賊が陣取っていた村落から離れた位置に設営された本陣のテントには、リヒテンブルク公国公主フィアリア、軍務卿プディング・カスター、陸軍将校リーン・ポールト他数人。
そして、この陣幕の中にはアドルフ・ヒトラー総統と、その側近としてハインリッヒ・ミュラーが列席していた。
「報告します!賊は全滅!捕虜は無しです!」
伝令の報告が陣幕内に響く。
伝令兵の第一報からしばらく、観戦武官のチェリーとロイスが到着し報告が詳細に行われる。観戦武官の報告で、戦いがいかに圧倒的であったかが語られる。
観戦武官からの一通りの報告が終わると、ヒトラーは立ち上がる。
「これで、我々の力は御理解頂けたことでしょう!公主様を口先で、誑かしたしただけの存在ではないと言うことを証明できたでしょう!これを持って公国の末席に我々を加えていただくことをお認めいただきたい。」
ヒトラーは公国将校たちを見回す。
これだけの力を持っていながら、脅すような野蛮な真似はせず観戦武官への丁寧な対応、公国軍の陣への招きにも素直に応じるヒトラーらナチスの殊勝な態度に、軍部のメンバーは比較的好意的な感情を抱いていた。
その空気を感じ取ったヒトラーは、自身の発言が無条件に認められていることを理解して少し長めの演説をすることにした。
「友邦フェアリル人種諸君!我々はこの世界の劣等種ではない!!純然たる優等種である!!リヒテンブルクの妖精達よ!!理解せよ!!貴国の歴史はこの世界で最も古く純粋な血を維持している!!」
ヒトラーは城内滞在を許可された時点で、公国の歴史書に目を通していた。それこそ、神話の時代から存在するとされている。妖精民族、フェアリルは東方にいるエルフ以上に純血を保持していた。ヒトラーは転移前の世界でもアーリア人の純血性、むしろ純血と言うものを重視し、雑種化と言うものを嫌った。前の世界においても、劣等種と見ていた東洋人において島国の純血性を維持した日本と言う国は例外的に同盟国として、譲歩した事があるほどに純血を重要視した。そんな彼にとって、妖精種は彼の理想に適った存在と言えた。
「古き時代より存続する血、永き時を生き多くの困難を乗り越えた血、今があると言うこと。今、君らがここにいる事こそがその証拠!諸君!民族の誇りを取り戻せ!我ら、アーリア人は誇りを胸に生きている!!諸君らフェアリルは誇りを持って生きたいか!!」
ヒトラーはゆっくりと周囲を見回す。
「生きたいさ!生きたいに決まってる!」
将校の妖精が立ち上がって相槌を入れる。
ヒトラーは感じ取った。
我らの圧倒的力を見た彼らは、酔っている。
「ならば!我らの手を取るべきだ!諸君らは運命の分岐点に立っている!アーリアとフェアリルが手を取り合い共に栄光を手にするか!お互いに別の道を歩み、滅びの道を逝くかだ!」
今すぐそこにある力強い希望に。そして、その憧れる力を自分たちが手に入れる権利が転がっている。この状況で、手を取らない愚か者はいない。
ナチスドイツの高度な技術と文化に、この妖精達は酔っている。
碧眼の美少年美少女達は頬を紅潮させている。
驚愕、憧憬、希望、期待・・・、多くの感情を綯い交ぜにした視線を感じる。
ヒトラーは公国公主であるフィアリア・ド・リヒテンブルクに視線を向ける。
彼女は軽く頷いてから立ち上がり、ヒトラーの演説を引き継ぐ。
「私は、公国公主としてアーリア人、ナチスドイツと手を取ることを約束します!この荒廃した時代、周囲は敵だらけです・・・。そんな中で現れた彼らは私たちと共に生きるという重大な決断をしてくれた!そこまでの友邦はかつて、否、これからも現れないでしょう!フェアリルとアーリア、二つの人種は運命共同体!共に団結し困難に立ち向かうのです!!」
軍の将校たちから反対の意見は出ない。
公主の信頼はすでに得ている。
陣幕の外では観戦武官達が他の士官達に、我々を好意的に喧伝している。
