長さんでもあるんですものね。聞き覚えがあって当然ですよね。」

 

「ファンガスとかエズレとかは特に聞き覚えがあってねぇ。うちの騎士団で少々印象に残っている騎士が関わっていたような気がするんだよ。」

 

「あら?そうなの?北花壇騎士だってそれなりに人がいるのでしょ?その騎士だけ印象に残るなんてね。あなたがおねえちゃんのおねえちゃんだからじゃないの?」

 

「は?あんた、なに言って・・・?」

 

「だって、あなたはおねえちゃんのおねえちゃん何でしょう?私を焼いたおねえちゃんの?」

 

エルザはイザベラの首筋に指先を這わせる。

 

「熱かったのよ。本当に熱かったの・・・。向こう数カ月は体が炭だったんだもの。あのお方に拾ってもらわなければ死んでいたに違いないもの。護国卿閣下のために一生懸命働くわ・・・でも、やっぱり仕返しがしたいじゃない?死にかけたんだものザビエラ村での事は忘れられないわ。」

 

ザビエラ村!確かあいつの報告書に書いてあった吸血鬼の名前。

まさか!?

 

イザベラはギョッとした表情に変わり、目の前の新興貴族に目を向ける。

 

「貴女が私を殺すように言ったのは知ってるわ。でも、見逃してあげる。間接的な首謀者より、実際に手を掛けた人の方が印象に残っちゃうもの。それに、私の敬愛する護国卿閣下の計画に協力してくれたんだもの。フフフ。」

 

エルザの口元から吸血鬼特有の尖った歯が見えた。

 

「っひ!」

 

イザベラは腰を引かせた。

エルザはそれを面白そうに見て嗤う。

 

「エルザ様、悪戯が過ぎます。」

「わかってるわよ。ギュンター、ちょっとからかっただけよ。」

 

ギュンター・シェンク大佐に注意されてエルザはツンと口をとがらせてイザベラから離れて行く。

 

「王女殿下、失礼しました。辺境伯がご無礼を・・・。」

「いや、いい。」

 

イザベラは辛うじてそう答えたが、足は軽く震えていた。

エルザの目は赤く光り吸血鬼であることを示していた。

始祖の主敵たるエルフと関わりを持っているのは知っていた。だが、エルフに続く始祖の主敵である吸血鬼とあそこまで親しくするとは父上は何を考えているんだ。

 

リクセンブルクについて北花壇騎士達から齎される情報は、ガリア含む各国の違法研究の成果を回収しているという内容である。キメラや生体改造と言った倫理を冒涜した内容の物だった。

 

離れて行った彼女から声が聞こえた気がした。

 

「焼き殺してあげる。」

 

 

 

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