軍部の信用もこれで得られる。
順調に事は運んでいる。
私、リヒテンブルク公国公主フィアリア・ド・リヒテンブルクは、あの時の彼の演説を恍惚の表情で見つめていた。
あれは個人がどうでもよくなった次元においてのみ可能なもの、私達の魅了の魔法と基本は同じですが、全く違うと言ってよいでしょう。個へ強く発動する魅了の魔法とは次元が違う群へと広がる強力な力。
人として、動物として、彼には惹きつけるものがあった。
「フィアリア嬢、こう言ったときは拳を引いて溜めるのだ。そして、もう一方の手を前にかざすと前進と言う意味が感じられ、聴衆に力強さを感じさせることが出来る。」
「あ、はい。こうですか?」
「うむ、そうだ。フィアリア嬢は筋がいいな。これなら公国の文官達も君に心服するだろう。」
賊の討伐から2カ月、ナチスドイツ軍は軍事顧問として、アドルフと一部の将校は私のアドバイザーとして側近的な立ち位置になって助言をしてもらっている。
「公主様、従姉様と四卿の皆様が御待ちです。」
メイド服を着た従者の妖精がノックをしては言って来て、会議の始まりを告げる。
会議室には財務卿エリザベス・パブリーナ伯爵、軍務卿エステバン・バーラトス伯爵、内務卿メアリー・パール伯爵、外務卿ヨーク・グリーナ伯爵、従姉マリー・ド・ルクセンシュタイン侯爵、そして公主フィアリア・ド・リヒテンブルクが取り仕切るこの御前会議に、公主の助言者としてアドルフ・ヒトラーが列席するようになるのです。
彼は、御前会議の席で多くの知識を披露し議題に上げた。私は彼の示す道をただがむしゃらに突き進みました。
お堅い国営放送の歴史番組風
アドルフ・ヒトラーの助言を受けた公主フィアリアは従来の政策をすべて撤廃、初期的な社会保障制度や福祉制度を導入し、生産力の拡大と完全雇用をめざした失業抑制政策を採用強行した。この時間稼ぎ政策と並行して、産業革命を起こそうと画策。工業形態の変化を狙い、商人から原材料の前貸しを受けた小生産者が自宅で加工を行う工業形態である問屋制手工業を一部を除いて撤廃。公国の執政官を派遣して国家主導で国費を投じて国営工場を設立、数次にわたる製造工程を1人が行うのではなく、それぞれの工程を分業や協業をおこない、多くの人員を集めてより効率的に生産を行う方式である工場制手工業を導入した。
この急速な発展で、工業のみならず農業にも急速な変化を強制した。工業製の導入により生産能力が織物の生産能力を超えたために材料不足となる。その為、公国は農業も国営化を図った。農場主から土地を奪い直轄地として、それらを農業集団化し再配置、国営農場とした。
また、これらの被害を被った商人や牧場主の多くは、ガリア・ゲルマニア・トリステインと言った諸外国の商会の人間だったため。国民の資産を取り戻すと言う裏の目的が存在し、国軍を投入した商人や牧場主への弾圧が徹底的に行われた。
また、これら国営農場では最低限の食糧自給に向けられた割合以外の部分では、木綿を全力生産している。余剰部分は桑が当てられ養蚕にも力を入れている。
この結果、僅か4年で、夢も希望もない不況下にあったリヒテンブルク公国経済を上方修正させ、10年程で活気満ち溢れた景況に一変させてしまった。他のハルケギニア諸国では、数多くの失業者たちが1個のパンを求めてうめいていたとき、全領民にパンと仕事と生き甲斐を提供したのである。
また、余談ではあるがこの過激すぎる改革を支える資金源としては、リヒテンブルク公国にあるエルドラド鉱山から産出される金を中心とした宝石鉱物が上げられる。
とにかく、リヒテンブルク公国が豊かな国であることは間違いなく。その発展経過でリヒテンブルク公国に良からぬたくらみを持つものが現れるのも当然であった。
その一つが、トリステイン王国リクサンジュール候領との戦いであった。